逆転セクサロイド 1
Added 2019-07-16 15:57:59 +0000 UTC1 戻ってきたアイツ 交通事故で入院した「榊原ケンタ」からラインが届いた。 開いて見れば『無事退院できたので遊びにこないか?』とある。 俺は、快気祝いも兼ねて久しぶりにケンタの家に向かうことにした。 前に行ったのは仲良くなって間も無い頃だった。それから2年。実は俺、ケンタの家に行くのは億劫なのだ。 何故なら、ケンタの家は「超」が付くような豪邸で、俺みたいな庶民が入ると落ち付かない暮らしをしているからだ。 さすが大富豪、「榊原財閥」の財力だな、と思い知らされる。 「気兼ねなく寄っていけばいいのに」なんてケンタは言うけれど、セ●ムの監視カメラと守衛の目を潜って、さらに 一つ数百万「以上」はするような豪勢な家具や調度品に囲まれた空間に入ったら落ち着けるわけがない。 小汚いスニーカーで踏んづけてる絨毯だって、どこの美術品だよ? と思うような繊細な模様が入っているし。 ただし、ケンタ自身は自分の家が金持ちだって事を一切鼻にかけない。とっても気さくな奴なんだ。 登下校だって「運転手付きのお車」での送迎では無く徒歩だったし、小遣いの金額だって俺らと変わりないレベルだった。 ふざけて「お前の家さぁ、金があるんだからジュースくらいおごってくれよ」なんて言う奴には「バーカ。家と俺とは関係ないよ。 毎月の小遣い以上のお金なんてもらえないし」とあっさり拒否っていた。 今更言っても仕方ない事だけど、金持ちらしく学校への「送り迎え」があったなら、今回みたいな交通事故に遭わずに済んだのにな、と思う。 激しい雨の朝、スリップした車が登校途中のケンタに衝突。 運転手は救急車も呼ばないまま逃走。つまり「ひき逃げ」しやがったのだ。 ケンタの元へ救急車が到着したのはそれから1時間も後だった。 丁度、住宅地と住宅地の間の人家の少ない場所だった事と、雷が鳴り響くような荒れた天候と言う不運が重なりケンタの発見はひどく遅れた。 運ばれた先は榊原財閥系列の『榊原総合病院』。 民間の病院ながら様々な研究を行い、有名な大学病院に勝るとも劣らない「一流」総合病院だ。 どれほどの重傷を負ったのかは教えてもらえなかったが面会ができないまま日々が過ぎた。 ラインを送っても返事はないし、いつ頃退院できるかも分からない。 そうこうしてる間に3か月が過ぎ、やっとケンタと連絡が取れたと思ったら『退院したから遊びに来ないか?』と言う内容。 ここで「お前んち、豪邸過ぎるから行きたくない」なんてさすがに言えないから、億劫ではあるけど『退院おめでとう! それじゃぁ、遊びに行くよ!』と返事を送り、行く日と時間の約束を交わした。 「山下ユキヒロ様。お待ちしておりました。本日、ケンタ様は西館にてお過ごしになっておりますのでどうぞあちらへお進みください」 かっちりした制服を身に付けた門番の男が恭しく頭を下げる。ロックが解除されゲートが開くと、夏の花々が咲き誇る「森林」が目の前に広がる。 榊原邸はお金持ちらしく凄く広い。 何しろ入り口から敷地全体が見渡せないくらいなのだ。 手入れの行き届いた森の中に、3つの大きな建物があり、一番大きくてメインに使っている洋風の本館。 特別な来客や重要な会合の時に使っている純和風の東館。 そして、別邸として普段はあまり使わない和洋折衷様式の小さい西館に分かれている、と前に訪れた時に聞いた。 静かな森の小道を歩くこと数分。ここが公園では無く個人の家の中ってのを感覚として失い始めた頃、森の木々が芝生になり美しい庭園に切り替わるとようやくケンタの居る「西館」に到着。 小さい、と言っても榊原邸の中では比較的「小さい」だけで、一般的には「豪邸」と呼べる大きな建物だ。 3階建ての御屋敷、と思ってもらった方が分かりやすいだろう。 この「西館」だけで普通にイメージされる一戸建ての住宅、「4~5軒分」はあるに違いないからだ。 前に「本館」へ来た時には建物の前にお出迎えの家政婦さんや執事の方がずらっと並んでいてギョッとしたけど、今回は誰もいない。 インターホンを押すとケンタの声が聞こえた。 『いらっしゃーい! 玄関は開いてるからそのまま入ってよ。遠慮しなくていいからさ。俺は2階の一番奥の部屋に居るから』 と。 退院したとは言ってもまだまだ体に不自由な部分が残ってるのかも、と思った俺は、ケンタの言う通りひと部屋以上の面積を持つ玄関から学校のように幅の広い階段を昇って2階へ上がり、廊下の一番奥へと進んだ。 さすがに建物の中には家政婦さんがいるものとばかり思って居たのだが、誰にも会わない。 たまたま他の用事で居なかっただけかも知れないが。 「おおー! ユキヒロ! ひっさしぶりっ! 何十日ぶりだろうなぁ~!」 「ケンタ! 久しぶりだなぁ。つか、思ったより元気そうで良かった。もうすっかりカラダは良くなったのか?」 奥の部屋のドアを開けて一番最初に目に飛び込んできたのは、とても大きなWベッドだった。 ベッドの横にはソファが置かれ、壁には100インチほどもありそうな巨大な液晶テレビがはめ込まれている。 ケンタがソファからすっくと立ちあがると、俺に近づき握手を求める。 その手を握り返しながら俺は具合を確かめた。 「もちろん! すっかり生まれ変わって新しくなったからね~。前よりも元気なくらいさ!」 「新しく? てか、元気になれたんなら良かったぜ。で、これ、気持ちだけど祝いの品だ」 俺は持参したケーキを渡した。すぐに口にするか分からないので無難にバームクーヘンを選んである。 「あ~、悪ぃなぁ。気を遣わせちまってさ。でも、ありがとうな! おおお!? こいつは『ひたぎ屋』のバームクーヘン? 俺、ここのバームクーヘン大好物なんだよな! 早速食べよう! ユキヒロも一緒に!」 ケンタは冷蔵庫からアイスティーを、戸棚からはケーキナイフを取りだしバームクーヘンを切り分けた。 美味そうにバームクーヘンを口に運ぶケンタに俺は聞いた。 「こっちの建物には家政婦さんとか居ないのか? 前に来た時には凄く大勢いてビックリしたが」 「ああ、今の西館は俺だけ。ユキヒロが来るから皆には下がってもらってんだ」 「へぇ。俺の方こそ気を遣わせたかな?」 「ん? いや、そうじゃない。むしろ俺の『わがまま』で」 「『わがまま』?」 ニヤリと微笑むケンタ。こいつ、こんな笑い方もできるんだ、と驚いた。 「ふぅ。美味かったぁ~! 俺、このカラダじゃもう美味しく感じないんじゃないか、と不安だったけど、前と同じように味覚が機能してくれて安心した!」 「? き、機能?」 病み上がりテンションでの大げさな言い方なのかな? と思っていたのだが、どうやらそうでもない。 「そうなんだ。運動性能も感覚機能も前と同じように調整して欲しいって頼んではいたんだけど、いざ実際に使い始めたらさ、微妙に違ってんじゃないかな、って思っていたんだよ。 でも、まぁ、今の所大きな差異はなさそうで助かっているんだ」 小さなフォークを指に挟んだままケンタが話す。 「えーと、あの……さ、ケンタ。調整とか、性能とか、機能とか、イマイチよく分かんねーんだけど?」 「だよね。てかさ、まず最初にユキヒロに知って欲しいな、と思ったからここへ呼んだんだ」 話がかみ合っているようでかみ合っていない。ケンタは何を言いたいのだろうか? フォークを皿へ戻したケンタが立ちあがった。 そうして着ていた部屋着を外し、一気にビキニパンツ一丁の姿になった。 細身のスリムな体つきは俺と比較してもそんなに変わりない体型だろう。 「お、おい!? ケンタ? なんで急に脱いでいるんだ?」 それに、ビキニパンツなんて、なんか、妙にイヤラシイじゃないか。 夏とは言え館内は空調が効いててヒンヤリ涼しい。裸になる必要など全くないのだが。 「いやぁ~、残念だけど俺のカラダ、っつっても元のカラダなんだけどさ、まだ使い物にならないみたいで、研究チームが頑張って再生してくれてるんだけど最低でも1年はかかるらしいんだ」 「再生?」 「そう。再生。事故のせいで骨も内臓もかなり傷んでしまったものだから研究チームが新たにカラダを再生してくれているんだ。 完成した段階で臓器とかが脳と適合して機能するかまでを見ないといけないからそれなりに時間がかかるって事で、 じゃぁ、その間は仮のカラダを使わせてくれって頼んだんだよ。で、これがその仮のカラダ」 うなじの髪を上げてナンバーとバーコードを見せるケンタ。 よく見ると腹に臍が無い。それに全体的につるんとした表面をしている。 「これが、仮?」 「『KE-602』って言うボディで、性行為に特化した有機生体セクサロイド、と言うタイプなんだ」 「いやいや、セクサロイドとか、ふざけんのは止めてくれよ。なんかのドッキリみたいだ」 「ドッキリ? ん~、俺としてはドキドキしてくれれば有り難いんだけどなぁ。ふざけてなんか無いし、冗談でも無いよ?」 「SFとか漫画じゃないんだから。俺を担ごうとしてんだったら怒るぞ?」 「じゃぁ、これなら信じてくれるかな?」 ケンタは手足をまっすぐ伸ばし、「ふっ!」と息を吐いて全身に気合を入れた。 すると、ググッ、グググッ、と背が伸び、ケンタのカラダが大きく変化し始めたのだ。