聖夜のマッチョパーティ 1
Added 2018-12-23 11:54:42 +0000 UTC1出港と、俺のカラダの変貌と 俺は今、集合場所であるフェリー乗り場に来ていた。 参加費無料。 フリードリンク&フリーフード、フリープロテイン。そして、フリー×××……。 伏字が何なのかは気になるけど、タダで旅行に行けて、おまけにタダで飲み食いできんだったら誠にありがたい。 そんな招待状に書かれていた集合時間には、かなり遅れて到着してしまった。 こういう時に限って乗った電車が「電気系統のトラブル」だとかで一時間もストップしやがった。 余裕をもって家を出たはずなのに、まるで意味がなくなった。 『客船黒蜜・クリスマスクルージングのお客様は、招待状をご準備の上、5番の乗船口へお急ぎください』 案の定、フェリーターミナルは俺だけ。他の招待客はすでに乗り込んだ後だ。乗船待合い所のデジタルサイネージでは笑顔の水夫が乗船を促している。 今一度画面に表示された船名を確かめ、5番ゲートを急ぎ足で潜り抜けた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ようこそ。客船・黒蜜へ。乗船の受け付けはこちらで行っています」 乗船用のタラップからも窺えていたが、船はとんでもなく大きな豪華客船だった。 右舷に開かれた入り口から入れば、そこは船内と言うよりも一流ホテルのロビーそのもの。 柾目の美しい木製パネルをふんだんに使った壁面と、和モダンなシャンデリア。黒漆塗りのエレベーターが2基、音も無く5層の吹き抜けを上下している。 そして、吹き抜けを貫くように聳える大きなクリスマスツリーが、金色のイルミネーションでデコレートされ神々しい輝きを放っている。 キラキラとまばゆいツリーを仰ぎ見ながら逞しいベルボーイにさほど重くもない荷物をフロントまで運んでもらい、チェックインの手続を行う。 招待状を見せ、名簿に名前を記入する。 「ご記入ありがとうございます。お部屋は最上階、505号室を用意させて頂いてます。お部屋までは後ろのスタッフがご案内いたします」 手続きはスムーズに流れ、俺はこのまま部屋へと案内されるのだと思っていた。 しかし、ここで流れが止まった。 「ただ、ご案内させて頂く前に、少々確認をさせて頂きますのでこちらへお越しください」 フロントの背後にある控え室に呼ばれてしまった。 やっぱりそうなるよな。 手に入れた招待状には「参加条件」も書かれていた。 1、男性であること。 2、筋肉質なマッチョボディであること。 だが、俺の体格はぶっちゃけ細い。 175cmあるが体重は60キロに満たない。スリムと言うよりガリガリである。 「恐れ入りますが今回、こちらのクルーズは、マッチョな男性によるマッチョな男性のためだけの『クリスマスクルーズ』、となっております。 故に、あらかじめ当方で企画にふさわしい方だけを選んでご招待させて頂いています。しかしながらお客様は……」 そう。全然マッチョじゃないのが一目瞭然だ。 招待状の入っていた封筒には『マッチョパーティ』と差し出し人の名があった。 『マッチョパーティ』とは何だろう? クラブのイベントか何かか? 或いは単なる言葉遊びなのか? ともかく俺は、マッチョ野郎が集うパーティをイメージし、激しい興奮を覚え是が非でも参加したいと思った。 中身を取り出すとクルーズの出発日時と集合場所が書かれた招待状が一枚。 『互いの筋肉を称賛しながら、優雅なクリスマスクルージングを楽しみましょう。費用は一切かかりません。 筋肉を愛好する気の合う者同士、会話も弾むことでしょう。美味しい食事と、美味しい飲み物、一流の設備を誇る豪華客船が貴方の参加をお待ちしています』 鍛えても食べても一向に体重が増えない俺にとって、ムキムキなマッチョボディは憧れだった。 ボディビル雑誌を買っては紙面でポージングする彼らに「かっこいい」と羨望を向けていた。 いや、実の所「羨望」だけか? と問われればそうではない。性的な劣情すら抱いていた。 中身がぎっちりと詰まった筋肉の塊に、淫猥な欲望を覚えたのはいつからだったか。 ポージングする彼らの股間を覆うパンツに、得も言われぬエロティシズムを見出したのは、何がきっかけだったのか。 ――豪華客船にマッチョ野郎たちが集まる『マッチョパーティ』? 行きたい! 参加したい! どんな筋肉男たちが来るのかこの目で確かめたい! リアルな筋肉、二次元や妄想ではなくリアルなマッチョ野郎と船の中でパーティを楽しめたら最高の気分だろう。 ……しかし、現実は甘くない。 参加条件に合っていない俺は、一人の肉体美も目に焼き付けられないまま退場しなきゃいけないのだから。 「……と、言う訳で、お客様にもマッチョになって頂きます。でなければ他のお客様に示しがつきませんので」 「……は?!」 しまった。てっきりマッチョじゃないから退船しろ、と告げられると思ってフロントの話を聞き逃しちまった。 「マッチョだけの集いにマッチョでない者が混ざる訳には参りません。スタッフにしてもそうです。私ももちろん、 筋肉にはいささか自信がございますし」 ニッコリと微笑むフロントの男はスーツのボタンが弾けそうなほど胸が盛り上がっていて、服の下にはもの凄い筋肉の存在が窺える。 いささか、どころのレベルじゃないだろう。 「早速ですが、他のお客様の目に触れる前に、強制的にマッチョになって頂きます。よろしいですね?」 「いや、あの、よろしいですね、って、俺がマッチョに? む、無理ですよ! 無理無理! 何を食べたって太れなかったし、筋トレだって全然効果ないし。 いきなりマッチョになれって、そんなの絶対できないです!」 「申し訳ありませんが、この船はすでに出港しております。お客様を下ろす事ができないんです。なので、こういう措置を取るほかないのです」 「と、言われても……今すぐに、なんて無理です」 「無理ではありません。可能です」 俺は顔を上げた。このフロントの男は何が言いたいのだろう? 「食事も筋トレも必要ありません。この『アメージングボディ』を飲んで頂くだけです」 「? はぁ!?」 「飲めばすぐに効果が現われます。さぁ、どうぞ」 茶色い小瓶はまさしく栄養ドリンクと瓜二つ。 『アメージングボディ』なんて聞いた事ないけど、飲まないとずっと控え室に閉じ込められてしまいそうな威圧感をフロント係からひしひしと感じる。 嘘か冗談か俺を担ごうとしているのか。けれど、しょうがない。 俺は渡された小瓶のキャップを開け、中身をグイ、と口に流し込む。 「うっ!!」 なんて言う甘さだ! 咽喉が焼け付くように甘い! 甘すぎなんてもんじゃない! 「み、水を!」 「ダメです。カラダの隅々に行き渡るまでおよそ5分。水はもとより他の物は口にできません。さて、これで私の方からお話すべき事は済みました。 今からは貴方も参加条件をクリアされたお客様として、あらためて歓迎申し上げます。 どうぞお部屋に入られまして、ディナータイムまでゆっくりとお寛ぎ下さい」 咽喉がカラッカラなままフロント控え室を追い出された。 出るとベルボーイが「さぁ、お部屋までご案内いたします」と恭しく頭を下げ、一つしかない荷物をカートに乗せ、スタッフ専用の小さいエレベーターで5階のフロアまで運ばれた。 ロクに声も出せないまま指定された505号室に入る。 部屋に入りさえすれば備え付けの冷蔵庫にミネラルウォーターやドリンクくらいあるだろう。 それが無くとも水道の蛇口から直接水を飲もう。 ベルボーイが部屋に荷物を置いて出て行く間際、俺にこう宣告した。 「申し訳ありませんがこちらのお部屋ではしばらく水道を利用できません。また、冷蔵庫内のドリンクはあらかじめ撤収しております。 また、私がお部屋から出た後、ドアに電子ロックがかかりますので廊下にお出になれません。あらかじめご了承下さい」 本当にドアが開かなくなった。 窓はわずかにしか開かない。と言うよりも、5階の高さにある部屋だ。落ちたら大怪我じゃ済まないだろう。 冷蔵庫も水道も、ボーイの言う通りになっていた。 もしかして? と思いトイレに入る。 「うわ、コイツも?」 ご丁寧な事にタンクは空で、今、排泄したら流せない状態だ。 俺一人ではもったいない広さのスイートルームをうろうろと歩きまわったところで咽喉の渇きは収まらない。 おまけに異様にムラムラし始めた。股間が硬く勃ちあがり、ジーンズに突き当たって痛みを感じる。 「畜生、こんな時に、なんで……っふぅ!」 昨日、あれだけ抜いて来たってのに! 心臓が一際強くドクン! と高鳴った。 続けて血液が濁流のように押し出され、全身が熱くなった。 「ぬぉ!? おおお!」 汗が噴き出る。全身からボタボタと。大量の汗が。 カラダに何が起きているのか理解できない。頭ん中が混乱して、考えがまとまらない。俺、どうなっちまうんだよ! もしやあのおかしなドリンク剤のせいで、 死んでしまうのか!? 体内を駆け巡る血液。上昇する体温。熱病に犯されたように部屋の中で一人うずくまって悶えていると、不意に 背中から「バリッ!」と、何かが破れる音がした。