SamSuka
鷹取リュウゴ
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パラサイトヒーローの誕生 1 

1心機一転登山のはずが……  『火山性ガス発生のためこれより立ち入り禁止』   「あれ? 瑠璃光山って火山活動なんてしていたっけ?」 登山道を登っている途中に現われた高い塀に張り付いている看板を読み、男は首を傾げた。 樹木で見えづらくなってはいるものの塀は左右に伸びており、遠回りしても頂上を目指すのは難しそうである。 「中学ん時は頂上まで行けたのに残念だなぁ。……仕方ない、ルートを変更して別の尾根に出よう」 がっかりと肩を落として塀の前から去ろうとしている男は「新宮 真(しんぐう まこと)」と言う。 この日は十年ぶりに思い出のある山に登ってインスタに画像を投稿しようと考えていた。 ところが七合目付近でその企画は断念せざるを得なくなったのだ。 「俺って昔っからこうだよな……。大事な時に限って運がないんだ」 高校受験の時には季節外れの寒波で交通機関が乱れ、新宮だけ試験開始に間に合わず救済措置も得られなかった ため第一志望を諦めた。 大学入試の時には試験中にやってもいない不正を疑われ、そのせいで集中を失い力を発揮できなかった。 そしてこの年、ようやく希望に見合った企業へ就職することが決まり清々しく大学を卒業できると思ったものの、 入社直前になって企業が経営破綻になり一転して就職浪人になってしまった。 それ故、落ち込む気分を一新すべく中学の頃の楽しい思い出のある瑠璃光山へ気晴らし単独登山へとやって来ていたのだった。  別の尾根に出るための登山道は非常に草が深い。最近ほとんど使われていない証拠だろう。 しばらく草を掻き分けつつ進んでいるとどこからか誰かの視線を感じ、新宮は立ち止まって周囲を見渡した。 「…………誰か、いるのか?」 森の中をじっと見つめてみても人影は無い。時折葉が風に揺れザワザワと鳴る。 気のせいか、と新宮は再び歩き始める。ところがまた視線を感じ、胸騒ぎを覚えた。 「なんか、いるような気配がすんだよな……。しかも嫌な感じだ……」 背後を確かめてもやはり誰もいない。樹木の影に危険なケモノの気配も無い。 ――ふ、と上を見た。 木々の隙間から青空が覗く……前に奇妙な浮遊物の存在を認めたのだ。 「う!? な、何だありゃぁ!」 新宮の頭上、4・5mの高さに巨大な目玉がドローンのような装置で浮かんでいて新宮を見下ろしていたのだ! 『申し訳ありません。発見されました。いかがいたしましょう?』 「え? な、なんか喋ってるし……」 『――かしこまりました。速やかに確保します』 人のアタマほどもある目玉からシュルシュルと細い触手が伸び、新宮に絡みついた。 「うわ! ちょっと! 何なんだよ!」 そして触手から染みだす粘液によって新宮のカラダは麻痺して動かせなくなった。 「うぐ、か、からだ、が……うご、か……」 さらに触手が目玉から生えて新宮をぐるぐる巻きにすると、新宮は繭のようになった。 『――確保完了しました。これより帰還します』 目玉ドローンは新宮をぶら下げたまま空中を飛び、立ち入り禁止と書かれていた塀の内側へと連れ去ってしまった。  立ち入り禁止区域の中には研究所があった。 「究極生物研究所」と言う。 命への倫理や道徳をかなぐり捨て、興味と好奇のおもむくまま研究していた。 新宮を捕獲した目玉ドローンもその成果の一つと言える。  「監視と連行、お疲れ様。おかげで良い実験素材が手に入ったよ。あとは私に任せてくれ」 「はっ。それでは次の任務まで待機させて頂きます」 触手を使ってドローンを外した目玉は触手を何本も束ねて融合させヒトのカタチへと姿を変えた。 仕上げとばかりに全身から黒い粘液を染みださせて頭部の目玉ごと包み込んだ。 そうして別室へ移動してしまうのを見届けた研究員の一人が微笑を引っ込めて不快な表情を湛えた。 「自身の生み出した失敗作とは言え、目の当たりにするとやはり気分が悪くなるね。知能は低いままだし 完全にヒトへ擬態する事もできないなんて。計算通りに行かないと本当に不愉快だ」 別の研究者が慰めるように声をかけた。 「対象と素材との相性が悪かったのでしょう。それに主任一人の失敗ではありません。なんなら次は私が素材となって――」 「ストップ。『今は』それ以上言わなくていい。君まで素材にするつもりは無いから。その前にこうやって新しい素材が手に入ったんだ。君と一番の仲良しだった彼の働きによって、若く元気な素材が、ね」  研究所では秘密裏に様々な生物の研究及び実験を繰り返していた。 厳重な警備の元、優秀な研究者はそれぞれの専門知識を活かせるだけの設備と環境を得て、己の研究対象に没頭していた。 彼らの目的は何か? 新薬の開発、人体の強化、能力の向上…………。 いずれにせよ明らかに法に触れるような人体実験や生物改良を行っていた。 扱っている対象は多岐に渡る。 人間を含む哺乳類、魚類、爬虫類、或いは昆虫、ウイルス、細菌などの微生物。絶滅を危惧されている希少種。 それらの中には隕石と共に地上へ落ちてきた「地球外生物」 化石から取り出した遺伝子を復活させた「古代生物」 実験に次ぐ実験の末に異常進化し今の時代では生まれ得ない「未来生物」、なども含まれていた。 巨大目玉男も元は研究員の一人だったのだが、実験結果をその身をもって示すため素材となり、そうして失敗したものの廃棄処分には至らず使役されている実験体の一人である。 他の実験体の多くは廃棄され別の生物のエサになったりクローン人間のタンパク質へと生まれ変わっている。 新たに新宮を手に入れた研究員たちはこの若い男の肉体を用いた実験を喜々として行った。 「今回はこれらを寄生させてみよう」 主任と呼ばれた研究員は3本のアンプルを手に持って他の研究者に示した。 「おお! それはつい先日復元が終わって培養が可能になったばかりの!」 「面白そうでしょう? 人体にどんな可能性を見せてくれるのか確かめてみようじゃないか」 研究員たちから拍手が起こった。 「それじゃぁ、早速――」 全裸にされ手術用の寝台に横たえられた新宮の腕に注射針を通してアンプルが一つ、また一つ、さらに一つ。 合計三つの液体、―寄生生物の細胞を培養した液体である―、を、注入する。 暴れて抵抗できないよう手首や足首には枷がはめられ、口も金属プレートによって声が出ないよう封じられている。 それでも必死に目で訴えている新宮。聞こえてくる言葉によって自分のカラダが何に使われようとしているのかは理解していたためだ。 全身の筋肉を怒らせ研究者の手から打ち込まれる注射針を受け入れないよう踏ん張った。だが、その努力も空しく 針は新宮の皮膚を貫き、血管の中へ異種の細胞をドロリと流し込んでいった。 新宮はガクッと力を解いた。両眼は見開いたままだ。 「死んだのか?」 「いえ、バイタルは正常です。拒否反応の一つかと」 「そうか。だったらいい。しっかりモニタリングしててくれ。次にこの実験体が目覚めたらすぐに私を呼ぶように」 「はっ! かしこまりました!」


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