変態勇者の究極装備 5
Added 2020-05-13 15:45:55 +0000 UTC5ボンボニエール村 プロステット王国の都、オーラル城のあるオーラルの街を出て七日目、魔王の拠点であるヌレバ洞窟へ向かう 途中にある村の一つが「ボンボニエール村」だ。 馬であればオーラルから二日で到着する距離なのだが、「宿屋にも食事にもお金は必要なんだし、いざとなったらお金で解決しなきゃならない場面もあるだろうから、節約できる部分は節約しなくっちゃ!」 との勇者の発言により、馬では無く徒歩にて移動をしていたため二倍以上の日数がかかっていた。 道中現われた魔物との戦闘に時間が取られたせいだ、と勇者マイトは言うだろうが、都に近いエリアに出没する魔物は、 拳闘士ナイブの物理攻撃と魔術師フォルクの魔法攻撃でもって瞬殺できるような下級モンスターしか居ないのであった。 さて、そう言った勇者のケチ、いや、倹約ぶりはさておき、ボンボニエール村に到着したマイトは随分と機嫌が良かった。 「やっとまともなメシ! まともなベッドで眠れる! 野宿じゃないってなんて素晴らしいんだ!」 野宿と言っても単に野山などの屋外で睡眠を取る、だけでは無い。 夜に活発化する魔物を警戒し、或いは盗賊などの被害に遭わぬよう見張りを立てながら交替で眠らなければならない。 なので2時間おきに起こされ、熟睡できる時間などほとんど無いのであった。 「でもよぉ。大将はほぼほぼ俺ら二人に見張らせてずっと寝てたじゃねぇか」 「そうですね。勇者様がちゃんと見張っていたのは一度も無かったかと……」 「え!? いやっ! ちっげぇよぉ! 何言ってんだよぉ! あれは眠ってたんじゃなくて! 単に目をつぶってただけ! なんてぇの? そ、そう、心眼! 心の目で周囲をずーっと窺っていたのさ!」 「の、割に大将のイビキは豪快でしたぜ?」 「そうです。勇者様のイビキのために集まっていた魔物が逃げていくくらいでしたね」 マイトは何も言い返せず、小さく「ご、ごめんなさい」と二人に謝った。 「ははっ! 大将は面白ぇなぁ! イビキ一つで魔物を追い払っちまうなんざ! 凡人にゃできねぇ芸当だ!」 「私もその点は興味深いと思いました。勇者様のイビキには魔物が嫌がる音波が含まれているのではありませんか?」 「は? 音波ぁ? そんなの俺が分かる訳無いじゃん。ま、そんな事よりもさ、フォルクが仲間になったお祝いをしようじゃないか!」 フォルクは三日前に仲間になったばかりの魔術師であった。 「いえ、倹約を旨とする勇者様に、そのような贅沢をさせる訳には……」 「あ? 何か勘違いしてるんじゃない? 俺の言う祝いってのは、一晩中セックスして気持ち良くなる、って意味なんだけど?」 勇者のイチモツはひと目で分かるほどギンギンに勃起し、日の光がモッコリの天辺でキラキラ反射していた。 そして、 ナイブは額に手を当てて天を仰ぎ、フォルクは取り戻したばかりの杖を落とし欠けた。 「ほ、本当に、勇者様って……」 「おん? 凄いって? へへ、それほどでもぉ」 「いえ、勇者様って変態なんですね」 そばを通りかかった村人がフォルクの声にギョッとして勇者一行を見ていた。 ◇ 「甘ぇ……。なんでこんなに、甘いんだよ~!」 「大将。このボンボニエール村ってのは甘さこそ至高ってな村なんだ。だからどの料理も甘く仕立ててるんだ」 「けど、けどさ、スープもサラダも、肉も、全部お菓子みたいな味になってるのって、どうかしてるよ! 歯が浮きまくってるよぉ!」 「勇者様。地域ごとの文化は尊重しなければなりません。この味付けもこの村の歴史そのもの、と申せます」 ナイブの解説の後フォルクはやんわりとマイトをたしなめた。 村の入り口にあった食堂で休息と食事を取ることにした勇者一行。 しかし、どれを食べても甘いため勇者マイトは箸が進まなくなっていた。 「あの~、旅の方、お口に合いませなんだか?」 食堂の年老いた店主が申し訳無さそうにマイトに聞いた。 「あ、いや、あのですね、もう少し甘くないメニューは無いのかなぁって、はは、は」 「甘くないメニューを、ですと?」 「そうそう。塩味とか醤油味とか、そう言う感じの甘くないのが欲しいんだけど」 「恐れ入ります。お渡ししたお食事、少々確かめてもよろしいか?」 年老いた店主がマイトの皿にスプーンを入れ、自分の口へと運んだ。 「……はて? 甘さはほとんど感じませんな。むしろ塩味が強いスープに仕上がっておりますよ?」 「は?」 「それから、こちらの、肉炒めも、サラダも、甘過ぎどころか、むしろ甘さはほとんど感じませんねぇ」 店主はそう言うと勇者たちを訝し気に見渡した。 「気に入って頂けないのでしたら、お代は結構。他の飯屋にでも行ってくだされ」 そう言い残し店主は厨房へと引き上げてしまった。 「おい、大将。大将があんまり甘い甘いって言うから、臍曲げちまったぞ? あの爺さん」 「で、でもさぁ……」 「私が口にした料理も確かに甘味は強いですが、食べられないほどではありません。旅人の疲れた体に良かれと、 店主のご厚意なのかも知れませんよ?」 「そ、そう言うもんなの?」 「しかし、店主の表現も気になりますね。ほとんど甘さを感じない、とか。ふざけてる様子もありませんし」 フォルクが首を傾げた。 「それも文化、ってやつか? 俺にゃさっぱり分からねぇがよ」 ナイブも両手を上げ「何だろうな?」とフォルクに応じた。 食堂を出て村の中心へ進む。 田畑の中、まばらだった家屋が徐々に密集し、道行く人の姿も多くなって来た。 それと同時に賑やかな音楽が聞こえ、どの家の軒にも花模様の提灯が明るく灯されている事に気付く。 「へぇ? 祭りだな」 「そのようです。 お祭りの日だったんですね」 ナイブが目を細めるとフォルクもフードを持ち上げ楽し気な村の様子に微笑んだ。 やがて中心となる広場へ到着すると、円形の広場を囲むように何軒もの屋台がぐるりと並び、歩きながら食べられる肉の串焼きやタコ焼きに似た焼き物、そして お団子やクレープのような菓子を販売する屋台もあった。 「うほほ~! 美味そうじゃんかぁ~! 宿屋に入る前にちょっと食べてこうぜ~!」 先ほどの食事の不満を解消しようとばかりにマイトは二人を誘った。 「私はさほど空いておりませんので」 「俺もだな」 「ええ~? あんな美味そうな匂いしてんだぜ~? 醤油かソースか分かんねぇけど、すんげぇ香ばしい、良い匂いしてんじゃんか~?」 マイトは粘ったが二人ともやはり要らないと言うのでマイトは一人寂しく屋台の前で「一人前」ずつ買う事となった。 広場のあちこちに置かれているテーブル席に腰を下ろし、手に入れた屋台料理を並べる。 「さすがに甘いものはもうこりごりなんで、まずはこれから、かな!」 掴んだのは焼き鳥のような串焼きだった。少し焦げ目のついたスパイシーな香りに、マイトは期待を込めて大きく口を開けた。 「いっただきまーす! ふんむ! ……どわぁ~!?」 「なんて情けねぇ声出してんだよ、大将! 勇者の名折れだぜ」 「そうですよ、勇者様。変態の他に気狂い、なんて三つ目の名が付いたらどうするんですか」 「ま、まさか、こんな甘いモンだったとは……。ぶるるる……。も、もうこの串焼きはいいや。こっちにしよう」 マイトは串焼きをひと口だけで置き、隣の海産物を伸して焼き上げたイカ焼き風のものにかぶりついた。 「ぬぐ!? こ、コイツも甘ぇ! 海の味覚と激甘のたれが絶妙にマッチしてねぇ!」 マイトは汚物でも見るようにしてイカ焼きを脇にどけ、ひき肉をパン生地で包んでから油で揚げたピロシキ風の ものをかじった。 「う!? ごほっ! ぐごほっ! ぶほっ! こ、こいつも甘! 砂糖の塊みたいに、甘い……」 「おい、大丈夫か大将。どれもこれも甘いとか、そんな訳ないだろうが」 「そうですね。特に甘味を前面に出すような食べ物ではありません。むしろ、これなどはピリ辛の味付けが一般的で――」 フォルクはマイトが残したイカ焼きの端をちぎって口に入れてみた。 「んんぐっ!?」 「フォルクまでなんだぁ? 大将につられて妙な声出しやがってよぉ」 「ごほ、ごほっ! ああ、確かにこれは、とても、甘い、ですね。勇者様が驚かれるのも無理はない」 「嘘だろ?」 ナイブもまさかと言いつつイカ焼きのちぎって食べ、そして、串焼きの残りもひと口食べてみた。 「むぐぅっ!?、……み、水はあるか?」 「どうぞ。用意しておきました」 フォルクがすかさず携帯していた水入れのキャップを開けナイブに渡した。 ゴクゴクと口をすすぐように水を飲んだナイブは、人心地ついたのかふぅ、と深く息を吐いた。 「大将の言う通りだった。甘い、なんてもんじゃねぇ。異常な甘さになってんな」 すっかり意気消沈し魂の抜けたかのような勇者をよそに、ナイブはフォルクに真剣な顔を向けた。 「俺が思うに、さっきのメシ屋のあの甘さ、あれもやっぱ奇妙だ。あの爺さんにゃ俺らの味覚の方がおかしい みたいな話ぶりだったしな。 それにコイツだ。俺も都の祭りの時ゃよく口にするけどよ、決してこんな甘い味付けじゃねぇ。 酒のつまみになりそうな辛口がベースのもんばっか、の筈だ」 「変、ですね」 「ああ。変だ。おかし過ぎるぜ」 ナイブとフォルクは一つの仮説に思い至り、そして同時に肯き合った。 フォルクがマイトの肩をガクガクと揺さぶった。 「あうあう~、せっかく美味い飯が食えると思ったのに~、これじゃぁ性欲までだだ下がりだ~」 「勇者様、腑抜けてる場合じゃありません。これは異常事態です。この村はまだ原因不明ですが、味覚が失われている異常な状態になっているようです」 「大将。フォルクの言う通りだ。この甘い味付けのオンパレードはあり得ねぇ。まるで甘味と辛味を逆に入れ替えたみてぇになってるぜ」 「へっ?」 「調査した方がよろしいかと」 「俺も同意見だ。このまま放置して置くのはやべぇ気がするぜ」 マイトの額に冷や汗が流れた。 「う、うん……。それじゃぁ調査してみよう。と、その前に宿を探して部屋だけ確保してから、にしよう」