8クリミナルマスク 6年前、本戦に残った14人の選手、通称「ラストフォーティーン」の中に、弓弦さんと柳葉さんも居た。 そして、沖之石、と言う男も。 絶対に使用してはならない反則のマスク――『ファウルマスク』を使ってまんまと高位マスクの一枚を手に入れ、そのまま本戦が行われる舞台へと乗り込んで来た。 誰もその時点まで沖之石が『ファウルマスク』を身に付けているなど考えもしなかった。 とっくの昔に闇に葬られ、誰も手出しができないよう厳重に封印が施されたマスク。そんなマスクを使ってまで栄えある大会に臨むなど。 正々堂々、一切の武器使用も認められない、己が肉体のみを武器とする男の中の男を決める大会にあって反則マスクを使うなど、運営も審査員も、誰も考えもしていなかった。 だからこそ隙があった、と言わざるを得なかった。 「最後の決勝戦、沖之石と俺の生涯のパートナーである『雀 剛(すずめ たけし)』が試合を行った。 途中までは剛が優勢でそのまま勝利を収めるかに見えた。だが、急に剛は力を失い、後は沖之石のなすがまま、ポイントをあっさり逆転され沖之石が勝利してしまった。 その試合の一部始終を見ていたのに俺は、沖之石が『ファウルマスク』を使っていたとは見抜けなかったんだ」 「んなもん、見抜ける訳がねぇ。『ファウルマスク』ってのは偽りのマスクだ。着けているのに着けていないように見せかける何ざお手の物だろう。 歴代のキングも、長年審判を務めている奴らも見抜けなかったくらいだ」 柳葉さんが弓弦さんを思いやって優しく励ましている。 「後で知ったんだが、沖之石はマスクを二枚重ねで使用していた。下に『ファウルマスク』を使い素顔のように見せかけ、その上に高位マスクを重ねて着けた状態、ダブルマスクで剛と試合を行っていたんだ」 ◇ 決勝戦の試合直後、何かがおかしい、と気付いた「大石 弓弦」のパートナーである「雀 剛」は、自身の疑問を晴らすべく沖之石の選手控室を訪れた。 「俺の勘違いでしたら申し訳ないんですが、沖之石さん、本当に、その、あなた自身の力で闘ってくれていたんでしょうか? 何だか俺、あまりにも急に逆転されちゃって、気持ちが動転してるだけかも知れないんですが、マスクの下にもう一枚マスクがあるように見えてしまったんです」 「…………」 「何とか言ってもらえませんか? このままじゃ俺、査問委員会に掛け合ってしまいたくなってしまいます!」 査問委員会とは前回までキングの地位にあった者が主要メンバーとなり新しいキングについて査問する委員会である。 マスクトーナメントを正しく運営するためのサポート機関ながら、長らくその委員会は開催されていない。 もしもその委員会が開催され、違反が認められれば最悪の場合「キング位」のはく奪も可能。準優勝の者がキングに繰り上がる。 「俺は、本当は査問委員会なんて望んでいませんし密告みたいな事は嫌なんです。だから、直接あなたの口から聞きたいと思って、ここへ来ました……」 「…………」 「何も、何もおっしゃって下さらないんですね……。敬意と、欲望とをぶつけ合った俺とあなたの試合。俺は、こんなモヤモヤした感情を抱いたままじゃなんだか納得できません……」 「――うぜぇ」 「は?」 「超うぜぇ。ああ、もういい子ぶるのはこれでヤメだ。はーあ、窮屈だったぜまったくよぉ。何が正々堂々だ? んなもんクソ食らえだ!」 「お、沖之石さん?」 「バッカじゃねぇの? 敬意って何だ? お前、闘う相手にそんなもん感じてんの? はぁ~、くっだらねぇ~」 「沖之石さん! 俺たちは! マスクドファイターは! キングを目指して幼いころから地道に鍛錬と修行を重ね、こうやって鋼の肉体と性器とを手に入れそしてぶつけ合う! それのどこがくだらないんですか!」 「それそれ。そいつがくだらねぇんだよ。何が地道な鍛錬と修行? バカじゃねぇ? 限りある人生をそんなつまんねぇモンに捧げちゃってんの? マジでイカレてんじゃねぇ? 俺はラクに、気ままに、思い通りに生きて行きたいのさ。だから金が欲しい。もらえるんなら名誉も欲しい。 そこいらの男どもを俺の肉便器として自由に種付けしまくりてぇ。だからキングになろうと思った。 てめぇらが憧れるような存在になるためじゃねぇ。俺の個人的な快楽を、欲求を満たすためだけにキング位を掴んだまでだ」 剛の腕がぶるぶると震えていた。 「おおっと? 場外での乱闘は問答無用でムショ送りだぜ? マスコミの奴らにとっちゃ恰好の餌食になるなぁ~?」 ニヤニヤと笑う沖之石。あきらかに剛を挑発していた。 だが、剛はかろうじて拳にこもった力を抜いた。 「それが、沖之石さんの本音、だと言う事は分かりました。……それは、とても不本意ですけど、個人の感情は俺がとやかく言えるモノじゃありませんから、嫌ですけど納得はします。 ですが、さっきの試合のアレは何だったんですか? 俺のカラダから力が抜けて、吸い取られたみたいで……。 俺は、コンディションは完璧でしたし何の異常も試合前には感じなかった。いわば最高の状態で臨んでいたのに、どうして……」 「超うぜぇ。これでその疑問も納得しろよ」 沖之石が顎に手を掛けた。 ベロベロと剥がれていく沖之石の皮膚――いや、それは皮膚では無かった。剥がれた部分から色を変え、紫色の「マスク」へと姿を変えていった。 「な!? 一体どうなって!?」 「まだ分からんのか? こいつはマスク。素肌のように擬態できる反則の『ファウルマスク』さ」 「まさか!? ファ、ファウルマスクだって!?」 剛の額から冷や汗が噴き出す。誰にも触れられないよう厳重に封印されている筈の、反則の『ファウルマスク』を使ってまでキングになり上がった男の危険性に頭の中ではアラートが鳴り響いている。 「ま、コイツの事を知ってタダで済むと思って無ぇよな?」 「な、何を、する気だ……?」 「俺な、ぶっちゃけこの『ファウルマスク』を使えばキングなんて簡単に掴めると分かっていたのさ。だが、次は? 6年後はどうだ? 俺のカラダは全盛期を過ぎ、『ファウルマスク』を使っても優勝できるかどうかは分からねぇ。 だが、お前はどうだ? お前は、『雀 剛』選手は今、24歳だ。6年後は30歳。丁度今の俺と同じ年齢。 お前はその頃もピークの状態でいられるだろう。むしろより素晴らしい肉体に仕上がっている可能性もある。 なら、俺がそのカラダを頂いちまえばいいんじゃねぇの? 俺はそう考えた。だから俺はお前がこの控室に来るように仕向けた。 試合中に分かりやすいヒントを与えて、な」 「俺がここに来るように仕向けただと!?」 「正義感が強く優しいお前なら人目を避けて俺を問い質しに来るだろうと思っていたさ。もし来ない時にゃ別のプランもあったがな。 まぁ、ともかく俺の読み通りお前は来てくれた。嬉しいぜぇ? まんまと俺の術中にはまってくれてよぉ」 「お、沖之石、てめぇ……」 「俺は6年だけのキングなんて嫌なのさ。せめてもう6年、いや、優れた選手の肉体を奪えば何度でも永久にキングでいられる。 っへへへ、『ファウルマスク』を使って何度でもキングになってやる」 「させるかよ!」 「おっと、暴れちゃ困るなぁ。お前は6年後、俺のスペアになるんだから。怪我なんかされちゃ困るんだよ」 鋭いパンチをひらりと避けた沖之石は、そのまま股間に隠し持っていた催眠ガスを剛に噴きつけた! 「うあ!、あ、あぁ、あ……」 「へへへ、コイツは猛獣ですらコロンとお寝んねしちまう特製の催眠ガスだ。まぁ、狭い空間で使うと俺まで眠っちまうから一度きりの手、だがな」 ぐらりと傾く剛を支え、控室のイスにもたれさせる。 再び目が覚める前に手足を拘束しようとしている時だった。 「なんか騒がしいが、どうかしたのか?」 不意にドアが開き別のマスクドファイターが入って来たのだ。 「お、おい! 雀じゃねぇか! どうしたんだ!?」 「柳葉か。いきなり入って来て騒ぐな。まだ優勝式典の時刻じゃねぇだろう?」 「いや、そうだけどよぉ」 予定外の訪問者に沖之石は戸惑っていた。 しかし、ここでこの男は『雀 剛』選手の失踪は柳葉によるもの、と罪をなすりつける事を咄嗟に思いついた。 「ありがてぇ。俺はどうしてこうもラッキーなのかねぇ?」 ほくそ笑む沖之石の真意を知らない柳葉は、椅子でぐったりとした様子の剛を確かめようとして近づいた。 そして、雀の傍らにあった催眠ガスの缶を掴んだのだ。 「誰かぁ! 誰か来てくれぇーー!! 柳葉が! 『柳葉 双牙』選手が雀くんを!」 廊下にまでとどろく大声で沖之石が叫んだ。 駆けつけたのはサポートスタッフだけじゃない、雀のパートナーであり、選手としてもラストフォーティーンに残っていた 別の控室に居た『大石 弓弦』もその中の一人だった。 弓弦やスタッフが目にしたのは、イスに座ったまま力なく項垂れている剛と催眠ガスを手にした柳葉。 「は? 俺? え? ええ?」 「柳葉は毒ガスを持ち込んでいたぞ! 雀選手はその餌食になったんだ! マズイ! 一度皆下がってくれ!」 毒ガスと聞いて慌てたスタッフたちがドアの外へ出ようと殺到した。 弓弦もその波に巻き込まれ、再び控室の外に押し戻された。 沖之石の控室は再び三人だけになった。自分も逃げようと後ずさりする沖之石。そして広人。 だが、これは沖之石の「演技」であり、ドアに手をかけた瞬間、思い切りよろけてドアを閉じ鍵までかけてしまった。 「お、おい、沖之石、何妙な真似してんだよ……」 さっぱり事情が飲み込めず当惑するばかりの柳葉。 そんな柳葉の手から催眠ガスをもぎ取った即座に柳葉に向けて噴霧。 「ぐく、うぁ、あああ、あ……」 倒れて眠り込む柳葉に、沖之石は邪悪な笑顔を向けた。 「俺が万が一失敗した時に使う予定だったモノをくれてやる。異世界での旅をゆっくりと、死ぬまで楽しんで来てくれ。 ああ、雀に使うつもりだった記憶消去剤もお前にやるよ。雀の分はあらためて手に入れられるだろうしな」 鍵のような金属片を空間に挿し込むと空間がいびつに歪み、四角く切り取られた白いゲートが出来上がった。 そのゲートの中に記憶消去剤を飲まされた柳葉が、まるで収集した家庭ごみをパッカー車に投げ入れるようにして放り込まれた。 そうしてから剛をロッカーの中に隠し控室のドアを開けた。 「大丈夫ですか!? 沖之石選手! 雀選手も無事ですか!?」 「だ、ダメだ! 雀くんは柳葉が連れ去ってしまった! 奴ぁあの窓から逃げていったぞ! け、警察を呼んでくれ! 皆も柳葉を追ってくれ! 早く! 雀くんが危ないんだ!」 集まったスタッフや駆けつけた他の選手たちが一斉に控室から雀を連れ去って逃げた「柳葉」を追い始めた。 再びシンと静まり返る控室のロッカーから眠った剛を引きずり出し、手足を拘束してから移送用の大型ボックスへと移そうとしていた時だった。 「あの~、沖之石さん、聞きそびれてたんですけど、どうして剛があなたの控室に居たんでしょう?」 沖之石が振り返ると、ドアを開けて入ってくる弓弦が見えた。 全員が逃げた柳葉を追いかけているとばかり思っていたのでドアが薄く開いていた事に沖之石は気付かなかった。 だから、戻ってくる弓弦の気配に気付くのが遅れた。だから、ボックスに収納した『雀 剛』の姿まで見られてしまった。 二つ目のゲートキーは持っていない。ゲートキーだけでなく記憶消去剤も闇取引で手に入れたシロモノですぐには入手できないだろう。 「……なら、ひとまず、こうするしか無ぇな」 目まぐるしく思考した沖之石は催眠ガスを弓弦に向けて噴きつけた。 弓弦の視界はすぐにぼやけて真っ暗な闇に飲み込まれた。 「満点は取りそびれたが、まぁいい。これくらいならリカバリーは可能だろうしな」 ◇ 「――それから、病院で目が覚めた俺にドクターはこう言った。『控室に剛が居た? それはあなたが見た夢だ』、と。 しかし、俺はやはり夢じゃなくて現実じゃないか、剛は沖之石の手で箱に閉じ込められ拉致されたのではないか? 沖之石に対する疑念は日増しに強くなった。しかし、ヤツはもうキングとして世界中から祝福と称賛を浴びていた。 トーナメントの敗者である俺が何か言おうものなら、それはやっかみや嫉妬からの発言だと受け止められ、誰にも相手をしてもらえなかった」 弓弦さんが悔しそうに眼を閉じた。 「そうして俺は沖之石を疑い、柳葉さんも剛の拉致失踪に関わっているのだと思い込んだ。何故なら、剛と同じくして柳葉さんも行方不明になっていたからだ」 「そいつは仕方ねぇよ。大石以外の者はキングに昇り詰めた沖之石が外道だったってのは知らない訳なんだしよ。 俺もこっちに飛ばされ記憶も消されちゃ弁明も何もできんかったからなぁ」 柳葉さんがポリポリと頭を掻いた。 「この世界に来て6年。記憶が戻ったのは2年前だ。だが、記憶が戻ってもマスキュラーワールドに戻る手段が俺には無ぇ。 それに、記憶が戻ったと知られれば俺に向けて沖之石が刺客を送り込んで来るかも知れねぇ。 だから俺は拾ってくれたプロレスチームに迷惑を掛けねぇよう、名前を変え覆面レスラーとして再デビューしたって訳だ」 「その頃ですね。初めて俺と柳葉さんがコンタクトを取ったのは」 弓弦さんがマスキュラーワールドからこちらの世界に来たのは3年前。 疑念の目を向ける弓弦さんを疎ましく感じた沖之石がじわじわと弓弦さんの居場所をマスキュラーワールドから奪っていった。 それはむしろ、弓弦さんに言わせれば「後ろめたい事をした、と言っているようなもんだ」と。 ただ、挙句の果てに弓弦さんが「柳葉」さんや雀さんと共謀してキング・沖之石を排除しようと画策した、などと根も葉もない噂が広まってしまっては「これで潮時かな、と」 しかし、弓弦さんはもう一つ重要な事を思い出していた。 「沖之石の控室に戻った時、ゲートの残像を見たんだ。そして、何でこんなものが? と頭を過った事も思い出した」 ならば、異世界に何か関係があるのかも知れない。もしかして未だに見つからない剛も、柳葉も異世界に転移しているのでは? 「俺は、キングが独占しつつあったゲートキーと、何枚かのマスクを奪ってこの世界に飛んだ。 すぐに追っ手が来なかったのは沖之石の方に何か新たな問題が発生したか……」 「変に事を荒立てて自分の悪事が露見するのを恐れたか、っすね」 「だろうね。俺も桃里くんの見立ての方が正解なんだと思う」 柳葉さんは記憶喪失状態でこの世界に放り出されたものの、体格の良さを見込まれ今いるプロレス団体に所属し、なんとか生活の足場を確保できた。 弓弦さんは、と言うと「俺は、桃里くんのお陰だよ。この店が開業まで漕ぎつけたのは桃里くんの助力あってのことだ」 桃里さんが「てへ」と会釈をした。 「だぁってよぉ~。こんな良い男が居たら放っておけないだろう? 身寄りもない、行くアテも無い、だけど尋ね人が一人いる。どうにか雨露をしのげる方法はないだろうか? ってねぇ~?」 「分かりやすいですねぇ桃里さん。よほど弓弦さんとのセックスが気持ち良かったんすね?」 「そうそう! こんなデカマラでセックスの上手い男を逃がしてたまるか! ってね、っておい! 何言わすんじゃい!」 ノリツッコミはやや滑り気味だったけど何となく当時の状況はイメージできた。 「だけど、よくお店の建物とか開業資金とか借りれましたね? この不景気では無担保の相手には銀行どころかヤミ金業者でも金は貸さないでしょうし」 中野が経済学部の学生っぽい意見を言う。 俺も少しくらい知識を披露したいところだがこの場じゃ全く出番が無さそうだ。 「絶対どこも貸さないだろうから俺が貸したの。俺、こう見えて金持ちなの。実家が」 そうだったんですか? と聞くと「お坊ちゃまなフレーバーがぷんぷん出てるっしょぉ~?」とドヤる。 「いえ全く」 「普通にカッコイイお兄さんかと」 「ええ~? 君たち節穴ダブルアイ~? 浜中不動産っつったら結構有名だと思うんだけどなぁ~」 「それなら聞いた事ある。俺の先輩が就活で受けてました」と中野。 「業界じゃ中の上あたり? でもでも、俺も名前は知っているんで、桃里さんてマジでお金持ちだったんすね!」 「その反応も微妙でショックぅ~。確かに業界ん中じゃ30位前後を行ったり来たりしてるみたいだけど、それでも年商700億くらいはあったりすんだけどなぁ~」 「凄い! 700億!?」 「ま、マジで!? な、なな700億円?」 「あ、金額には驚いてくれるんだ? ありがとう~。お兄さんちょーっとホッとしたぁ~」 「桃里くんのお陰でこの店の開業資金も土地も建物も全部が準備できたんだよ。改めて、心から感謝している」 「俺だって弓弦さんのお陰で超気持ちいい体験、させてもらっちゃってるし、ジムのトレーナーで働いてみる気にもなれたし、それに俺を信じてマスクまでくれたんすからぁ~。そんなの気にしなくたっていいんですよぉ~」 「それで、『マスキュラーワールド』と言う異世界の事、弓弦さんや柳葉さんがその世界からこちらに来なければならなくなった事情は概ね理解できました。 それで、改めて聞きたいんですが、この話題に広人のマスクがどう絡んで来るんですか?」 中野の発言に場が一瞬だけ冷たくなった。 弓弦さんが困ったような笑顔を見せて口を開いた。 「中野くんから広人くんのマスクの話を聞いた時、俺はついに沖之石の刺客が現われたのか、と思ったのさ」 柳葉さんにもすぐに連絡を取り手持ちのマスクについて確かめた。しかし、紛失はしておらず手元に確かにある、との回答が返って来た。 「お店を開業してしばらくすると、元マスキュラーワールドの男の何人かと連絡を取り合えるようになってね、その人たちにもマスクを無くしてないか確認したんだけど誰も失っていないと言うし、俺も持ち込んだマスクを何回数えても数に変わりは無かった。 だからすぐに店をたたんでひとまず逃げなくちゃ、ってね」 「弓弦さんに待ったを掛けたのは俺だ。だって、マスクと精神結合さえできていないヤツを刺客として送り込むか? 全然弱っちい広人が弓弦さんに何かを仕掛けても返り討ちに遭うだけでしょうね、と」 「ま、人は見かけによらないって言うから、広人くんが弱いかどうかは置いておいて、少し様子を見ようって思ったのは事実。 桃里くんにもそれとなく広人くんを見てもらっていたんだ」 「へっへへ~。俺ちゃん、広人っちの期間限定ストーカーでーす!」 マジすか? 全然気付かなかったぜ。 「でも今はもうストーキングしてないから安心しろよぉ~? 精神結合した後も中野っちとセックスしまくってただけとか、 誰にも言わないからねぇ~」 「言ってるじゃないですか! 今! ここで!」 「と言う訳で、広人くんと会うのは敵の刺客では無い、と確認してからになったので時間がかかってしまった。 色々と不快な思いをさせてしまったのならこの通り、謝罪させてもらうよ」 弓弦さんが頭を上げた。 「いえ! 俺は別に何とも思っちゃいないっすよ! 桃里さんのストーカー行為も今初めて知ったくらいですし。 弓弦さん、頭をどうか上げて下さい」 「では、広人のマスクについては調査継続って感じで良いんだな?」 柳葉さんの発言でこれまでの弓弦さんの説明に対して一つの区切りがついた。 「そうですね。まだ情報が足りないと考えて良いでしょうし。さて――」 弓弦さんが店舗の奥、バックヤードに続くドアを見てふっと微笑んだ。 「せっかくマスク寄生体の男が5人も揃った事だ。夕飯には生精液を飲み合いたいと思わないか?」 「賛成~! 俺もうさっきから我慢汁出っぱなし~!」 桃里さんが赤いチノパンのフロントをパンパンに膨らませている。 「俺も参加させてもらおう。すんげぇ溜まっちまっててよ。迂闊に素顔を晒せなくなってっから仕方ないんだよな」 覆面レスラーは四六時中素顔を見せない努力もしないといけないからセックスもままならないんだろうな。 素顔はこんなにカッコイイ兄貴なのに。 「中野くんも広人くんももちろん参加するだろ?」 弓弦さんがワイシャツのボタンをゆっくりと二つ開放し、ムチッと盛り上がった大胸筋の一部を俺と中野に見せつけた。 エッロ! 弓弦さん、そのポーズ、マジでエロいっす! 中野の全身から熱気がブワッと噴き出した。性欲と言う名のオーラが横に座る俺にまでひりひりと伝わってくる。 そして俺も――「憧れのバスターマスクとセックスできるなんて夢みたいっす。それに弓弦さんも桃里さんも超イけてるし。 なので、タマん中が空になるまでヤりまくりたいっす! 中野の精液ってすんげぇ美味いんですけど、皆さんの味もどんななのかすげぇ気になります。 どこまでついて行けるかは分かんないですけど、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」 「うわ~、広人っちって真面目だ~。でもそう言うのも萌える~」 「礼儀正しい、と俺は思うし、好感が持てるよ」 「その通りだな! 俺も気に入った! 次からは試合後の興奮を広人に慰めてもらいたいぞ!」 「良かったな広人。みんなに気に入ってもらえて。だけど、俺と二人きりのセックスも忘れんなよ?」 「うん?」 中野の表情を見ようとしたらそっぽを向いてやがんの。 照れてんのか? それとも普通にムカついてんのか? 窓の外はすっかり日が暮れて夜のとばりが下りていた。 マスクを手にした俺たちは、カレーショップの灯りを消して、バックヤードに続くドアの奥へと入って行った。