イグアナ カフェ 完全版
Added 2021-11-03 14:02:21 +0000 UTC【プロローグ】 大手飲食チェーン会社で働く俺 康本 賢(やすもとさとし)と同期入社の秋元 真夏(あきもとまな)は、上司からの辞令を待っていた。 配属先はイグアナカフェ。 もうすでに大都市に数店舗はオープンしていたのだが、客入りがイマイチという事もあり、特命を受けてイグアナカフェの売上に貢献する事となった。 どう貢献するのか疑問に思っている俺を察したかの様に、上司は俺たちを連れて移動を始めた。 行き着いた倉庫の中には、巨大なイグアナ?いやイグアナの着ぐるみが用意されていた。 見間違えるのも無理がないほどリアルなイグアナの着ぐるみ。 上司からの説明がなくとも、特命業務の内容を悟った。 俺と秋元は、このリアルな着ぐるみを着てイグアナカフェの販促活動をするという事だ。 翌日から特命業務が始まる事となったのだが、何故かイグアナカフェへの集合ではなく、目的のイグアナカフェから一番近いターミナル駅のうちの会社の系列の店舗だった。 当日、指定された時間にその店舗に行くと、昨日目の当たりにしたリアルなイグアナの着ぐるみが準備されていた。 【きぐるみ】 しかし、イグアナの着ぐるみは一体、つまり俺の分しかない。 すでに秋元は先に着いて着替えているのだと思った。 店舗従業員から着替えるように指示されて通された部屋にいたのは、秋元ではなく知らない男だった。 イグアナに合わせた緑色のゼンタイを着用しており、ガタイの良さと股間のモッコリが印象的だった。 男は俺が手にしているリアルなイグアナの着ぐるみと同じ着ぐるみに入ると、店舗従業員に背中のファスナーを閉めてもらい、マジックテープでファスナーを隠して背びれをマジックテープでしっかりと取り付けて貰っていた。 秋元もこの店舗に集合のはずだったのだが、急に予定が変更になったのかも知れないと考えた。 一言くらい連絡をくれてもいいようなものだが、それをしないのはいかにも秋元らしい。 「あなたも早く着替えて」 と店舗従業員から緑色のゼンタイを渡されて、着替えを促される。 俺もパンツ一丁で緑色のゼンタイを着ると、背中のファスナーを閉めてもらいイグアナの着ぐるみの中へ。 イグアナの着ぐるみの外側はラテックスでの形成物を着色し、質感にも見た目にもこだわった本物に見間違えてしまうほどの出来映えだった。 着ぐるみの中はウレタンがぎっしりと詰まっており、中の操演者の体型を完全に分からなくする。 これなら、男性でも女性でも入れると思った。 そして、見た目以上に軽くて動きやすく出来ている事に驚いた。 店舗従業員からくれぐれも声を出さないように念を押された。 着ぐるみを着るのを手伝ってくれた店舗従業員とばかり思っていた女性は、実はエリアマネージャーである事は後で知った。 俺は彼女の管轄下の店舗に配属されたという事になる。 自分が、失礼な対応をしていなかったかと後で振り返ったが後の祭りだった。 【販促活動スタート】 二匹の巨大なイグアナは二足歩行で、ターミナ駅の改札へと向かう。 改札に到着するまでに当然のように、駅の利用者や電車の乗客の反応に手を振って応える。 イグアナカフェを宣伝するためのチラシはガタイのいい男が入ったイグアナに持たせていたのだが、この男は兎に角歩くのが遅い。 着ぐるみに不慣れな上、チラシが大量に入ったリュクサックを背負わせている事を考慮してもだ。 俺はイグアナに興味を持ってくれた人たちに対してアピールしながら引き止め、もう一匹のイグアナが追いついてくるのを待った。 ようやく、追いついて来たイグアナのリュクサックをイグアナの細く長い指で引っ掛けて開けると、そのチラシを配ってイグアナカフェの宣伝をした。 ようやく、人集りが落ち着いたところで、移動をする。 今度は歩くのが遅い男に合わせて移動した。 改札に到着し、事前に上司から電鉄会社に連絡がいっていた様で、すんなりと改札を通してもらえた。 駅のホームでもリアルなイグアナの着ぐるみは人々の興味を引いたようで人集りができたが、電車との接触の危険もある為、ホームの端で通行する方の邪魔にならない所でチラシを配り、記念撮影にも応じた。 ようやく、人集りも落ち着き電車に乗れる様になる頃にはチラシが半数以上なくなっていた。 人集りができ、チラシもなくなり宣伝効果はバツグンだが、実際に来てくれるお客さんはいるのだろうか? そんな疑問を抱えながら、二匹のイグアナは電車に乗った。 車内では人集りは出来ないというか、狭い空間にリアルな巨大イグアナがいる事で、変な緊張感と圧迫感が生まれていた。 車内は誰一人喋る事なく静寂の中、電車のガタンゴトンという、列車のジョイント音だけを響かせながら電車は走り出した。 一つ目の駅までは静寂が続いたが、停車した駅から乗り込んできた女子高生たちで車内の雰囲気が一変する。 「きゃあ、なになに?」 「え、着ぐるみ?」 「すんごいリアル!」 「写真撮っていいですか?」 女子高生に囲まれながら、写真撮影に応じていると、先ほどまで警戒して寄って来なかった乗客も一緒に写真撮影に加わった。 女子高生を含め、写真撮影をした人たちにチラシを配り、イグアナカフェのある駅で、二匹のイグアナは下車し、乗客に手を振って見送った。 俺はあの女子高生たちがカフェに来てくれれば、SNSで拡散して繁盛する事を想像しながら、駅を出て目的地のイグアナカフェへと向かった。 【予期せぬトラブル】 ターミナル駅構内、電車内とチラシをほとんど配り、俺的には十分な販促活動に満足しながら、意気揚々とイグアナカフェへと向かっていた。 残り数枚となったチラシも全て配り終えて、イグアナカフェに到着すれば、上司も納得するだろうと考えた俺は脇道から見える綺麗な工場に足を踏み入れた。 歩くのが遅いイグアナも俺の後に続く。 昼間でも照明が煌々とついている工場なので、人が多くいてると睨んだのだが、予想は外れた。 ビニールカーテンがされた工場の奥の方へ進むと、小さな事務所のような部屋があった。 部屋は扉が開いておりビニールカーテンをかき分けるようにして、中には人がおらず冷凍食品だけが箱で積まれていた。 “なんだ、冷凍倉庫か“ そう思って出ようと扉に向かった瞬間だった。 扉が閉まり冷凍倉庫内の照明も消されて真っ暗になった。 冷凍倉庫内の温度を示す[−19℃]が赤い文字で表示されていた。 着ぐるみを着ているものの、急激に冷やされてどんどん体が冷えてくる。 閉じ込められた事を知らせようと、分厚い扉を叩いてみるが外からの反応はない。 そうしている間にもどんどん体は冷えていく。 もう一匹のイグアナも冷凍倉庫内にいる。 普段歩くのが遅いのにこんな時に限って、きっちりとついて来て閉じ込められた事に妙に腹が立つ。 冷静に考えれば、調子に乗った俺が悪いのだが。 自分のミスを認めたくないばっかりに、もう一匹のイグアナに責任転嫁していた。 アレコレ考えようとも現状が改善するわけもなかった。 かなり冷えてきた。 こんなところで凍死してしまうのか? そう考えると秋元真夏の顔が浮かんできた。 俺は入社した時から真夏の事が気になっていた。 だから、今回の異動が真夏と同じで内心ものすごく喜んでいた。 さらに、特命を受けて一緒に仕事ができる上、真夏が入ったイグアナの着ぐるみ姿を間近でずっと見ていられる事にドキドキとワクワクが止まらなかった。 なのに!なのにだ。 なんで、男と2人で着ぐるみに入って販促活動をせねばならないのだ!! 腹が立って仕方のない俺はぶつけどころのない怒りをもう一匹のイグアナにぶつけるようにして睨みつけた。 【一時凌ぎ】 暗闇の中、目が少しずつ順応し冷凍倉庫内の僅かな灯りで、睨みつけたイグアナの様子がおかしい事に気がついた。 どうも野郎は腕を引き抜いて、着ぐるみの中で暖を取ろうとしているのか、奇妙な動きを続ける。 ならばと、俺も野郎のマネをしてみるが、上手く着ぐるみから腕が抜けない。 俺が悪戦苦闘していると、野郎のイグアナから『バリッバリバリ』とマジックテープの外れる音がする。 マジックテープが外れるという事は、着ぐるみの背中のファスナーはすでに開いているという事。 一体何をする気なんだろう。 着ぐるみを脱いで、ゼンタイで冷凍倉庫内にいたら、すぐに体が冷えて凍死しかねない。 なぜなら、ゼンタイの下はパンツ一丁だから。 そんな俺の心配をよそに、野郎は着ぐるみから出て俺の方へと、その体格には似合わない可愛らしい走り方で近づいて来た。 そして俺のイグアナの着ぐるみを脱がせ始めた。 「ちょっと待て、殺す気か?」 俺の声は届かず、着ぐるみの背中のファスナーは開かれる。 事もあろうに男は俺のイグアナの着ぐるみ内に入ってきた。 1人でちょうど良かった着ぐるみに男が2人で入る。 俺にその気はない。 しかし、男はお構いなしにウレタンを圧縮しながら、グイグイ着ぐるみの中へと入り、俺の背面に収まった。 冷凍庫内に一時的とはいえ、出ていたのでゼンタイが酷く冷えている。 男は腕を器用に背面に回すと着ぐるみのファスナーを閉めた。 人肌同士触れ合うと1人よりは暖まる事は俺も知っている。 一時凌ぎとはいえ、だれかも分からない男と密着しているのは、あまり気持ちいいものではない。 そして、今俺が一番気になっている事は、お尻の割れ目に沿って、野郎のモッコリが接触している事だ。 【衝撃】 俺はお尻の割れ目に沿って密着する野郎のモッコリをなんとかしようと、狭い着ぐるみの中でお尻を動かしてなんとかしようとしていると、俺の耳元に熱い吐息と男の声が耳に。 「あぁん、ジッとして感じちゃう」 俺はビクッとしてお尻を動かすのをやめた。 “声が、声が、女だ!“ 俺の耳元で囁かれた声は明らかに女だった。 俺は再びお尻を動かしてみる。 「もう、賢やめてよ、感じちゃうから」 俺の背面で見えない男に話しかけた。 「え、秋元真夏か?」 「そうだよ!朝からずっと一緒じゃん」 “え、なんで?ゼンタイ姿は男に見えた“ “俺の見間違い?それとも途中で入れ替わった?“ 俺はいろいろ頭の中で考えたが、答えが出るはずもない。 俺の動揺ぷりに真夏は説明してくれた。 「今朝、集合時間より早く着いた私にエリアマネージャーから質問があったの、ゼンタイを着ると体のラインが出るけど恥ずかしくないか」と。 「一度ゼンタイを着てみたけど、恥ずかしかったから正直にマネージャーに言うと、男性のような体に慣れるインナーを貸してくれたの、その上からゼンタイを着た時に賢が来たという訳」 「マネージャーから説明がいくと思っていたけど、してくれないし、賢はチラシを持たせるわ、早く歩いて置いてくわで泣きながら、後ろついていったんだよ」と、真夏は今日一日の事を全て話してくれた。 「おまけに冷凍倉庫には閉じ込められるし」 泣きそうな声で話始める真夏に俺は何度も謝罪した。 そして、ここから無事に出る事が出来たら、真夏のいう事を何でも聞くという約束を交わした。 数十分後、冷凍倉庫の従業員が資材を取りに来て、俺たちは発見されて倉庫を出る事が出来た。 その資材がイグアナカフェからの注文だったから、社内の人間が見ていたのではないかと疑ってしまいそうだった。 ともあれ、無事に出られた俺たちはイグアナカフェで私服に着替えて、その日は強制的に帰された。 俺たちの私服はエリアマネージャーが、イグアナカフェに立ち寄った際、持って来てくれていた。 【真夏からのお願い】 電車に乗り2人での帰り道。 俺の最寄り駅が近づいてきた。 吊り革に掴まり、俺の前で体を反転させて真夏が俺の顔を覗き込んできた。 “可愛い!“ そう思っている俺の顔を見て、「賢、何か忘れてやいませんか?」 “なんの事だろう?“ 「俺、この駅だから、また明日も頑張ろうな」 そう言って降りようとした俺の手を真夏が掴んだ。 咄嗟の事に驚いて、固まり降りれずに電車は走り出した。 俺が降りる筈だった駅で乗客がかなり降りたので、空席が目立つ。 俺を座席に座らせると、俺を見下しながら真夏が言った。 「冷凍倉庫から出られたら……… 」 俺は少し頭を捻り誤魔化そうとすると再び真夏が言う。 「冷凍倉庫から出られたら……… 」 俺は真夏に向き合い、「何でもします!」 「そう!よく出来ました!」 真夏は俺のおでこにキスをした。 真夏のお願いは何かというお話はまたの機会に。 完