性感男豪ディルダービルダー 1
Added 2020-06-10 14:58:05 +0000 UTC1イメチェン 「はぁぁ~、またダメだったのか~」 スマホのメッセージ画面を覗き込んだあと、机に突っ伏して魂を口から吐き出している男がいた。 「お前、またダメだったのかよ? これで合コン何連敗だ? 稲葉くんよぉ」 「……これで6連敗っすよ厚主(あっしゅ)先輩。あ~、モチベだだ下がりっすわぁ~、仕事やる気出ねぇ~」 「何言ってやがる。まだ昼メシ食ってから一時間もたってねぇだろうが。シャキッとしろシャキッと。 仕事に私情を持ち込むんじゃねぇ」 「つっても、聞いて下さいよぉ~。なんでダメだったのか原因がさっぱり分からないんで 俺、もう、どうしたらいいのか、見当つかないんすよぉ~」 「るせぇ。愚痴なら勤務時間の後で聞いてやる。取りあえずさっき渡した新商品のプレゼン資料作成、夕方までには俺の方へ回せるように仕上げておいてくれよ?」 「うう、俺がこんなに凹んでいるってのに先輩はずっとラブラブなんでしょ? 社内の噂で知ってるんす。 美人でやさしい彼女さんが居てるって。いいなぁ~。羨ましいなぁ~。なぁんで俺には彼女ができねぇのかなぁ~?」 「こら。マジで怒るぞ? どこから仕入れてきたんだ、そんなでたらめな噂。 てか、他にも頼みたい案件がいくつも控えているんだ。いい加減サクッと切り替えて仕事に集中しろ! 集中!」 「ぅへぇ~い」 気だるげに顔を起こした稲葉はスマホをスーツの内ポケットに仕舞い、自身のPCに向き直った。 だが、キーボードを叩く指はまったく動いておらず、画面を見る目も視点が定まっていないのが誰にでも分かる状態であった。 そんな稲葉の様子を見ていた厚主は「ったく。しょうがねぇな」と小さく呟き一つの提案を稲葉に告げた。 「そんな調子じゃ仕事にならんだろうから、今日はもういい」 「へ~い……。そんじゃぁお言葉に甘えてお先に失礼させてもらうっす……」 帰り支度をしようとのろのろ腰を上げた稲葉だったが、次の厚主の言葉に思わず「は?」と聞き返した。 「だから、もういい、とは言ったがそん代わりに俺の知ってる相談所に行って来い。こいつは命令だ」 「厚主先輩。相談所ってなんすか? 俺、探偵とか興味ないっつうか、あんま関わりたくないっつうか……」 「バカ。それは相談所じゃなくて興信所だ。平たく言えばカウンセリングか? まぁ、困った時には何でも相談に乗ってくれて、しかも的確なアドバイスをくれるありがたい所だ。 本当は教えたくなかったが、この際だ。しっかり話を聞いてもらってお前にふさわしいアドバイスを頂いて来い」 「カウンセリングなんて大袈裟な気もしますけど、命令なら行かせて頂くっす。 でもでも、相談料金とかボられたりしません?」 「いちいち細けぇな。そんなに金が心配なら俺が出してやる。ほら! こいつで足りる! んで、釣りで美味い飯でも食って帰れ!」 厚主は財布から一万円札を取り出し稲葉に押しつけた。 「厚主先輩、太っ腹! さすが社内のエース! 俺、これからも厚主先輩に付いて行くっす!」 「金をもらった時だけ調子が良過ぎだろ。それよか、早く行ってさっさと『ディルダー』になって来やがれ!」 「でぃるだぁ? 何すかソイツは」 「む。口が滑った。あ~、まぁ気にするな」 「ラジャーっす。それでは、不肖、『稲葉 聖太』、厚主先輩のご命令に従って、相談所にて相談して参ります!」 「寄り道とかすんじゃねぇぞ? もしちゃんと相談所に行かずに飯だけ食って帰りやがったら、出張扱いにしないでお前の有休を削っちまうからな?」 「うぎゃ! 無駄に有休を消されたらたまったもんじゃありません! ちゃんと行きます! 必ず相談所に行きますって!」 鞄を掴み、慌ててオフィスを出ようとした稲葉。 しかし、すぐに厚主の前に戻って来た。 「何だ? まだ何かあんのか?」 「厚主さん。一つ教えて欲しいんですが」 まっすぐ真剣な目をした稲葉に厚主は思わずたじろいだ。 「相談所の場所ってドコなんすか?」 「…………深刻な話かと、身構えちまった俺がバカだった……。ほら! このメモを持って行けクソ野郎! 明日はお前だけ仕事を二倍に増やしてやるからな!」 「ひええ! そんなのシャレになんないっすよぉ!」 「グダグダ言う元気があるんなら三倍にしてやろうか?」 「い、行ってきますっ!」 厚主の前から慌てて逃げるようにしてオフィスを出て行った稲葉。 「ため息つきてぇのは俺だっつううの……。あんな奴でも部下として面倒見なきゃいけねぇしよぉ。 もっとタフでシャキッとした性格にならねぇもんかねぇ?」 稲葉が飛び出したガラス戸を睨んでいた厚主。 ところが、稲葉の姿が完全に見えなくなった途端、しかめっ面を崩し、いたずら小僧のように目を細めた。 「さぁて、あの稲葉がどんな『ディルダー』になるのか、楽しみだぜ」 ふふ、と唇の端を曲げて笑みをこぼしたあとは、後輩の残した仕事の分も自分でやらねばならなくなった事に気付き、もう一度ため息を吐く厚主なのであった。 ◇ 厚主からもらったメモに書いてある住所を訪ねる稲葉。 「えーと、茫洋町三丁目、2の5、開拡ビルの、7階、あ、あった。ここが相談所か」 オフィスを出て地下鉄を乗り継ぎやって来たのは、風俗街に接する位置に建っているビルだった。 昭和な雰囲気を思いっきり漂わせた武骨なビルの案内看板を見て、厚主の紹介した相談所がちゃんと入居している事を確認する。 【M&B 真野場なんでも相談所】 「……何でも、ってのが胡散臭いんだよな。これで一般ウケを狙ってんのかも知れないけど」 稲葉は二人で定員になるほどの小さなエレベーターに乗り、7のボタンを押した。 ガタガタと揺れ動いてからドアが閉まったエレベーターはギシギシ危い音を響かせながら稲葉を7階へと運んだ。 自力で階段を登った方が早いのでは? と思わせるエレベーターを降り、一つしかない薄暗い廊下を進むと相談所のドアはすぐに見つかった。 「こんにちわ~! どなかたいらっしゃいますか?」 ベルがないので稲葉はノックした。しかし、反応が無い。 もう一度、やや強めにドアを叩いた。 だが、またしても返事が無い。 休業日か? と思いつつドアノブを回せば軋む音を立ててドアは開いた。 ドアが開くと言う事は休みではないのだろう。 一歩、室内に入って改めて訪問を告げる声を奥へ放つ。 受付とその奥を区切るカーテンが微動だにせず稲葉の視界一杯に広がっている。 余りにも静まり返っているので稲葉はさすがに困惑を隠せない。 トイレにでも行ったのか? 鍵を掛けず開けっぱなしのなのにやはり休業日だったのか? いずれにせよ無人であるならどうしようもない。 金まで渡してくれた厚主には悪いが大人しく帰るとしよう、と稲葉がくるりとカラダの向きを変えると、そこに、 ――居た。 「どわっひゃぁぁ!?」 白衣を着た大柄な中年男だ。 顔立ちも体格も格ゲーではいかにも脳筋キャラで出てきそうなイカツい見た目をしている。 そのまま「仁王像」と呼んでも差し支えない。 「……誰だ? 少々うるさいぞ?」 白衣を着た仁王像が稲葉を見下ろしてじろりと睨む。 「あ、いや、えと、とても驚いたので、思わず声が……。ところであなたは?」 「吾輩か? 吾輩はここの主であり所長であるところの真野場(まのば)だ。 そう言うお前は?」 「あなたが、こちらの所長? 相談所の所長さんなんですか。俺は、その、こちらに相談に、アドバイスを頂きに来た者です」 「ふむ? つまりお前は客、と言うことだな? なんだ、それならそうとなぜ先に言わないんだ。 てっきり金貸し連中が利息だけでも払え、と押しかけて来たのかと思ったじゃないか」 「……違いますね」 「なら安心だ。こう見えて吾輩は良心的で丁寧な仕事をモットーとしている。ささ、中へ入りなさい。 君の話をじっくり聞こうじゃないか」 厳めしい仁王がにわかに福々しい笑顔を顔に載せ、稲葉をカーテンの奥へと導いた。 奥にあったのは古い事務机と机を挟んで椅子が二脚だけ。 それ以外は観葉植物や棚なども見当たらない、実にミニマムな品数の部屋だった。 ガクガクと座面が揺れる椅子に腰を下ろした稲葉は、安定した「角度」を見つけるまで若干の苦労を味わった。 「余計なモノは置きたくないのでな。流行りの断捨離に合わせてやった。決して質屋に入れたからモノが無い、と言う訳じゃぁない」 「は、はぁ……」 「ところで料金だが、相談事一件について3000円頂く。 話の内容が複数に渡るようであればその都度追加で3000円増しだ。 もちろん相談内容は何でも受ける。看板に書いてある通りだ」 「恋愛とかも?」 「もちろん。狙った獲物は外した事の無い百発百中の恋愛マスターとはこの吾輩の事。 少年少女の純粋無垢な恋バナからどろどろ不倫、寝取られぐちょぐちょの流血修羅場モノまでどんと来いだ」 稲葉は不安の度を強くした。 3000円をどぶに捨てる事になるのでは、と。 しかし、所詮は厚主の「おごり」である。 なるべく早く切り上げ、美味い飯を食べに行った方がよほどストレス発散になるに違いない。 そう踏んだ稲葉はダメ元で単刀直入に悩みを打ち明けた。 「このところ女の子に告白しても全然上手くいかないんです。 合コンで、話が盛り上がってアドレス交換、くらいまでは辿り着くんですけど、そっから先に進めなくって」 「うむ。よく分かった」 「え? いや、あの、まだ途中なんですが……」 「振られる原因を知り、それを解決したい。違うか?」 「いや、その通りっす」 「イメチェンが必要だ」 「イメチェンですか?」 「そう。イメチェンだ」 白衣の仁王像は断言した。 「お前が恋を成就できない理由。それはひとえに今の雰囲気が良くないからだ。 人は第一印象で9割決まると言われておる。しかもその第一印象は会って3秒。 お前に対する吾輩の第一印象だってたったの3秒で決まっていた」 「どんな第一印象だったんですか?」 「バカ、軽薄、お調子者、とまぁ、そんなところだ」 「最悪じゃないすか! 俺、女の子にもそんな第一印象を与えてたんすか?」 「いや。俺の見る目はまだ甘いほうだ。女性の審美眼はもっと厳しいぞ? 一瞬にして仕事ができるか、会話のセンスはあるか、 将来性はあるのか、アソコは大きいか、セックスは上手いか、などなど、吾輩とは比べ物にならんほど細かいところまでぎっちぎちに分析してしまうからな」 「俺だってちゃんと仕事は頑張っているし、収入だってそれなりに得ていますけど」 「そんなものはどうでもいい。要は相手がお前をどう見るか、どんな印象を持ったのか、が重要だ。 アドレス交換などビジネスにおけるリップサービスと変わりない。むしろ即拒否ったりしないのはお前が逆上したり、 ストーカー行為に走るかも、と不安を覚えた事によるある種の防御反応と見て間違いない」 「そ、そんな! そこまで俺、警戒されてたんすか!?」 「その通り。だから、印象を変えるしかない。イメチェン、するしかないのだ」 白衣の仁王が肉厚でごつい手を出した。 「料金。相談に乗った上、適切なアドバイスをくれてやっただろう? 3000円だ」 「え? もうおしまい?」 じっくり話を聞こう、と言ってたあれは何なんだ? と稲葉の顔に現れた。 「なぜ意外な顔をしている? ちゃんと相談を聞き、解決につながるアドバイスをしたではないか?」 「そ、そりゃぁ、そうですけど! でも、イメチェン、とだけ言われたって具体性に欠ける、と言うか、 どうイメチェンしたら良いのか、とか、もう少しイメチェンの内容を、せめてその、ヒントとか方向性か何かを頂きたいな、って」 「ふむ。本来なら更に3000円を頂かねばならん所ではあるが、初めて来たお客への特別サービスとして、 コイツをくれてやろう」 白衣の仁王が机の引き出しから一本の「器具」を取り出した。 男根を模した一本の「棒」。アダルトグッズ界においてはすこぶる有名な性玩具である。 「……え、えーと、これは?」 「なんだ? 知らないのか? お前、まさか童貞だったのか? 或いは性欲が無い、とか?」 「ありますよ性欲くらい! それに、童貞なんかじゃありません! 女性との経験くらいあります!」 「そんな大声でいいのか? このビルの壁はトタン板並みに薄いんだぞ?」 「うわわ! は、早く言って下さい! 恥ずかしいじゃありませんか!」 稲葉が顔を真っ赤にして抗議した。 「なら、これが何か、分かっているのだろう?」 「そりゃぁ、まぁ、分かりますよ。それが『ディルド』だって事くらいは」 「使った事は?」 「女の子に? まぁ、ラブホテルに置いてあったのを少々、前戯の流れで使った程度ですけど……」 「自分には?」 「ありませんよ! どうやって男の俺が自分で使うんですか!」 「無いのか?」 「ありませんって!」 「本当に?」 「無いですって!」 「絶対に?」 「な、なんかしつこいなぁ……。無いったら無いです!」 白衣の仁王が稲葉をじろりと見つめた。 「……吾輩はな、相談に来た者が真実を口にしているか、嘘を言っているかくらい見抜いている。 そうでなくては的確なアドバイスなどできないからな。伊達に『なんでも相談』所と謳っている訳では無い」 「…………」 「さぁ、もう一度聞くが、本当に使った事は、無・い・ん・だ・な?」 持っているディルドを稲葉の顔にベチベチと叩きつけて詰問する仁王。 「ああ! もう! 分ーかーりーまーしーた! 正直に言いますよ! 使いました! 使った事ありました!」 「あるではないか。嘘はいかん。で? どのように使ったんだ?」 「男もケツが感じると聞いて、好奇心でケツにぶち込んでみたんです! でも、痛いだけで気持ちいいとか全然感じなかったですけど! て言うか、先っちょが少し入っただけで激痛が走ったんで、それ以上は無理だったんです!」 「大声で話していいのか? さっきも言ったがこのビルの壁はトタン板よりも薄く遮音性は低いのだぞ?」 「うーわー! やっちまったぁ~! って、良いですよもう。聞いてた奴らは勝手に俺の事を変態だと思えばいいんです」 「妙なところで自己完結したな。まぁ、お前が受け入れるなら吾輩からは何も言わんが。 ――さて、話を戻すが、イメチェンの道具としてこいつを使うんだ。使い方はお前が先ほど大声で言いふらした通り。 ケツの穴に挿入するだけでいい」 「先生。一つ質問があります」 「なんだ? 急に真面目くさって」 「イメチェンとディルドとの関連がさっぱり分かりません。ディルドをケツにぶち込んだらイメチェンになるんですか? むしろ変態度が増すだけではありませんか?」 真野場は「ふむ」と漏らして稲葉をじっと見た。そして、「お前の言いたい事も分からんでもないが」と 前置きしてから『ディルド』と稲葉を交互に見比べ、 「ここでどう説明しようとも、今のお前では理解が追いつかんだろう。 案ずるより産むが易し。論より証拠。百聞は一見に如かず。実際にお前が使って、その身をもって確かめてくれ。 俺は嘘はつかん。が、騙されたと思って、試してみてはどうだ?」 結局、『ディルド』がどうしてイメチェンに有効なのか具体的な事は何一つとして分からないまま稲葉は相談所から自宅へ戻った。 部屋の照明に照らされた物言わぬ一本の『ディルド』 じっくり眺めていると市販の物よりも実物のペニスに近い色と質感を持っている外観に、稲葉は少しドキリとした。 好奇心でアナニーをしようとした過去を思い出し、ぶんぶんと頭を左右に振った。 「いや、あん時はそもそもエロDVDのおまけとして付いてきたシロモノだったし、試しに使ってみようって なったって別に、おかしくはないんじゃない? それに、もう5年も前の話だし」 大学に入って2年目の夏。 旅先で出会った女子と良い雰囲気になって本番セックスまでヤれるのでは? と期待したのも束の間。 気付いたら眠っていて、目が覚めると財布の中から現金だけが抜き取られていたという苦い記憶まで蘇ってくる。 そんな鬱憤晴らしに買ったエロDVDにおまけとして付いてきたディルドでアナルチャレンジをしたものの、 ほんの数センチの挿入でさえ痛みに耐えられず断念したのだ。 「ただでさえディルドにゃ良い思い出が無いんだよ、俺は」 改めて稲葉は褐色に輝くディルドを見つめた。 「マジでイメチェンに必要なのか? こいつを使えばモテモテになるのか? 嘘だろ? やっぱあの所長のホラ話だろ? 俺をからかっているんだろ? ディルドなんで第一印象が変わる訳ゃねぇっての! バカにしやがって!」 稲葉は忌々しい『ディルド』を掴むと思いっきり床に叩きつけた。