SamSuka
鷹取リュウゴ
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聖夜のマッチョパーティ 7

7 第三のマッチョ  俺の背中に声を掛けて来たのはTバックビキニにボンデージ衣装のセクシーマッチョ。 きょうちゃん、いや、キョウタロウだった。 「何年ぶりになる? 五年、いや、六年ぶりだよな? 中坊ん時と比べてずっと男前になったんだな。つっても、すぐにトウガだ、って分かったぜ」 一呼吸置いてからキョウタロウは続けた。 「けど、そのカラダは凄いな。まるで別人みたいだ。ヒョロヒョロだった奴がそんなにもムキムキの筋肉野郎になっちまってるとは」 値踏みでもするかのように俺のカラダをねっとりと見つめている。 「きょうちゃ、いや、キョウタロウこそかっこいいカラダになっててビックリした」 「カラダだけか?」 「もちろん顔も。んで、そう言う厚かましいところは昔と変わらないんだ」 ははは、とキョウタロウが笑う。 俺も笑う。 風の音と凪いだ波音が俺とキョウタロウを包む。 「……しかし、トウガもこのクルーズに来てたとはなぁ」 「俺の方も驚いたよ。こんな所できょうちゃ、キョウタロウと再会できるなんて」 「きょうちゃん、で良いぜ。呼びやすい方で構わねぇから」 「あ、うん……」 月明かりの元で見るきょうちゃんは、ナイトクラブの舞台で見た時よりも一層エロティックで、セクシーな雄のフェロモンを感じられた。 同い年とは思えない。衣装のせいももちろんあるかも知れないけど、貫禄すら感じられる。 「あの、よぉ……」 「あのさ……」 話しだすタイミングがぶつかった。 「トウガ、先に言ってくれ」 「あ、うん。…………きょうちゃんは、この六年、どうしてたのかな? って。別に、言いたくないんだったら言わなくてもいいんだけど……」 中学生の頃、俺もきょうちゃんも親の方針で携帯やスマホは持っていなかったから連絡は一切取れなかった。 新しい引っ越し先がどこかも分からないから手紙を送る事も不可能だった。 「――俺は、頭に見つかった血の塊を除くため北海道に渡った」 「北海道?!」都内じゃなかったのか。 「ああ。そっちに脳手術の名医がいるから、と勧められてな。そして相当な難手術になるって事で費用もかかるから家を処分しなくちゃならなくなった」 「それってあの事故が原因で?」 きょうちゃんは頭を振った。 「いや、違う。発見するきっかけにはなったが、念のため頭部の精密検査をしたら見つかったんだ。 大きさ的には一年以上も前からあっただろうと医者は言っていた」 もしかして、きょうちゃんが忘れっぽいのはそのせいだったのかも。 「結果から言うと北海道での手術は無事成功。俺はこの通り元気になった。折れた足のリハビリから筋トレしまくっていたらこんなカラダに仕上がっていたけどな」 きょうちゃんのセクシーマッチョボディの始まりにあの事故が関わっていたとは。 「それからずっと北海道に?」 「おやじとおふくろはな。引越しを機に新しい仕事に就いて、向こうに定住することに決めたのさ。 俺は、高校に行くタイミングが二年も遅れちまった。だから、俺は高校を卒業して一年も経っていない」 「そう、だったんだね……」 「で、今の俺は就職するか進学するかを決めかねているフリーターって身分だ」 「そっか」 「トウガはどうしてたんだ?」 「俺?」 「ああ」 「俺は、あれから普通に中学を出て、市内の高校に上がって、そこそこの大学に進学して、今に至る、って感じ。 こう、言葉にしてみたら本当に普通過ぎて薄っぺらいな、って思う」 少し風が出てきてさすがに冷えて来た。結構な時間、こんな恰好で屋外に出てれば当たり前なんだけど。 「そんなカラダになるまで鍛えてたんだろ? むしろ普通じゃねぇ。俺も想像できないほど努力したんだろうな。 それを普通だと言えるトウガは凄ぇと俺は思う」 「え? あ、いや、その、このカラダは……」 せめてきょうちゃんには正直に言いたい。でも億単位の賠償金なんてのが目の前にちらついて口をつぐまざるを得ない。 「冷えてきたな。そろそろ中入ろうぜ」 きょうちゃんが俺の肩に腕を回した。 俺もきょうちゃんの肩に腕を乗せた。 まるで中学の頃に戻ったような、そんな気分になる。 「……と、ところでさ」 肩を組んだまま船内に戻るドアに向かっていたら、きょうちゃんが急に足を止めた。 「ライブショーの時に一緒に居た人たちは、……あいつらは、お前の、その……」 横を向いたらきょうちゃんの顔が真っ赤だ。 「あ、あいつらは、お前の彼氏、なのか?」 「!!」 きょうちゃんの口から「彼氏」と言う言葉が飛び出すなんて。それってつまり――。 「あの二人はこの船で初めて会った人だよ。このクルーズの事、何も知らない俺に色々教えてくれたんだ」 「そ、そうか……だったらまだナンも無ぇんだな。じゃぁ、俺がトウガと付き合ったって何の問題もない訳で……」 「きょう、ちゃん……?」 きょうちゃんはもう一方の腕も俺の肩に回してハグをするような体勢になると、そのまま俺の顔にきょうちゃんの顔を接近させて来た。 これってキスしようとしてんだよね? つまり、きょうちゃんは俺に…………。 「はいはーい! ストップー! 悪いけど冬賀にんな事さまっせーん!」 「和彦さん!?」 「すまないね。俺も居るんだ」 「亮一さんも!?」 声にビックリして顔を上げると、和彦さんと亮一さんがそばに立っていた。 きょうちゃんも驚いて動きを止めている。 「部屋に冬賀クンを呼びに行っても居ないみたいだったのでね。もしかしてココかな? と」 「亮一さんの嗅覚は相変わらずすげーっすわ。一発で冬賀の居そうなとこを当てちまうんだもの」 きょうちゃんは俺の肩を抱いたまま無言で二人を睨んでいる。 「冬賀に先に目をつけたのは俺たちなんだぜ? なのに横から割り込んでかっさらおうとするなんて、見過ごせないじゃん?」 「おい。和彦よりも俺の方が先だろう? つうか、お前こそ俺と冬賀クンに割り込んで来た男だと言いたいんだがな」 「あ、そうでしたっけ?」 「だが、今となっては順番などどうでもいい。ハッキリと言えるのは新しいライバルが登場した。それが一番の問題だからな」 ここで初めてきょうちゃんが二人に対して口を開いた。 「勝手に問題とか割り込みとか。何ふざけたこと言ってるんです? コイツの事は中学から知ってますし、 それに、当時から俺はコイツに惚れてたんですから。 たまたまこの船で出会って、好みのガタイしてっから味見してやろうって程度の下心でコイツに近づかないで下さい」 「えっ!? きょうちゃん? ええっ!?」 今、さらりと驚愕の事実を言ってなかった? 中学の頃から俺の事が好きとか? ひゅ~、と和彦さんが口笛を吹いた。 「言うねぇ。お兄さん、そういう生意気な若造って嫌いじゃないけど、味見程度とかさすがにカチンときちゃったなぁ」 「やめろ、和彦。お前が本気で手を出したら怪我ではすまんだろう?」 「分かってますって。それに、こう見えてプロ意識はありますから、素人に手は出しませんよ」 一触即発って感じに俺までビリビリと緊張の電流が走り抜ける。 と、電流の一部が鼻の粘膜を刺激し、その刺激は「くしゃみ」と言う形でカラダの外に現れた。 「ぶへっっっっくっしょーーーーい!」 思いのほか盛大なくしゃみに、緊張の糸がブツリと切れた。 「あ、あの、きょうちゃんも亮一さんも和彦さんも……、俺、寒くなってきたんで中に入らせてもらっていいですか?」


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