変態勇者の究極装備 6
Added 2020-05-16 21:54:20 +0000 UTC6ボンボンの泉と妙な祈祷師 「まさか酒まで甘くなってるとはな」 「予想通り、ですがそれだけに深刻ですね」 宿屋の中にある酒場は近在からの客たちで大いに賑わっていた。 そんな賑わいを横目で見ながらナイブが呆れながらグラスを置くと、フォルクも酒のつまみとして注文した燻製肉をひと口食べただけで皿へ戻してしまった。 この場に勇者マイトが居ないのは『甘い物を口にし過ぎて胸やけした』と言ってふて寝同然にベッドにもぐり込んでしまったためである。 ナイブはフォルクに合図をしてから隣の席に座って機嫌よく酒をあおっている客に話しかけた。 「楽しんでるところ邪魔してすまねぇ。村に来てからずっと美味い酒とメシに驚いているんだが、 俺が前に立ち寄った時は、もっと、なんつーかその、普通だった気がするんだ。 もしかして腕の立つ料理人でも来てとっておきのレシピでももらったのかい?」 顔を赤くした村の青年らしい客がナイブの問いに上機嫌で答えた。 「ははっ! ボンボニエールのメシが前来た時より美味くなってるって? 妙な事言うなぁあんた。 この村は前となぁんも変わってねぇよ。相変わらず野暮ったい味じゃねぇか。塩さえ入れときゃ良いみてぇな味だろ? でも、それが前よりも美味いとか言ってもらえるなら村のモンとしては嬉しいかぎりだよ」 「そっか。前と変わりない味なんだな。妙なこと聞いちまったようだ」 ナイブは「詫びとして取っといてくれ」と青年にコインを一枚渡した。 「いいのかい? じゃぁ、遠慮なく」 「ついでと言っちゃぁなんだが、この村で最近妙な事は無かったかい? どんな小さな事でも構わねぇ」 教えてくれればもう一枚コインを渡す、と言わんばかりに青年の赤くなった鼻先にコインをちらつかせた。 「妙なコト? う~ん、妙な……。なぁんだろう、そんなのあったかな?」 青年は横に座って飲んでいた仲間にも聞いた。 「う~ん、……お! あれかな? 3か月ほど前にあった井戸の件」 「あ~あ~、あったなぁ、そんな事。あん時ゃびっくりしたよなぁ!」 「詳しく聞かせてくれ」 ナイブはコインをさらに二枚追加した。 ◇ 村の青年とその仲間が語ったのは三か月前にあった「井戸涸れ事件」の話だ。 三か月前のある朝、ボンボニエール村の井戸と言う井戸がいっぺんに涸れてしまった。 そして、生活する上で最も大切な水が無くなってしまったとあって村は大騒ぎになったのだ。 村長は村の主だった面々を連れてただちに水源である「ボンボンの泉」に調査の向かった。 「な、なんじゃぁこりゃぁ!?」 村はずれの丘にある泉から井戸に水を送る導水管の入り口に、おかしな「膜」が蓋をするかの如くずっぽりとかぶさっていたのだ。 ボンボニエールと言う村の名は「ボンボンの泉」から来ている。 それだけこの泉は単なる水源では無く村の象徴であり聖なる場所でもあることを示している。 毎日のように村の誰かが様子を見に来ては水源周りの不要な枝葉を切ったり、泉に落ちたごみを取り除くなどの手入れを行って大切に守られていた。 絶え間なく湧き出る豊富な泉の水を無駄無く清浄なまま丘の麓の村まで引いているのが導水管であり、地下に埋設された導水管が村の各所にあるすべての井戸の底に通って水を供給しているのだ。 その導水管の一番最初の入り口が塞がっているのだから井戸に水が届かなくなるのは当然の事だろう。 「は、早く取り除くんじゃ!」 村長の声に従い村人は「膜」を外そうと試みた。だが、膜の表面がぬるぬるとしているため力任せに掴もうとしても 滑ってしまって掴むことすらできない。 それならばと、刃物を突き刺したがグニャグニャと伸びるだけで少しも刺さらず、火を近づけても焦げすらつかない。 「新しい導水管を作って、そちらに泉の水を流すようにしなければならないのか?」 「ですが村長。一から導水管を作りここに埋設するとなると半年は必要です。 人の少なかった昔のボンボニエールであれば汲み置いた水だけで耐えられるかもしれませんが。 これだけ人が多くなった今のボンボニエールでは非常に厳しいと言わざるを得ません。しかも今は乾季。 雨水は全く期待できません」 井戸が数日に渡って使えなければ病人や子供、お年寄りなど体力の弱い者から最悪、死者が出るだろうと村長も予測していた。 「何と言うことだ。このままでは村が滅びる。村存亡の危機じゃぁ!」 『ボンボンの泉」から流れ出る水は「膜」で塞がれた導水管には流れ込まず、左右に分かれて小さい流れを作っている。 しかし、その流れも少し先で地下に吸いこまれて見えなくなっていた。 『っふふ、みなさん、お困りのようねぇ?』 泉を囲む繁みの中から声が聞こえた。 「だ、誰じゃ!?」 「おっと、これは失礼。アタクシ、ジェルバ、と申す旅の祈祷師でございますわぁ」 繁みの中から踊り出たのは黒いマントを羽織った貴族風の派手な装束の男だった。 「祈祷師? 今は祈祷師なんぞに構っておる暇はないんじゃ」 「まぁ、そうおっしゃらずにぃ。ここで行き合ったのも何かのご縁? ものは試しでアタクシにぃ祈らせて下さいませんかぁ?」 「は? 祈る? そんな事やったとて無駄じゃろうがの」 村長たちの声をよそにジェルバと名乗った祈祷師は導水管の前に立つと、手を組んでごにょごにょと呪文のような声を出して祈祷を開始した。 すると、先ほどまで晴れていた空は一転して雲が広がり、繁みに居た鳥たちが一斉に飛び立った。 「な、なんじゃ? 何が起きておる?」 驚く村長たちに構わずジェルバがさらに祈祷を続けていると、導水管を塞ぐ「膜」がビクビク震え出し、やがて 悶えるかのようにブヨンブヨンと凹凸を繰り返すといきなり「バァンッ!」と弾け飛んでしまったのだ。 「な!? なんと!」 「うっふふ、祈りの効果が通じたようで何よりですわぁ」 「ど、どうなっとる? どうやったのじゃ?」 「あの物体は魔物の一部だったようねぇ。で、あるため、アタクシの聖なる祈りが通じたのでしょうねぇ」 「魔物の一部じゃと?」 ジェルバはうなずいた。 「ええ。ですから再び魔物の本体が現れ、この導水管を塞いでしまうかも知れませんよぉ」 「どうやればそれを防げるのじゃ?」 「そこまではアタクシも存じません。魔物の正体が分かりませんからぁ」 「村長。もしまた導水管が塞がれたら一大事です。魔物の正体も調査しなければなりませんし、しばらくはジェルバ…様、に村に滞在して頂いた方が……」 村長はハッと顔を上げジェルバに礼を述べた。 「申し遅れたが貴方様のお陰で大いに助かりました。心より感謝申し上げる。 ついては、しばらく村にておもてなしをさせて頂けませんじゃろうか?」 「それはありがたいですねぇ。ただ、祈祷師としてはぁ、一人で大自然と対話し祈る事がもっとも大切であります故、 村に入る事は控えておきますねぇ」 「で、では、どうすれば?」 「再び水が止まらぬよう、また塞がれてしまった時には祈りの力ですぐに解決できるようにここへ小屋を作って下さいましな。 そこにアタクシが入ります。 そして、食事を一日に一度、小屋に運んで頂けませんかしらん?」 「そ、それでよろしいのか? ジェルバ様自ら泉の監視を、いや、泉を守護して下さる、と?」 「んふふ、さようですねぇ」 「願っても無い! ジェルバ様の言う通りにさせて頂きますじゃ」 「あ、小屋に食事を運ぶのはできるだけイキの良い、じゃなくて、若く逞しい青年にしてもらいたいですわぁ」 「は? 若く、逞しい青年に?」 「あ、ほらほら、やっぱりいつ魔物本体が来るかも分かんないし、ねっ? ねぇ~?」 こうしてジェルバの意見を受け入れボンボンの泉のそばに監視小屋が作られジェルバはその小屋に住みついた。 また、日に一度、村の中から選ばれた若く逞しい青年が小屋までジェルバの食事を運ぶことになった。 ◇ 「ふぅん。話を聞いた限りじゃその祈祷師、凄く良い人じゃないか。村の水道を守るため進んで泉を見守ってくれてんだろう?」 ナイブから最近村に起きた異変を聞いたマイトは素直に祈祷師を称えた。 「私も同じ内容の話を別の村人から伺いました」 フォルクも酒場にて村人から色々と聞いて回っていたのだ。 「大将。確かにその通りかも知れんが、少々おかしいとは思わないですかい?」 「どこが? 何かおかしいところあったっけ?」 「その祈祷師ジェルバってヤツ、貴族風の華美な衣装を着ていたそうですが、たいてい神に祈る者たちは虚飾を嫌うってんで派手な衣装は控えるもんでさ。 むしろフォルクみてぇに質素なローブを着ているのが普通ですぜ」 「そうです。ナイブの言う通り祈祷や信仰を生業とするものは魔術師と似たローブを身に着けて行動します。 それに、そのジェルバと言う者が善意で泉を守るとしても、四六時中ボンボンの泉のそばにいる必要はありません。 むしろ、正体不明だと言う魔物の本体と遭遇すればジェルバ自身も危険な目に遭うのですから、泉からは離れた方が良いと思いませんか?」 「ん~、むむ、確かにそうかも」 「食事を運ばせるのも若く逞しい奴に限る、ってのも奇妙だぜ」 「じゃぁさ、確かめに行ってみよう。ジェルバってヤツが本当に『良い祈祷師』か、そうじゃないのか」 こうして翌朝、宿屋を出たマイトたちは丘の上にあるボンボンの泉へと向かうのだった。