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昆虫レディ 〜セミ〜

【生き埋め】 配信動画のタイトルはセミの羽化。 編集、加工無し、生音声とだけ書かれていた。 どういう事か意味がよく分からないまま、再生してみた。 まず出て来たのは、頭にタオルを巻いた男性が2人大きな穴を掘っている映像。 ある程度掘ると男たちは穴を出た。 画面が切り替わり出て来たのはセミの幼虫。 全身がキャラメル色をし、独特のフォルムをしている。 ここまでは正直よく分からない動画だと思い適当に見ていた。 次の瞬間、俺は画面に食いついていた。 セミの幼虫を男2人がかりで抱えているのだ。 つまり、セミの幼虫は巨大という事。 そしてそのセミの幼虫はしゃべっている、くぐもった声で。 「やだ、やめて、やめて、放して、下ろしてよ!」 手足をバタバタとさせて必死に抵抗している。 そのセミの幼虫から聞こえてきたのは若い女性の声だった。 セミの幼虫は運ばれてくると、そのまま穴の中へと放り込まれる。 「痛い、痛い!なにするのよ」 語気と怒りを込めて言った後、「早く着ぐるみから出して、出してよ」を連呼する。 しかし、彼女の言葉は届かず、それどころか掘った穴を埋めるように、土が穴に戻されていく。 当然、セミの幼虫にも土がかかる。 始めはセミの幼虫に軽くかかるくらいだったが、だんだんとかかる土の量が増えていき、起きあがろうとするセミの幼虫は土がかけられる度に押し潰された。 「やめて、ホントにやめて、死んじゃうよ、死んじゃうから」 彼女がいくら懇願し連呼しようとも、その声は男たちには届かず、淡々と土は穴へ放り込むまれた。 彼女は自らの命を守る為に、思う様に動かない着ぐるみの手で必死に穴の壁を登ろうとする。 何度も何度も穴の壁に細くカマキリのカマの様な手をかけて。 しかしそんな手ではとても自分の体を持ち上げる事は出来ず、土の壁に数本の縦に伸びる溝を描く事しか出来なかった。 そんな必死の努力をする彼女に無情にも大量の土が襲う。 セミの幼虫は仰向けにひっくり返った。 だが、男たちの手は止まらない。 仰向けになったセミの幼虫の上にどんどん土がかけられる。 「ぐふぉ、ぐふぉ」 セミの幼虫が咳き込んだ。 おそらく、彼女の顔に直接土がかけられたのだろう。 彼女は咽せながら、そして泣きながら懇願する。 「なんでもします、お願いですから助けて下さい、お願いします、お願いします、おねが…… 」 土がセミの幼虫を完全に覆ってしまい彼女の声は聞こえなくなった。 土の表面が少しだけ動いているが、そのうち動かなくなった。 【転落】 画面が切り替わると、穴から這い出るセミの幼虫。 体が半分土から出て来たが、足が土から出せない。 それよりも彼女が生きていた事に安堵し本当に良かったと胸を撫で下ろした。 セミの幼虫は土からなんとか自力で這い出ると目の前に人工的に造られた木の幹の上を進み出す。 画面を縦にすると、木を登っているように見える、そんな映像を撮る為だと思った。 セミの幼虫が木の幹の上を進むのには理由があった。 カメラのアングルが変わる。 セミの幼虫の背後からの撮影、その先にはカバンと免許証が見える。 カメラはこの免許証の写真にズームアップしていく。 なかなかの美人、一瞬映った免許証から彼女の年齢が分かった。 24歳、なぜこんな若くて綺麗な子が、グロテスクな着ぐるみに入れられて、埋められたり這いずり回らなければならないのだろう。 疑問だけが残る。 人工的に造られた幹の上を進んでいた土まみれのセミの幼虫の着ぐるみの前脚、中脚、後脚の全部で6本の脚が幹にスタッフにより固定された。 すると、人工的な木の幹は固定されたセミの幼虫とともにクレーンで釣り上げる。 「きゃあ、何これ、下ろしてよー」 くぐもった声で助けを求める彼女。 俺は一気に血の気が引いた。 今、木の幹に固定され釣り上げられている女性と先ほどまで穴に埋められた女性の声が明らかに違ったのだ。 つまり、助かったと思っていた土に埋められた女性は未だに仰向けになったセミの幼虫の姿で、土の中に埋められているという事になる。 早く助けないと本当に死んじまうぞ。 俺がそう思いながら、画面の中を凝視する。 埋められた女性の事が気になる。 映像は上空から地面を撮るアングルの後、吊り上げられた幹の横からのアングルに切り替わった。 ちょうどその時、羽化が始まる。 幹に固定されていたあの若い女性は、セミの幼虫の中に白いセミの着ぐるみを着ていたのだ。 セミの幼虫の背中が割れて、反り返る様にして白いセミの成虫が出てきた。 本来なら脱皮し空になった抜け殻に捕まり、セミは羽を伸ばすのだが。 幹は吊り上げられ3mほどの高さはある。 白いセミの成虫は幼虫から脱皮する事はできたが、幼虫の殻に掴まる事が出来ず、そして言葉を発する間もなく頭から真っ逆さまに転落した。 白いセミの成虫は鈍い音を立てて地面に叩きつけられると動かなくなってしまった。


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