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鷹取リュウゴ
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リンクディルドの可能性 4

4疑わしき男  「いやぁ~。お客様。そんなご立派なお体をされていらしたんですねぇ」 俺を見るなりイケメンセールスマンの「阿倍野 晴明」はうっとりと微笑んだ。 「そうでしょう?」とつられて笑いかけた顔をギュッと引き締め直して眉を寄せた。 「笑い事じゃないんですよ! 昨日置いて行った『リンクディルド』が盗まれちまったんです!」 「失礼しました。確かに笑い事じゃありませんね。非常にマズイ状況です」 「そうなんです! リンクモードを切っていなかったから一晩中イかされまくっちまうし!  と、ともかく! 不意に勃起するのも、射精させられんのもマジ困るんですよ!」 朝イチで名刺にある連絡先に電話を入れ、阿倍野氏に事情を話すとすぐに「お宅へ伺います」と応じてくれた。 そうしてやって来た阿倍野氏に改めて詳しい状況を伝えた。 『リンクディルド』が盗まれた事。 リンクモードを解除していなかったため自分の意志とは関係なく何度も何度も射精させられる羽目に遭った事。 最後に、カラダがいきなりメガマッチョになった事。 「まず一つ。問題となるのはリンクモードのまま犯人が『リンクディルド』を燃やしてしまうとか真っ二つに折ってしまう、などの破壊を行った場合です」 「ど、どうなるんです?」 阿倍野氏は笑みを引っ込め代わりにマジ顔を俺に向ける。咽喉が思わずゴクリと動く。 「昨日もお引き渡し時に申しましたが、痛みは自動的に制限されリンク中のお客様には届かない様な仕様となっておりますが、それも限度があるのです。 破損を伴いかねない強い衝撃や、火で焼くなど極端に乱暴に扱った場合については制限しきれずお客様へと伝わってしまいます。 その時受け取る痛みは、それはもう尋常じゃありません。いわゆる金的を受けた時のような、あるいはそれ以上の激痛になるかも知れません。 「ひええっ!」 「そしてですね、そのように尋常じゃない激しい痛みを感じてしまった場合、勃起不全や精液量の減少など後遺症が残ってしまうおそれがあるのです。 最悪の場合、二度と使い物にならなくなる恐れもあるのです」 「だ、ダメじゃん! まだ一度もちゃんとセックスしてねぇのに! 俺、まだリアルでの経験は一回も無いのに! 絶対取り戻さねぇと! それもすぐに!」 男としての機能が失われちまうなんて絶対に回避しないと! 「えぇ、えぇ。おっしゃる通りです。手を拱いている間に犯人が『リンクディルド』をゴミとして表に出し、そのままゴミ収集車の中で粉々に砕かれようものなら、 その時点でお客様のペニスも粉砕されたも同然となるのです」 ザーッと頭から血の気が引く音がした。 犯人が飽きて捨てる日が今日なのか、明日なのか。いずれにせよじっくり探す時間などないようだ。 「だけど、探すったってどうすりゃいいんだ~!」 「犯人は近くにいますね」 「へっ? 近くに?」なんでそんな事が分かる? 「『リンクディルド』の有効範囲は10mほどなんです。つまりこのアパートの建物くらいで限界となります。 それ以上遠ざかるとリンクが切れてしまいお客様に快感のフィードバックはされなくなるのです」 「てぇ、ことは?」 「お客様の『リンクディルド』を盗んだ犯人は、このアパートの住民と見て間違いないでしょう」 リンクモードを解除していなかったばっかりにリスクが爆上りしてしまったが、解除していなかったお陰で 盗人の居る場所が一気に狭まった。 築20年。 真新しい訳でも無く、駅から徒歩5分以内でも無い。超がつくような人気物件でもないから全6室の内居住者がいるのは4室となっている。 つまり、俺を除くとアパートの住民はたったの3人。 この3人の中の一人が俺の『リンクディルド』を持ち去った犯人だ、と阿倍野氏は指摘する。 「やみくもに何の策も無く尋ねても全否定されてしまえば二度と同じ手は使えません。まずは証拠です。 動かぬ証拠を。追い詰められるネタをゲットしましょう。 急がば回れ、ですよ。言い逃れができないよう外堀を埋めてから突撃なさって下さい。それでは私はこれで――」 「えっ!? も、もう終わりっすか? もう少しフォローと言うか、助力をして欲しいんですが……」 「大変申し訳ありません。私もお手伝いしたい所ではございますが、これからお約束がいくつか入っておりまして」 「そっちをキャンセルってのは?」 「恐れ入ります。それはご勘弁いただきたく」 俺は一つため息をついた。 こうして朝一の突発でも駆けつけてくれた事。犯人を探すための重要なヒントを与えてくれただけで満足するほか無い。 渋々了承した俺は阿倍野氏をここで解放した。 俺のカラダがマッチョになった理由については「一旦社に戻ってから調べてみます」、とは言ってくれたが。 ◇  「証拠、って言ったってなぁ……」 何をもって証拠とすればいいのか。現物の『リンクディルド』を押えるのが最短にして最高の証拠足り得るのだろうけど。 指紋の採取なんて俺には出来ないしな。 だが、じっとしていたって証拠が手元に転がり込んで来る訳じゃない。 先んずれば人を制す、とも言うではないか。 このアパートは1階に3部屋。同じように2階に3部屋並んだ構造になっている。 俺の部屋は1階の真ん中、B号室だ。 他の居住者の部屋は1階A号室、C号室。そして2階のB号室となっている。 すれ違えば会釈くらいはしているもののあまりまじまじと相手の顔を見た事は無い。 ほとんどすれ違うことが無いためどの住民に対しても印象が薄いままだ。 部屋を出てまずは集合ポストを見に行く。 家主の管理はしっかりしているので使用中の4つのポストにはそれぞれにちゃんと名前が貼られていた。 1階A号室『港 満次郎』 1階B号室『天王寺 遥』これは俺の名前だ。 1階C号室『平野 大地』 そしてラストの4人目、 2階のB号室は『住之江 瑞樹』と言う名の人物が住んでいる。 「うん? 不在票?」 1階A号室『港 満次郎』のポストから小さくはみ出しているのは小包の不在票だった。 悪いとは思いつつその不在票を引き抜いて内容を読んでみた。 「二枚もあるな……ええと、一枚目は一昨日のモノで二枚目は昨日……」 二日連続で不在票が入っていた。不在票以外にも業者が投函したチラシがかなり入っている。 俺の部屋のポストを含めて他のポストにはさほどチラシは残っていない。 と言う事は、だ。 おそらく『港 満次郎』は最低でも二日前から帰宅していないんだろう。 念のため1階A号室の前に行くと、ドアポケットにも不在票が突っ込まれていた。それも三日前のモノが。 「港はシロだな。旅行かなんかで三日以上前から戻って無いようだしな」 となると、残りは二人。 1階C号室の『平野 大地』 2階B号室の『住之江 瑞樹』 このどちらかが犯人だ。 ポストをチェックしても手がかりや証拠となりそうなモノは見当たらない。 早くも手詰まり状態か? と思案を巡らせていると、男が俺の前に立ちポストを開いて中を覗いている。 開けているポストは2階B号室だ。 「住之江、さん?」 「はい? えっと、俺になにか?」 思わず口に出してしまったのを聞かれてしまった。 振り返って俺を見つめる住之江は、歳は俺と同じくらい。顔だちはやや童顔な爽やかなイケメンだった。 ただし、体格がごつい! 身長は今の俺とほとんど変わりない上、ジャケットを羽織っていても分かるほどがっちりとした体格をしていた。 「いや、あの……」 疑問符を顔に浮かべていた住之江は痺れを切らして、 「下の階にお住まいの天王寺さんですよね? すみませんが、俺、夜勤明けですごく眠たいんです。だもんで、 もう部屋入っちゃっていいすか? 急ぎでなければまたあらためてお願いしたいんです」 夜勤だと? てことは、昨晩、俺が晩飯に出かけていた時間帯は居なかった、って事になるのか? 「あ~、夜勤明けだったんですね? お疲れ様でした」 階段を登り帰ろうとする住之江の背中に向けて俺は咄嗟に質問を投げてみた。 「ところで、昨日の夜、妙な音が響いてたんですが、作業か何かされてたんですかね?」 もちろん音など実際には響いていない。 首を傾げて視線を宙に浮かべた住之江が逆に俺へ問い返して来た。 「妙な音ってのは何時くらいに聞こえたんですか?」 「あ、あの、19時か20時くらいだった、かな?」 「じゃぁ、そいつは俺じゃありません。昨日は18時には家を出て勤務先に向かっていましたから」 「そうだったんですね? じゃぁ、別の部屋から、だったのかも知れません。お引き留めしてすみませんでした」 「いえ。全然。それじゃぁ――」 今度こそ振り返らず階段を上がろうとした住之江だったが、今度は逆に向こうが俺を呼び止めた。 「もし、足音とかうるさかったら遠慮なく言って下さい」 「足音とか聞こえてこないんで気にされなくて大丈夫ですよ」 「なら、良かった。それじゃあ、俺はこの辺で。おやすみなさい」 もうすぐお昼の時間帯になるのに「おやすみなさい」がさらりと出る辺り、嘘では無くマジで夜勤明けで今から寝るのだ感が出ている。 そして、昨日の行動もまた真実であるなら住之江にはアリバイがある。 18時以降は出勤していて不在になっているからだ。 残るは……、1階C号室、隣に住む『平野 大地』 こいつがディルドを盗んだ犯人である可能性が高い。 ◇  『平野 大地』が部屋に戻って来たのは19時ごろだった。 家賃が安い割に防音がしっかりした建物ではあるけれど、意識しているとそれなりに生活音ってのは聞こえてくるものだ。 明け方から今まで、俺のチンポに『リンクディルド』から伝わる刺激は皆無だった。 もしも犯人が平野であるならば、これから『リンクディルド』を再び使い始めるかもしれない。 どうやって証拠を掴む? どのようにして言い逃れできない状況へ? そして、ディルドを取り戻すためにはどうする? 時間はあまりかけられない。 阿倍野氏曰く、ディルドが破壊されたらそれは俺のチンポも同時に壊れちまう事を意味する状態だからだ。 速やかに解決しなければ。 まだ22歳なのに男としての機能を失うなんて、そんなの冗談じゃない。  じっとしていられず立ったり座ったり、部屋の中をぐるぐる歩いて良い策はないかと考えていた。 その時だった。 トントン、とドアをノックする音が耳に飛び込んできた。 「誰だよ? こんな時に」 荷物の配達か何かか? マアゾンかヤッポーショッピングで注文とかしていたかな?  「こ、こんばんわ。隣に住んでいる平野、ですが……」 え? 今から攻略しようと考えていた「容疑者」本人がこっちへ? 「はい? 何でしょうか?」 努めて平静を装いドアを開ける。 うお! すげぇ体をしてやがんな! 俺の目が釘付けになる。 それぐらい圧倒的な筋肉だ。2階の住之江もがっちりとしていたが平野のそれはもっと一目瞭然ってやつだ。 タンクトップの紐が肩に食いこんでいるわ、腹筋の凹凸がくっきりと浮かんでいるわ、で。 つうか、なんでそんな軽装なんだ?  平野の「装備」は上半身は黒いタンクトップ一枚、下はグレーのハーパンのみ。 日中はともかく日が落ちるとまだまだ冬と同じくらい寒い時期なのに、そんな薄着で大丈夫なのか? 「ふぁっ! っくしゅん!」 あ、やっぱ寒いんじゃねぇか! 盛大なくしゃみなんかしちまってさ。 「寒いですよね? よかったら中へどうぞ」 「じゃ、じゃぁ、遠慮なく……」 デカいカラダがノソリと入る。 俺と合わせて合計2体のマッチョとなると、部屋が急に狭くなったように感じる。 部屋に平野を入れてから、ふと俺は思った。 犯人……、かもしれ無いやつと二人っきりってのはマズかったか? と。 襲われたらどうするんだ? 口封じのつもりで来ているのかも知れないのに。 額や手にじわりと嫌な汗が浮かんだ。


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