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鷹取リュウゴ
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形状記憶コンドーム オーク編 2

2コンドームの注文  幸広は緑のスタジャンを着た青年を「クラウド」まで道案内した一件について穂高に話す。 ただし、案内のお礼にもらったモノについては口にしなかった。 「もう一度会って色々と確かめたいことがあるんだ」とだけ、探す理由を述べた。 「ふぅん? 確かめる、ねぇ……。あっ! お前、まさか、ストーカーっぽい事やってんじゃねぇだろうな?」 「そんな訳ない……。本当に確認したいことがあるだけで、それ以外は別に無いから」 咄嗟に否定したが、それは幸広の本心では無い。 恋愛感情とは異なる肉体的な欲望が、あのコンドームを付けて以来常にくすぶっているのだ。 だが、そんな本心を「今日」再び友達になったばかりの相手に言えるほど幸広は穂高を信用してはいない。 「それで、仕事の邪魔にならない程度でいいから、緑のスタジャンを着たこんな感じの人を目にしたら俺に連絡して欲しい」 「そう言われたって、名前も画像もなきゃ判別つかねぇけどな」 幸広は穂高から紙とペンを借りると大雑把に青年の特徴を書き記し、その下に似顔絵を器用に描き足した。 「お前って絵描くの上手いんだな――ん? この人って確か……」 「知ってんのか!?」 身を乗り出して大声を上げた幸広。 「ちょ、んな大声出すなよ。ほら、オーナーもお客さんもこっち見て心配してんじゃん」 「あ、ああ、悪い……」 穂高はオーナーの方に向かって笑顔で「何でもないッス! 失礼しましたー!」と軽く頭を下げていた。 幸広の様子が落ち着いたのを見て、穂高が補足する。 「あのな、俺も思い出したんだよ。ちょっと前にお前がこの人と店の前に来てたのを。俺が窓拭きをしてたら丁度 こっちを背にして話してたんだよな。二人とも。 顔をじろじろ見てた訳じゃないからあまりハッキリしなかったけど、お前の描いた似顔絵みたらすぐに分かったぜ」 「それで、……それで、その後、この人を見たことは? ここに来てなかったか?」 「俺だって毎日フルタイムでバイト入ってる訳じゃねぇし、窓の外ばっか見て仕事してる訳でもねぇから、来てたかどうかは分からん。 だが――」 「だが?」 「お前がしょっちゅう店の前に来て、クラウドをじっと見てたのは知っている」 「……じゃぁ、結局はこの人が来たかどうかは分からないんだな……」 「ま、そう言うこと。で、連絡先どころか肝心な名前も分からないんじゃ、探しようがないんじゃないか? さっきの話だとクラウドに服を買いに来ただけ、っぽいし。 もう少し手がかりっつうか、ヒントになるもんが無きゃな。店の前で見張ってるだけじゃ再会できる可能性はかなり低い気がするぜ?」 幸広の顔がどんよりと沈んだ。 ヒントになるモノと言えばお礼にもらったコンドームしかない。 チンポに着けるとコンドームが形状記憶していると言う「インキュバス」に変身してしまう、超が付くほどのとんでもないコンドーム。 そのコンドームには社名の記載はあるものの電話番号や会社の住所などの情報が一切書かれていなかった。 なので、もらったコンドームから探るのは無理だろうと幸広は諦めていた。 「……まぁ、この人が来てないかそれとなくチェックするくらいは協力してやるけど。んで? もし見かけたらどうしたらいい? お前が来るまで待っててもらいたいんなら、そう頼んでやるけど」 「ありがとう! ええと――」 「俺の名は津山だ、津山穂高。穂高でいいから……つうか、さっきも名乗ったんだだけどな~」 「あ、ああ、穂高! ありがとう! すぐに駆けつけるから是非足止めしておいてくれ! 頼む!」 幸広は席から立ち上がって向かい側に座る穂高の肩をガシッと掴んだ。 「分かった、分かったから、とにかく座れ。またオーナーがビックリしてんじゃん」 またも心配そうな視線をよこすオーナー。 穂高は「たびたびすみません。もうすぐコイツ帰りますから」とオーナーに釈明した。 「とりあえず服はもう乾いただろうし、お客さんが忘れてった傘が一杯あるから適当に使ってくれて構わねぇ。 でもって俺も仕事に戻らねぇと――」 「そ、そうだよな、色々助かった。マジでありがとう。で、この人が現れたら即、俺に連絡して欲しいんだ」 幸広は借りたギャルソンの制服のポケットからスマホを取り出し穂高と電話番号やアドレスを「もう一度」交換した。 「一応言っておくけど、あまり期待はすんなよ? 仕事のついで、だからな?」 それで構わない、と幸広は頭を下げ、オーナーにもお礼を述べてから乾燥機へと自分の服を取りに向かった。 幸広が店から去った後、穂高は幸広の座っていた椅子の下から正方形のカードのようなモノを拾った。 「む? コレってコンドームじゃん……。野島のヤツが落としたのか? それとも他のお客さんのかな?」 と、穂高はあまり気に留めず自身のポケットへと放り込んだ。  翌朝、穂高はスマホの着信で起こされていた。 発信者は幸広であった。 「うぃ~、穂高だけど、こんな朝っぱらから何事~?」 『悪い! あのさ! 昨日、店の中で落とし物していなかったか? あの、コ、コン……』 やはりコンドームの落とし主は幸広だったのだ。 「あ~、アレだろ? コンドームだろう? お前っていつもああ言うの準備してんのかぁ~?」 『い、いや、あれはその、たまたま、って言うか、偶然って言うか――じゃなくて! そのコンドームをさ、 もしかして使ったりしたか?』 「いやぁ? 使ってねぇよ。お前のかどうか分からなかったけど、あそこに置いとく訳にもいかないから持って帰ってはいるけどよぉ」 『そ、そうか。それなら良いんだ。……その、別に使ってもらっても良いんだけど……』 「なんか、歯切れの悪い言い方だなぁ。つうか、俺も持ってるし別にお前のなんていらねぇよ」 セックスする相手なんてずっと居ないから出番はないけどな、と穂高は脳内で愚痴った。 『えっ!? 穂高も形状記憶コンドームを持っていたのか!?』 「は? けーじょう、きおく? ナニソレ?」 『……あ、そう、そうだよな、普通のコンドームを持ってる、って意味だよな? ええと、だったら今のは聞き流してくれ』 「そうか? だったらスルーしとくけど」 『あ、ああ……そうしてくれ。で、今日はバイト、あるのか?』 「あるぜ。3時限目の講義の後はラルゴで営業終了まで入る予定になってっし」 『じゃぁ、俺も夕方にはそっちに行くから、そん時に――』 「おう。ちゃんと返してやるよ。電話まで掛けてくるなんてよほど大事なコンドームなんだな』 『そう……だな。ああ、俺にとっちゃ大事なモノになる』 通話を終えた穂高は再び寝直し昼前に目覚めた。 朝昼兼用の食事を摂り午後からの講義に行くため身支度を整える。 それからバイト先で落ち合う予定になっている幸広のために昨日拾ったコンドームを確認し、バッグにしまう。 「そういや、けいじょうきおく、とか言ってたよな?」 しまったコンドームをバッグからもう一度取り出しコンドームの包装を見つめた。 『形状記憶コンドーム インキュバス』 銀色の包装材の上に記された文字を読む。薄くペニスのシルエットが描かれていていかにも卑猥な印象を与えている。 「別に、商品名以外は普通のコンドームだよな? ええと、メーカーはコンバート社……か、うん、聞いた事無いな」 気になり始めた穂高はまだ出発まで時間があるのを確かめるとスマホを使って調べてみることにした。 「形状、記憶、コンドーム、んで、コンバート社、っと……お? ちゃんとサイトがあるんじゃん」 ネットで購入できるように作られたショップサイトが表示された。 「形状記憶コンドーム、インキュバス? 獣人? コンドームの商品名にしちゃ随分と変わってんだな。グリードマンとかもはや意味不明過ぎる」 値段は他社のモノと比較しても特に高いと言う訳でも無かったが、ネーミングの奇抜さだけが「売り」のように穂高には見えた。 「ま、会社の知名度が低いと色んな部分で関心を持ってもらうようにすんだろうな……おっと、しまった――」 『はい、お電話ありがとうございます。コンバートです』 指が滑って電話のリンク先をタタンと押してしまった。 「うわ、繋がっちまった……」 『もしもし?』 「あ、あの、すみません……」 『お客様、コンドームのご注文でよろしいでしょうか?』 穂高は開き直ることにした。 「はい! そうなんです」 『ありがとうございます。ところでお客様は初めてのご利用でしょうか?』 「え、ええ、そう、ですね」 『ありがとうございます。では、どちらで我が社の形状記憶コンドームをお知りになりましたか?』 アンケート的なものだろう、と穂高は思った。 「あの、ダチが、いえ、友人が持っていたので自分も買ってみようかな、と」 『なるほど。さようでございましたか。では、今回ご注文頂くコンドームはどちらになさいますか?』 「インキュバスとか獣人とか、種類があって迷ってしまいますね」 『恐れ入ります。どちらも極めて高い快感が得られますので非常にオススメでございます。他にもまだございます。グリードマン、ヴァンパイア、ルストマン、オーク。そして、価格は異なりますがブランクと言う商品もございます』 やはり名前だけではどれがどんな特徴があるのかは想像できない。 すこし口ごもっていると先に提案された。 『今でしたらオークを特別価格でご案内させて頂いております。初めてのお試しに如何でしょうか?』 「そ、そうっすね! じゃぁ、オークってのにします。一つ、それでお願いします」 『かしこまりました。では、ただちに発送させていただきますのでご住所とお名前、連絡先のお電話番号をお願いいたします』 「はい。住所は――」


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