第三体操の4 雨森城 「まったくもう! 僕が出かけてる間に知らない男を連れ込んでセックスしてるなんて! しかも、何なんですかコイツ! 帰ってくるなり『ガバマンアナルで下手くそ野郎の御門だな』って! 失礼過ぎじゃぁないですか!」 御門は日付が変わった頃、寿礼荘に戻ってきた。 丁度その時、俺とギリィは6戦目に入ってギリィを騎乗位で下から犯してた最中だった。 んで、玄関から部屋に入った御門に向かってドビュっとぶっ放したギリィは、中指を立てながら御門に 言い放ったのだ。 「まんまっすわ。アンタじゃゼラン将軍を心から満足させられる事なんて不可能。弱小貧乏組織の肉体改造だって中途半端な怪人? いや、ヒーローもどきにはさっさとご退場願いたい、って事なんすよ」 「き! 君こそ! どこの誰なんだよ! もうアッタマきた! 表に出やがれ! ぶっ飛ばしてやるっ!」 俺は素っ裸のまんまギリィと御門の間に割って入り、「まぁ、落ち着け御門」「ギリィも、煽るんじゃねぇバカヤロウ」と 2人を諭す。 「こいつはギリィ。ルガルムの戦闘員の一人だ。直属の部下じゃぁないんだが、俺を手伝いに来てくれた大事な助っ人だよ」 ギリィについて紹介するとしたらこんなもんだろう。 御門はそっぽを向いてギリィを見ようともしない。 「んでな、こいつが御門。まぁ、俺の記憶を読んでるんだから説明は不要だろうが、お前が言う程『ガバマン』じゃないぞ。かなりの名器で俺も気に入っている」 「将軍~? そいつを名器だとか庇う必要は無いんじゃないっすか~? なんつっても俺たちとは違う組織ですし、ぶっちゃけ敵じゃぁないっすか~」 「そう言うな。今は新番組を成功させるための仲間でもあるし、こいつだって俺と敵対する意志はないんだ。 敢えて争っても益は無ぇだろ? その辺りだって記憶見て理解できてんじゃねぇのか?」 口を尖らせて「でも~、なんか~」とふくれっ面のギリィ。 「御門もさ、ちょっと煽られた程度でキレてたらこの先やっていけないぞ? タレントとしてデビューすりゃぁ、心無い中傷だって一つや二つ、耳に入って来るんだからな」 「そうかも知れませんけど……」 一触即発状態だった御門やギリィを何とか言いくるめて一夜が明け、あくる朝。 再び御門とギリィが言い争う声で俺は目を覚ました。 「――あのさぁ? ゼラン将軍はここ日本が故郷なんだからさ、朝食つったら味噌汁とご飯と焼き魚に決まってるっしょ? そんくらい分かんねぇかなぁ」 ギリィが純和風の朝ご飯を整え、テーブルに並べている。 「き、キミこそ! ゼランさんはパンが好きなの分かってないじゃいか! 朝は手早くトーストとサラダ、それにオムレツで済ませるんだから!」 御門も焼きたてのオムレツをお皿に乗せ、トーストとサラダの間に置いた。 ……まったく、仕方がない奴らだな。 「おい、2人とも朝っぱらから騒ぐんじゃねぇ。ご近所様の迷惑だろうが」 たしなめるとギリィも御門もビックリしたような目で俺を見やがった。何だ? 何か間違ったこと言ったか? 「……毎晩、将軍とヤってたんだろう? ハードなやつを」 「そう、ですね……一緒に暮らし始めてからは、ほぼ毎晩です……」 「な? なんだよお前ら……急に変な目つきで俺を見やがって」 「ゼランさんの口からご近所迷惑だなんて言葉が出てきたもんですから、ビックリしただけです」 「そりゃ、俺だって一般常識くらいわきまえてるからなぁ。騒音の苦情なんかもらいたく無いぞ」 「毎夜さんざん誰かさんを喘がせているゼラン将軍にも常識があったんすねぇ? いや、驚いたっすわ」 「ちょ? 何だよその言い方」 「いえ。何でも。とにかく、俺っちの作った朝飯をどうぞ召しあがって下さい」 「ああ~! そんな奴の朝ご飯なんか食べたらお腹壊しますよ! 是非『いつも通り』僕の朝食を食べて下さい!」 二種類の朝食を前に俺は手をつけ兼ねて悩んだ。 どちらか一方だけを食べればもう一方が不平を募らせるのが目に見えている。 「分かった。じゃぁな、こうしよう。いいか? 御門がギリィの作った朝食を食べろ。 ギリィは逆に御門の作ったものを食うんだ。これは命令だ。嫌ならこの部屋から即刻出て行ってもらおう」 「ええっ!? 僕がこいつの作った朝ご飯を?」 「ちょ!? なんすかそれ。冗談は止めてくださいよ将軍」 「冗談なんかじゃないぞ。この程度の命令一つ聞けないようじゃ俺に対する協力など土台無理だろうしな。 それと、御門。お情けでこの部屋に住まわせてもらってるって事を忘れてんのか?」 ギリィも御門も表情は不服を示している。 「ただ、俺のために朝飯を作ってやろうと考えてくれた事には感謝している。明日以降は2人交互に 用意してくれないか? その方が俺は嬉しい」 「……分かりました、ゼランさん」 「了解っす。ゼラン将軍」 時間になったので日の出テレビへ御門と新番組の打ち合わせに出かける。 ギリィには鯵山捜索のための情報収集を改めて依頼したのだが、どこから探るのか聞いてみたら 「その辺りは俺っちにお任せください。最短でゼラン将軍の最も欲しておられる核心情報まで到達してみせますんで。あと、今日の晩御飯は俺が作ります。もちろん御門と交代でやりますんで」 黒いブーツに黒いツナギを着こんだギリィはまるで忍者のようにも見えてくる。 「なら、細かい指示は出さなくていいんだな? お手並み拝見と行こうじゃないか」 「ははっ!」 片膝をついて頭を下げるあたりはルガルム戦闘員としての作法に従っていて実に礼儀正しい。 それにしても……この部屋にギリィまで住む前提でハナシが進んでいるのだが、それでいいのか? 早い内に別の部屋でも借りて、そっちに移動してくれと言うべきだろう。 「あのさ、ギリィ……」 「それではゼラン将軍、お先に失礼するっす!」 ギリィは言うや否やサッと玄関をくぐってあっという間に姿を見せなくなった。 「早ぇ。アイツ、あんな素早い動きもできんだなぁ」 「僕だってもう少し改造を進めてもらったらあれぐらい……」 「できるようになるのか?」 「ええ。スピードアップにはあと120万ほど必要ですけどね」 「……当分無理だな」 日の出テレビの会議室に入った俺と御門は悪い予感の通り、新番組「イケてるメンズ浴場」の制作見通しがかなり怪しくなってきている状況について聞かされた。 「それがね……、鯵山クンだけじゃなくって副部長のムスコさんもいけない薬に手を出してたんだろう、って噂が流れてきてねぇ。 もしかしたら拉致されたんじゃなくって自分の意志でクスリ欲しさに身を隠したんじゃないか、って」 河豚野プロデューサーの話は、実際にそのようなクレームがテレビ局へ寄せられている現状をまずは認識してくれ、と言うものだ。 「警察の中でもそのような意見がある、と告げられています。なので、どこまで本気で捜索して頂けるのか、少々不安でなりません」 鰯田ディレクターも苦み走った顔をさらに苦くさせた。 「けれど、立て続けにこんな狭い範囲で行方不明者が出ますか? 11人も失踪しているんでしょう?違法ドラッグが原因だとするのはちょっと話が乱暴過ぎだと思うんですが」 俺が素朴な疑問を述べると、 「男性ばかりである、と言うこと、年齢が若く、10代後半から20代前半の若い青年だけ、と言うこと、 そして――」 鰯田ディレクターは最後に信じられない事を付け加えた。 「そして、彼らが実は何者かと接触していた事実が明らかになったのです。残されていた携帯やスマホの着信履歴から」 「じゃぁ、その電話をかけた相手が一番怪しいじゃないんですか? 犯人、かどうかは分かりませんけど、まずその人物を特定するのが先決だと思うんですけど」 御門の意見ももっともだと思う。 そんな電話が入っていたのなら先にそちらを調べておくべきだ。 「ん~、捜査上の機密ってことでねぇ、あんまり詳しい事言ってくれなかったんだけど、その番号の 発信元は『あの』アラバスカ共和国かららしいのよねぇ~」 アバラスカ共和国と言うのはインド洋に浮かぶ独裁国家の島国だ。その国のもっとも大きな輸出品は 違法薬物であると言われているが、アバラスカ自体はそれを否定している。 「ともかくですが、スポンサーの出方次第では新番組が成立できなくなる可能性があるのです」 会議の場に居る広報担当の女性が大きく肯いた。 「感触としては今の所30%くらいかな、って思います」 眼鏡をかけ直した広報担当は、厳しい目で宙を睨んだ。 「じゃぁ、他の7割は出資してくれそうなんですね? まだそこまで噂の影響は広まってないのかな?」 「逆です。70%ものスポンサーが手を引こうと考えているんです。残りの30%の企業だって、 いつ手の平を返してくるか予断を許しません」 「新番組のスポンサーがそこまで降りようとしてるなんて……」 御門が肩をがっくりと落とした。 「違うわよ御門ちゃん。日の出テレビジョンに対する全てのスポンサーについて、なの。この娘はあなたたちを驚かせまいとして、『新番組』に限定したような言い方をしてたけど。 つまり、我が社を支えてきた企業の7割を失いかけているの。もしこれが現実になったら日の出テレビジョンは倒産。 新番組どころの問題じゃないわね……」 河豚野ほどのおしゃべりな楽天野郎でも眉に皺を寄せ、見通しの暗さに口を堅く結んでしまう。 その他の会議出席者についても口に泥でも詰められたかのように苦しい表情をみせるばかりだ。 それで、そんな「底なし沼を覗く」ような会議を終えて、ルガルム日本支部である寿礼荘に戻ってみれば、 ギリィが夕飯のおでんを用意し出迎えた。 「もうすぐ夏だってのにおでん……」 季節感はどこ行ったんだ? 「和食の中からゼラン将軍がお好きそうなのをチョイスしたんすわ! 出来立てですけどひと晩置いたみたいに味が染みてて美味しいっすよ!」 熱々の土鍋から湯気がもうもうと立ち昇っている。 それを見ただけで部屋の温度が3度は上がったように感じた。 「あれ? 御門は? ジャスティスレイブの野郎はご一緒じゃないんすね?」 「ああ。アイツはダンススクールに行った。あと2時間程したら戻るだろう」 「そうっすか。じゃぁ、先に食べてましょうよ。あ! ゼラン将軍のお口に合ったら、アイツの分まで残さなくっていいっすから」 ギリィが俺に箸と取り皿とを渡す。 「……その前に、結果を聞きたいもんだけどな」 「では報告します」 姿勢と言葉遣いとを改め、ギリィがまっすぐ俺を見た。 「まず、鯵山や他の行方不明者たちは雨森城と言う所にいます」 「雨森城? そんな城聞いた事ないな」 「南北朝時代に作られた山城らしいですね。戦国期には山賊の砦としても使われていたとか。 今現在は石垣しか残っちゃいませんが砦時代の名残として、地下にいくつかの空間があるようです」 「なるほど。そこに鯵山や副部長さんの息子さんが閉じ込められているんだな」 「その通りです。敵は『シャドウ』と言う連中です。俺っちの力を使って いえ、私の能力を駆使しても、『シャドウ』については調べ尽くすことはできませんでした。 引き続き調査しますが、こちらについてはもうしばらく時間を頂ければ、と」 「そちらもギリィに任せる。ともかく鯵山たちを拉致した『シャドウ』なる敵の人数や構成、俺たちだけで救出できる見込みがあるのかどうかを教えてくれ」 「ははっ。雨森城には5体の『シャドウ』がいるようです。能力など不明な点が多いのですが、私とゼラン将軍でなんとか救出可能だと思います」 「ダメだ。もう一人必要だ。敵のシャドウとやらを倒すだけなら俺とお前とで十分なのかも知れんが、 鯵山たちを護りつつ救出するとなると、敵の目をしばらく鯵山たちから引き離す必要がある。 それには俺とギリィ、2人だけでは不十分だ」 「では、どう致しましょう?」 「御門を連れて行く」 「!? は? あの御門を? ですか?」 「そうだ。単純な戦闘力で言えばルガルムの『レベル2戦闘員』に引けを取らない。さらに言えば再生能力だけは改造が完了しているタフな奴だ。 なので、御門にもジャスティスレイブに変身して協力してもらおう」 「ゼラン将軍がそうお考えになった事に異論はございませんが、アイツはルガルムの者ではありません。 いざと言う時我々を裏切る可能性が無いとも言い切れませんが……」 「大丈夫だ。裏切る理由がないからな。鯵山たちを救い出し新番組を無事にスタートさせなければ 一番困るのはアイツなんだ。 今の所、俺の立て替えた金でなんとか食っていけてるが、番組のギャラが手に入らなければ肉体改造はおろか明日の生活にも困るんだからな。 まぁ、そう言う意味じゃ俺だって一蓮托生には違いないんだが」 「ううむ……そうまでおっしゃるのでしたら……。……かしこまりました。御門も作戦に加えましょう」 「おう。俺の意見を尊重してくれてありがとうな」 「――さぁて」 ギリィが手をパンッ! と打って、場の空気を入れ替えた。 「あっちゃぁ~。せっかくのおでんが冷めてしまったっすわ~。もう一度温め直してくるんで、ちょいと待ってて欲しいっす」 「ああっ! 待って! 待つんだ! 熱々じゃなくっていいから! 少し冷めてるくらいで丁度良いから 土鍋をテーブルに戻すんだ!」 第三体操の5へ続く