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鷹取リュウゴ
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リビドーマスク・エキサイト 6

6エンカウントマスク     「やぁ、いらっしゃい。おや? もう一人は例の新しいお仲間くんかな?」 「こ、こんにちわー! 『成川 広人』、って言います! マスク寄生体になれて一か月の新人っす!」 ガラナンカレーのオーナーである弓弦さんが笑顔で俺たちを迎えてくれた。 「元気があっていいね~。でも、マスク寄生体って言葉はできるだけ控えてもらえるとありがたいね」 「うっす! 以後気を付けます!」 「っはは、ま、そう固くならずに」 弓弦さんに促されてカウンター席に着く。 イスが前にマスクを手に入れる前に来た時よりも随分と小さく感じる。 「前にもたまにお邪魔してたんですよ? オーナー、俺の事、覚えています?」 「もちろんさ。今の姿とは全く別人の時の広人くん。覚えてるよ」 「さすが弓弦さん。美味いザーメンカレーを作れるだけあって記憶力も半端無いですね」 「こらこら。ザーメンカレーってのもNGだぞ? 他に聞かれでもしたら即営業停止処分だ」 「す、すみません。弓弦さん……」 中野がカウンターに額が着くほど頭を下げた。 それを見た弓弦さんは「まぁ、お客は君たちだけだし今は大丈夫。でもこれからは気を付けて欲しい」と寛大に許してくれた。 「さて! 今日のメニューは? どのカレーにしようか? スペシャル? それとも他のメニュー?」 全部弓弦さんの特製ザーメン入りだから何を組み合わせても超美味いんだ、と店に来る前、中野がウキウキした様子で俺に話してくれた。 さて、どれも美味いと思うけど何にしようか?  メニューの画像を見ていると小エビやイカが目に止まった。 「俺はシーフードにします! 特盛で!」 「中野くんは?」 「ん~、今日はキーマ(ひき肉)にします。普通盛で」 「おや? 控え目だね?」 「っすね。コイツからたっぷり精液を飲まされましたんで」 「なるほど。そうか」 「聞いて下さいよ弓弦さん。広人ってば散々俺の中に射精しまくってたくせに、俺のは半分も顔や腹で受けやがるんですよ! 俺の特製ザーメンを無駄にしてるんです!」 ガラナンカレーのオーナーでありシェフでもある『大石 弓弦』さんは中野の愚痴を背で聞きながらあっという間にシーフードカレー特盛と、キーマカレーの普通盛を俺たちの前に置いた。 「でも、一昨日なんて中野の方が精液を塗ると肌のテリツヤが良くなるからっつって、精液を乳液みたく塗りたくるばっかでちっとも飲まないし、アナルにぶち込んだのも押し戻して肌に塗り込んでたんですよ! まったくけしからんでしょう?」 「まぁまぁ。二人とも。毎晩セックスしているようだし喧嘩する程仲が良い、って感じだね」 「「どこが?!」」 俺と中野の声が被った。 「ほら。そう言うトコ」 俺と中野の目が合った。照れ臭くなってすぐに視線をカレーに戻す。 ま、まぁ、コイツとのセックスは最高だし、見た目も結構好きだし、欠点なんかほとんど、てか全然見当たんねぇし……。 「それにしても、広人くんも見違えたねぇ~。前に来てくれた頃は病気かな、って心配になっちゃうくらいスリムだったからなぁ」 中野ほどじゃぁ無いにせよ俺もガラナンカレーにはたまに食べに来ていた。 安いし美味いし、なにより財布に凄く優しい価格だったからだ。 「ここまで良いカラダになれたのは全部マスクのお陰っす」 「俺も協力しただろ? 精神結合も筋トレも」 「う、うん、そうだな。ありがとう……、中野……」 今度は中野が顔を真っ赤にしてキーマカレーを一気にかきこんでいる。  中野のお陰で完全にマスクとの精神結合を果たした俺は、数日の間精液ばかりを口にしていた。 中野の精液、そして自分の精液。 どちらも美味で、他に欲しいとは思わなかった。 中野の方が甘味があるな、とか俺のモノは塩気が強い、みたいな味の違いも分かって面白く思えた。 「どんだけ射精しても尽きるって事は無いのかよ?」 「マスクさえしていれば無尽蔵だな。続けて射精してると精神的な疲労はあるがマスクを外せばそいつもリセットだ」 そう。 中野の言う通り何時間もセックスできるし、何十発と射精し続けられるほどタフになっていた。 たっぷりセックスを愉しみマスクを外せば不思議な事に疲労は元より眠気も無くなってしまう。だから一晩中ヤりまくってても睡眠不足になっていない。 顔射されてドロドロになっててもおかしくないマスクだって一切の痕跡も無く未使用のように変化が無い。 いや、単に変化が無い、と言うと少し間違いだろう。 清潔度合いの変化は無いが、使うにつれ形状が少しずつ「変化」していた。 まずは目元。目の部分が少し浮き上がってそこが「目」であると明確になった。 次に口。 鼻の下の何も無い平たい領域に横一文字の線が刻まれ、口であるとの主張を見せ始めていた。 中野のマスクも初めて見た時よりも幾らか変化が現れていた。 「目」の盛り上がった部分の色が黒っぽくなりサイズが倍ほどに拡大していた。 どうしてそのような変化が見られるのかと聞くと、マスクもまた成長しているからだ、と返ってくる。 成長と言えば俺のカラダ。肉体の変貌ぶりの方はもっと凄まじい。 中野とたった5回のセックスで、日数で言うと五日間で20キロも体重が増えたのだ。 セックス中なのにメリメリ、ゴキゴキと音が聞こえるもんだから何かと思えば俺の体重が、主に筋肉が増大している音だったのだ。 50キロ手前だった俺の体重は五日後には70キロへ。 ボクサーみたいな引き締まった筋肉質の体形へ成長した。 さらに五日後には90キロへ。筋肉がこれでもかとサイズアップし、誰が見てもマッチョと呼べる肉体になったのだ。 憧れのカラダ。夢にみたマッスルボディ。俺は喜びで有頂天になった。 しかし、 「ただデカくなっただけじゃん。甘いぞ広人。俺をよく見ろ。筋肉それぞれカタチやバランスを考えて筋肉の付き方をコントロールしながら育ててやるんだ。メリハリが大切だからな」 中野が自身のカラダで実際に証拠を見せてくれるのだから説得力は半端無かった。 「かく言う俺も桃里さんからの受け売りさ。寄生体に覚醒してほとんどの脂肪が筋肉に置き換わったが、筋肉の専門家視点じゃ全然ダメだと言われたよ」 「桃里さん」はジムのトレーナーをしている人らしい。 らしい、と言うのは俺はまだ会った事が無いからだ。 ともかく、セックスを存分に味わった後は中野と一緒に筋トレをするのが日課になった。 互いにフォームをチェックし負荷をかけあったり励まし合って筋トレするのは普通に楽しかった。 筋トレの疲労はマスクを付ければ消え、マスクを付けていれば激しいセックスをしても疲れない。 そうやって俺は肉体により磨きをかけ、筋肉のサイズや形を最高のものへと仕上げていった。 初セックスから一か月後。 わずか一か月で俺は中野に追いついた。 プロのボディビルダーばりにバランスよくバルクアップした筋肉。逆三の上半身にくびれた腰。パンパンに肥大した太もも。 マスクのお陰で俺は見違えた。嬉しくなって別のダチに見せびらかしたくなった。 「なぁ! どうだ? 俺のカラダ見て、なんか気付かねぇ?」 「……いや、別に? なぁ、って言われてもなぁ」 季節外れのタンクトップを身に付け、ビルダーみたいにポーズを作る。 なのに反応が薄い、なんてもんじゃない。無い。反応がゼロ。せっかくこんなスーパーボディを手に入れたってのに! 眉一つ動かさずスルーされてしまった。超ショックだ! 自信満々でドヤる俺の方がマヌケみたいじゃないか! 「広人。俺の時のこと忘れたのか? お前だって自分がマスクを付けるまで俺に何の反応もしてなかっただろ? 一度マスクを付けて、さらに前のデブ画像と比較してやっと、だったじゃん」 「あ、そう言えば……」 マスクが俺の肉体を変えるように周囲の者の見え方も違和感が無いように変えているのだ。 マスク寄生体の者だけがマスクによる肉体の変わりっぷりを認知できる。 ◇  「ごちそう様でしたっ!」 スプーンを置いてグラスにあった水を飲み干す。 「超美味かったっす~!」 先に食べ終わっていた中野が「やっぱ特盛にしても腹に入ったかも」と後悔している。 会計をお願いすると弓弦さんがタダでいいよ、と言う。 「その代わり、少し時間をもらってもいいかい?」 弓弦さんはそう言うと店頭に「本日の営業は終了しました」との札を掛け、店内の照明を半分に落とした。 「広人くんに確かめたい事があるんだ。と、その前に……、もうすぐ到着するかな?」 弓弦さんが時計を見た。丁度16時になろうとしている。 すると店舗のドアが勢いよく開いた。 「どもどもどーも! 桃里ちゃんでーっす!」 テンションたっか! 赤いチノパンに黒いフェイクレザージャケット、中のへそ出し白インナーてのがまた派手派手だ。首にシルバーネックレスを掛けクリームイエローキャスケット帽子のコーディネート。 「おいでなすったようだ。君たちが来ると聞いて浜中くんも呼んだんだ」 「弓弦っさ~ん! 浜中なんて他人行儀な名じゃなくって『ト・ウ・リ』、って呼んで欲しいっす~」 「桃里さん、お久しぶりっす。にしても、いつも以上に派手、じゃなくて決まってますね」 中野が引き気味に褒めた。 「あんがと! 中野ちん! いつもカッコいいっしょ?」 「ど、ども! 初めまして! 俺、『成川 広人』って言います! よろしくお願いします!」 「あ~! ニューフェイスの子だ! 話だけは聞いてるよ~。なんでも、『拾った』マスクと合体しちゃった、って言う じゃない? 凄いねぇ~、偉いねぇ~、後でお兄さんとセックスしよ?」 思わずブーッ、と噴き出した。 まさか直球で誘ってくるとは! 「桃里くん。取りあえず席についてくれ。丁度今から広人くんのマスクについて話をするところだったんだ」 弓弦さんはもう一度店の入り口まで出てカーテンを閉じた。 ◇   俺はマスクを拾った時の状況をできる限り思い出して弓弦さんや桃里さん、そして中野にも改めて聞いてもらった。 「……ねぇ弓弦さん。手持ちのマスクの数、確認した?」 桃里さんが弓弦さんに尋ねた。 「ああ。この話を耳にした時、まっしぐらに確認したさ。でも、一枚の不足も無かった」 「おっかしいよねぇ~。じゃぁどこの誰のマスクなんだろう?」 「あの。素朴な疑問なんすけど――」 恐る恐る手を挙げてみた。 「とても貴重なマスク、ってのは理解できます。こんな力があるマスクなんて常識的には考えられませんし。 秘密にしておきたいってのも理解できます。 だけど、そもそもこのマスクって何なんですか? 『生きているマスク』ってだけじゃさっぱり、なんですけど」 「弓弦オーナー、俺も広人と同じ質問をしたいっす。弓弦さんから頂いた時に聞きそびれたせいで今まで黙ってましたが、俺も広人と同じでマスクとは何か、いつも疑問に思っていました」 「頃合い、ってやつかな?」 弓弦さんが桃里さんをじっと見た。 「だろうねぇ~。俺もそろそろ打ち明けた方が良いと思うなぁ~」 くるくるとキャスケット帽を回していたがピタッと止めて真顔になった。 と、ここで弓弦さんのスマホが鳴動した。 タイミングが悪いな、とぼやきながらスマホの通知を見た弓弦さんはハッと目を見開いた。 「タイミングが悪い、ではなく最高と訂正しよう」 悪いね、と前置きをした弓弦さんはスマホの相手と通話し始めたがすぐに通話を止めた。 「これから来ることになった。俺たちと同じマスク寄生体の、……仲間だ」 「ええっ!? あの人も来るんですかぁ~?」 桃里さんが腰を浮かしてまで驚いている。 弓弦さんが手の平を下にして桃里さんを落ち着かせた。 「ああ。俺も少し緊張している。今までは電話で話すだけだったしな。あと15分ほどで到着するらしい。それまでは お茶でも飲みながら互いの近況でも話そう」 誰が来るのかとても気にはなったが弓弦さんも桃里さんも目に見えて浮足立っているので聞きにくい。 中野に水を向ければ「さぁ? 俺も分からん」と素っ気ない。  そうして、まさしくお茶を濁す事15分。 とうとう弓弦さんと通話した人物が俺たちの前に現れた。 ドアを開けて迎え入れたオーナーの動きが何だかぎこちない。 桃里さんも席に座ったままじっと固まっている。 俺と中野もそんな二人の様子に引っ張られて固唾を飲んでいる。 「おいおい? そんな雰囲気はよしてくれよ。俺はここに闘いに来たんじゃねぇんだしよぉ」 ん? どっかで聞いた事のある声だ。 「こっちの二人は見ない顔だが、ここに居るってことは少なくともマスク寄生体仲間なんだろう? ぃよぉ! 俺は『柳葉 双牙』ってんだ! よろしくな!」 「ええっ!? や、やや、やなぎば、そ、そそそ、そうが!? てことは『バスターマスク』さん!?」 思わず声が裏返った。 目を擦って自己紹介をした人物を見た。 ああ! やっぱりバスターマスクさんだ! ファイティングマスクは着けてなくて素顔だったからすぐには分からなかったけど、 背恰好。目の雰囲気。声。そして、俺があのマスクを拾った日の試合で付いた腕の傷! 確かにバスターマスク、その人を物語っていた。 「お? おおおっ? お前さん確か、熱心に俺の試合を見に来てくれてた兄ちゃんじゃねぇか? つか、しまったなぁ、こんな所で正体がバレちまうとはなぁ」 握手やサインも毎回してもらっているし、ファンミーティングで一言二言ながらトークもさせてもらった事がある。 その時もバスターマスクはファイティングマスクを付けたままで素顔にはならなかった。 だけど! 「は、はいっ! あなたの大大大ファンの『成川 広人』っす! お、おお、お会いできて超光栄っす!」 語彙が。圧倒的に語彙が足りない! 大好きなバスターマスクを目の前にすると、俺の脳はミジンコ並みに小さくなってしまう。 「良かったね広人くん。あこがれの人に会えたようで」 弓弦さんの声で現実に引き戻された。 そうだ、ここはファンミの会場じゃない。そして、バスターマスクさんもこの場に加わると言う事は――。 「完全に信用した訳ではありませんが、お話を伺ってみて少々納得する部分もありましたのでお声掛けしたまで」 「わぁーってるってぇ、そんなことは。俺の事はまだ怪しんでもらってて構わねぇし。今更謝罪とか言い訳とかするつもりは無ぇけど、 少なくとも敵になるつもりも無ぇって事だけ押えといてくれりゃぁ良い」 む? 弓弦さんとバスターマスクとの間に何だか微妙な距離を感じてしまった。 謝罪とか言い訳とか、敵? 敵ってなんだ? まさか弓弦さんと敵対してたのか? 「時間がもったいないし本題に入ろうか。まずは広人くんが入手したマスクの件について」 そうだ。俺もバスターマスクさんの登場にはしゃいでる場合じゃなかった。 「俺ぁ自分のモノしか持ち込んで無ぇ。あん時、アイツの罠にかかって手も足も出ねぇって状況にしちゃぁ良くやったほうだがな」 バスターマスクこと柳葉さんが憮然とした顔で口にした。 「それは電話でお聞きしました。俺の方も手持ちの数に異常はありません。そして、私の知る限りではこちらに来た者がマスクを紛失した、と言う情報はありませんでした」 「新たにやって来た奴がいた、ってのは?」 「その可能性はあります。しかし、ゲートが開いたのならさすがに俺でも反応できます」 桃里さんの意見については保留と思いきや否定、って感じだ。 俺はすでにちんぷんかんぷん。弓弦さんたちの会話に付いていけなくなっている。 中野の顔色を窺ったが中野も案の定「何のことやら?」と顔に書いてある。 「マスクが単体でこちら側に転移してきた、って可能性もあるにはありますが、あくまでも可能性であってほぼゼロだと思われます」 さすがに俺のマスクが議題になっているのに俺が置いてけぼり状態なのはやるせないから隙をついて手を挙げた。 「はい! 弓弦さん、質問いいすか?」 「なんだい?」 「さっきの質問の繰り返しですけど、そもそもマスクとは何なんですか?」 「この二人も交えるんならそっからハナシた方が良いッスよぉ~?」 桃里さんが俺らの援護射撃をしてくれた。ありがとう桃里さん。派手だけど空気読むのが上手い頭の切れるヒトって感じだ。 「ま、新顔さんが二人も居るんなら洗いざらい話しちまえよ。俺とお前との確執についてもな」 ああ、やっぱり弓弦さんと柳葉さんの間にはトラブルがあったのか。 「俺も初めて話を聞いた時は頭が消化不良起こして半分も理解してないんすよね~。念のためもう一度おさらいさせてもらえないっずかぁ~?」 ダメ押しの桃里さん。 「精神結合も済んでるんですし~、この先は二人に協力を求めていくつもりだったんでしょう~?」 え 協力ってなんだろ? 俺と中野、弓弦さんから仕事でも依頼されんのかな? 目を閉じて考え込んでいた弓弦さんが俺たちの方に向いて姿勢を正した。 「そうだね。ここらが丁度良い時期なのかも。――中野くん、広人くん、それに桃里くん。少々長い話になりますが良く聞いて下さい」 「へ~い」 桃里さんが軽い感じで返す。 でも、目はちっとも笑って無くていつもの「へらへら」モードじゃないのがビンビン伝わってくる。

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