淫欲流星コンバーター 2
Added 2019-09-11 12:58:16 +0000 UTC2ミッドナイトパーク 深夜の公園。 誰もが寝静まる時間にもかかわらず、一人ベンチに座ってスマホを睨んでいる男が居た。 「くそぉ~、またドタキャンかよ! てめぇの都合に合わせて出向いてやったって言うのによぉ~!」 催促のメッセージを5回も送ったのに反応が無い。 キャップを目深にかぶったタンクトップの男は、すでに1時間以上も公園で待ちぼうけを食わされていた。 「これで何人目? ちっくしょう! またドタキャンかよ!」 やり取りの途絶えたライン画面を睨んだ男は腹立ちのあまり足元に転がる空き缶を力いっぱい蹴り飛ばした。 強い力を受け発射された缶は放物線を描いて広場を越え、反対側にある小さな樹林の中に吸いこまれた。 『グアァッ! 何だ! コレはっ!』 「……え?」 誰も居ないと思っていた樹林の中から別の男の悲鳴が聞こえた。 蹴った空き缶がぶつかったに違いない。ヤバイ奴だったらどうしよう? ベンチの男は少し後ずさり、そして、次の瞬間振り返る事なく脱兎の如く走りだした。 誰も居なくなった広場に樹林から男が姿を現した。 ただし、その姿は空き缶をぶつけられ痛みに耐えている、と言う様子では無い。 『ぐ、うぐぁ! あ! あがっ! や、やめっ!』 訂正しよう。耐えている、と言う点では正しいようだ。 ただし、痛み以上に深刻な何か、から逃れようと悶えている。 その「何か」とは。 白いTシャツに膝まで届くランニングパンツを身に付け、よろめきながら樹々の間から出て来た男。 ただし、淡く赤く発光する紐状の物体が頭部に巻き付き、顔のほとんどはすでに見えなくなっていた。 『ぐぶ! うぐ! だ、れか! た、助け、んごぶっ!』 ――ジュル! グチュ! ジュルルッ! 赤く発光する物体はゲル状のゴムか溶けたゼリーのようであった。 そのゼリーが不気味に肉色の蔓をズルズル伸ばし男の顔を浸蝕して行く。 また、周期的に強弱をつけて発光しており、さながらゼリーそのものが脈打つ生き物のようでもあった。 『んぐ! い、や! めろぉっ! ぐ! ぶぐぐっ!』 ――ジュブ! ヌリュジュ! ギュブルルッ! 必死に頭部から引き剥がそうと掴む手に、ゼリー本体から肉色の蔓がまとわり抵抗する動きを封じていく。 頭部から下りた肉の蔓はわずかに見えていた口まで覆いかぶさり完全にゼリーで閉じてしまうと、 さらに首から下へ、後頭部から背中へ、ズルズル下がる肉の蔓が細い組織を互いに結ばれ網状に繋がると、男のカラダ全体を縛り付けた。 『ン゛ンン゛ーーーッ! ング! むぐぐぅーーーーっ!』 ――ドクン、 ドクン、ドクン…ドクッ! 荒い網状にカラダを締め付ける肉色の蔓が血管のようにドクドク脈を打ち、蔓の内側からボコボコ押し上げくびれては中身を循環させては徐々に太く、分厚く成長していく。 空いた隙間を埋めるよう赤い粘液が成長した蔓からジュルルと浸出し、カラダの全てを包もうとする。 すでにドロドロな肉色ゼリーしか見えない頭頂部からボコりと黒い球体が浮かび上がって来た。 黒曜石のようにツヤのある球体は顔から首を伝い胸に到達すると、ゼリーを押しのけ男のカラダの中にズブズブ沈み込むと、半分だけを体表に残して留まった。 『――使用言語抽出完了……脳内領域確保完了――』 耳から侵入してきたゼリーがヌチュルと鼓膜の奥へ潜り込み、男の脳から直接情報を取り込む。 全身が肉色の蔓から新たに出てきたゲル状の組織によって隙間なく覆い尽くされ、元の「男」だった部分が全く見えなくなった。 すると、 肉色の組織はビクビク痙攣したかと思うと胸の黒い半球から四肢に向かって放射状に太い筋が浮き上がり、男のカラダがボコボコと急激に膨張し始めた! 『ア゛―――ッ! グァァアア゛――――――ッ!!』 首が何倍にも太くなり肩へと続く僧帽筋が山のように高く盛り上がった。 両肩がメリメリと膨らみ、内部にヘルメットサイズのプロテクターを内蔵しているレベルにまで成長。 背中を見れば肉色の組織がグニャグニャと歪に蠢き、分厚い背筋として急速に厚みと面積を広げていく。 黒い半球が嵌め込まれた胸も、背に対抗するかのようにギチギチと組織を大きくさせ、男の顔よりも前に出るほど大胸筋を発達させた。 続く腹部も平らだったのがボコボコと六つに割れて膨らみ、太ももやふくらはぎも負けじとベキベキ音を響かせ肥大する。 今や男は全身を赤い筋肉に覆われ、マッチョな肉人形になったと言える。 そんな、肉人形の「なにも無い」股間から黒ずんだ角がズビュ! と飛び出した。 角はグムグムと成長し、膨張を重ね、包皮に太い血管がメリメリと浮き立つ巨大な肉の棒と化す。 仕上げとばかりに「ズルゥ!」と肉棒の先端から分厚い皮がめくれ、やや下のくびれた段差まで引き戻される。 それはペニス。チンポとも言う男の外性器。性的快楽をもたらす雄の交接器官である。 新たなペニスは男がこれまで持っていたモノとは比較にならないほど著しく大きい亀頭と、長く太い陰茎を呈している。 「馬並み」「第三の脚」、との比喩が「比喩」にならないほど巨大に。 頭部を覆う肉色の組織が男の新しい「顔」を作り出した。 真っ赤な髪を炎のように立たせ、野性味のある雄臭い「顔」だ。 ただ、見開かれた両眼はぼんやりと焦点が合っていない。 全身を覆い筋肉と化したゼリーが赤い肉色から人肌並みの褐色へと移り変わる。 そうして、全く新しい別人の姿に変身した男は無表情なまま『……融合完了』と小さく呟くと、ふわりと身を翻して公園の外へと去っていく。 去った男の姿が闇に融けて見えなくなると、寝静まる街にはいつもと変わらぬ夜の沈黙だけが漂っていた。 ◇ 「うっ! う~ん……、もう朝、か」 窓から差し込む朝日が眩しくて青年は目を細めた。 両腕を思いっきり上げて伸びをしてから大きなアクビを放つ。 枕元の置き時計は午前7時を示している。 ベッドから下りスマホを覗き込んだ青年はホーム画面の通知によりメッセージが届いていた事に気づき、受信されていた文章を読んだ。 『兄さん、バイトが長引いているのかな? 僕は明日提出しないといけない課題があるのでそろそろ帰ります。それじゃぁおやすみなさい』 「あ~、しまった! 光(ひかる)をかなり待たせちまったんだな。悪い事した」 頭をぼりぼり掻きながらここに居ないメッセージの発信者に謝っている青年の名は『星輪 昴(ほしわ すばる)』 昴へメッセージを送った発信者の名は『天野 光(あまの ひかる)』と言う。 光は昴の『弟』であった。 二人の苗字が異なっているのには理由があった。 昴が14歳の時だ。 母が昴の父と離婚し、昴を連れ光の父親と再婚。しかし、その生活も長くは続かず3年で破局を迎え再び離婚。 ほどなく昴の母と光の父親はそれぞれ別の配偶者と再再婚した。 だが、昴と光は共に大学受験を控えており「環境を変えたくない、遠方への引っ越しも転校も避けたい」と訴えたため新しい家族の元へは行かず、 高校の近くのアパートを借り、昴と光の二人で共同生活することになった。 そうして受験を済ませ、二人とも無事に希望する大学へと進学し、昴と光の共同生活も解消され別々のアパートにて一人暮らしを開始したのだ。 ただ、二人のアパートは歩いて10分の近距離であり、共同生活の名残からか互いに料理を作ったり 掃除や洗濯などの家事を助け合う習慣は続けていたのだった。 「せっかく来てくれたってのに光の料理を食べ損ねちまったぜ。に、しても……俺、いつの間に帰ったんだ? しかも、晩飯も食わずに寝ちまったのかよ? しかも、靴下も履いたままランパンも着替えてねぇし……う! やっぱ汗臭ぇ!」 腕や腋のニオイを嗅いで顔をしかめた昴。朝食の前にシャワーを浴び、さっぱりしようと思い立った。 昨夜の昴はネットカフェのバイトを済ませ、19時過ぎに帰宅した。 この2時間後、弟の光が食材持参で夕飯を作りに来る予定になっている。 昴は、それまでに日課のジョギングを済ませておこうと考え、ランニングウェアに着替えて部屋を出発した。 「あ~、でも昨夜は雲行きが怪しいからコースを変更したんだよな。いつもだったら公園の外周をぐるっと走るんだけど」 普段とはコースを変え公園の中を突っ切ってショートカットする事にした昴。 しかし、外周道路とは打って変わって公園の中は暗く、まばらな街灯を公園内の樹木が遮って自分の足元でさえ輪郭しか見えなかった。 あまりの暗さに後悔し来た道を戻ろうと振り返った。しかし、すでに出口がどの方向にあるのか分からず、軽い迷子状態に陥っていた。 「ええと、確かこっちから入って来た筈……って、あれ? こっちだっけか?」 左右も前後も覚束ない、樹々の形状もほぼ同じ。目印とすべき対象を見失うと、ただの公園でも迷路となるのだ。 「いや! 広場に出られればなんとか大丈夫だろう! 焦る必要は無い!」 よりいっそう周囲の様子を観察しながらゆっくりと歩みを進めた昴。 色づくにはまだ早いカエデの大木を抜け、地面から浮き出た太い根の凸凹に足を取られないように注意して前に出る。 「お? なんか光ってるな? 何だあれ……」 闇の地面に奇妙な物体を発見した。 単なる丸い石だろう、と。 しかし、目を凝らせば直径20cm程もあるクルミのような黒い外殻にいく筋かのひび割れがあり、その「ひび」の中から淡く赤い光が漏れている。 光る石だろうか? いや、石ではないのかも知れない。呼吸をしているのか微かに膨張と収縮を繰り返しているようだ。 なら、こいつは生き物なのか? しかし、赤く発光する生物などいるのだろうか? どこからか光を反射しているようでも無い。 ひびの内側から漏れ出ている光も強弱をつけドクン、ドクン、と脈打つように……。 「溶岩、てか火山が噴火した時の映像でこんなの見たっけ。だったら噴石か? でも、この辺に火山なんて聞いた事無ぇし、 もし噴火したんなら今頃大騒ぎになってるよな?」 昴は恐る恐る石のそばまで近づいた。 落ちていた小枝を拾って突っついてみる。しかし、石に変化は見られず息づくように光を漏らすだけだった。 次に、手をそばに寄せた。溶岩めいた熱気はまるで感じられない。やはり噴火に伴う噴出物では無さそうだ。 火傷の心配がないなら、と昴はその石に直接触れてみた。 バシュゥッ! ブジュルルッ! ―――『融合完了』 「えっ!?」 昨夜の行動を思い起こしながら衣服を脱ぎ、バスルームに向かっていた昴。 しかし、そこで記憶が途切れ、記憶の代わりに自分のモノでは無い誰か別のモノの声が頭に響いた。 『融合完了』 「ゆ、融合……完了?」 『融合完了。使用準備は全て整いました。コンバート(変換)を開始しますか?』 「じ、準備? コンバート?」 ビキビキッ! と背中が波打った。 カラダの奥から何かが浮かび、ゴボゴボ顔を出そうとしている感覚がして昴は思わずバスルームに飛び込んだ。 迷わず排水溝に向かって頭を低く下げる。しかし、胃の内容物は吐き出てこない。 どうやらそうでは無いようだ。 沸々と湧き起こる熱いえづきは胃や鳩尾よりも少し上から感じる。 「な、何だこれ? マジ、ヤバイんじゃね? お、俺、どうなってんだ? か、カラダが……変、だ」 内なる圧迫感がどんどん強くなる一方で、全身はむしろ悪寒ではなくエネルギーが満ちて行くような充実感を覚えていた。 悪くは無いものの今まで体験した事の無い奇妙な感覚に戸惑い、ふらつくカラダを支えようとしてバスルームの壁に手をついた。 置いた手の下には鏡があった。 その鏡に昴の胸が映っている。 ―メリ 胸の中央、鳩尾の少し上。のっぺりと平らかな胸の谷間が縦に裂けた。 ――メリリ、メリッ、ギリッ 「うわぁっ!? ど、どうなってる!?」 痛みは無い。裂け目から血も出ていない。 カラダの奥から芽吹いた「何か」が、胸の内側から飛び出ようとする圧力がさらに強くなった。 ――メリッ! ギチギチッ! ブチ! メ゛リ゛ィッ! 「うわわわ! ヤメっ! とま! 止まれぇっ!」 このままカラダが胸から裂けて死ぬのでは? 不安と恐怖でたまらずパニックになりかけた瞬間。 ――ヌブ! グブブッ! ズブウッ! 「うぐぉ!?」 裂け目から「何か」が顔を出す。 つややかに光を反射する10cm程の黒い石。 濡れたガラス玉のような半球が胸の真ん中に競り上がって来たのだ。 「うええ!? 何これ! 何だよこの黒いのは!?」 『コンバート開始しますか? コンバート開始しますか? コンバート開始しますか? コンバー……』 「ちょ! うるさいって! 俺の頭ん中で何回も言わなくていいから! それよりもコレっ! この胸の黒いヤツ、一体何なんだよ!」 『コンバート開始しますか? コンバート開始しますか? コンバート開始し……』 「んだぁあああーーーっ! もういい加減にしてくれ! 勝手にコンバートでも何でも開始すりゃいいじゃんか! それよりも静かに! ちょっと黙っててくれ!」 『了解。コンバート開始。ファーストフェーズを展開します』 昴のカラダがボコ! と膨らんだ。