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鷹取リュウゴ
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リビドーマスク・エキサイト 7

7アナザーワールドマスク  弓弦さんが腹に響く声で緩やかに語り始めた。   「中野くん。広人くん。まず、君たちが居るこの世界とは別の『異世界』と言うものが存在する、と言う事を理解しておいてほしい。 何故なら俺は、いや、俺と柳葉…さんは、その『異世界』からこちらへ来た人間だからだ」 あまりに突拍子もない告白だったので何も反応できなかった。 脳内の半分は「マジで!?」とのコールがやんややんやと騒がしかったけど、残り半分は「ご冗談を」と冷めていたからだ。 「あまり、驚かないね二人とも」 「ちょっとまだ、半信半疑ってやつ、かなぁ?」 「俺も広人と同じ気持ちですね。正直言っていくら弓弦さんでも鵜呑みにできない感じ、です」 「それでいいさ。まだ疑ったままで良い。じゃぁ、先に進めるよ」 ◇  『異世界』 弓弦さんたちの居た『異世界』では他に別の世界がある、と古くから知られていたそうだ。 そして、この世界と弓弦さんたちの『異世界』はそれぞれが一本の柱のように建っていてお互いを支え合っているのだ、と。 「いくつもの世界がそれぞれ独立して存在していながら互いを支えているんだよ。例えるなら屋根を支える柱みたいに」 「じゃぁ、弓弦さんの異世界以外にも他にいくつも異世界があるってことなんすか?」 「その通り。俺はこちらの世界以外は行った事はないんだが異世界は無数にあるらしい」 「へぇぇ」 なんかもうスケールがデカ過ぎて実感が湧かないや。 「世界と異世界についてはこの程度にしておこう。これ以上は話の本筋から大幅に逸れてしまうからね」 確かに。世界についてのお勉強は今じゃなくても良い気がする。 「で、俺や柳葉さんが生まれ育った世界は『マスキュラーワールド』って呼ばれている」 「ましけらーわーるど?」 「マスキュラー、だよ。『逞しい』とか『筋肉質な』って意味を持つ。そして、俺たちの世界には女が存在しない。 男しかいないんだ」 「えっ? マジっすか? じゃぁ、どうやって子供を作るんだろう?」 「まぁ、真っ先に気になる点だよね? でも、男しかいないのだから当たり前なんだけど男が妊娠して男が出産するんだ」  男しかいない異世界、「マスキュラーワールド」ではカラダが成人してから子供が欲しいと願うとアナルの奥に子宮に似た組織が出来て卵子が発生。 その卵子に他の男の精子(自分の精子では受精できない)が受精して妊娠。 出産までの経過は俺たちの世界の女性とほとんど同じだが大きな違いが一つだけある。 それは、精液を受精卵に与え続けなければならない、と言う点だ。 なので、出産日の直前までマメにセックスしないといけない。 しかも、一人では無く複数の男からの精液の方がより受精卵が安定して成長し、安全に出産ができる仕組みになっている。 「妊娠した男はパートナー以外の男からの精液も頻繁に欲しがるから、何人もの男を周囲に侍らせてハーレムを作る。 と言っても一つの部屋に閉じ込めるような束縛は無くて、会社帰りや学校の帰りにそのハーレムに戻って精液を提供する、みたいな感じだよ」 部活みたいなものか、と俺は思った。 「なら、名前は射精部、ってか?」 出産した男は乳首から母乳が出る。母乳はパートナーからも出る。 栄養価が高く成長ホルモンの分泌を促す母乳なので子供の成長は早く、6歳までに肉体だけひと足先に成人なみに成長する。 なので、小学校に通う児童なども体格だけはこちらの大学生と変わりない。 ただし、18歳まではどんなに願っても股間に子宮を作り出す事はできない。 また、街並みや基本的な文化、社会のシステムなどはこっちの世界とそっくりだそうだ。 「だから、転移に失敗してしまったのか、と最初は驚いたよ」 また、どのようにして異世界に転移するのかは向こう側の世界の住人に詳しく教えてはならない決まりがある。 基本的にその世界の秩序、文化、文明、などに異世界人が手を加えるような真似は『厳禁』だからだ。 「余計なお世話、だからね。でも文化や科学のレベルなんかは隣り合う世界は大抵瓜二つの横並びになるらしい」 弓弦さんの説明を聞くにつれ、ファンタジックな『異世界』と言うよりSF的な『並行世界』に近い感じがした。 俺たちの世界と似て非なる「if」の世界、それがマスキュラーワールドなんだろう。 弓弦さんは調理スペースを見て「カレーももちろんある。このところ流行っているのは摂津の国から流行り出したスパイスカレーと言うモノだ。 俺の作るカレーはクラシックな欧風カレーだけどな」 いやいや。クラシックな欧風カレーに精液を混ぜるのは斬新過ぎるでしょうに! と心の中でツッコミを入れておいた。 ま、美味しいからいいけど。 「――と、まぁ、世界についてはざっくりとこんな所でいいかな」 「良いんじゃないか? 俺みたいな大雑把な人間でもやっていけるのは二つの世界にゃ共通点が多いから、ってなもんだ」 バスターマスクこと柳葉さんがぶっきらぼうに呟いた、かと思うと続けて――「だが、そんな大雑把な俺でもプロレスラー として活躍する場を与えてくれたこの世界にゃ心から感謝してる。 こっちに飛ばされた時にゃ記憶が無くなっててなんもできんかったからなぁ」 空中を睨んでしみじみと懐かしんだ。 「バスターマスク、いえ、柳葉さんは事故でこっちの世界に来てしまったんですか? 記憶が無かった、なんて……」 俺の質問を柳葉さんではなく弓弦さんが引き取った。 「広人くん。今までの説明はいわば下ごしらえ。世界と異世界についての基礎知識としてなんとなく把握してくれてもらえば良いレベルの話だ。 ここからは俺や柳葉さん、そしてマスクに直接関わるから少し意識して聞いていて欲しい」 黙って目を伏せていた桃里さんがパチッと目を開いた。居眠りしてたのかと思ったけどそうじゃ無かったようだ。 ◇  『マスキュラーワールド』  この世界とは異なる『男』だけの世界。   その世界に暮らす人々は屈強さや精悍さを競い合うかのように筋肉質で逞しい男たちばかりである。 そんな『マスキュラーワールド』では男たちのプライドと快楽をかけて100年以上も前から一つの試合、武闘大会が世界規模で行われていた。 「この世界で言うとするとオリンピックとサッカーとラグビーのワールドカップ、それに夏の高校野球と箱根駅伝に万国博覧会を足した規模の、お祭りみたいな大会だ」 6年に一度、マスキュラーワールドに住む全ての者が夢中になって観戦する大会。 その名も――    【キング位争奪アルティメットマスクトーナメント】 マスクを付けたマスクドファイターが「キング」の地位と称号を手にすべく闘うトーナメントマッチ。 6年に一度開催されるこの大会で勝利すると、莫大な賞金と名誉、そして男たちへ自由に種付けをする権利が与えられる。 「キング、と言ってもそれぞれの国家の元首になるわけじゃないんだ。むしろ各国の元首のさらに上、マスキュラーワールド全体の精神的な『王』として君臨できる、みたいなものかな」 「キングになりたくねぇヤツはマスキュラーワールドにゃ一人も居ねぇ。一度は誰もが憧れ、そして可能性を信じて鍛錬に励む。 70億の男が目指す頂点、それが『キング』なのさ」 柳葉さんも弓弦さんに歩調を合わせて話す。 「もの凄い大会なんすね」 「そう。もの凄い大会なんだ。だけどおよそ6年前、そんなもの凄い大会であってはならない事が起きてしまった」 マスキュラーワールドの7人に一人、10億もの男たちが参加する巨大大会はおよそ半年かけて地域ごとの予選が行われ、本戦大会へ出場できるおよそ千人までに絞り込まれる。 そうして、本戦に出場できる資格を得た者は誰もが持っている「ノーマルマスク」ではなく、固有の名が付いたレアなマスク、通称「ネームドマスク」をファイティングマスクとして着用し、試合に臨むことができる。 ネームドマスクの例として、 太陽の紋章が入った「ライジングサンマスク」 月の紋章が入った「クレセントムーンマスク」 星の紋章が入った「シャイニングスターマスク」 他に、炎の紋章の「レッドフレイムマスク」 水の紋章の「ブルーアクアマスク」等々。 それら「ネームドマスク」の中でも『至高の五枚』『至誠の九枚』と呼ばれる別格のスーパーレアな高位マスクが存在した。 本戦に出場した選手が試合を経てさらに数を減らしわずか14人になると、『至高』・『至誠』の14枚を扱うに足る有資格者とみなされ、マスクと適合すればそのまま着用して大会に出る事が可能になる。 「つーことはさ、その別格の14枚を手に入れるまでは他のネームドマスク? ってのを着けて試合をやってるっつー事っすよね? 弓弦さん」 「その通りだ。ネームドマスクを使えるだけでもとてつもなく名誉な事だが、『至高』と『至誠』はマスキュラーワールドの至宝。 キング位争奪アルティメットマスクトーナメント大会の時まで保管場所も秘密にされるほどのシロモノなんだ」 「そんだけ持っているパワーが半端ねぇってことさ。ま、そのパワーを引き出せるだけの力も必要なんだがな」 「柳葉の言うように高位マスクはマスクそのものがより厳格に人を選ぶんだ。肉体的に不備が無く健康体であっても適合しない人間が身に付ける事はそもそも不可能。 逆に、本戦で最後の14人の中に残れても高位マスクに適合できないとその時点で失格。どんな猛者でも高位マスクによる選抜はタマが縮み上がる、と言うほど身が引きしまるものなんだ」 俺は情報量の多さに圧倒されながらもなんとか弓弦さんの話に付いて行っている。 中野はどうなんだろう? あまり表情は変わらないままだが。 「そんな、とてつもなく巨大な、世界を上げての大会なのに6年前、有ってはならない不祥事が起きてしまった」 弓弦さんだけじゃなく柳葉さんの顔が曇った。 「アイツは、あの沖之石のクソ野郎は、使っちゃいけねぇマスクを使って優勝を奪いやがった! それだけじゃねぇ、邪魔な奴を裏で排除し、正々堂々行われるべきマスクトーナメントに汚ねぇ泥を塗りやがった!」 忌々し気に言葉を吐き出す柳葉さん。プロレスの試合中に興奮して暴言を吐く場面は何度も見たけど、今のはまるでパフォーマンスなんかじゃなく、心から憎い、殺意すら感じられる重苦しいものだった。 「使ってはいけないマスクを使い、反則をして本戦まで残り、そして当時一番の優勝候補と目されていた俺のパートナーをだまし討ち同然の卑怯な手で倒すと、その汚れた手でのうのうと勝利の栄冠を手にした男。 それが『沖之石 佐貫』と言う男だ。俺の敵、と言う事になる」 なんて言うか、情状酌量の余地も無いほど100%完璧な悪役っているんだな、と思った。 「沖之石は俺のパートナーを打ち破ると、そのままアイツを拉致してどこかへ隠して しまったのだ……アイツを、剛を……」 テーブルをガンッ! と叩きつける弓弦さん。 当時の状況を思い出したかのように唇を噛み、目には怒りの炎が燃え上がっていた。

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