1アンノウンマスク 「いやぁ~! 超興奮した! 今日もすんげぇ闘いだったなぁ~! 特にバスターマスクと臼馬鹿下郎マンとの一戦は超熱かったぜ!」 とあるプロレス団体の試合を観戦した帰り。 興奮冷めやらぬまま上機嫌で夜道を歩いていると顔に何かが飛んで来て張りついた。 「うわっ! ぶっ!? な、なんだぁ?」 剥がして広げてみれば黒地に赤いラインがV字に入った頭全体を覆う「全頭マスク」ではないか。 先ほど見て来た試合のプロレスラーのもの? いや、もう会場となった場所からは何キロも離れているし、こんなマスクを着けていた選手はいなかった。 「どっから飛んできたんだ?」 辺りを見渡してもさっぱり分からず、持ち主が駆けつけてくる気配も無い。 マスクを持ったまましばらく状況を窺っていたが、静かな住宅地は猫の鳴き声が遠くから聞こえてきただけだった。 「しょうがないな。一旦預かっておこう」 明日にでも交番へ届けにいこう。そう思った俺はマスクを持ってそのまま自宅へと戻った。 ◇ 「しっかし、カッケーよなぁ~! バスターマスク! 俺もあんな風になりてぇ~」 部屋に戻りベッドに横たわって先ほどの試合を反芻する。 買った選手カードやキャラグッズを眺めては憧れのヒーローレスラーに思いを馳せた。 そして、そのすぐ後に自分のカラダの貧弱さに幻滅する。俺の……、いつものパターンだ。 「もう少しどうにかなんねぇかなぁ。ちょっと細すぎだろ?」 病弱ではないのだが食べても太らず鍛えても筋肉が付かない。 太りやすい人からは凄く羨ましがられるけれど、カカシみたく細いってのもどうかと思うんだ。 バスターマスクみたいなムキムキマッチョに……、とまでは行かずとももう少し肉が付いて欲しい。 微妙に落ち込みつつバスターマスクのキャラキーホルダーを見つめていた時だった。 ――ふと思い付いた。 「そうだ、さっき拾ったマスク……。付けてみたら少しはかっこよくなるかな?」 バッグにしまったままのマスクを引っ張り出し匂いを嗅いで確かめる。 よし、別に臭くはない。無臭だ。 なら、身に付けても大丈夫だろう。交番に届ける前にはちゃんと洗っておけばいい。 誰のモノかは分からないがすみません、少しお借りします。 ――後頭部に開いたスリットから顔を収め、目とか鼻の位置をこう調節して、と……ん? なんだ? なんだ? ズルルって勝手にマスクが動いた? ジャストの位置に合わせてくれたような……? んな訳ないよな。まぁ、気のせいだろう。マスクがひとりでに動く訳ないし。 ともあれ、マスクは俺の顔にぴったりフィットした。まるで最初から俺のために作られたかのように丁度良い。 隙間なく顔に張りつき皺も弛みも全く無い。視界も呼吸もスムーズだ。 「凄いな。着け心地抜群じゃん。まるで俺の皮膚になったみたい……」 目の部分もマスクで塞がれているのにここまで視界良好だとは正直思ってもみなかった。瞬きしても擦れる感触が無いなんて。 かぶった瞬間穴でも開いたのか? と思って手をやってみるとちゃんとソコにもマスクの存在を感じる。 どういう仕組みになっているのかは分からないが、着け心地にここまでこだわっているのか、と感心するばかりだ。 鏡の前に立って確かめる。 V字の赤いラインが黒一色の中で際立っていて、ヒーローと言うよりもヴィランみたいだけど実にカッコイイじゃないか。 これでカラダがムキムキなバスターマスクみたいだったらもっと映えるに違いない。 俺は脳内でマスクを身に付けカラダが逞しくなった俺とバスターマスクがリングで向かい合い闘う様子をイメージした。 激しくぶつかり互いに技をかけようとして腕を掴んだ。 すると何故か、バスターマスクの股間と俺の股間が触れあい、チンポ同士がゴリゴリとこすれる情景が思い浮かんだ。 「うああ! めっちゃくちゃエッチぃなオイ! 何考えてんだ俺! そいつはヤバいだろ!」 ちょっと待て。なんかおかしいよな? 俺と同じ男に、しかも憧れのプロレスラーさんにそんな卑猥な発想をする訳がない。いかに溜まってたとしても男に対してエロ目線で興奮なんてするなどあり得ない。 脳の半分は思い浮かんだイメージを冷静に否定しているのに、残りの半分ではさらにバスターマスクに技を掛けようとして股間をむんずと掴み、その熱く脈打つどデカイ肉棒をダイレクトに感じているではないか。 派手なビキニの内側でビキビキ勃起してカタチを浮かべていくバスターマスクのどデカイちんぽ……。 「バスターマスクのチンポ、筋肉みたいにパンパンに膨らんだデカチンポ、はぁはぁ、ああ~、ヤベェ! 超エロいって!」 って、タンマタンマ! 何でだ!? 違うだろ! どうしてそんなイメージを描いてんだよ俺! 改めて言うまでも無くバスターマスクさんは男だぞ? 男のチンポ掴んでどうして俺まで興奮してんだ! まぁ、正直に言うと相当デカそうなイチモツだな、と思った事は確かにある。 ビキニを押し上げるバスターマスクのアソコに視線が行くことも、結構ある。 実際に中身の「実物を」見た事は無いけどアソコのモッコリ具合から何となく想像してこれぐらいはあるだろう、とイメージした事も確かにあった。 だけど、それで俺まで興奮して勃起するなんて訳が分からない。ソレとコレとは別の興味であって、性的なアレやソレなんかでは決してない筈だ。 その筈なのに、バスターマスクのチンポをリアルに想像してドキドキと興奮してるなんてやっぱおかしい! 俺がオカズにするのは女の子だけであって男なんか対象外かつ邪魔な存在でしかないのだ。 「ああ~! 超ムラムラしてる! 今すぐヌキてぇ~!」 男をオカズにするなんて初めての事になるが理屈を考えている余裕はない。 脳内ではバスターマスクの勃起したデカいイチモツを撫で回して、そのボリュームや形をじっくりと手で味わっている。 俺の中にそんな一面があったなんて、ここまで具体的に男を性欲の対象としてイメージするなんて、我ながら信じられないがこんな風に想像してる以上、否定はできない。 じわりと溢れる先走りが「早く扱け!」と催促している。 このまま扱けば「引き返せない」かも、と不安はあるものの妄想は止まらず興奮と股間の昂りに抗えなくなった俺は、遂にオナニーしようと鏡の前からベッドへ戻ろうとした。 ――が、足が動かない? いや、なんだこれは? 手も動かないし全身が動けない! 「ど、どうなってんだ!?」 口は動くから声だけは出せる。けど、今の自分の状態は明らかに異常。理解ができない。 心臓がドクン、ドクン、と激しく脈打ち耳の奥で激しく鳴り響く。 汗が滲む。不安が込み上がる。けれどエロい興奮はさらに強くなる。どうしてだ? カラダは言う事を聞かないのに野郎同士の淫らな妄想だけがさらに加速し、俺の脳内で行為の「続き」を投影していく。 「んはぁあっ! ば、バスターマスクのケツに!? んう! チンポが! 入って……入った! あっ! キモチ、イィっ!」 イメージなのにやけにリアルな肉感を感じながら俺のチンポがバスターマスクのアナルにズププと入り込む。 嫌々と抵抗しながらも満更でも無い表情を浮かべるバスターマスクの「奥」へさらに腰を沈め、そして中を深くえぐるように前後にピストンを開始。 あまりの締め付けの心地よさに驚き、そして俺のチンポは容易く絶頂に至ってしまう。 「ん゛あ゛あ゛! や、ヤバ、い、ヤバイもうっ! い、ぐぅっ! イク! イクイクイクッ! ッイ゛ッグゥゥーーーーーーーーーッ!」 妄想の中の俺がイクのと同時に、生まれて初めて俺は男で、しかも触れる事無くイメージだけで射精した。 今まで感じた事の無いような猛烈な快感が襲い掛かり、俺の視界がパッと弾けて真っ白に、いや、マスクと同じ真っ黒に染まった。 これが俺のもう一つの初体験。生まれて初めて俺は、ブラックアウトして意識を失った。 ◇ 再び目が覚めると俺は素っ裸でベッドに横たわっていた。 全裸になっていた以外に別におかしな点は無さそうだ。 枕元を振り返れば昨夜拾ったマスクがあった。 「あれから……、どうなったんだ?」 マスクを付けて卑猥な妄想で興奮し、そのままオナってイった――、ような記憶はあるけれど細かい部分が思い出せない。 いつ服を脱いだのか。 ぶっ放した精液はちゃんと処理したのか。 チンポや股間周りにべたつきは感じられない。と言う事は、ティッシュでキレイに拭き取りはしていたんだろう。 「どわわ!? もうこんな時間かよ!」 時計を見れば8時を指していた。 いつもならとっくに家を出て大学へ向かっている頃だ。 「一時間目は出欠に厳しい嵯峨沢先生じゃん! 早く支度しないと!」 朝食はすっぱり諦め服だけを着てさっと部屋を出る。 昨夜の謎はこの際後まわしだ。 駅までダッシュして何とか快速に飛び乗る。 「こ、これで何とか、間に合う、な」 ゼイゼイと肩で息をしながら安堵し、吹き出た汗をぬぐおうとバッグからハンドタオルを取り出す。 すると、黒い布がハンドタオルと一緒に出て来た。 「あれ? いつの間に?」 黒い布とは昨夜俺の顔に飛んで来たあのマスクだった。 一度は身に付けてしまったし交番へ届ける前に洗濯くらいしておかないとな、と考えて置いて来た筈、なのに。 謎めいた気持ちのまま快速電車は線路を軋ませ、目的地へと俺を乗せて運んで行った。