淫欲流星コンバーター 4
Added 2019-09-11 13:00:48 +0000 UTC4恋のトライアングル 『ノーマルフェーズ』昴のカラダがマッチョボディから元の痩せ形へと戻る。 胸に押し出ていた黒い半球体も皮膚の内側へ埋没した。 肥大した筋肉は小さくなり顔も「星輪 昴」へ、髪も黒いショートへと戻る。 見た目上は完全に「いつも通り」になっていたが、生殖機能拡張有機コンバーター・『ゼクスパー』、との 分離は行われていない。 その証拠の一つに昴の問い掛けに対し脳内で返答がある事だろう。 「お前は一体何なんだ?」 『生殖機能拡張有機コンバ――』 「ああ、待て待て、質問を変える。どこの何者なんだ?」 『ゼクスパーは◯◯◯社の製品です。お問い合わせは◯◯◯星本社へお願い致します』 昴には聞き取れない言語、発音が含まれていた。 「分離が不可能、だっけ? いつまでダメなんだ?」 『不具合の回復見込みはありません。故に、分離は不可能としか判断できません』 「じゃぁ、俺、ずっとこんなに悶々としてなくちゃなんねぇの? ノーマルフェーズってのでもやけにムラムラしちゃってるんですがね?」 『ファーストフェーズ、セカンドフェーズ、そしてサードフェーズにコンバートし、生殖活動を行うことによって性欲の亢進状態は平常値に戻ります。 これより再びコンバートを開始しますか?』 「うわわ! ちょ! 開始しない! しないからな!」 すでに一時間目の講義には間に合わない時刻だった。 せめて二時間目に間に合うよう準備したい所なのに、再びオナニーしなくてはならない状況を招くような事は避けなくてはならない。 昴は脳内への問答を中止し、まずは「日常」や「平常心」を取り戻すべく朝食を摂った。 二時間目の講義は「休講」となっていた。 性欲を頑張ってなだめ、急いで準備し登校しただけに、掲示板の貼り紙を見た昴はがっくりと肩を下げた。 「き、休講だったのかよぉ~」 「よぉ! 本日は遅めのご登校でありますか? 星輪様は」 「なんなんだ? もったいつけた言い方しやがってよぉ」 後ろから昴に声を掛けてきたのは高校の頃からの友人である「一色 高丸(いっしき たかまる)」と言う男である。 「あーん? そんな反抗的な口聞いちゃっていいのかな~? 一時間目の課題レポートの内容、教えて欲しくないのかなぁ?」 「あっ! すんませんしたっ! 一色様! 高丸さま! 哀れな遅刻野郎にお恵みをお与え下さいっ!」 「……ぶふっ!」 「ぶはっ! はははは!」 掲示板の前で大笑いする二人を別の学生たちが奇異の目を向けて通り過ぎる。 「あっはっは! あー、バカバカしい! と、取りあえずカフェにでも入ろうぜ!」 「うわははは! そ、そうだな! そうしよう! あー、笑い過ぎて腹痛ぇ~」 大学内のカフェに入り席に座ると、早速二人の女子大生が一色の隣にやって来た。 「ねぇねぇ! 一色くん! 今度G大との試合に出るんだって? 頑張ってね! 応援してるから!」 「あ、あたしも応援してるから、その、気を付けて頑張ってね、じゃ、じゃぁ……」 女子大生が一色から離れて行く。 「……相変わらずモテますな。一色くんは」 「よせよ」 「つうかさ、少しくらい相手してやれよ。顔も向けない返事もしないなんて失礼過ぎじゃね?」 「大きなお世話だ」 「そうかぁ?」 「おう。そうだ。俺が野球をやってなきゃぜってぇ近寄って来ないような連中に気遣いなんて不要だろ?」 「こじらせてんなぁ……」 「悪いか?」 「いや、悪かねぇけど。お前がそれで良しとしてんだったら」 「あんなのどうだっていいさ。俺はお前と話す時間の方が大切なのさ」 「何言ってんだ。俺なんかに調子いい事言ったって何も出ねぇぞ?」 「分かってるさ。3年前からお前の事を見続けてるんだからな。そんぐらい分かってる……」 「お、おう……だったら、別にいいんだけど。それよか――」 「課題レポートの件だろ? ほら、これが一時間目の講義内容だ。ノートごと貸してやるからコピーして来いよ」 「悪ぃ。ありがとうな」 「ほんと……悪い男だぜ。俺の気持ちにちっとも気づきやしないんだから……」 「ん? 何か言ったか?」 受け取ったノートのページをめくり、中身を確かめていた昴に高丸の声は届いていなかった。 「いや、何でもねぇよ。ほら、ここで待っててやるから早くコピーを済ませちまえ」 「じゃぁ、ちょっと行ってくる! マジでサンキューな!」 飲みかけのアイスコーヒーを置いたまま昴はカフェから出て行った。 残された高丸は静かに愚痴をこぼした。 「大学にまで追っかけて来たのに、ちっとも気付いちゃいねぇ。もう直接言わなきゃダメなのかねぇ? やっぱ、ノンケを好きになるってハードル高ぇよなぁ……」 長いテーブルに肘をついて昴の出て行った扉をぼんやりと眺める高丸の前に、さわやかな笑顔を向けて座る人物が居た。 「どうも、こんにちわ」 「うん? ああ、天野か」 高丸に声を掛けてきたのは昴の「弟」である「天野 光」だった。 「はい。今日の講義は午後からなんですけど、図書館で調べモノをしようと思って早めに来たんです」 「真面目だなぁ。天野は。兄貴と違ってさ」 「そう言えば兄さんと一緒じゃないんですか? 今日だったら午前中は兄さんと同じ講義を取っているんでしたよね?」 「まぁな。2時間目が休講になったんで取りあえずカフェで茶でも飲もうか、ってここへ来た。 ただ、昴の奴は1時間目遅刻して間に合わなかったんで、丁度今、俺のノートをコピーしに出てったところだ。天野とは入れ違いになっちまったな」 「えっ? 遅刻してたんですか?」 「ああ」 「昨夜も遅かったみたいだし、そのせいかな……」 「そうだったのか?」 「はい。僕が夕飯を作りに行った時にもまだ帰宅していませんでしたから。1時間ほど待ってたんですけど、 今日中に提出する課題が残っていたので引き上げたんです」 「……相変わらず仲が良いんだな。お前ら」 「高丸さんと兄さんだって仲が良いじゃありませんか」 「ま、そりゃぁ、そうだけど」 「……もしかして、兄さんにとうとう好きな人ができたんじゃないか、って思ったりしたんですけど…… 「はぁ?」 「でも、僕の思い過ごしみたいで安心しました。高丸さんはこれからもずっと兄さんの『良き友人』のままでいて下さいね」 高丸はハッと顔を上げ光の顔を見つめた。 薄い微笑みを湛えた光は手元のカップを持ち上げ、自身が運んできたミルクティーをひと口、ゆっくりと飲み込む。 「…………知っているのか?」 「え? 何を、です?」 「いや、何でもねぇ……」 言葉を濁した高丸だったが、確実に恋のハードルが一つ増えたのだと思った。 「それじゃぁ僕、図書館に戻りますので、失礼します」 「あ? ああ、じゃぁな」 いつもより雑な返事を光にしたのは、光が高丸にとって恋のライバルだと認めたからだろうか? 或いは、光が高丸に対して初めて挑戦的な雰囲気を放ったためだろうか? 「――それにしても、昴のやつどこまでコピーしに行ってんだ?」 腕の時計を見て「遅ぇな」と呟く。 カフェの近くでコピーすれば5分とかからない筈。 よほど混雑しているのか、あるいは故障でもしていたのか。 この時、当の昴は「友人」と「弟」、二人の間に火花が散っていた事など知る由も無かった。