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鷹取リュウゴ
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年男ふれきしぶる 6

6・「源我」新年  寝所の中で俺と丑津野さんは何時間もセックスを愉しんだ。 時に俺が丑津野さんのケツを穿ち、時に丑津野さんが俺のアナルを犯す。 キスを交わしフェラでイかせ合い、亀頭をすり合わせて彼我のサイズ差を体感する。 そうやって体感ではとっくに朝になってて当たり前なくらい長時間、俺と丑津野さんは何度も交尾しまくった訳なんだが、 寝所から祭壇のある神殿の間に出るとまだ夜の暗さが保たれていた。 「年神様へのお努め、お疲れ様でござんした。これで晴れてお社も現世も新年の朝を、めでたく元旦を迎えられる運びとなったでござんす」 寝所の檜戸の外に子津が正座で待っていた。 「これで、俺の役目は終わり?」 「さようでござんす。本日の儀はこれで終了となりまする。次に年神様のお招きがあるまでは現世で通常の生活に戻られ、いつでも年神様のお相手ができるよう心を正してお過ごし下されませ」 寝所と鏡の祭壇のある神殿から回廊に出た。外気は真冬の冷たさで肌を刺す。 「あれ? 今度は寒いと感じるんだ」 いつの間にか丑津野さんが隣に並んで立っていた。周りに見える静かで厳かな森の緑の向こうで白々と明け行く地平線。 急に時が動き始めたみたいに雲が流れ鳥がさえずりを残して横切って行く。 強い風がビュゥ! と吹き抜けたかと思うと神殿の階(きざはし)近くから境内の端まで玉砂利を埋め尽くすほどの人々が、一瞬で現れ、平安貴族のような衣冠束帯の衣装を身につけ深々と俺、いや、隣に居る丑津野さんに平伏していた。 よく見ると平伏する人たちに混じって年奉持の子津も烏帽子や衣服を改め頭を低く垂れている。  『新たなる年神様の御覚醒(めざ)め、まことに目出度く我ら一同、心よりお祝い申し上げまする!』 一番手前にいる人物が大きな声で宣言すると、他の人たちが続けて復唱。 騒がしいと言うのではなくズシンと腹に響く重厚な音波となって境内に響き渡った。 「皆ありがとう。我が力、丑年の年神の力、ここにあい整い身の内に満ちた。これよりは新たなるひととせの流れを正しく順行させ、陰陽の気を和し、もって諸々の神々の御恵みを滞りなく授かり人々に分かつ御役目を果たして参ろう。 この一年、よろしく頼む」 丑津野さんが手を挙げると、平伏する人々はさらに頭を地に擦りつけ「承知仕りまして御座います」と声を揃えた。 「この人たちって、一体……」 「他の干支の年神たちとその年男、それと、八百よろづの神様たちだ」 「か、神様? こんなに大勢?」 「ああ。だがまぁ、現世に戻れば近所の八百屋のおっちゃんだったり、通勤電車の人ごみに耐えているサラリーマンだったりもするけどな」 そう話す丑津野さんのカラダがほんのりと輝き始めた。 「お、いよいよ新年一発目の大仕事の時が来たようだ」 「あれ? まだ新年じゃなかったの? とっくに元旦になっているもんだと思ってたけど」 「古来の習わしでは一日の始まりは日の出から数えるんだそうだ。だからリアルタイムでは日付が変わっていてもこっち側の勘定じゃまだ日付は変わっていないんだ。 お日様が昇るまでは大晦日、なのさ」 「そうだったんですね」 俺の肩にポンと手を置いた丑津野さんが平伏する人たちに背を向け神殿の奥、鏡の祭壇へ向き直った。 すると、一枚の鏡から金色の光が溢れ、まっすぐ丑津野さんに向かって伸びていった。 光を浴びた丑津野さんは頭部を黒い牛に変え、褌一丁から神官服を着た姿に変わった。 『それでは皆の者! これより新年、最初の日輪を迎えに参る! 参集の儀、大儀であった!』 丑津野さんのカラダからひと際強い光が溢れ、眩しさのあまり何も見えなくなった。 視界が白一色になり目を開けているのかいないのか分からないほど。 そして数秒、いや数十秒後、何度も瞬きして白以外の色が回復して見えて来た世界は、神社の境内ではなく、深い森の中ではなく、 玉砂利もなく、平伏する衣冠束帯の人たちも居ない、まもなく夜明けを迎える「かんなび山」のハイキングコースの中だった。 「ええと、俺はいったい……」 気が付けば服は元通りに、リュックは背中に背負ったまま。 俺は夢でも見ていたのだろうか? 「明けましておめでとうございます。もうすぐ日の出ですね」 見知らぬ婦人が会釈を俺にし、呟きながら登って行く。 その婦人に要領を得ないまま会釈を返すと、その呟きが俺ではなく俺を避けて後ろを通る別の婦人に向けてのモノだと知る。 山頂でご来光を拝むために登ってきた人たちの流れの邪魔をするような位置に俺は立っていた。 すぐに俺は道の脇に逃れ、そうして俺もまた山頂へと登り始めた。 ◇  ほんの10分くらいで山頂の広場に到着した。 清々しくも冷たい空気が身を包み、吐き出る白い息の向こうには静かに元旦の朝を迎えようとする街並みが靄の底に沈んでいた。 「ここまで晴れ渡った空の下で初日の出を迎えるなんて、何年ぶりだろうかの」 同じ方向を向いて立っているお爺さんが感慨深げに呟く。 靄の地平の一か所から光の柱が立ち昇る。キラキラとした光の帯がじょじょに天を満たしまばゆく地平をひたしていく。 ああ、遂に、遂に太陽が、今年最初の朝日が昇って来た! ご来光を目に焼き付けていると思わず手を合わていた。 何を願う? 何を祈る?  ――何も考えていなかった。祈らず願わず、迷いも憂いも忘れてただただ光を浴び、太陽に手を合わせていた。 「……綺麗だ」 口から自然と漏れた言葉は空しく宙を舞い誰かに受け止められる事も無く光りに融けて消えて行く―― 『ああ。キレイだな。俺が引っ張って来たのだと思うと美しさもひとしおだぜ』 「えっ?」 受け止める誰かが隣に居た。消えて行く言葉は消えずに誰かの元へ届いた。 「よっ! 明けましておめでとう、源我。はは、なんだなんだぁ? 鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしやがってよぉ」 「えっ? ええっ? う、丑津野さんっ!?」 「おう。丑津野だ。一仕事終えたんで『秒』で戻ってきたぜ」 「お、疲れ様、です……」 「その前に、新年一発目に言うべき言葉、忘れてねぇか?」 ダウンジャケットにジーンズ姿の、背丈も体格も俺より「ちょっぴり」大きいだけの丑津野さんが俺の目を見てニカっと微笑む。 「明けまして、おめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いしま――、って、うわ!」 丑津野さんが俺をガバっと抱き寄せ、頭をわっしゃわっしゃ撫で混ぜる! 「おうとも! 今年もよろしくだぜ! 源我! なぁ、これから俺と――」 「あ~! 良いなぁ~! 俺も混ぜて欲しい~」 パッと声の方を向くと見覚えのある顔がそこに。いや、隣にも。その隣もだ。 「おう。お前らも来たか。さっきはありがとうな。お陰で良い新年を迎えてこられたぜ」 丑津野さんの横に居たのは丑年の「年男」たちだった。 「牛窓くん、年神様と仲良くするのは良いけど、この人、現世でも絶倫だからマジで相手すると結構大変だよ?」 顔を見ると自然と名前が浮かぶ。俺にこうアドバイスするのは「牛山」って言う俺と同い年の人だ。 「おいこら。源我が誤解するだろうが。俺が絶倫とか何で分かるんだよ? 現世でお前とヤったことなんかないだろう?」 「そうは言いますけど、これから初セックスしよう、と言いかけてたのはどこのどなた、でしたっけ?」 「そうそう。ジャケットで誤魔化してますけどバレてますよぉ? メチャクチャ勃起してるじゃありませんか」 クスリと微笑みながらこう話す二人は牛久さんと牛水さんだ。 「源我もお前らもカラダの相性、最高だっただろ? だったら顔を見ただけでも勃っちまうのは自然じゃんか」 『ダメですよぉ、こんな公の場で卑猥な会話を交わしちゃ。年神様ともあろう御方が』 また別の声がした。 振り返ると今どきの高校生らしい服装を着た年奉持の子津だった。 「ダメだぞ? 子津。子供が大人の会話に混じっちゃ」 「バ、馬鹿にしないで下さい! 俺はこう見えてれっきとした大学生ですっ! もう子供じゃありませんからっ!」 子津くん、神職の服を着ていないと言葉遣いも普通になるんだな。 年神を宿した男と、俺たち12人の「年男」は改めて姿勢を正してすっかり顔を出した太陽に謹んで手を合わせた。 降り注ぐ金色の粒子が全身を清めてくれる。 暖かいエネルギーが体の中を巡り始め、気持ちを清々しく晴れやかにしていく。 「……うう、寒ぃ~。じっとしてるとどんどん冷えてきやがる。そろそろ山を下りて暖まる事をやりたいぜ~」 「温泉だったらウチに入りに来ます? 特別に初風呂、入らせてあげますよ」 実家がスーパー銭湯経営と言う牛川くんが寒がる丑津野さんに声を掛ける。 「おいおい、銭湯でサカりあったらやべぇだろ。さすがに新年早々通報事案に巻き込まれちゃかなわねぇ」 「そう言うコト、しなきゃ大丈夫でしょ?」 「しない訳ないだろ? 俺の精力舐めんじゃねぇ」 「ほらね? 源我くん、牛山くんの言う通りでしょ? この神様、スケベなことばっか考えてる」 「お前らもだろうが!」 思わず噴き出した。大声で腹の底から。 年男たちも笑った。 丑津野さんもとても可笑しそうに笑った。 「子津、お前も来るだろ? 年奉持が年神とヤっちゃいけねぇって法は無ぇんだし」 「えっ!? い、良いんですか? 俺も混ざっちゃって」 「たりめーだ。去年の年神様に敬意と感謝を込めて、たっぷりじっくりヤりあおうぜ?」  こうして俺の新年が始まった。 今までの自分を変えたくて、今まで閉じこもってた殻を打ち破りたくなって初日の出のご来光を拝みに来たら、いきなりたくさんの仲間ができ、大好きな人まで見つかってしまった。 丑年の神様を宿しているとあって当分独り占めにはできそうにないけど、それでも俺は良いと思えるんだ。 この人と知り合えたこと、これからもそばに居られそうなこと、それが俺にとっては一番大事だから。 それに―― 「源我くん、年神様が来れないときは俺たちとヤるだろ? 次は源我くんのチンポをケツで味わってみたいんだ」 「もちろんです。俺、もっともっとみんなの事、知りたいですし」 「ダメだ。源我は俺のモンだ。俺を除け者してお前らだけで気持ち良くなろうだなんて百年、いや、一年早ぇ」 「なに言ってるんです? 自分は源我くん以外に手を出しておきながら源我くんだけ一人に縛るなんて、道理に合わないですよ? 僕たち同士、カラダを重ねて気を練り交わらせる事も年神様の力になるのですし、そんな自分本位じゃ他の年神様からお叱りを受けますよ?」 「その通りでござんす~。 元、子年の年神からヒトコト~。けち臭いと貧乏神と呼ばれちゃうでござんすよ~」 子津くんが抑揚を付けたひょうきんな声音で丑津野さんをたしなめた。 「ちぇ~、仕方ねぇなぁ~。他の神様からバチが当たっちゃ今年の年神失格だもんなぁ~。だけど、これだけは言わせてくれ」 皆が丑津野さんの顔をじっと見た。 「俺は源我に惚れてるんだ。初めて見た時から俺の伴侶はコイツだ、ってピンと来たぜ。だから、まぁ、その、なんだ……」 丑津野さんが俺の手を掴んでグッと握り締めた。 「源我! 頼む! 来年になったら結婚しよう! セックス以外の俺も知ってもらいたいんだ! だから!」 顔を真っ赤にした丑年の神様に結婚を申し込まれた俺。 すぐにOKしても良いけど―― 「まずはお友達から、です、丑津野さん。それに、来年の事を言うと鬼が笑うと言いますし、ね?」 俺の返事を聞いて「嘘だろ?」と口を開けしょんぼりと肩を下げる丑津野さん。 「でも――」 俺は丑津野さんの耳元に口を寄せて囁いた。 (来年じゃなくて今すぐ結婚しても良いくらい、俺もあなたが好きです) 瞬く間に丑津野さんの顔が輝く太陽のように明るくなった。  「うっしゃぁあああ! 今年も良い年にしてやろうぜぇ! みんなぁ!」    終

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