泣き虫艦長と機関長
Added 2018-11-01 10:09:37 +0000 UTC「波光砲、発射!」 勇ましい掛け声とともに、ブリッジの外が眩い光に包まれる。 戦艦の甲板に装備された中でも、最も巨大な砲塔から高出力のエネルギー弾がレーザー状に放たれる。 遠くで瞬く星屑の輝きとは比にならない光の槍が高速で前方に伸び、ブリッジのモニターに映された照準機の中央を貫く。 先程までこちらを奇襲していた敵宇宙軍の主力戦艦の動力部分が、的確に打ち砕かれて撃沈された。 対閃光防御装備を被った大勢の乗組員の中で、拳銃型の発射装置から手を離した砲撃手が真一文字に閉じていた口を緩め、深呼吸と共に大きな背中を背もたれに倒す。 だが、背後を振り返ると、ブリッジ中央部の最も高い位置にある椅子に腰かける老紳士が、キャプテンハットの鍔の下から微動だにせずモニターを凝視していた。 砲撃手は慌てて背筋を伸ばし、素早く手元のモニターを操作して自戦艦と敵艦隊の被害状況を計算する。 「波光砲、敵戦艦に着弾!動力部の爆破を確認!」 「周辺宙域の熱源検索……終了。小規模の熱源が四方に散っていきます。こちらに接近してくる熱源にマルチロックをします」 「主力戦艦の撃沈により、敵艦隊94艦の内残存していた42艦中、34艦が宙域脱出の模様です。既にワープイン動作に入っている艦艇も確認できます」 「敵戦艦より入電。どうやら撃沈直前に送信されたもののようです。……『この宙域は譲ってやる。次こそは貴様らの鼻の穴を明かしてやる』とのことです。」 「被害情報報告。左舷小砲塔と甲板マストに実弾が被弾。右舷外壁に光学兵器が掠っていますが、その他に大きな損傷は無し。問題なく進行可能と報告」 「敵戦艦から複数の脱出艇の射出を確認しました。残存艦に避難する模様です。艦長、如何しますか」 同時に複数のオペレーターが、爆発の中で消えていく戦艦の状況をつぶさに報告する。 『艦長』と呼ばれた老紳士は瞼を閉じて一瞬思考を巡らせると、蓄えられた白い髭の隙間から威厳のある声で告げる。 「余計な犠牲者は出すべきではない。こちらに特攻を仕掛けてくる場合を除き、放置だ。途中、投降してきた艦があったな?人数は」 「先程艦底ハッチのクルーより通信が入りました。いずれも非武装の脱出用艦艇で、数は8、乗組員は合計59人。全員抵抗の意思はなく、牢獄エリアにて収監しているとのことです」 「全員から事情聴取をして相手艦隊の情報を収集するように。敵だったからと言って手荒な対応はするな。あくまで紳士的に、人道的に接するように伝えてくれ」 「了解しました。聴取記録は如何しますか?」 「電子データと書誌データにそれぞれまとめ、情報部と戦略部に優先的に回せしてくれ。兵装部は……まぁ向こうから勝手に取りに来るだろう。本星にも忘れずに送ってバックアップを作ってもらう様にな」 そこまで言い切ると、艦長は一度深く深呼吸をして肩から力を抜き、丸々と恰幅の良い腹を撫でながらブリッジを見渡す。 ヘッドマイクの電源を入れ、モニターを操作し出力先を『艦全域』にエリアを設定する。 「……敵艦隊無力化、だな。クルー全員に次ぐ、『艦長の尚木だ。我が戦艦は敵艦隊無力化に成功。今をもって戦闘体制を解除する。該当のクルーは戦艦の修繕と兵装の補充を行い、負傷者と捕虜の対応にあたってくれ。その他の乗組員は全員持ち場に戻る様に』以上だ!」 ブリッジのクルーが全員緊張を解いて表情を緩める。 尚木は彼らに優しく告げる様に言葉をつづける。 「みんな、今回もよく頑張ってくれた。ありがとう」 クルーたち全員への礼と労いを告げると、尚木はマイクの電源を切り、ヘッドマイクを外して鍔を上げて再度ブリッジを見渡す。 先程までの厳つい強張った表情とは一転して、尚木は仄かに笑みを浮かべた。 宇宙における星間戦争における歴戦の勇士の激励に、ある者は敬礼で感謝の意を示し、ある者は満面の笑みを浮かべ、またある者はこっぱずかしげに頬を赤らめ控えめに頭を下げる。 「済まないが、戦後処理は頼む。ワシは先に部屋に戻るから、報告書は部屋に頼む」 尚木はその肉厚で大柄な体を椅子からゆっくり持ち上げると、足早にブリッジを後にした。 出口に向かって歩く姿は威厳に満ち、背筋も伸び老齢を感じさせない程に凛々しいが、両足は若干震えているように見えた。 尚木がブリッジから出ていくと、クルーたちはモニターを操作しながら一斉に姿勢を崩し溜め息を漏らす。 クルーたちが雑談を始め、ブリッジ内の緊張した空気が一気に緩み、和やかな雰囲気に戻る。 「あぁ~やっぱり尚木艦長はカッコいいなぁ~。勝ち戦とはいえ、被弾しても全然怯まないで指示をしてくれたしなぁ……」 「そりゃあ地球軍日本艦隊最強の男だしな!『不死身の尚木』『死なずの尚木』とか何度聞いたことか……。やっぱり尚木艦長の下で働けるとか大和男児冥利に尽きるってもんさ」 「だよな!変に威張ったり自慢したりせず、常に冷静に紳士的に振る舞う。でも戦闘では的確に指示をくれて、どんな時も俺たちの後ろで諦めずに鼓舞してくれる……なんかこう、ヒーローというかヒロインというか……」 「何言ってんだよ!あんなカッコいい上にかわいいなら……絶対にヒロインだろ!」 「その通り!!!!!」 若い男のクルーの間に、壮年で無精髭を生やした熟練クルーが割って入る。 「戦闘時の戦士の如き鋭い眼光と、平常時の乙女の如き暖かい瞳……まさに白髭を生やしたヒロイン!我々を常に心身ともに守ってくれる姫騎士の如き御方!分かってるじゃないか若いの!」 「ふむ、それには同意だが、まだまだ甘いな」 更に白髪の混じった髪を短く刈り揃えた、中年の古参クルーが混ざる。 「尚木艦長が守っているんじゃない。我々が尚木艦長を守ってしまうのだ。あの苛烈な戦闘時とゆるふわな平常時の大きすぎるギャップに心打たれない男はいるだろうか?いや居ない!」 ブリッジ内のクルーが全員納得する様に何度も頷く。 「おいおいおっさん、それじゃまるで艦長が我々に何もしていないみたいじゃないか。尚木艦長の存在があってこそ我々の心身は健やかに強化され、更に大きな尊みの存在感で我々を守ってくれてるじゃないか!」 男ばかりのクルーは各々、真剣な表情を浮かべて激しく同意する 「ふっ、まだまだ若いな。精々艦長の日常動画を見ながらオナニーする程度か。我々の様に艦長が使い古して捨てた歯ブラシを誰よりも先に獲得するには程遠いな」 「何っ!?あ、アンタまさか、艦長の歯ブラシで間接キッスを……」 「いや、間接亀頭しゃぶりだ」 「な、何だとぉ!?なんて羨ま……いや、けしからん!艦長の唾液は皆で共有すべきものなのに一人で独占するとは……!」 「ふん、だからお前は若造なんだ。今やこの戦艦中全てが艦長を狙っているのは周知の事実。誰よりも先に出し抜けられるのが真の男というものさ!」 勝ち誇る中年クルーの前で、悔し気に歯を食い縛る壮年クルーだが、その間に更に別のクルーが爆弾を投げ込む。 「二人とも雄臭い外見の癖に、随分とみみっちいことで言い争うんだな。老け専至上主義の俺としては抱くのは最高だが、戦場の後輩としてはがっかりだぜ!」 無骨な風貌の筋骨隆々な青年クルーが、妙に上から目線で近寄って言葉の刃を抜く。 「ふん、艦長の童貞どころか処女までも狙うのは尚木艦長ファンならば当然の事。だが、お前は相変わらず開けっ広げすぎて艦長には毒すぎる」 「艦長に相応しいのはあのバブみを完全に包み込む圧倒的な包容力、そしてヒロインとしての清純ないやらしさに目覚めさせる立ち居振る舞いと、亀の如き速度で艦長の心身を傷つけずに解きほぐす極上のテクニック!」 「一理あるが、この俺を妄想だけで射精させる尚木艦長だ。純粋無垢に見えてそれなりに性欲はあるし、エッチな本を買うし、つい興奮して勃起しちゃって前屈みになることだってあるんだよ!」 青年クルーの言葉に、ブリッジ内がざわめく。 戦艦中の性欲絶倫な雄共の憧れの的となっている中、あまりの純朴さに尊さを越えて背徳さに目覚める輩もいる現状で、尚木が人前で勃起する事実に全員が驚愕する。 「ふ、ふん!何だそんな事か。艦長との付き合いが長い我々にとっては当然すぎる」 「同意だ。『不死身の尚木』と言えど、我々と同じ人間の雄だ。誠に信じられないが……、艦長が朝勃ちを無防備にさらしたり、激務の中で疲れ魔羅がいきり立ったり、若いクルーの読んでたエロ本をトイレの個室で読んで勃起したなど、それこそ『尚木艦長セクシーショット掲示板』に山の様に残されてるわ!」 「違うぜ?俺が見たのは画像じゃなくて本物の尚木艦長だ。しかも……」 股間を膨張させるクルーたちの血走った視線を集め、青年クルーは堂々と言い放つ。 「……機関室で、自室の外で、皆に隠れてオナニーしていた尚木艦長をな!」 「「「「「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!?」」」」」 まるで清純派アイドルが葉巻をふかして何人ものセフレを囲っていたような衝撃がブリッジに広がる。 まさか、あの白髭を蓄えた戦場の英雄に純朴で可愛いが時に凶暴なわんこの精神が入ったような尚木艦長が、自室以外でオナニーをするなんて……! 男所帯の戦艦の中で、オナニーなんぞ他のクルーは人目があろうがなかろうが堂々とするのが常識なのだが、尚木艦長だけは神聖さで守られた治外法権のような存在だと思っていた。 だから、他人のオナニーを見ても煽ったり興奮したり仲間に入ることもなく、ただ紅潮しながら視線を下げてそそくさと逃げてしまうのがセオリーであり、そんな姿の艦長を横目で慈しむのがクルーたちの暗黙の了解であった。 「嘘じゃないぜ。機関室の物陰で一人でオナニーしてるところをばっちり撮影したからな。今から大モニターに転送するから皆に見せてやるよ」 クルーたちは互いに顔を見合い、どうするべきか皆の出方を伺っている。 最早昂ぶる肉棒を隠す必要などない。 ある者はモニターの最前列に被り付き、ある者は自分のデバイスに動画を転送するように懇願し、またある者は余りの罪深さにブリッジから出ていこうとする。 ……が、結局は遠い場所から横目でしっかり大モニターを凝視してしまっている。 「そ、そうか。いや、尚木艦長も齢60越えの立派な男だ。うん、自分の性処理位はするからな。うん、別に驚くようなことではないが後学のために見させてもらおうではないか」 「掌思いっきりグルングルンしてるぞ、貴様。……尚木艦長の信者を自称する我々としては確認するべきだな。映っている対象が本当に尚木艦長であるのか……。決して邪な考えなどはない。あくまで調査だ調査。わかったならさっさと動画を再生しろ下さいお願いします。勿論大音量でお願いします」 「言われなくとも!この戦艦に集った『尚木艦長の性奴隷になりたい』健全な変態大和男児のためだ。俺の秘蔵のお宝動画、余す所なく見せてやるぜ!」 妙な一体感を得たクルーたちの野太い歓声がブリッジに木霊する。 そして、物陰から大量のボックスティッシュを取り出して積み重ねると、青年クルーはデバイスから戦艦のモニターにデータを転送し始める。 「……よし、転送完了。それじゃ、いくぜ。尚木十三艦長の嬉し恥ずかし野外オナニー動画鑑賞会だ!」 更に大きい雄叫びがブリッジ中に響く。 心が一つになった淫乱益荒男共は、股間をギンギンに勃起させながら大モニターを食い入る腸に見つめていた。 *** 自分の痴態がブリッジで公開されているとはつゆ知らず、当の尚木は人目を避けて薄暗い通路を進んでいた。 自室でもなく、休憩室でもなく、バーでもなく、図書館でもなく、その通路は下へ下へと降りて戦艦の奥へと下って行った。 「はぁ……はぁ……はぁ……ぁい……わい…ぉ……やく、はやく会いたい……」 先程とは打って変わったか弱い声に、不安げな表情を浮かべ通路の突き当りまで到着する。 分厚い鉄の扉を体重をかけて開けると、扉の軋む音が更に薄暗い室内に響き、何度も反響しては空間の広さを覚らせる。 天井に縦横無尽に走る太い配管からは冷却水や蒸気が流れていく音が聞こえ、至る所に置かれた小型の核エンジンや燃料式ボイラーからは冷却水が蒸発して発生した猛烈な量の蒸気が漏れ出している。 薄暗闇を照らす煌々とした熱線が空間の至る所を赤く照らし出し、湿った熱気が猛烈な暑さを纏った風を生み出す。 無機質な動力源から拡がる轟音と熱線が封じ込まれた戦艦の心臓部、機関室は、宇宙空間での熾烈な戦闘が終わっても全力で稼働し続けていた。 歴戦を生き抜いた証である黄金色の勲章を揺らしながら、尚木は更に機関室の奥へ走る。 艦長帽の下から、蓄えた白髭の中から、熱く着込んだコート型の軍服の下から、大量の汗を滲ませながらも必死に何かを探す。 事前に見越した場所を幾つも回るが、今日に限ってはどこにもおらず、更に走り回る。 だが、見つからない。 「うぅ……どこ……どこにいるんだ……。……ぉーぃ……おーい……おぉぉぉぉぉぃっ!!どこにいるんだよぉー!!」 積み重なる不安から逃げる様に、思わず大声を上げて呼びかける。 空気を降らす轟音の中、何度も木霊となって機関室全域に響き渡るが、暫く待ってもそれらしい反応は帰ってこない。 更に尚木を襲う不安、焦燥、恐怖。 余りにも弱弱しく潤んだ瞳はまさに儚さを身に纏った少女の様に輝き、今にも泣き出しそうに悲しげな表情を浮かべる。 「………うっ、えぐっ、ひっぐ……うっ、うぅぅ……ふえぇぇぇ……」 「なーに泣きそうになってんだよ、この泣き虫」 突如、天井の配管の隙間から、尚木の背後に勢いよく飛び降りてきた男が頭を叩く。 余りに唐突な衝撃に驚いた尚木は泣くのも忘れてとっさに振り返る。 そこに立っていたのは、地肌が見える程短く刈り上げられた頭にゴムバンドを巻き、青かったツナギと白かった袖なしのインナーシャツを着たガラの悪い爺だった。 ゴムバンドには潰れたタバコや小さな工具が幾つも刺さり、ツナギとインナーシャツは元の色が分からなくなるほど油に汚れており、お世辞にも身綺麗だとは言えない。 しかも髭は生えっぱなし、肌は放射熱で小麦色に灼け、腰に巻いたツナギの袖が見えなくなるほど脂肪が詰まった太鼓腹。自堕落な世捨て人にしか見えない。 「……か、梶浦……」 「ったく、漸くバカのせいで暴走しかけたエンジンの調整が終わって、漸く狭い所でこっそり『お楽しみ』してた所だったのによぉ。お前は相変わらず空気の読めない甘えん坊だな、尚木」 とても戦艦の心臓部を守る責任者とは思えない風体の梶浦機関長は、手に持っていた巨大なディルドで肩を叩きながら悪態をつく。 続けて尚木の頭を軽く叩いて顔を覗き込むと、顎を突き出して憮然とした表情で睨みつける。 「おい艦長さんよぉ。勝ったのはめでてぇが、んなガンガン光学兵器使わないでくれますかねぇ~。こちとら両手の指にちょい足した程度の人員で何とかやりくりしてんだからよぉ。よりにもよって発電機のメンテ中にぶっ放すとか……馬鹿なの?アホなの?予備バッテリーまで起動させて何とかしたけどよ、挙句の果てに実弾の砲塔壊されるとか益々エネルギー使用量増えるじゃん!!今度帰港した時にゃ、上に掛け合って発電機の増設と実弾砲塔の追加武装を……」 一方的に愚痴をまくしたてる梶浦だったが、尚木はそれを全て無視……というよりも聞ける程の余裕がなかった。 「梶浦……かじうらぁ……。うっ、うっ、うえぇぇぇぇぇぇぇぇ……っ!ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」 極限まで我慢していた感情が大量の涙となって溢れ出す。機関室の轟音にも負けない大声で泣き出すと、尚木は梶浦に強く抱き着いて肩に顔を埋めた。 まるで親に泣きつく子供の姿だが、二人とも60を超えた爺である。 片や口を開けば愚痴や不満ばかり出る不良爺。片や子供の様に鳴き喚く泣き虫爺。 何とも言えない光景だが、二人にとっては日常と言っても良い見慣れた状況であった。 「あーはいはい!わかったわかった。分かったからそんなに引っ付くな!ただでさえ糞暑いのに熱中症になっちまうよ!」 「ひっぐ、えっぐ、ひぐっ!こわかったぁ、こわかったよぉぉぉぉぉぉ……。また死んじゃうかと思ったぁ!また死なせちゃうかと思ったぁ!ぐずっ、えぐっ……怖かった……すごくこわかったよぉ……」 「はーったく、よしよし。今日も怖かったんだな。敵を殺して、殺されそうになって……よしよし、弱虫の癖によく頑張ったな。けどもう敵はいない、戦艦も無事、俺だってそばにいる。だからんなに泣くな、もう怖い時間は終わりだろ?」 梶原も梶原で、子供をあやすように尚木の頭を帽子越しに撫で、震える背中を優しく撫でる。 蘇る恐怖で全身が震える尚木をその場に座らせ、強い力で引き寄せて両手いっぱいに抱き締めて心臓の鼓動を共有する。 「ぞうすけ、お前もう艦長になって何年経つんだよ。そんな立派な服着て、勲章一杯もらって、立派な髭まで生やしたのに、幾つになってもビビりの泣き虫だったガキん頃のままだな、お前は。」 「うっ、うっ、うっ……けいちゃん、けいちゃん……ワシ、やっぱり艦長に向いてないよぉ……。帰りたい、早く地球に帰りたいよぉ……死にたくない……何にもない宇宙で死にたくないよぉ。ふえぇぇん……!こわいぃ、こわいよぉ……!」 尚木の手が更に強く梶浦のシャツを掴む。シャツが破れそうな強さで握るその腕は忘れられない死の恐怖に震え、梶浦の穏やかな鼓動に掬いを求めてすがり付いている。 歳も取り、髭を蓄え、図体も大きくなり、知識を積み重ね、地位も名誉も手にしたのに、根っこはまだ何も知らない純朴な少年だった頃と何ら変わっていない。 何十年も泣きじゃくる尚木の体を優しく抱擁し続けた梶原にとっては、いつまでたってもイライラするが結局甘やかしてしまう可愛い弟分なのである。 「ほら、ぞうすけ。泣いてねぇでこっち見ろ」 梶原に従って尚木が顔を上げる。涙でぐっしょり濡れた頬を拭い、真っ赤に腫れた瞳で弱弱しく見つめてくる。 そのまま距離をつけて横から尚木の肩を強く抱き寄せると、梶原は大口を開けて尚木の唇を塞いだ。 そのまま強引に荒ぶる舌を捻じ込ませ、無防備だった尚木の舌に絡み付き大量の涎を注ぎ込む。 これも、いつも通りの流れ。 恐怖で染まり強張った尚木の心身を、濃厚な接吻で蕩けさせる。 同時に尚木のズボンのチャックをゆっくり下ろし、中に熱く火照った掌を入れて直に人肌で温める。 「んっ……んっむぅんっ……んーっ!んーっ!んんーっ!ぶぢゅぶぢゅぶぢゅぶぢゅぶぢゅ……じゅるるるるるるるっ、んぁあ。はぁ、はぁ、はぁ……けいちゃん、しゅき……けいちゃんの、けいちゃんのあついの……ほしいょぉ……」 「ふーっ。ったく、甘えん坊なのも相変わらずか。……怖くなくなるまで、俺に全部委ねちまえよ、ぞうすけ」 「うん。……けいちゃん……もっと、もっと……もっとぉ……」 口を開けて舌を突き出す尚木に、梶原は慈愛の視線を向けながら容赦なく舌を絡めて搾り上げる。 頭を引き寄せ角度を変えて、尚木の恐怖を全て快感に上書きしようと徹底的に口腔を犯す。 下半身では、梶原の人肌で興奮した尚木の肉棒が脈動し、ズボンの外に皮を被ったままの亀頭を出す。 何十年も使われて染みも見える黒ずんだ肉棒は、それでも時間をかけて確実に勃起し、尚木の精力の強さを如実に示している。 「んっ、んっ、んっ、あふっ、はふっ、あぅっ、ずじゅぶぼぼぼぼぼっ!!んんんんんっ!!ぶじゅじゅじゅじゅじゅずぢゅるるるるずぉぉぉぉぉぉっ!!!」 一際梶原が口腔を啜った瞬間、あまりの快感に尚木の全身が腕の中で大きく弾み、恐怖ではなく快感で震え始める。 じょろじょろじょろじょろ……じょおおおおおおおおおおおっ、じゅろろろろろろろろろろろっ。 全身の力が抜けて全てを梶原に委ねた結果、尚木の肉棒から勢いよく大量の尿が音を立てて噴き出した。 前方に大きな弧を描いて床に叩き付けられる黄金色の尿は、機器の放つ赤い熱線の影響で赤く色づき、飛び散った飛沫が即座に蒸発して猛烈なすっぱい臭いを漂わせる。 それでも、梶原は接吻を止めず、尚木も梶原以上の強い力で抱き着いて唇を押し付ける。 恐怖を忘れるように、安らぎを求める様に、尚木の全身が梶原を捕らえる。最初は梶原が押し付けていた唇は、徐々に尚木からの勢いが強くなり、その隙間からは大量の涎が糸を引いて顎髭を濡らす。 溢れる尿と共に恐怖を取り払い、与えられる梶原の熱い接吻と抱擁に沈み生きている実感を取り戻す。 「ん……ぶちゅるるる……んおぉ……。あーあーあー。まーた船の心臓部で漏らしやがって。相変わらず寝小便は治らねぇのな」 「あっ、ふぁ……ちっ、ちがう。おねしょは最近はしてないぞ!こ、これはただ……けいちゃんの接吻が、気持ち良過ぎて……!」 溢れる尿は、徐々に噴き上げる角度を上げていき、距離の代わりに高さを稼いで音と飛沫を大きくする。 放尿の快感か接吻の興奮か。尚木の肉棒は揺らめく赤い光に照らされて完全に勃起し、天井を打ち抜く勢いで放尿を継続する。 ただ、鈴口開く亀頭は皺皺の皮から少しだけ顔を覗かせており、完全には露茎されていない。。 この歳にして包茎の肉棒は中に痴垢を沢山溜め込むだけでなく、放尿の際に皮に遮られて四方八方に飛び散って臭いを充満させる。 梶原が軽く扱いて亀頭を露わにしようとするが、硬く締まった皮はそれ以上根元にずり落ちず、梶原の手を尿塗れにし尚木に痛みを与えただけだった。 「痛っ!や、やめてっ、止めてくれけいちゃん!裂けちゃう!それ以上はちんちんの皮が裂けちゃうからっ!」 「やっぱ駄目かー。何十年前から毎日一緒にオナニーしてて、なんで俺だけとうの昔に剥けちまったんだろうなぁ。なぁ、艦長?」 意地悪い笑顔で問いかけると、尚木は少し怒ったような表情を浮かべて梶原の胸を叩く。 そのまま胸に顔を埋め、拗ねた様に視線を逸らす。 「……馬鹿。童貞捨てるなんて、とうの昔に諦めたわい。けんちゃんはずっとずっと女と遊びっぱなしで、何人も子供も孫もいて……」 尿が切れた肉棒はやや勃起を衰えさせて縮小し、厚い皮の下に恥垢塗れの亀頭を隠す。 立ち込める猛烈な尿の酸っぱい臭いは鼻腔を刺激するが、二人にとっては互いの存在を再認識させる慣れた香りである。 拗ねた尚木に溜め息をつきながらも梶原は嬉しそうに頭をなでる。 自分の子供の誰よりも大きく年老いた相手だが、誰よりも長い付き合いで心が安らぐ相手に、柄にもなく思わず穏やかな笑みが零れる。 「そう言うな。女孕ませてガキ生まれても、なかなか大変なことばかりなんだぞ。浮気に離婚に養育費に慰謝料に……」 「そんなの、全部けいちゃんの自業自得だろう。それに、何だかんだ仲良さそうにしてるんだろ?」 「まぁ、この齢になれば俺も相手もすこしゃ丸くなるもんよ。たまに集まって食事したり旅行したりするが……結局は女は女同士でつるむし、ガキからは腫れもの扱いで、孫からは金づる扱いさ。ぞうすけの言う通り、我ながら馬鹿な爺さ」 「…………じゃあ、ワシは?ワシのことは、どう思ってる?」 胸に顔を埋めたまま、尚木が上目遣いで表情を伺ってくる。 しかめ面で唇を尖らし、頬を膨らませるのは歳不相応であるが、少なくとも梶原の心にはえげつない愛いの一撃を与える。 流石の梶原も思わず目を泳がせて頬を赤らめ、一人慌てて言葉を空回しさせる。 「えっ、ちょおま…………ず、狡いぞ。そんな顔で、そんな事聞かれちゃ……さ、流石の俺だって……素面のままじゃいられねぇよ……このバカ」 『バカ』の語気は先程よりも優しく、声も小さい。 梶原の傷だらけの褐色の太腕は意を決したように尚木の体を持ち上げ、顔の高さを無理やり合わせたらそのまま強く抱き締める。 そして、先程までとは全く異なる真剣さに満ちた……『機関長・梶原桂治』として見せる表情で尚木を見据えた。 「……チンポギンギンになるくれぇには大好きに決まってんだろ。言わせんな。こ、この……幼馴染め!」 再び唇を重ねる。梶原から押し当てられた唇は先程とは違って柔らかな動きで、それでいて時間をかけてゆっくりと尚木の唇を堪能する。 尚木も突然の事に驚いたが、それでも梶原の真意を察し、されるがままに唇を捧げる。首筋に腕を回し、梶原の頭を引き寄せて距離を縮め、激しくはないが濃厚な接吻に酔いしれる。 尚木の体が再び震え、萎えていた肉棒が硬さを取り戻す。 それに続くように、梶原の股間が急角度に膨張し始め、尚木の豊満な腹を刺す。それに気づいた尚木がツナギのチャックを下ろし中に手を入れると、梶原の肉棒が勢いよく突き出てきた。 尚木よりも太く長い、黒光りする肉棒は、まるで黒檀を連想させる。浮き出た血管が脈動し微かに竿を伸縮させることで更に勃起させ、流れ込む血液で赤黒く火照り出す。 その年季の入った雄の黒檀を、尚木の枯れた指が優しい動きで扱き出す。 梶原の体が一瞬激しく痙攣し唇が離れるが、徐々に愛情を帯びてきた互いの瞳に心臓の鼓動を昂ぶらせながら、再び唇を重ねる。 お礼代わりにと、梶原の節立った硬い指も尚木の肉棒を掴み、手慣れた手つきで上下に扱き出す。 今度は尚木が体を震わせ短く嬌声を漏らすが、それを切っ掛けに梶原の胡坐の上に乗り両足で腰に捕まる。 『対面座位』になった二人の老人は、接吻と見つめ合いを繰り返して相手の肉棒を扱き続ける。 地味な作業ではあるが、今の二人にとっては最も安心でき、最も悦び、最も愛情を感じられる行為である。 二人の腹の下で小さな包茎と、大きな露茎が扱かれ合う。 丸い柔らかい腹同士が正面衝突し、下半身を隠してしまうが、それでも二人の腕は止まらない。 乾いた掌の中で柔らかさを失い硬度を増し、熱く湿り出す肉棒の感触に夢中になり、優しかった接吻も徐々に激しさを取り戻す。 鼓膜がマヒしそうな程同じ轟音が響き渡る機関室の一角で、そこだけは徐々に大きくなる粘り気のある水音と、二人の老人の掠れた喘ぎ声が響く。 全身汗塗れになるほど厚くなると、尚木は勲章が沢山ついた分厚い上着のボタンを外し背後に脱ぎ捨てる。宇宙活動に適した上下タイトスーツも袖を抜いて上半身を露わにする。 梶原も我慢できずに唯一の上着であった白いシャツを乱暴に脱ぎ捨てると、互いに露出した豊満な腹と雄乳を相手指先で激しく揉み合い、交互に顔を埋めて体温と体臭を貪る。 「はぁーっはぁーっはぁぁぁぁーっ!けいちゃん、けいちゃんのおっぱい……おっぱい、やっぱりすごく良いよ。ムチムチして弾力あって……あぁ、もっと沈みたいよぉ」 「ふーっ!ふーっ!ふぅぅぅぅぅーっ!ぞうすけ!おまえの乳だってこんなにムニムニしおって!そこいらの女の乳なんかよりも断然おっきくてあったけぇわ!俺も、俺もぞうすけの乳ん中で溺れてぇよぉ」 肉棒を扱くのは忘れず、互いの胸の肉を差し出して乳首を啜り合う。そのまま谷間に顔を埋めて深呼吸し、安らぎと興奮を同時に接種し肉棒を更に勃起させる。 いつの間にか、肉棒は二本とも溢れ出す先走りでぐっしょり濡れて、扱く水音は二人の嬌声を上回る程大きく響いている。 高さを増した肉棒は二人の豊満な腹の間に無理やり食い込んでしまい、これ幸いとばかりに二人は互いに強く抱き着き、体を上下させて腹の脂肪で扱き出す。 溢れる先走りに加えて、滝の様に滲み出る汗が潤滑油となって、肌理のない老いた肌にも十分な滑りを与えてくれる。腰を突き上げる度に腹の間から生臭い飛沫が飛び、裏筋同士が激しく擦れて猛烈な快感を与える。 肉厚な雄の熱に扱き擦られる肉棒に、二人の老人は涎をぶちまけながら大声で卑猥な嬌声を漏らし、腹の底から喉が潰れそうな程に喘ぐ。 揺れる胸は男の胸とは思えない程上下に揺さぶられ、大きな乳輪の中心にある勃起した乳首からは、大量の汗の雫が糸の様に撒き散らされる。 足元には溢れた汗と先走りが混ざった大きな水溜りが広がり、厚く乾いていたコンクリートの床の上に粘り気の強い川を幾重にも伸ばしていく。 「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!あああああああぁ……っ!けいちゃん、ワシ、ワシもう、もうぅ……っ!」 「ふーっ!ふーっ!ふーっ!ふーっ!ふがあああぁぁっ!ぬがあぁぁぁあ……っ!!お、おう!俺も、俺もだぞうすけ!一緒に……一緒に逝くぞ!怖い怖い言いながら、勝手に逝くなよ!泣き虫艦長!」 「ああっ!あぁんっ!あんっあんっあんっあんっあああぁぁぁぁ……っ!け、けいちゃんもぉっ!先に逝っちゃヤダぁっ!ワシを残して逝くなんて駄目!ヤダ!許さないっ!か、艦長命令で一緒に逝くぞっ!」 「ふぅぅぅぅぅっ!ふぅぅぅぅぅぅっ!ぬぅぅぅぅぅぅっ!へっ!こんな時だけ艦長面か!けど、その雄臭い表情……嫌いじゃないぜ……!尚木十三艦長のその命令、死んでも守ってやりますぜぇっ!!梶原桂治機関長としてなぁっ!」 呼吸を荒げて汗だくになり、髪を振り乱しながら腹で肉棒を挟んで扱きながらも、見つめ合うその瞳には力強い輝きが宿っていた。 命を懸けた戦場以前から、長き時の流れの中で培い成長していった、強い心身の繋がりで得た、全てを超越した『愛』の輝きが。 「あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!逝くっイクッ逝くぞぉっ!!梶原機関長っ!タイミングを合わせろぉっ!」 「どんと来い!任せなぁ!!ぐぅぅぅぅっ!!ふぐぅぅぅぅぅっ!んごぉぉぉぉぉっ!おっ!おっ!のほぉっ!!こ、こりゃ……い、逝くっ!逝けるッ!一緒に……逝っくぅぅぅぅぅぅっ!!」 「良いっ!良いタイミングぅっ!!あぁっ!あっはっあっあっんぁあああっ!あああああああぁぁっ!逝く逝く逝く逝くっ!!共に逝くぞぉぉぉぉぉぉっ!!!」 機関室中に響く怒涛の雄叫びに続き歯を食い縛ると、腹の圧力の中で激しく扱かれ搾られた肉棒は射精した。 正に一瞬の狂いもなく、尚木と梶原の肉棒は同じタイミングで鈴口を開き、大量の精液を互いの乳や顔面に向けて噴き上げた。 太さや長さの差こそあれど、射精の勢いは優越つけがたく、一瞬にして互いの皺だらけの年季のある顔を、猛烈な雄臭さと苦さが内包した精液で包み込む。 激しく弾み揺れていた乳にも精液の雨が下から降り注ぎ、汗に塗れた丸い体は白濁液の膜の中に沈む。 激しい射精の脈動を裏筋と腹を通して互いに感じ合う艦長と機関長は、暫くは射精の圧倒的な快感に身震いて天を仰いでいた。 だが、先に艦長が勢いよく機関長に抱き着くと、機関長も負けずに強く腕を回して抱き止める。そのまま腹の中から噴き上がる二人の精液の間欠泉を顔面と乳で受け、互いに舐め合い、そして口腔に注ぎ合う。 この猛烈な雄の臭みと苦みは、二人はよく知っている。 片方が、又は互いが猛烈に求め合ったときに生まれる二人だけの奇跡の液体。 二人分の苦みと臭み、そしてそこから生まれる新たな苦みと臭み。 尚木と梶原、二人にしか味わえない秘密の液体は、これまで数え切れないほど生まれては喉に流れ込み、二人の心身を繋げてくれた。 「あっ!ひっ!ひゃあっ!あふっ!あんっあふぅぅぅぅぅぅ……っ!!あぁ美味しい、おいしいよぉ……けいちゃんの種汁……けいちゃんの濃い種汁ぅ!」 「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!ふっ……んぐぅぅぅぅぅうう……っ!ぞ、ぞうすけのだって相変わらずのクッソ甘い種汁で……もうガブガブ飲めちまうぜ!」 「あっ!あっあっあっあっ……。でも、でもぉっ……ワシとけいちゃんの……混ざったのも、すき……」 「おっ、俺もだ、ぞうすけっ!ぞうすけと種汁混ぜる度にクッソうまくて全然萎えなぇんだよ……!そう簡単に飲めなくなって堪るかってんだ!」 「はぁっ、はぁっ、はぁぁんっ!……そ、そうだね……飲めなくなる時も……一緒、にしようね……けいちゃん」 「ほぉぉぉっ……ほぉぉぉぉっ……ふおぉぉぉぉぉっ……。へっ!何を当然なこと言ってんだよ!この馬鹿!甘えん坊!泣き虫!」 疲労困憊しながらも朗らかな笑顔を浮かべる尚木に、虚をつかれた梶原は更に顔を真っ赤に染めながら凝視する。 「……好きだぞ、十三」 「……ワシもだよ、桂治。……な、なんか本名で呼ぶの恥ずかしいよぉ……」 「……せ、折角の良い雰囲気ぶち壊すなっての!だからお前は……だぁぁぁぁぁぁぁっもう!ぞうすけぇぇぇぇぇぇっ!!」 「えへへ。そうそう!そういうのがけいちゃんだもん!艦長と機関長でも、けいちゃんはけいちゃんだもんね!!」 尚木が満面の笑顔で見つめてくる。その表情からは恐怖に怯えるか弱い老紳士の気配は一片もしない。 言葉には出さないが、梶原は一言では言い尽くせない縁を結んだ尚木に、最大限の笑顔で返事をした。 言葉では言い尽くせない、最大限の愛を伝えるために。 了