変性転身ターンニングマシン 1
Added 2020-10-08 14:25:16 +0000 UTC1 日焼けサロン 「なぁ永輝、帰りにここ寄ってかね?」 講義が終わって大教室を出ようとした俺を黒部が呼び止めた。 手にはチケットらしきものが握られている。 「牛丼の無料券か? それとも――」 「日焼けサロンだよ。先月オープンした店なんだと。前を通りかかった時に無料券を配ってたからついでにお前の分ももらっておいたんだ」 「日サロ? 黒部にしちゃ珍しいじゃん。お前ってばあんまり見た目とか気にしないタイプとばかり思ってた」 「んな事ないさ。俺だって年頃の立派な男子だぜ? もうすぐ夏本番だってのに何もしないでいられますか、っと」 「よく言うよ。普段はサバゲーのことばっか話すゲームおたのくせに」 「永輝こそ課金する先を増やしてばっかりで自分への課金をさぼってるじゃんか」 黒部は高校時代からのダチで気心は知れている仲だが1年ほど前からはサバイバルゲームにどハマリして夏でも迷彩ジャケットを羽織るような有り様だ。 週末になると郊外の専用フィールドに足を運び、朝から晩までBB弾を撃ち合っている。 そして俺はと言うと、いくつものソシャゲに課金してしまい、一つ一つの課金額はそこそこに控えてはいても 「塵も積もれば」ってやつで気付いたらバイト代の大半をガチャに捧げてしまっていた。 ――となると、だ。 合コンに行く軍資金も無く、新たな出会いなども全く無く、ホットな夏を迎えようとする寸前になってもむさい男同士でだらだら過ごすしかない未来が待ち構えていると言う体たらくなのだ。 「……お互い、傷に塩を塗るのは止めておこう。な?」 「そうだな。何を口にしてもブーメランになって戻るだけだもんな」 二人して干乾びた笑い声を放ったあと本題に戻った。 「メンズオンリー日焼けサロン『ブラックギルティ』、……ね。いつの間にこんな店ができたんだろう?」 渡された無料チケットを眺めつつ呟くと黒部も首をかしげている。 「何回も前を通ってたけど店が新しくオープンしてたなんて全然気付かなかったぜ」 「怪しいな……、大丈夫か? 後でぼったくられたりしないのか?」 日焼けマシンは無料でも強制的にとんでもない値段のグッズやドリンクを買わされたりしないだろうか? 「だから一緒に行かないか、って誘ってるのさ。一人で入ったらもしもの時断りにくいじゃん」 「まぁ、そうだろうな」 気まずさに耐えられず財布を開くなんざ裕福ではない俺らにとっちゃ絶対に避けたい。 「とは言え、少しくらい見た目を改良し、この夏の出会いの可能性を高めておく努力もしておきたい」 「確かにな。長梅雨だったせいで日焼けなんてちっともしてないしな」 病的、とまではいかないが、いかにも「引きこもってました~」ってな感じの生っ白い肌の色では随分と見劣りするだろう。 ただでさえ「そこそこの顔」で「そこそこのカラダ」の俺。 男の魅力を少しくらいプラスしておかねば真夏の過酷な恋の戦場において、即刻退場を余儀なくされるに違いない。 「……その点、黒部はまだいいよな~。サバゲーを思い切り楽しむためっつってカラダ鍛えてたから俺よりガタイは良いんだろ?」 「そんな比較は無意味だぜ? 『月岡 永輝』クン。鍛えたと言うよりかは実質の所ダイエットが正解。 頑張ってはみたが痩せるばかりで筋肉はまったくもって付いてくれないのさ。 それでも身軽になった分だけ動きのキレは良くなったがな」 袖をまくって腕を出した黒部。確かに細く、まるで木の枝のようだ。前からスリムだったのに余計に痩せちまってるじゃん。 俺の方は日頃の不摂生と運動不足が祟って腹がぶよって来ちまっていた。 「俺の贅肉、少しお前に分割してやりてぇ」 「いらねぇよ。筋肉以外はお断りだっつの」 「で? また話が脱線しちまっているが、どうなんだ? 日サロに行くのか行かないのか」 「少々不安はあるけど行くよ。アクションを起こさないと今年の夏もお寒い結果になりそうだしな」 昨年は散々だった。 あまり思い出したくもないほどに……。 合コンも×。 ネットで知り合った子とも×。 そして男4人で海に向かいナンパをしてみれば、俺と黒部だけ振られる始末。 「佐藤と鈴木の二人は今でもその時の女の子と付き合っているんだろ? 良いよなぁ~」 「妬むな僻むな。俺らとアイツらの違いを分析してみろ? 何が違う?」 ぶっちゃけ顔の見た目なら俺や黒部の方がマシ。会話だってそれなりに盛り上がっていた。 とすると……。 「カラダ、じゃね?」 「俺もそう思う。佐藤や鈴木は海に行く前から肌を焼いてたし、体格だってわずかだが俺らより仕上がっていた。 野郎目線でそんな差があるなら女子目線であればどうだ?」 俺は黒部と堅い握手を交わした。分析の結果はカラダ、だと結論が出た。 「日焼けサロンで男を上げようぜ。今年こそ虚しい夏から逃れるために。俺たち二人でさ」 「よく言った永輝。俺こそサバゲーで知り合う女の子に『コンバットジャケットを脱いだら虚弱っぽい』なんて冷めた目で見られるのは避けたい』 と言う事は過去に言われた経験があるんだろう。そこは触れずに紳士らしくスルーしておいてやる。 こうして非モテな俺たち二人は無料チケットを握り締め、店開きして間もない日焼けサロンへと向かった。 駅前の商店街を抜けて住宅街へと切り替わる境い目に立地する三階建ての小さな雑居ビル。 通りに面した一階には閉じられたままのシャッターに「◯◯書房」と言う文字が消えずに残っていた。 そう言えば街の小さな本屋さんてずいぶん減ったよな、と一抹の寂寥感を味わう。 脇の狭い階段を昇り三階に到着。 一つのフロアに一軒しか店舗は無いので、目の前にあるドアがメンズオンリーの日焼けサロン『ブラックギルティ』であった。 「いらっしゃいませ~。当店は初めてっすか? あ~、無料チケットでのご利用っすね~?」 室内なのにサングラスをかけ、金色の髪を短くツンツンに立てたチャラ目なアロハ兄ちゃんが受付カウンターの中でタバコをふかしていた。 日サロの店員らしい褐色の肌をしているが……。 「あ? これ? タバコじゃなくてただのお菓子だよ? 店内は禁煙っす。お客さんもタバコはご遠慮下さいっす」 紛らわしいな。タバコかと思ったぜ。 「最初に確認させて欲しいんですが、本当に『無料』なんですか?」 ナイス黒部。そこだけは押さえとかないとな。後で料金で揉めるのだけは避けたい。 「ハイハイ、そうっすよ~。チケットを持参されたお客さんは無料っす。追加料金とか全く無いっす。安心して欲しいっす」 「ちなみに、日サロに来ること自体が初めてなんですけど、何回くらいで希望した肌の色に焼けるんですか?」 何度も何度も来なくちゃ効果が無い、となると結局はお金も時間もかかってしまう。 「うん? 肌の色っすか? どの程度の焼き具合を希望されてるのかにもよるんすけど、俺と同じ程度で良いんでしたら5、6回程度っすね」 そう言うとアロハ兄ちゃんは真っ赤なハイビスカス模様のシャツをサッと脱ぎ捨てた。 「うわ!?」 「すげぇ!」 脱ぐととんでもないマッチョボディが現われた! 「へへっ! 良い反応ありがとうっす~!」 胸や腹を撫で回して自身の焼け具合をドヤるアロハ。 単にカラダを見せびらかしたかったような気がするけど、驚いたのはそっちじゃない。 「しかし、凄いカラダですね。まさかそんなにムキムキボディだったとは……」 アロハシャツがゆったりしてて目立たなかっただけだったのだ。素人目にもヤバ過ぎな肉体美だろう。 いきなり目の前にボディビルダーばりのマッチョが現われたもんで黒部もただただ筋肉のボリュームに圧倒されている。 「あ? これ? こっち? まぁ、自分で言うのもなんだけどぶっちゃけカッケーっしょ? でも、お客さんだってこれぐらいに仕上がるっすよ?」 「は? いやいや何を言ってるのか分かりませんけど、俺らただ単に肌を焼きに来ただけなんで、筋トレに来たつもりはまったくありませんから」 ここは日サロでありながらジムへの勧誘も行っているんだろうか? 無料券に縋らないといけないほど寒いフトコロ事情の俺も黒部もジムに通う費用などありはしない。 「あ~、ん~、まぁ、普通はそう思っちゃうっすよね~。俺も最初はそうだったしねぇ~」 何を言いたいんだろう? マッチョボディはカッコいいけどよく分からない事をぶつぶつ言われていると少々イラついて来てしまう。 「えっと、とにかく時間がもったいないので話を先に進めてもらえませんか?」 黒部も俺と似たような文句をアロハマッチョに言い渡す。 「おおっと、こいつはすんません。ま、実際にマシンを使ってもらえれば分かるコトなんで説明だけ先にさせてもらうっすね~。こちらへどうぞ~」 アロハマッチョが受付カウンターから出てきて日サロマシンを置いてある部屋のドアを開けた。 ――の前に、まさかカウンターに隠れてた下半身があんな恰好だとは思わなかったから思わず目をひん剥いて見入ってしまった。 「ぶほぉっ!? ちょ! な、なんでケツワレなんですか!?」 「うわ~、俺、あんな下着初めて見た」 アロハマッチョの下半身は、なんとケツワレサポーター一枚だけ、だったのだ。 キュッと引き締まっているプリケツで、なんだかその気が無くともなまめかしさを感じさせる良いケツだが……。 「へへへ、似合ってるっすか? 自分的には穿き心地もいいし見た目も良い感じだし、気に入ってるんすけど」 「いやでも、それ、ほとんど透けてるじゃありませんか! どうせならせめて水着じゃないと!」 恥ずかしくないんですか? と言いかけた俺。でも、俺たちの方に向き直ってモッコリとした膨らみをむしろ堂々と見せつけるアロハマッチョの笑顔を見てこれ以上言うのを止めた。 世の中には露出好きやナルシストって言う人種もいるんだ、と思い当たったからだ。 無料で利用させてもらおうって立場なのにつべこべ批判するのも気が引けるし。 「けど、それだけ肌が黒くて逞しいカラダだとケツワレも決まってますね」 急に何を言い出すんだ黒部。 その気なんか無いくせに妙な空気を作るんじゃねぇ。 「でしょでしょ! この衣装、結構評判が良いんすよね~! さ、どうぞ! 奥へ入っちゃってくださいっす!」