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鷹取リュウゴ
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淫交洞窟5

5狼狽    探検部・部長、枕崎俊介が部費の管理を任せている副部長の出水隼人と駅前のファミレスにて食事を摂りながら 談笑している。 「ようやくあの二人も探検部員らしくなって来たようだな」 枕崎が食後のアイスコーヒーを口にしながら向かい側の席に座る出水に話しかけた。 あの二人とは、敢えて名前を出さずとも出水に通じていた。 「ですね。いつまでも他人任せっつうか、他力本願的でしたからねぇ。行程に遅れが出る時は決まってあの二人のどっちかが原因になっていましたし」 「体力づくりを日頃からきちんとやっていないのもバレバレだったな」 枕崎も出水もきつい探検に耐えうるよう空き時間を利用して筋トレや有酸素運動をマメに行っている。 「指宿みたいに、とは言わないがせめて自分の荷物くらい最後まで担げるレベルの体力は養っていて欲しいもんです」 長い距離を歩く場合、根を上げた鹿屋や阿久根の荷物は主に指宿が運ぶことが多かった。 「重い飲料水やバッテリー類を持ってもらって、それからさらに別の奴が持つべき荷物を背負うなんて、部長の俺だって目が回るだろうな。 その点、指宿には頭が上がらねぇ」 「自分も無理です。頭どころか立ち上がる事すらできないでしょう」 そう言うと、出水は卓上のタッチパネルを操作しドリンクのお代わりを枕崎の分と合わせて注文した。 「ところで、担当や指示は伝えてくれたか?」 枕崎が出水に尋ねた。 「昨日の夜にラインで送っておきました。いつも通り先頭は部長、最後尾が俺、マッパーは霧島です。食料品は鹿屋と阿久根、 飲料水は、また負担を掛けさせて心苦しいんですが指宿が担当です。ただし、いつもとは異なり他の者と1時間ごとに交替するように言ってあります」 「一年たちにも水の運搬のキツさを体感しておいてもらわないといけないな」 「ええ。とは言え二泊三日でしたら20リットルで足りるでしょう」 新しく運ばれたアイスコーヒーを掻き混ぜながら出水副部長が不意に顔を曇らせた。 「枕崎さん、いえ、部長としてでは無く俺のダチの枕崎俊介として聞いて欲しいんだが……」 「どうした? 暗い顔になって」 「部内の揉め事、かどうかはまだ未確定なんだが、昨夜ラインを送った一人から妙な返事が返って来ちまってな」 「まさか、退部したいって申し出があったとか?」 枕崎が思わず腰を軽く浮かした。 昨年入部した一年生は霧島や志布志や姶良の他に4人居たのだが、探検活動のキツさやサバイバルな行程に耐えきれず四人とも秋を迎える前に退部していた。 そして、大学から部として認められるには最低六人が必要なため、あと二人以上退部されると部として存在できなくなるのだ。 「いや、そうじゃない。そう言うのじゃなくて、もっとこう、分かりにくいっつうか、何て言うか……」 「どうしたんだ? やけに煮え切らないな」 「そりゃぁ、そうさ。俺だって真意を測りかねてんだし――。 先に言っとくと妙な返事を寄越した一人ってのは指宿だ」 出水副部長は言葉を選びながら指宿とのやり取りを枕崎部長に告げた。 「鹿屋と阿久根がおかしい?」 枕崎が眉間を寄せた。 「要約するとそうなんだ。あの指宿がそんな発言するなんて奇妙過ぎるだろ? 二人に対する今までの不満が爆発したのか、って思ったんだが、どうも違うらしい」 「違うのか? 普通に考えりゃそれくらいしか指宿からは出てきそうにないんだが」 出水は首を横に振った。 「違うんだ。俺もラインでのやり取りでは埒が明かないと思ったからすぐに電話に切り替えて話を聞いたんだ。 すると、……いや、指宿はボケたり冗談を言うタイプじゃないからこそ余計に信じられなかったんだが――」 出水が上半身を傾け枕崎の方に顔を寄せた。 枕崎もまた周囲を軽く見渡し、出水の元へ耳を近づけた。 「阿久根や鹿屋の二人は人間じゃない、と言い出した」 枕崎の目が丸くなった。 「は?」 「俺も『は?』って指宿に呟いたさ。でもな、指宿の奴、トコトン冷静でさ――」  『出水さん……俺の頭がおかしくなっているのかどうかは、今は詮索しないで下さい。ただ、つい今しがた見てしまった 事を話しますので、少しだけ頭の中に入れておいて欲しいんです』 低く重たい声で指宿は学内ジムのシャワールームで目の当たりにした鹿屋と阿久根の姿を説明した。 ただ、説明の中から二人が男同士で卑猥な行為を行っていたようだった、との推測は省いてあった。 『二人ともマッチョになっていた?』 『そうです。俺以上に筋肉質なカラダに。そして、次の瞬間には元の体形に戻っていたんです』 『あり得ない』 『俺もあり得ないと、その時は思いました。夢でも見たのか、と』 『でも、指宿は別に寝てなんかいない、と?』 『その通りです。寝ぼけてなどいませんし幻覚でもありません。誓って副部長をかつごうとしているつもりはありません』 『正直に言おうか? 今の話、俺はやはり信じられない。だが、お前が嘘やでまかせを言う奴だなんて思っちゃいない』 『ありがとうございます。副部長』 『この話、誰か他にも話したのか?』 『いいえ。まだ誰にも。きっと誰も信じないでしょうし……』 『その点は否定しない。だが、いずれにせよ指宿が火種になる必要は無い。枕崎部長には俺から伝えても大丈夫か?』 『構いません』 『まぁ、あんまりこればかり考えてても仕方ないと思うぞ? それよりも、もっと楽しい事に目を向けて行こうぜ。 例えば、そうだなぁ、指宿は彼女が居るんだろう? 洞窟に行く前にデートで発散して来たらどうだ?』 『そんな……。性欲が溜まってるみたいな言い方は止して下さい』 『おっと、悪かった。ともかく、あまり思い詰めないようにしてくれれば良い』 『……了解です』  「――と言う感じで話は終わったんだが」 声を潜める出水に対し、枕崎の反応は大きかった。 「結局、指宿はもやもやしたまんまじゃないか。そんな事は本人に聞けば一発で分かるだろ?」 「俊介よぉ……。おま、直で聞けんの? 鹿屋と阿久根に向かって『お前らって人間じゃないの?』とかさぁ」 「いや、そう言う聞き方じゃ無く『ムキムキに変身できるのか?』って聞けばいいんじゃないか?」 「意味は一緒じゃんか」 「そうかぁ? 随分と違った印象になると思うがなぁ」 「ともかく、だ。指宿が阿久根と鹿屋に今まで以上に良くない感情を持っている事は確かなんだ。その理由が何であれ、何らかの手を打たないと指宿の奴、退部しかねないんじゃないか?」 「そいつは困る! 俺らの後、部長を任せられそうなのは指宿しかいないのに!」 「だろう? 他の部員の前じゃ言わねぇけど、ぶっちゃけ指宿しか部長候補はいないじゃん? 副部長にしても 阿久根や鹿屋だと不安だって、前々からお前と話し合ってたくらいな訳で」 「年が明けてから先輩としての自覚が芽生えてきた、と喜んだとは言え、まだまだ様子見ってのが鹿屋たち二人への評価だしなぁ」 枕崎は頬杖を突き視線を宙に漂わせた。 「しばらくは指宿も自制してくれる、と思う。その間にできるだけの手を打ってやろうぜ。俊介」 「おう。取りあえずこの話は俺が預かる。阿久根と鹿屋はそれとなく見ておくから指宿の方は隼人が――」 「任せてくれ。俺一人じゃ気が重かったが、俊介に、いや、枕崎部長に聞いてもらえて良かったぜ」 「まぁ、これでも一応部長、だしな」 複雑ながらも少しすっきりとした笑顔を交わした部長と副部長の二人は、3杯目になるお代わりのアイスコーヒーをタッチパネルから注文した。 ◇  枕崎部長と出水副部長がファミレスで話し合ったさらに二日後、二人を驚かせる知らせが飛び込んできた。 「マジで!? マジで加治木が探検部に入部するって?」 「マジもマジ、です。取りあえず仮入部扱いにしてありますが……」 枕崎が驚くのも無理はない。 ボディビルディング部で2年生ながら上級生を飛び込える大会成績を残す花形選手の一人である加治木が、突然 探検部に入部する、との話を聞かされたからだ。 「初めに聞いた時はまさか、と思いましたが、どうやら本当みたいで……」 「しかしな、ボディビルディング部が黙っちゃいないだろ。こっちが無理矢理引き抜いたみたいに思われちまう」 「それがですね、不思議な事にボディビルディング部はこの状況を良しとしてるんですよ。俺はそこが引っかかるんですけどね」 「もう一度聞くが、ドッキリじゃ無ぇよな?」 「それは無いです。もう入部届けはもらっていますし」 「正直、部員が増えるのはありがたいが、揉め事まで増えるんなら勘弁だぜ。俺の代で探検部が崩壊などまっぴらごめんだからな」 「それは俺もです。一度、部長からも加治木の真意を確かめてみて下さい」 「ああ。そうする。それと指宿の件なんだが――」 「部長。一つ言い忘れてました」 「なんだよ、おい」 「今回、加治木をウチへ招いたのは指宿ですよ」 「何!?」 「指宿と加治木はダチだったようです。最初は加治木が指宿をボディビルディング部に誘ってたみたいなんですが、 逆に指宿が加治木にウチへこないかと誘ったらあっさり、だったとか」 「ボディビルの大会前って言う大事な時期にダチに誘われたからって転部なんてほいほいできるもんか?」 「俺だったらできませんけど」 「だろ? なんか引っかかるよなぁ~」


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