契約相手は初心者淫魔だったんですが 〈1・淫魔降臨〉
Added 2018-12-08 12:31:06 +0000 UTC「お友達からで良いので僕とお付き合いして下さい!」 『……私、もっと男らしい体格の人がタイプなんです。だから、ゴメンなさい』 勇気を出して告白したけど、また振られてしまった。 これでもう3人目。 振られた理由が揃いも揃って僕の「体格」だってのが笑えない。 筋トレしたって筋肉は付かず痩せるばかりだし、食事だって少ししか食べられない。 だからヒョロヒョロのガリガリ体形だってのは僕自身大いに自覚している。 『デブかスリムかのどっち? って聞かれたらスリムの方が良いけど、金沢の場合、スリムを通り越して 、その、骸骨みたいじゃない? 何かあった時に守ってもらえそうにないし、むしろ金沢の方を守りたくなっちゃう。 でさ、アタシそう言うのって彼氏に求めてないんだよねー』 体重45キロ。 身長180cm。 健康診断ではいつも「痩せすぎです。もっと栄養の高い食事を摂って下さい」、なんてコメントが出る。 服を着てても手首や首筋の見える部分でガリガリだってのがばれてしまう。 鏡で自分を見たら「死の呪いをかけられて1ターン後に死にそうな奴」みたいだと自分でも思える。 筋力や腕力は自慢できるレベルじゃないけど、こう見えて風邪一つ引かない健康体なんだけどね。 「見た目がここまで病的だと『健康です!』って言っても説得力がゼロだし……。 ああ~! でもでも! 僕も彼女欲しい! 女の子と遊びたいよぉっ! せっかく都会の大学に来たってのに、 花の学生生活が草一本生えないカラッカラの砂漠のままなんて嫌だ!」 とは言え、もっと筋肉をつけようとしても太ろうとしても、 がっつり食事→無理 しっかり筋トレ→逆効果 なので解決方法がまるで思い付かない。 「あ~! 神様でも悪魔でも、何でもいいからもっと僕をカッコイイ体にしてくれよぉ~!」 言葉には言霊が宿ると言うし、僕の願いが少しでも叶えばありがたいな、と口に出して叫んでみた。 そうしたら、 部屋の床がパァッと明るく輝いて、浮かび上がった光の筋が「魔法陣」を描き始めた! 「わわっ!? な、何、何が起きてるの!?」 魔法陣が完成したら床からズズズって角と尻尾を持つ悪魔が本当に現われたんだ! 「ぃよっしゃぁ! 人間界への初転移成功だぁ! これでようやくオイラも一人前の……って、うわあああ! 誰だ、お前ぇえええええ!」 「うひゃああああ!」 あんまりビックリするもんだから僕もつられて大声を出してしまった。 「あ! お前! に、人間じゃねぇか! なんで、ここに!」 「なんで、って、ここは僕の部屋なんだから、部屋に居てもおかしくはない筈……」 悪魔は僕の答えにキョトンとして、それから周囲を見渡して頭をポリポリと掻いていた。 「……あ~、その、悪ぃ。今のくだりはちょっと忘れてくれ」 照れて耳まで真っ赤になっている。このヒト、本当に悪魔なのかな? 頭には二本の黒い角、お尻の上に黒い尻尾があって、全身が凄い筋肉質で、褐色の肌に紫色のビキニ一丁の悪魔。 ワイルドなイケメンで、顔の雰囲気から年の頃は僕とそんなに変わりがないように見える。 「ゴホン、オホン……では、改めて――」 「あ、はい」 「オイラ、おっと、そうじゃなくて……、俺様は淫魔・ビィスクェル。お前の呼ぶ声に応じて姿を現した偉大なる魔族に連なる者である。 ええと、ヨロコベ? そうそう、喜ぶがいい、お前の願いを叶えてやろう。ただし、ギブ&テイク、俺様と契約するのが条件だ。――これで良かったかな? ま、少しくらい違っててもいいか」 厳めしい声で言っていたけど時々天井を見上げて思い出しながら口に出す。 悪魔ってもっと恐ろしいものだと思っていたけど、案外そうじゃないのかな? 「いや、オイラは悪魔じゃなくて淫魔だって。そこは全然違うから間違えないで欲しいんだけどな」 「淫魔と悪魔って違うの?」 「違うさ! だってアイツらってオイラたちと違って人間なんて滅んだっていい、って考えてる酷い奴らばっかなんだぜ? その点オイラたち淫魔は人間を利用はするけど滅ぼそうなんて考えちゃいない。とっても気の良い連中なんだぜ―― って思ったら大間違いだぞ! 人間よ。お、俺様は淫魔の中でも人間には牙を剥く恐ろしい淫魔なんだからな! 舐めた態度を取ったら、ええと、ギッタンギッタンのけちょんけちょんにしちまうんだから!」 「…………」 「な? なんだよ? 何なんだよ! その目は!」 「………………」 「止めろ! 止めろよ! そんな目で見るなよぉ! オイラは、オイラはダメ淫魔じゃねぇ! ポンコツなんかじゃねぇよぉ!」 ええと、涙目になってうずくまって、肩を震わせている淫魔って……。 無理して威厳を見せようとしたけど「素」の自分が出てて面白いし、かわいいキャラだなって思っちゃったけど、 そう言う風に思ってるって知ったら本人、いや、本淫魔は傷つくんだろうか、なんて考えてたらグスングスンて鼻をすすって泣き出しちゃった。 淫魔ってみんなこうなの? 「あ、あのさ、淫魔のビー助くんは、契約したら僕の願いを叶えてくれる、それでいいんだよね?」 肩にそっと手を乗せ頭を撫でて慰める。 まるで弟でもできたみたいだ。 カラダはごついけど。 「そ、そうだ! そうだぜ! ようやく理解したようだなぁ! んで、オイラの名はビー助じゃねぇ。ビィスクェルだ」 泣き止んだ、と思ったらまた尊大な態度になった。 まぁ、あのまま泣き続けられるよりはマシだよね。まだ鼻先が赤いけど。 「うん。それで、契約ってどうすれば良いの? 願いがかなった途端、魂を抜きとられたりしちゃうのかい?」 「た、たた、魂を抜くぅ!? んな事する訳ゃねぇだろうが!」 「なら良かったぁ。願いがかなってもすぐに死んじゃったら意味がないもん」 「そういうやり方は悪魔たちがやる事だろ? 淫魔は人間を殺したり魂を奪ったりはしねぇよ」 「うん、ありがとう。じゃぁ、契約するよ。願い事ってなんでもいいの?」 「……ほ、ホントに契約してくれんのか?」 「? うん。ビー助と契約する」 「ま、まま、マジでオイラなんかでいいのか?」 「ダメかな?」 首を大きく左右にブンブン振って、「ダメじゃねぇ! よし! じゃぁ、契約だ! すぐにやろう! 今すぐ 契約しよう!」 と思いっきり尻尾を立ててニパーって笑顔を僕に見せた。 よっぽど嬉しいみたい。 「ところでさ、もう一度確認したいんだけど、願い事は何でもOKなの?」 ビー助の顔がさっと強張った。「あ! しまった!」って顔に書いてある。 「に、にに、人間よ……ど、どんな願いを、お、俺さま、に?」 「そこまで緊張しないで欲しいんだけど。それと、僕は金沢、金沢健太だから。ケンタでいいよ」 「よ、よよ、よし、ケンタ。聞こうではないか、お前の願いとは?」 ビー助の額からダラダラ汗が出てきた。何でこんなにも緊張してんだろう? 「僕のこの貧弱なカラダを、もっと逞しく、男らしい肉体にして欲しい。これが僕の願い事」 「……ホントに願うのはそれだけか?」 「うん。これだけ」 体格がせめて人並みになったら女の子も僕の事を「男」として認めてくれるだろうし。 「……ふ、ふは! ふはははは! ぃよぉし! その願いだったら任せてくれ! オイラがちゃーんと叶えてやろう!」 あ、なんかまた態度が豹変した。 得意な願い事だったんだろうか? 「いやぁ~、もしもケンタの願い事が人類殲滅だとか世界征服みたいなどデカイやつだったらどうしようかと、一瞬焦っちまったぜ」 「じゃぁ、もし僕がそんな願いを頼んだらどうするの?」 「ど、どど、どうするってお前、オイラはそんな淫魔王様みたいな大魔力は持ってねぇし、そもそも、人間を殺すような恐ろしい事、できるかよ」 やっぱり優しいんだ。淫魔って。 「そうなんだ」 「ああ。だから、ケンタがそんなとんでもねぇ願いを持つ人間だったら、契約も何も無かった事にしてオイラは淫魔界に帰るしかねぇ」 「だけど、ビー助の叶えられそうな願いだったので良かったな、って?」 「そそ。オイラの魔力でも叶えられる願いでホント良かった。初めての仕事を失敗からスタートするなんて縁起が悪いったらないしさ。あと、オイラの名はビィスクェルだって。ビー助じゃねぇよ」 「うん、わかった。それじゃ僕の願い事は伝えたって事で、次はビー助と契約しないといけないんでしょ? 具体的にどうするの?」 ビー助がニヤァ、と微笑んで舌なめずり。思わず僕、ドキリとしてしまう。淫魔だけど相手はどう見たって男なのに。 「契約ってのはなぁ――」 「ハンコと通帳ならここに……」 「そうそう、用意がいいじゃねぇか。ここにケンタの住所氏名電話番号、それとメルアドも書いてもらってアカウント登録した後、 必ず利用者の声って所に今回の口コミ評価を入れてもらってだな、『ビィスクェル様の対応は最高でした! お客様満足度ナンバーワンです!』ってなコメントを――って、こらぁ! そうじゃねぇ! 黙ってねぇで途中で止めろぉ!」 「最後はどうオチをつけるのか見たいな、って」 淫魔もノリツッコミってするんだ。 「あと、オイラはビー助じゃねぇ! ビィスクェルだ!」