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鷹取リュウゴ
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粘土男の性事情  11粘土男と特別な後日談

 「ここが慰昆堂だ」 俺はトキオと翔を伴い、あの雑貨店にやってきた。 二度目の訪問以降、店の場所をはっきりと記憶していられたので、二人にも不思議な雑貨店をこうして紹介できる。 「堅人が粘土のカラダになれるアイテムを手に入れた店がここ、なんだな」 「別に胡散臭い雰囲気とか無いんすね。堅さんから聞いた時よりも明るい感じっす」 正月飾りの掛けられたドアや「謹賀新年」と毛筆で書かれた張り紙を見ている限りは特に怪しさは感じられない。 「うん?」 よく見ると張り紙の文字が一字違っている事に気付いた。 慰昆堂の「昆」が「魂」となっている。音が一緒だから間違えたか、あるいは単なるダジャレだろう。 敢えてオーナーに指摘するほどでも無いな、と見なかったことにした。 「いらっしゃいませ。――やぁ、貴方ですか! 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いしますね」 「こんにちわ。明けましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします」 ドアを開けて暖かい店内に入ると他に何人ものお客さんが居た。ざっと見たところ男性客だけのようだ。 カウンターの中には柔和に微笑むオーナーが、そして、オーナーのすぐ前のカウンター席にはひと際大柄で逞しい男がこちらに背を向けて座っていた。 「そちらのお二人は……?」 オーナーが俺のすぐ後にトキオと翔が居ることに気付いた。 「ああ。こいつらは俺の、例の……」肉体関係のある親友と、肉体関係のある恋人、と言いたい所だが他のお客さんが居るので言い淀む。 「先日お話にあったお仲間の方たち、ですね? お連れ下さってありがとうございます。 皆さん、暖かいコーヒーはいかがですか?」 元日を避けたと言うのに初詣先の神社は人出がまだまだ多すぎて、飲み物を口にする事すらできず逃げるようにして神社を離れた。 なので俺もトキオも翔も、ずいぶんとのどが乾いていた。 俺たちがカウンターに近づくと先に座っていた大柄な男が席を譲ってくれた。 ちらっと見ただけでも首とか腕とかめちゃくちゃ太い。俺が変身できる五所川原や義章山でさえこれ程じゃぁ無い気がする。 まだまだ凄ぇ肉体の持ち主っているもんだな、とひとしきり感心してしまう。 「じゃぁ雲居さん。先に部屋に戻ってますんで、また後で」 「ええ。後ほど」と応じてうなずくオーナー。 「オーナーって、お名前は雲居さん? 今の会話が耳に入ってしまったので」 ドアを開けて表に出て行く男を振り返りながらオーナーに確かめて見た。 「そうです。人としては雲居、と名乗っています。ちょっとしたシャレみたいな名前でしょう?」 オーナーの正体は人間ではなく無く、実は「蜘蛛男」なのだ。故に「雲居」と言う名前を使っているんだろう。 シャレと言えばシャレな気もする。 トキオや翔にはオーナーの正体について何も話していない。 話さない理由は特には無いのだが、オーナーが人間だろうがなかろうが「どっちだって良い」って言うのが本音だからだろう。 三人がカウンター席に腰を下ろすとすぐに銀色の蜘蛛の巣がデザインされた黒いマグカップでカフェオレを出してくれた。 「お砂糖はいりますか?」 「俺は無しで大丈夫です。トキオと翔は?」 二人ともいらないです、と答える。 ひと口飲めばほのかなミルクの甘味とコクのあるコーヒーの風味がとてもバランス良く、渇いてざらついた咽喉を優しくリカバリーしてくれる。 トキオも翔も「こんなに美味いカフェオレは初めてだ!」と目を輝かせていた。 「お口に合ったようで何よりです」 咽喉がうるおったので俺は先日の慰昆堂訪問後の状況をオーナーに話した。 「一時はどうなるかと思いましたけど、お陰様で自分を失わずにすみました」  二度目に来店した際、俺はオーナーから30体分もの英雄やら魔獣やらの精液を凝縮した結晶を与えられた。 俺の粘土ボディはたちまち結晶を取り込み、一気に30体分をコピーしてしまい自我を失いかけたのだが、 ドンピシャのタイミングでオーナーが淹れたコーヒーの香りをきっかけにして自我を手繰り寄せ、無事意識を取り戻すことができた。 「自力で乗り越えられる精神力をお持ちでいらっしゃるのに、目覚めのコーヒーなんて、余計なお世話だったかも知れませんね」 オーナーは謙遜しているが実際は全く違う。嗅覚による記憶の喚起だ。オーナーの適切なフォローが無ければ俺は異形の肉塊のままで、自我なんてとうに失せていたはずだ。 「しかし、こうしてまたご来店頂けて嬉しいですねぇ。酷い目に遭わされた、とお思いになってるとばかり」 「勿論、そう言う風にも思ってます」 「それでも、また当店にお見えになられた。それはどうしてですか?」 この蜘蛛男のオーナーは相当長い間人間を見続け、そして理解を深めて行ったはずだ。しかし、未だに理解し切れていない部分があるようだ。 「試練を乗り越えた先にあった大きな獲物。そいつを実感したらオーナーには感謝しかありませんよ」 ミノタウロスやサイクロップス、リザードマンのようなヒト型の魔人。 キマイラ、ケルベロス、ヒュドラなんかの全く人らしさなんて微塵も無い魔獣。 そしてダークエルフとか、インキュバス、みたいな魔族。悪属性と言うか闇属性っぽい者がおよそ半分。 残りの半分は善属性、光属性っぽい者たちで、ペルセウスやアキレウスみたいなギリシアの英雄だとか、 ジークフリート、クー・フー・リン、サムソンに坂田金時にも変身可能。 イフリートやシヴァ、アポロンと言った精霊とか神々の姿まで含まれている。 「ですが、コピーできるのはカタチのみで、能力などはほとんど得られなかったでしょう?」 雲居オーナーの言う通りで、ミノタウロスやサムソンになっても怪力は使えず、ヒュドラになっても毒は出ず、 イフリートやシヴァになっても炎は使え無かった。 一つ目鬼の力でオーナーの正体を透視できたのもあの時だけ。今では単に視力がアップする程度だ。 「……それでも、魔人や英雄たちの性欲、超人や魔獣の精力の強さ、巨大さは俺に勇気って言うか行動する元気を与えてくれました。 今の俺はとても気分が充実しているんです。常識を打ち破るとか現状を打破するとか、それすらも些細な事じゃないかと思える程に」 いつの間にかトキオと翔の二人は席を離れて店の商品を珍しそうに眺めていた。 俺とオーナーとの会話を邪魔しないよう気を利かせてくれたんだろう。 「表情からも窺えますね。目に力がこもってます。イキイキとされていて初めてご来店頂いた時とは別人のようです」 「こうすれば本当に別人、ですよ」 グニュッ、ニュニュッと、顔を変形させて円卓の騎士の一人、「ランスロット」にしてみせた。 「おお、まさしく別人ですね。グィネビア妃でなくとも惚れてしまいそうな色男ぶりです」 すぐ元に戻していつもの俺の顔にした。 「私としては今のお客様のお顔も、とても素敵だな、と受け止めております」 「オーナー、それ、本気で言ってるんですか?」 「本気です。そう言えば、お客様のお名前をまだ伺っていませんでした。 今更ですけれどお名前、頂戴してもよろしいですか?」 「黒野です。 黒野 堅人」 「ありがとうございます。では、黒野さん……」 雲居オーナーの目がギラリと光った、――ような気がした。それにしても良くできた「皮」だ。 中に蜘蛛男の顔を隠しているなんて、改めて見つめても全く分からない。 質感も表情の動きも本物の人間としか思えない。 「うう、そんなに見つめられたら、口に出すのが恥ずかしくなるじゃありませんか……」 「へっ? あ、ああ~、失礼しました……、つい……。で、何を言いかけてたんですか?」 「ん、もう。しょうがないですねぇ。では、気を取り直してもう一度言いますけど」 「はい」 「黒野さんの今のお顔、とても素敵です。なので、私と気持ちイイ事、しませんか?」 純情な少年みたく頬を染めて照れる雲居オーナー。これが上辺だけの「作りモノの」表情だとしたら、それこそ人間を食い物にする魔性の存在と言っても過言では無い。 それほど、迫真、と言うか純粋に、ただ単に、裏表なく腹に一物無く、照れているようにしか見えない。 「喜んで! あ、でも、トキオや翔の二人は……」 「仲間はずれは良くありませんね。お二方もご一緒にどうでしょう? もちろんこのマスクは外さず人間として お相手しますので」 正体をバラシて驚かせまいとするオーナーの気遣いだ。 「その方がアイツらにとっても良いと思います。あ、でも、トキオのチンポは俺みたいな粘土ボディでないと受け入れるのは不可能な大きさですよ? アイツのは慣らすとか拡げるとかで対応できるサイズを遥かに超えていますんで」 「大丈夫ですよ。黒野さんとは違う意味で私もカラダはセックスに都合よくできた構造になっていますので、 アナルくらい自力で何とでもできます」 さすが蜘蛛男。年齢不詳もさることながら肉体も普通じゃなさそうだ。 「あ、もう一つ思い出した」 「どうされました?」 「雲居さん、さっきお店から出て行った方とお約束があるんじゃ……」 「鋭いですねぇ。覚えてらしたんですか。いやぁ~、後ほどサプライズで紹介しようと思ってたんですけど、先にバレてしまいましたね」 「と言う事は?」 「彼にも参加してもらうつもりだったんです。もちろん了解はすでに得ています。なので、後は黒野さんたちだけOKであれば問題無い訳でして」 『彼』と口にした時のオーナーの表情から判断して、間違いなくオーナーの本命の人なんだろう。 すれ違いざまにちら見しただけの印象だが、マッチョな体格だけでなくとても男ぶりのよいイケメンだった事は覚えている。 雲居オーナーはカウンターの奥から出て店のドアを開け、道路に出していた小さい看板を店内に引っ込めた。 「本日の営業は夕方16時迄でして、今が丁度16時なんです」 そう言えばさっきまで店内に大勢いたお客が今は全然いない。いつの間に帰ってしまったのだろう。 トキオと翔の二人はさっきからエロい男がポーズを取っている新年のカレンダーを見てはじっくりと「品定め」に興じている。 「あれ? もうお店の営業は終わりっすか? 面白い商品が多いから時間忘れて見てしまってました!」 トキオが雲居オーナーに声を掛けた。 「申し訳ありません。五日までは短縮営業にさせてもらってまして」 「じゃぁ、俺らも帰るとするか。しかし、このファイアファイターカレンダー、良いですね~。渋くてカッコイイ肉体ばかりで」 「そちらの消防士カレンダーは私も毎年、新作を入手するのが楽しみなんですよ。モデルになっている消防士の質が高いでしょう? 今年のモノは昨年以上にハイレベルだと私も思います。お買い上げになられますか?」 うん? 普通に販売もしているんだ? 「うーん、そうですねぇ~。せっかくだし頂くとしようかな。お幾らですか?」 「2300円になります」 あ、普通に売るんだ。しかも、ぼったくりでも無いし激安でも無い。妥当な値段だ。 「じゃぁ俺もこっちの、ホットガイズカレンダーを買っちゃおうかな? チンコが丸見えってのが海外らしくって最高にインパクトあるし、ポーズがまたセクスィ~っす!」 「そのカレンダー、今回仕入れたカレンダーの中のイチオシです。毎月ご立派なペニスを拝めるなんて贅沢じゃありませんか。 お値段は2000円丁度になります」 トキオも翔も財布を尻のポケットから取り出してお金を用意しようとしていた。 「――ただ」 雲居オーナーは俺の方をチラリと見てから二人にこう言ったのだ。 「黒野さんとはこの後、セックスを楽しむお約束をしましたので、お二方も一緒にいらっしゃいませんか?  いらっしゃっていただけたら、そのカレンダーはどちらも無料で差し上げます」 「は!? オーナーさんと堅人が? いつのまにそんな流れになってたんだよ、おいぃ!?」 「マジっすか? 堅さん、あの、俺らも混ざって、って事?」 視線がオーナーから俺んトコに来た。来ちまったもんは仕方がない。 「あ~、マジもマジ。オーナーさんと、特別にオーナーの彼氏さんも参加するらしい。なので、トキオと翔も混ざらないか? それとも、乱交は嫌か?」 「ヤじゃないっすよ! 一度そう言うのやってみたかった!」トキオが鼻息荒く前のめりで答えた。 「複数か。ちょっと学生時代を思い出しちまったぜ。まぁ、あん時ゃ20対1って感じでひたすら掘られっぱなしだったがな。 それにしても……、そっかぁ~。オーナーさんもイける口だったんですね? もしかして、堅人を粘土ボディにさせたのも、こんな風に後で誘うためだったとか?」 雲居オーナーは首を左右に振って否定した。 「いえいえ! そんな! 先を見越して黒野さんにあのアイテムをお渡ししたつもりは無いんですよ。 実際にお使いになるかどうかも分かりませんし。 ただ、このように雄の良い匂いを振りまいている黒野さんに間近で応対していましたら、ムラムラとしてしまったのです」 「お、それ、俺も同感です。堅人の奴、めっちゃエロい匂いさせてるでしょう?」 「実は黒野さんに初めて会った時に俺も気付いてたっす。これがフェロモンってやつなのかな? って」 「は? 俺のフェロモンの匂い? て事は、こんな流れになったのって俺が原因? ま、まさかぁ~?」 「その『まさか』、ですよ? 黒野さん。顔も素敵ですけど、まずは匂いにガツンとやられてしまいました」 ぐいっと迫りくる蜘蛛男。うう、色っぽいのはどっちだよ! そんなもの欲しそうな顔しやがって! 「……俺、実はさっきの初詣ん時に、堅さんがあんまりモテませんように、ってお祈りしたんすけど、全然効果が 無かったんすねぇ」 そりゃ、あそこの神様のご利益って「縁結び」メインなんだから、そんな祈りを聞く訳無いだろ。 「だが、待て、トキオ。このオーナーさん、どうやら服の下は凄そうだぞ? 着やせするタイプだと見た。 堅人無しでもお相手してもらいたい系に入るんじゃね?」 じゅるりと舌なめずりをしかねない翔のゆるみ顔。 「そう言えば、……そうっすね。オーナーさん、かなり、美味しそう……」 トキオも! 俺とセックスしたら自信を取り戻した、までは良いけど、なんだその煽る様な視線は!  女とガチセックスできねぇって嘆いてたあの日のトキオとは完全に別人じゃないか! 「オーナーさん。俺のちんぽ、超デカいんすけど、デカマラは好きっすか?」 「サイズにはあまりこだわりは無いんですけど、大きいほうがやっぱり好ましく思いますよ」 「やった! 俺、堅さん以外のアナルも味わってみたかったんす! 翔さんはまるでダメだったので……」 「ったりめーだ! お前のそのサイズは規格外だっての! オーナーさんも気を付けて下さい。コイツの、トキオのイチモツはですね、勃起したら80cm以上の超巨大モンスターペニスになっちまいますから」 「素晴らしい! 最高ですねぇ~! それほどのモンスターペニスだとお聞きしたら、是が非でも味わってみたくなりました! しかし、あなたのチンポにも興味があるんです。サイズはともかく私の良いトコロにジャストフィットしそうな 気がして」 「そ、そうかなぁ……それほどでも……。 まぁ、そこまで言われたなら応じない訳にはいかないですね!  ありがとうございます! オーナーの気持ちいい所、精一杯責めまくって差し上げますよ!」 「責められるのも相当お好きなんでしょう? お尻がとってもイヤラシイ形をされてますし」 「うわ! すっかりお見通しってヤツ? オーナーさん、さすがですね。そうなんです。アナルを掘られるのも大好きなんです」 「て言うか、翔さんて指だけでもイっちゃうんすよ! マジ淫乱なケツしてんすわ~!」 あー! もう~! 何だ? 何なんだこの会話は! 結局俺のフェロモンとか関係無くなってんじゃん! お前ら単にオーナーとのセックスに興味ビンビンになって勃ててるだけじゃん! 「ああ! もう! 俺をのけ者にしてなに盛り上がってるんですか! 雲居さん! さっさと部屋に行きましょう! ほら! トキオと翔も!」 いつまでも言葉で挑発し合ったって埒が明かないっての!


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