形状記憶コンドーム ブランク編 2
Added 2019-04-21 14:24:27 +0000 UTC2バイトするなら…… 金沢は昨日もらった名刺に記載されている番号に電話をかけてみた。 すると、仕事の内容は社内の清掃であること、勤務時間に特に決まりは無く、清掃さえ終われば一時間で帰っても構わないと言う。 『お給料はその都度お支払いします。一回に付き1万円となります』 「ええっ!? い、いちまん? ですか?」 『もしかして少なすぎましたか?』 「いえ! 正直に言って多すぎで驚いたんですけど!」 『なるほど。相場……について知らなかったんですけど多い方だったのですね?』 電話の向こうの相手である加賀美の話に嘘や冗談は無いようだ、と金沢は感じ取っていたものの、あまりにも 美味過ぎるハナシでは、と不安を覚え念のため聞くことにした。 「あの、そちらの会社、コンバート社さんて、ちゃんとした会社ですよね?」 『ご心配なく! 違法な業務は行っていませんし、おかしな組織とも無関係です。ちょっぴり個性的なコンドームの製造、及び販売を行ってる会社です!』 「それにしても条件が良過ぎるんじゃないかって思ってしまって……」 『会社の立地がかなり不便な場所にあるものですから、これぐらいの条件でないと誰も来てくれないんじゃないか、って考えたんですよ。 取りあえず一度、我が社の様子見がてら面接にお越しくださいませんか?』 「面接あるんですね? 履歴書を持参すればいいですか?」 『いえいえ。こちらで専用の記入用紙をお渡ししますので何も用意していただかなくて結構ですよ。 交通費もお支払いいたしますので』 「あ~、えっと、甚だ言いにくい事なんですが、交通費すら準備できそうにないフトコロ具合でして……」 『なるほど。そう言う事でしたらこちらからお迎えに参ります。早速ですが今から面接にお見えになりませんか? 善は急げ、と言いますし』 ここまでお膳立てしてくれると言うのなら拒否なんてできないよな、と思った金沢は素直に加賀美の申し出を受ける事にした。 アパートの前に車が着いたと連絡が入ったのは丁度1時間後の事だった。 メタリックレッドが鮮やかなスポーティセダンには銀色のエンブレムが誇らしげに陽光を反射しキラキラと輝いていた。 軽く見積もっても一千万円は下らない高級車である。セレブに人気で車に詳しくない金沢でも庶民には手が出せない価格だと知っている。 車内から下りて金沢のために助手席のドアを開ける加賀美は、薄手のTシャツにピタッとフィットするレザーパンツと言ういで立ちであった。 昨夜すれ違った時よりもハッキリと筋肉が浮き出ていて、袖から生える太い腕やシャツ越しでも見えている大胸筋や腹筋の凹凸は、 金沢にとって非常にエロく、そして強い羨望を抱くには十分過ぎる「美ボディ」として目に映った。 車に乗り込みしばらくは他愛のない会話に終始していたのだが、次第に金沢のプライベートな内容にも触れるようになっていく。 「――そうそう。一人暮らしだと急にお金が必要になったりする時がありますよね。それと、大学では演劇部なんですね? だからなんですね~。どうりでカッコイイ方だな、と思いました」 「加賀美さん、自分の方が年下ですし敬語でなくて構いませんよ、むしろそうして下さい」 それに、あなたの方が俺よりも数倍かっこいいじゃありませんか、と言いかけたが寸前で飲み込んだ。 口にすれば加賀美に対して嫌味に聞こえてしまう、と思ったからだ。 「分かりました。じゃぁ、そうさせてもらいますね。金沢さんももっとラフな言葉遣いで大丈夫ですよ? 僕もその方が話しやすいですし」 「それにしても加賀美さんて、凄い筋肉っすねぇ。俺もそんなガタイになれたらなぁ、って憧れてるんですけど」 ハンドルを握り締める手も大きく、腕の太さは金沢の3倍はあるだろう。 広々としたシートの幅を超えるほどに張り出した肩の盛り上がりや、シートベルトが細い紐に見える程大きく前に張り出している胸にしても、間近で見るとより一層ボリューム感を持って金沢に迫ってくる。 「この程度、別に凄くないんですけどね。金沢君もなろうと思えばすぐになれるし」 「またまたぁ、謙遜し過ぎですよ。ここまで鍛えようと思ったら並大抵の筋トレじゃ難しいんじゃないですか?」 とてつもなくハードなトレーニングを何年もこなした結果がこのマッチョボディなんだろう、と推測する金沢。 「我が社のコンドームを使ってもらえば本当にあっという間にこの程度にはなれますよ」 「はい?」 「ちなみに金沢さんはコンドームって使った事はありますか?」 「え? ええ、あるっちゃぁあります」 「じゃぁ、面接記念にいくつか差し上げますので使ってみて下さい。使い心地は最高ですから」 ふと、金沢は石川とセックスする時の事を思い出していた。 石川はいつも生で掘ってくれと金沢にせがんでいた。なので、初回以来コンドームは一つも減っていないままだ。 (ハッテン場ではちゃんとゴム着けてやってんのかな? 風介や源太とヤった時はどうなんだろう?) 親友たちとも陰でセックスしているんだ、と思うと途端に胸の中がモヤモヤで一杯になった。 小さい頃から水泳で鍛えられた源太も、体操部らしい筋肉質なガタイの風介も、石川のように雄を感じさせる 逞しい肉体であった。 それに引き換え無駄な脂肪がほとんど無い痩せ形の金沢。 ナルシスト気味の石川にとってはセックス内容だけでなく体形も物足りないのではないだろうか? (俺も加賀美さんや源太や風介みたいな逞しいカラダだったら、透にとって良かったんだろうな……。 と言うか、透の気分に合わせてアイツ好みの淫乱なカラダの持ち主の、誰にでも変身してやれれば……) 「――さん? 金沢――さん? あのぅ、金沢さん?」 「えっ!? あ、は、はいっ!」 「もう到着してますよ。 ここがコンバート社です」 途中から加賀美の話が全く耳に入っていなかった金沢。気が付けばすでに目的地であるコンバート社に到着していると言う。 「一旦下りてそのまま待っていてくれませんか? すぐに戻りますので」 「は、はい……」 下ろされた金沢は改めて周囲と建物を見渡した。 市街地からはかなり離れた郊外らしい緑豊かな光景が広がっている。 コンバート社とされる建物の周囲は鬱蒼と茂る草原で、少し離れたあたりから森になっている。 そして、ポツンと建っているコンバート社の建物は、豪壮ではあるもののただの一軒家、としか言いようがなかった。 表札や、社名の書かれた看板などが無いため、地図だけを頼りにやって来たとしてもこの建物がコンバート社と見分けがつかないだろう。 加賀美の言葉に甘えてしまったが迷子になるよりはずっとマシだ、と金沢は胸を撫で下ろした。 「お待たせしました。それじゃぁ中に入りましょう」 加賀美の後に続いて吹き抜けになっている玄関をくぐり、まっすぐ伸びる廊下を進んで部屋に通された。 20畳くらいある広いリビングはデザイン性の高い北欧家具で統一されており、シンプルながら上品な木目が目に優しく飛び込んで来る。 「代表は本日不在なんです。ただ、面接については僕に一任されてるんでご心配なく」 勧められてソファーに腰を下ろした金沢の前のテーブルに、加賀美は一枚の用紙を前に置いた。 「こちらに記入するんですね?」 「ええ。名前や住所、連絡先の順に記入してください。後はそれなりに埋めてもらえば――」 ペンを渡した加賀美は何故か向かい側には座らず金沢の隣に並んで腰を下ろした。 それも肌が触れるほど密着した間隔で。 「え? あ、あの……」 加賀美の体温を感じて金沢はドキリとした。 「それなりに、って言いましたが無理して事実では無い事まで書かなくて構いませんから」 「え、ええ。分かりました」 年齢や現在の職業(学歴)を記入し、特技や趣味を思いつくままに書き込んで行く。 「ええと、次は、一番新しい性行為の経験から記入日までの期間?」 何故そのような情報が必要なのか? と疑問に思うものの、この会社がコンドームの製造・販売と言う セックスとは切っても切れない製品を扱っているからなのだろう、と金沢は推察した。 (最後に透とヤったのは5日前、だったか……てか、透の奴ってばマジで1日も我慢できないんだな。ちょっとくらいオナニーで済ませられないのかよ、ったく) 質問に恥ずかしさを覚えながらも正直に「5日」と用紙に書き込んだ。 次は「どのような相手が好みですか? (*相手はセックスパートナーとしてお考え下さい)」と、ある。 金沢の筆はさすがにここで止まった。 加賀美のような逞しく筋肉質な男性が好みだ、などと本人を前にしてそこまで正直にはなれない。 「どうかされました? ああ、その項目ですか。それも伏せておきたいのなら書かなくても構いませんよ。 僕だったらチンポがデカくて何発でもイケるようなド淫乱マッチョが好きです、とか書くんですけど」 まるでカレーの好きな辛さを言うような気安さでさらりと口にした加賀美に金沢は驚いて横を見た。 「えっ? も、もしかして加賀美さんて、お、男に?」 「はい。男にしか興味ありません。不躾ですけど金沢さんも同類、ですよね?」 「っ!? わ、分かるんですか?」 親友の風介や源太にだってカムアウトするまでバレなかったのに、と金沢は動揺した。 「そうです。分かるんです。何て言うかニオイ、って言うのかな? あと、それと勘です」 思わず腋の辺りを嗅いだ。だが、特に妙なニオイは感じない。 「ニオイって言っても普通の人間の鼻じゃ分らないタイプのものです。だから汗臭いとかそんなんじゃないから、安心して」 「は、はぁ……」 「むしろ俺の方が汗臭くないか心配だなぁ」 腕を上げて腋に鼻を近づける。その時、上腕筋肉がボコォッ! と盛り上がりTシャツの袖口からビリリと裂けてしまったのだ。 金沢は目を丸くして唖然としている。 「あ~あ、破れちゃった。このままじゃみっともないので、上だけ脱がせてもらいますね」 Tシャツを脱ぎ上半身裸になった加賀美。 金沢の目はより一層丸く見開かれた。 「あはは……そんなに見つめられたら照れちゃうなぁ。でも、こういう体形、好きなのかい? ココ、勃起してるみたいだし」 「はぁ? ……ああっ! うわっ! ちょ! ま、待って! こ、これは! その!」 「自惚れてるつもりは無いけど、僕みたいなのが好みに該当するのならそう書いてくれればいいですよ?」 「え? あ、そ、そうっすね。はい、こ、好みです。加賀美さんみたいな男が、タ、タイプです」 「嬉しいな! じゃぁそう記入して? 遠慮なく僕がタイプ、って」 つい引きずられてカムアウトしただけじゃなく、本人を前にしてあなたがタイプです、と言ってしまった金沢。 その通りを用紙に記入し、次の項目が最後であった。 「『変身、或いは人間以外の存在に進化することへの興味はありますか?』 って?」 「難しく考えなくても大丈夫。文面通り興味があるか無いか、ってだけなんです。どうせ後で…… 「はい?」 「いえ、気にしないで下さい」 金沢は回答欄に「有ります」と書いた。 それを横で見ていた加賀美は思わず金沢を思いっきり抱きしめた。 「うわぁっ!? ちょっと! か、加賀美、さ、んっ!」 「おめでとう! 金沢君は合格! 採用決定!」 振りほどこうとしても全然振りほどけない。このまま押し倒されたら加賀美のなすがままレイプされるのでは、 と恐怖した金沢。 「や、止めてくださいっ! お、俺、彼氏いるんです! 加賀美さんはタイプだけど、む、無理ですからっ!」 加賀美はパッと腕を解いた。 「そうかぁ! 金沢君、ちゃんとした彼氏がいるんだ! だったら無理に決まってるよね!」 人懐っこい笑顔の加賀美を見れば、湧き上がった恐怖は瞬く間に消えていった。 「そ、そうなんですよ。俺、一応彼氏がいるから、加賀美さんとはその、ヤ、ヤれません!」 「おーい、もう、入るぜ~」