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鷹取リュウゴ
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形状記憶コンドーム オーク編 1

* この作品は『形状記憶コンドーム インキュバス編』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9440683の後、と言う設定を用いておりますので、先にインキュバス編を御覧になっておくとより一層お楽しみ頂けるかと思います。* 【形状記憶コンドーム オーク編】 1紅茶専門店  オーナー自身が農園まで出向いて買い付けを行い、実物を吟味かつ厳選した茶葉を用いて提供する紅茶の専門店「ラルゴ」 紅茶の名店とも言うべき「ラルゴ」のオーナーは今期も茶葉の買い付けのため、インドへと飛び立った。 それゆえ、店の営業はベテラン従業員2人と昨年末に採用されたアルバイトの津山穂高の3人だけで回している。 「……しっかし、お客さん、来ないっすねぇ」 オーナーが不在になるといつもお客は半減するのだが、この日は特に酷かった。半減どころか10分の1以下である。 午前、午後を通してたったの8人しか来店する客がいなかったのだ。 「オーナーがいない時はいつもこんなものさ。常連さんたちはオーナーの淹れるお茶しか飲みたくないだろうしさ」 「暇すぎて本田さんなんて先に帰っちゃうし、てか、こんなんで経営、大丈夫なんすか?」 「ネットでの茶葉の販売だけでもそれなりに収益上がってるし、すぐに潰れる心配はないんじゃない? それよかさ、穂高君、窓ガラスの拭き掃除を頼める? そろそろ俺らも撤収時刻だし」 蝶ネクタイに黒ベストを身に着けている先輩スタッフが壁にかかっている時計を指さした。見ると19時を過ぎている。 オーナーが居る時の閉店時刻は21時だが、不在の場合は1時間早く店を閉めることを看板に掲げていた。 「うぃっす! 窓の拭き掃除はいるっす!」 穂高が水の入ったバケツと雑巾を持って窓を拭き始め、何気なく窓外の通りを見た時であった。 「――うん? アイツって野島じゃん、アイツが誰かと一緒なんて珍しいな」 学年だけではなく学部、学科が同じだったため穂高は「野島幸広」のことは知っていた。 知っていた、と言うよりか大学に入ってしばらくはそれなりに親しい友人の一人でもあった。 ただ、夏休みに入る前に幸広が先輩の彼女を寝取ったと言う醜聞が流れ、幸広自身もそれを否定することなく 夏休みに突入したため幸広とは疎遠になり、夏以降も距離が縮まること無く今日まで経過してしまっていたのだ。 「……と、思ったらまた一人になってやがんの。ツレじゃぁなかったのか……、ま、どうでもいいけど」 緑色のスタジャンを着た体格のいい男が幸広を置いて立ち去った。 その後、幸広は津山に気付かず男とは逆の方向に歩き出し姿が見えなくなった。 「穂高くーん! 窓拭き済んだらゴミ出し頼むよー!」 「……っと、いけね、まだ途中だった。はーい! わかりましたー!」    三日後のことである。 講義が終わり「ラルゴ」にて穂高がいつものように働いていると、ガラス窓の向こうにまた幸広の姿が見えたのだ。 何かを探しているのか周囲を注意深く窺っているようでもあるが、視線はほぼ向こう側のビル、人気のメンズ衣料品店に固定されている。 「? ……なにやってんだアイツ……」 1時間ほど佇んでいたようであったが酷く残念そうな顔をして幸広は姿を消した。  さらに一週間後。   「うわ、野島のヤツまた来てるよ……」 穂高がそう口にしたのも仕方のない事だ。 姿を現した幸広はラルゴを背にして向こう側のメンズ衣料品店、いや、店を出入りする人物を見つめていた。 また数日が経過した。 仕事中の穂高は窓の外に幸広が来ているのでは? と、探すともなく探してしまう。 そうして案の定、やって来た幸広は喫茶ラルゴの向かい側にあるメンズ衣料品店を睨んでいる。 「あ、雨だ……つか、アイツ、傘持ってないのかよ?」 激しい驟雨が路面の色を濃い鼠色に塗り替え、雫の音がバタバタと響きだす。 しかし幸広は雨宿りに駆け出す様子もなく、相変わらずラルゴの反対側を見つめていた。 「おい! アイツ、マジかよ!? この雨ん中で何考えてんだよ! ったく! オーナー! ちょっとすいません!」 帰国していたオーナーに断ってから穂高はラルゴの外で雨に濡れる幸広を店の軒下に引っ張り込んだ。 「あ、ええと、お前は確か――」 「津山、津山穂高だ。忘れんなよ。名前くらいすぐに思い出せよ。まったく……」 軽く驚きの顔を見せたが幸広はまた視線を通りの向こう店舗へと向けた。 「……ここからじゃちょっと見えにくいな……」 「おい。傘も差さないでまた外に出る気かよ? ずぶぬれの恰好で店のそばに立ってられたら営業妨害だぜ。それに、 そんな濡れちまったままじゃ風邪引くぞ?」 穂高の言葉が終わらぬ内に幸広は盛大なくしゃみを3連発。 「……ほうら、な?」 ラルゴのドアが開いた。顔を出したのは白い髭が良く似合う初老のオーナーである。 「津山君、君のお友達かい? うわぁ、随分とびしょ濡れじゃないか。今はお客さんもほとんどいないし、店の中で休んでもらっちゃどうだい? 津山君も休憩してていいからさ」 「いいんすか? オーナー」 「ああ。いいとも。それと、濡れた服は乾燥機に入れて乾かしてあげなよ。代わりの着替えには、取りあえず予備の制服を 着てもらって構わないからね。乾くまで中で待ってればいいよ」 ラルゴのオーナーは優しく穂高にうなずいた。 「分かりました。ほら、オーナーもああ言ってるし、まずはこいつを着替えて脱いだ服は更衣室の横の乾燥機に放り込んで来い。 まぁ、1時間もあればすっかり乾くだろう」 「……ああ、悪いな、助かる」 「ああ。俺じゃなくてオーナーにお礼言っとけよな」 「そう、……だな。色々とありがとう、ございます。それと、ご迷惑をおかけして……ふぇっくしゅんっ!」 「いいからいいから。ほら、早く着替えておいで。暖かいミルクティーを用意してあげるよ」 穂高に伴われた幸広がラルゴの制服に着替えて店の中に戻ると、オーナーは表通りが良く見える窓際の席に座らせ、 幸広の前にミルクティーを置くとすぐにカウンター前に引き返し別の常連客と談笑し始めた。 「……俺、あまり持ち合わせがないんだけど……」 「バカヤロウ。こいつはオーナーからのサービスだ。金なんか気にすんな」 「……そっか、申し訳ないな」 上質のアッサム茶と低温殺菌牛乳とを惜しげもなく使った濃い目のミルクティーをひと口飲む。 ふぅ、と深い息を吐いてようやく人心地ついたのか、幸広は再び窓の外へ目を向ける。 「…………なぁ? 聞いてもいいか?」 幸広が穂高の方に振り向いた。が、まだ気持ちはほとんど窓の外に向かっているのが分かる。 「お前さ、ここんとこ何度も来てたろ? あの店になんかあんのか?」 あの店、と穂高が指さしたのは人気の高いメンズファッション店「クラウド」だ。 雑誌などのメディアにも取り上げられ土日には行列ができるほどの来客でにぎわっている。 しかし、激しい雨と閉店時間にも近いせいか、今はお客さんは少ないようだ。 「……人探しだ」 「人探し? お前が?  しかし、これだけ探してるって事は、よほど大事な人なんだな」 穂高は1年前の幸広の醜聞のために幸広から距離を置くようになったが、幸広自身が周りに誰も近づけないように避けていた面も大いにあった。 自ら進んで孤立していたように穂高には見えていたのだ。 「……なぁ、もしかして、探してる相手ってのは、あのユカ先輩……」 思い切って聞いてみた穂高。幸広にとっては触れられたくない話題に違いない。 「違う。あんな女、関係ない。それと、坂下先輩とだってもう何もないから」 「!? マジで?」 穂高はうなずいた。その表情は淡々としており腹に何かを持っている感じでは無い。 「周りがどう思うかは勝手だけど、坂下先輩にはあの女との縁を切ってもらって感謝してるくらいだ」 「いや~、よく分かんねぇけど、そうなのか。じゃぁ――」 「もう坂下先輩に恨みはないし、ユカ先輩とは二度と会いたくないな。まぁ、卒業して大学にはいないから安心だけど……、その前に、俺と津山って友達なのか?」 幸広はオーナーの方をちらりと見た。 オーナーは相変わらず同世代の常連客と語り合っている。 「さぁね。こうして口をきくのはほぼ一年ぶりになるんだから、友達ってよりかは知り合いってレベルじゃね?」 「そう、か。そう、だよな……。それにしてもこの席、良いな。クラウドに出入りする人がよく見える……」 「で? 誰なんだよ? その探してる人ってのは」 「……知り合い程度のヤツに話したくはない」 穂高は少しムッとした。 幸広から距離を置いたのは自分だけでは無い、他の奴ら全員がそうだったではないか。厄介事を抱え込んだ人物との接触は極力避けたいと思うのは自然な事だろう? なのにこうして親切に雨宿りの場所や温かいお茶まで差し出した「勇気ある」相手に対し手失礼ではないか、と。 「だけど、もう一度友達になってくれるんだったら話す」 こう返されると穂高にしたって拒否はしにくい。本当の所はブチ切れてた相手である坂下先輩とどうやって和解したかの顛末も詳しく聞いてみたい。 「……よし。今からはガチで友達になってやる。そもそも俺だってな、お前が嫌いになったって言うよりかは、なんか 先輩と揉めてる間は大人しく見守っててやろうとしてただけであって……」 「まぁ、そこら辺のことは改めて詳しく話してやるよ。もう、友達だからな。で、早速だが友達として頼みがある」 ここまで図々しい、いや、意志のハッキリした男だったか? と穂高は記憶の中の幸広とを比較する。 見た目はそこそこ良いけど純朴なだけで特に押しの強い印象は無い。 なのに、目の前にいる幸広はどうもヒトとして、男として、『一皮剥けた』雰囲気がある。一本芯の通ったカッコイイ「雄臭さ」をどことなく感じるのだ。 「なんだよ? もう一杯お茶をおごれ、ってか?」 見つめられて妙にドキりとした。慌てて視線を下げた先には空になった幸広のティーカップがあった。 「違う。探し人についてだ。協力して欲しい。この通りだ」 図々しいかと思えば今度は、テーブルに額が付くほど頭を下げ謙虚な態度で穂高の手を取った。 「またこの店に来てもいいか?」 「あ、ああ、もちろん。今度はちゃんと客として来いよな」


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