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鷹取リュウゴ
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俺たちの新しい七不思議 2

2トイレの落とし物    高校は主に4つの建物に分かれている。 一般教室が集まる東校舎と、美術室、音楽室など特別教室の多い西校舎。 そして屋上がプールになっている体育館と部室棟、通称「クラブハウス」の4つだ。 今、俺たちが居るのは東校舎だ。 もちろん生徒は見渡す限り誰もおらず、ひっそりと静まり返っている。 中庭を挟んで向こうにあるのが西校舎。教職員室や校長室もある。 もしかしたら先生の一人ぐらいは今でも残っているかも知れない、と思ったが、 教職員室に灯りはついておらず、警報を受けて先生方も早めに引き上げたみたいだ。 「てか、西校舎の玄関の鍵はどうすんだ? あっちはダイヤル式じゃないだろ?」 マサヒロが裏門の鍵を開けたリョウタに尋ねた。 「それは、考えてなかったな……けど、窓の一か所くらいは開いてんじゃないか?」 教職員室の近くは無理だとしても校舎の端の空き教室なんかだと戸締りは甘い筈、とリョウタが重ねて言った。 「それだったら最初から校舎裏へ回って窓を調べた方が手っ取り早そうだな」 正面突破は止めて裏へまわろう。 「よし。じゃぁ、西校舎の裏側に移動しよう」  一見するとどの窓もぴったり閉じられ中に入ることなど無理に見えたけれど、端から順にタッチして いくとわずか4番目にして窓が動き校舎内に入ることが出来た。 そこはリョウタの予言通り普段は使われていない空き教室だった。 一人ずつ手を引っ掻けてよじ登る。1階とは言え地面から150cmほどの位置に窓があるからだ。 最後、俺が入ろうとすると、まだ下半身が外にある状態なのに窓を閉じようとしやがった。 だけど、何とか素早く足を引き上げ全身を教室に放り込めたので窓に挟まれることは免れた。 まったく。何を焦ってんだか。 ドアの音をできるだけ立てないように気を付け、教室から廊下に這い出る。 外はさらに暗くなっていたけど目が慣れてきたようで赤い非常灯だけでも十分な明るさだ。 むしろ非常灯の明かりの影が闇になっていて、そこに何かが潜んでいるように感じられた。 「こう……ここまで静かだとやっぱ怖いな。いきなりゾンビとか飛び出してきそうじゃん?」 「マサヒロはホラーゲーのやり過ぎなんだよ。ゾンビハザードだっけ?」 ゾンビハザードは割と昔からあるゲームだけど根強い人気がある。俺はやったことは無いけど。 ここまで来て教師の誰かが残っていたら大目玉は必至。 なので慎重に、言葉も少なく静かに廊下を渡る。 窓から入る風の音以外聞こえなくなったらなったで、返って「何か」が聞こえそうで、肝の太いリョウタでさえ 顔は強張っている。 1階から2階、そして3階へと階段を登り詰め、第一不思議の場所となっている西校舎3階のトイレ前に着いた。 「――べつに、人の声なんか聞こえないな」 「だな。女子トイレにも何もなさそうだ」 これで第一不思議の確認はあっさり終了。結局、噂はガセでした――、となるはずだった。 トイレのドアを開けて中を覗き込む。 暗い、そして、温くじめじめとしたトイレらしい臭気が廊下に流れて出てきた。 誰もいないのは一目で分かる。 そのままドアを閉じ、来た廊下を戻ろうとした時だった。 男子トイレの一番奥。個室の方から「音」が聞こえた。 「!?」 背筋にさっと寒いものがよぎる。 「今のって?」 「お前も聞こえた?」 「ああ、聞こえた。水音じゃないよな?」 マサヒロがごくりと生唾を飲む。ヒロキの額から汗が落ちた。 リョウタが意を決してもう一度ドアを大きく開く。 音、……音だ。 水音、と言うよりかは、何か粘着くような息遣い、響きだ。 壁のスイッチを押して照明を点けようとしたリョウタの動きをヒロキが止めた。 いきなり電気が点いたりしたら一発で俺らがここに居るのがバレるじゃん、と。 廊下から差し込む非常灯の弱い明かりを頼りに、男子トイレの中に足を入れる。万が一ドアが急に動いて閉じ込められたりしないよう、 ヒロキが出入り口でドアを押えつつ待つことになった。 音の発生源と思われる4基ある個室トイレの一番奥に、一歩ずつ足を近づける。 心臓が高鳴り、鼓動がドクンドクンと鳴り響く。 ほとんと閉じかけの個室トイレの戸をゆっくりと開ける――。 「おーい、誰か入ってんのか~?」 覗き込んだものの誰も便器に腰かけていない。 ふぅ、と息を吐いて安堵する。いや、ちょっと待て……。 「ん? これは!?」 そこには一台のスマホがあった。 便器の蓋の上に「うつぶせ」にされているスマホを見つけたのだ。 音の発生源はこのスマホみたいだ。 ひっくり返して画面を上にする。動画が再生されているのが目に入った。 音量はさほど大きくないものの、静まり返った校舎の中では何の動画なのかがハッキリと理解できる。  再生されていたのはトイレの中で犯されている男子の動画だった。 便器に向かって両手をつき、スラックスを足元に下げ下半身を露わにした男子が別の男子にチンポを嵌められアナルを責められている動画。 「俺、もう我慢できねぇ」と言う声が大きく聞こえた。これを撮影している「3人目」の誰かの声なのだろう。 チンポをぶち込み犯している男子の首から上は決して画面に表われないが、ケツを犯されてよがる男子は時折アップで表示される。 「こ、これって、まさか……花村先輩?」 スマホを取ったリョウタがすぐ後ろのマサヒロに見せる。 「ああ……花村先輩だ。ヒロキ、この人って花村先輩だろ?」 ドアを守っていたヒロキも中に入り、差し出されたスマホを見つめた。 「ウソ? マジで!? ま、マジで花村先輩じゃん……一体なんでこんな動画が……」 花村先輩とは、ヒロキの1年先輩にあたる陸上部のヒーロー的存在の人物だ。 当然のことだがヒロキにとっては憧れの先輩でもある。県大会では優勝もし、キャプテン以上に部員の面倒見が良く、 学業成績も文句ない秀才。 ヒロキだけではなく周囲の誰もが「素晴らしい」と褒め、欠点など見当たらない優秀な生徒。 それが花村先輩である。 「は、花村、先輩が……こ、こんな事、されてた、なんて……」 動画の中では激しくよがる花村先輩。 『いいっ! すっげ! マジ気持ちいいっ!』 『もっと! もっとチンポくれよぉ! アナルん中、メチャクチャにしてくれよぉ!』と叫んでいる。 時折カメラの向きが変わって後ろの小便器の方を映す。画面に出てくる光景から見て、他のトイレではなくやはりこのトイレである。 したがって花村先輩への行為はここで行われていたのだ。 動画は20分近くに渡って撮影されていた。 そして、終始花村先輩は犯され、喘ぎ、チンポを求め、ドロドロとトコロテンで精液を発射していた。 途中の部分はカーソルをスライドさせ飛ばし飛ばし見たが、他には何も映っていない。 保存されている動画のデータ自体がこれだけだった。 他には画像やアドレス、ラインのフレンド登録も無く、アプリにしてもデフォの状態のようだ。 「新品のスマホか? それにしちゃ傷も汚れも入ってるし……」 「NS2って機種、かなり古いじゃん。最新のはNS7だぞ?」 ヒロキはショックが大きかったのか「ああ……」「うん……」と生返事しか返さない。 マサヒロもリョウタもヒロキを気遣って花村先輩について避けて話す。 「取りあえず、このスマホ、誰んだろう?」 「忘れ物、落とし物に間違いないよな。 にしても、なんでこんな動画だけ残してんだか。悪趣味にもほどがあるぜ」 「うん……そうだな……ほんと、悪趣味……」 ぼんやりと同意するヒロキの股間がさっきよりも膨らんで見えた。 その点についてマサヒロもリョウタも気が付いていない。 「第一の不思議はトイレにあった落とし物のスマホから、というオチでした、ってな」 リョウタが場の雰囲気を入れ替えようとしてわざとおどけた物言いをする。 それにマサヒロも合わせて、 「正体がハッキリしたところで次行こうぜ、次。怪現象の正体がスマホの動画の音なんてさ、斬新つうか 今っぽいよなぁ」 俺もそう思う。けど、ヒロキは言葉を返さない。花村先輩がケツを掘られて喜んでいる動画をじっと見入っている。 「ほら、もう出ようぜ。ヒロキも花村先輩のそんな動画ばっか見てないでさ」 マサヒロがヒロキの肩に手を乗せて出ようと促す。 すると、ヒロキがビク! ビクゥ! とカラダを震わせ、思いっきり目を見開いて俺たちを見つめた。 「ヒロキ? どうかしたのか?」 俺にはヒロキの瞳が一瞬だが青く光ったように見えた。 「……あ、うん……何でも……。じゃぁ、出ようか。こんな場所にいたら変な気分になるよなぁ」 見間違いじゃなければヒロキはニヤっと微笑んだような気がした。 「そうだよな。ここで俺らが知ってる先輩が男同士でホモってたとか、意外過ぎだぜ」 マサヒロが口を押さえて「しまった」、と言う表情になった。 リョウタがヒロキを気遣って「あんま気にすんなよ? 弱みとか握られてたかも知れないんだし」 「ああ、そう、かも知れない……」と返事をしたヒロキは、終わった動画をもう一度再生させてからポツリと呟いた。 「花村先輩は女じゃなくて男が好きだったんだな……」 俺は、ヒロキにかける言葉が思い付かず、移動し始めた3人の後ろを黙って付いて行くだけだった。


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