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ごむらば
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アクトレスの苦悩 完全版

【ハエ人間】 「はぁ、こんな形でウエディングドレスを着ることになるとは」 私は大きなため息とともに肩を落とした。 「そんなに落ち込むなよ」 と声をかけてきたのは共演者であり、私の恋人。 「予行演習だと思えばいいじゃん!」 私とは対照的に落ち込む事なく、純白のタキシードを纏い軽い調子で私をなだめる。 「だって、親とか親戚にも映画でウエディングドレス着る事を公表しちゃったんだよ」 さらに続ける。 「しかも結婚式の彼氏役は本当の彼氏とも公表しちゃんだから」 私の目から涙が溢れてきた。 私は両手で顔を押さえて伏せた。 「仕方ないだろ、仕事なんだから、それに昨日、ちょっとだけ着れたじゃん、なあ、割り切っていこう」 そう言って、私の腕を掴んだ彼の手は細かな毛の生えた節のある手。 私は彼の手を振り解き、鏡を見た。 鏡には白いウエディングドレスに純白のベールをかけた花嫁姿がある。 しかし、よく見るとベールの下には、大きな複眼と細かな毛の生えたストローのような口。 ウエディングドレスの胸元からは毛の生えた硬そうな虫独特の体が覗いている。 「ハエだよ、ハエ、ハエ人間が結婚式あげるんだよ、いくら仕事でもトラウマになりそう」 私はまた両手で顔を押さえて伏せた。 【始まり】 映画の仕事が決まったのは、1年前。 当時付き合い始めた彼が恋人役という事もあり、すぐに仕事を引き受けた。 当初聞いていた内容はしきたりのある村の男女の恋愛が成就できるか否かといったものだと、ザックリとしか聞かされていなかった。 しかし、正式な内容は恋愛ものは恋愛ものだがホラー要素が強かった。 特殊なしきたりのある村で男女が結婚しようとするが、村人に猛反対をされてしまう。 村の中のある家系の男女が契りを交わし結ばれてしまうと男女はハエ人間となり村を滅ぼしてしまう為、決して結婚してはならないというもの。 本人たちはそんな事は知らずに町へと逃げ、友人たちを招待して結婚式を勝手に挙げてしまう。 しかし、結婚式を挙げている中、2人の体はどんどん変化しハエ人間となってしまった。 男女を追いかけてきた村人だが、ハエ人間になった2人を目の当たりにし、捕獲に乗り出す。 式の会場から逃げ出したが村人たちに捕まり、拘束されて祟りが起きないように村に連れ帰られて湖へと沈められてしまう。 これで一件落着と村人たちは安心したが時既に遅く、湖からはハエ人間の男女の末裔が這い出てきて、村人たちを襲い滅ぼされてしまう。 沈められた男女のハエ人間も湖から這い出てそこで映画は終わる。 【スーツアクトレス】 人間としてのシーンは昨日までに撮り終え、今日からはハエ人間のシーンが続く。 私と彼は午前中いっぱいかけてハエ人間にされた。 ちなみに私も彼もスーツアクターでなく、ごく普通の俳優だ。 私の中ではハエ人間はスーツアクターが控えていて吹き替えになるとばかり思っていたので、台本に目を通したが何の疑いも持っていなかった。 なのにまさか、自分がハエ人間にされるなんて。 昨日はウエディングドレスを少しだけだが、着れた事でテンションが上がったものの、今日からはテンションダダ下がりだ。 ハエ女だったら、顔も見えないし、そもそも私たちが演じなくてもいいと思うのだが、監督の妙な拘りが今の事態を招いている。 身長や動き、仕草が変わってしまうというのだが、ハエ人間にされたら身長はともかく、動きが制限されるので意味がないように思える。 そんな反論をする事もできずに今に至る。 【スタンバイ】 私は朝8時に彼とともにスタジオ入りした。 それぞれ別の部屋で着替え、着ぐるみの体部分を着てから同じ部屋で頭部の取り付けとドレスなどの衣裳の着付けを行う予定。 私には専属の女性スタッフがついた。 まず、初めに私は全裸になり、黒いラバースーツというゴムで作られた全身タイツのような衣裳を渡された。 これがまた着るのに一苦労。 事前に私を採寸して作られたものなのでピッタリし過ぎて着るが大変だった。 それでも時間はかかったが、ようやく首から下が黒一色になった。 苦労はしたものの、ラバースーツは着てしまうとまるで自分の肌のように張り付き、包まれて落ち着く、まるで守られているような錯覚さえしてしまう。 着ると暑いのではと、思っていたが意外と外気温を普通に感じるので寒かったり涼しかったり暑かったりと周りの状況で感じ方が変わり、まるで第二の皮膚を纏っているようであった。 ちなみにラバースーツはマスクも一体となっており、初めは全身タイツのようで滑稽に思えて、着るのに抵抗があったが、第二の皮膚に包まれた後には全身を包んでみたい衝動に駆られていた。 だから、女性スタッフが別の衣裳を取りにいった隙に、自分でマスクを被ってみると、全身がラバー独特の甘い香りに包まれ、妙な気分になった。 マスクは見た目には呼吸出来ないと思ったが被ってみると、中は細かな穴が無数にあいていて、呼吸も視界も良好であった。 背中側の腰から首元まで伸びるファスナーを閉めてマスクを被ると全身が第二の皮膚に覆われて、気分が高揚し勝手に股の割れ目に手がいってしまう。 筋に沿って触ると体中に電気のような衝撃が流れた。 感じ方が裸の時の数十倍はあるように感じた。 これはヤバい、ヤバ過ぎる、すぐに逝ってしまいそうだ。 自制するのがやっとという時、部屋の外で声がした。 私は慌てて股から手を離すと急いで背中のファスナーを下ろし、マスクを脱いだ。 間もなく、ノックがして女性スタッフが戻ってきた。 戻ってきたその手には黒光りした衣裳。 エナメル素材のその衣裳はツーピースで、上はフードと手袋のついた長袖のシャツ、下は足先まであるスパッツ。 ハエ人間が動いた際、エナメル独特のギシギシと擦れる音を出す為に着るらしい。 まず、スパッツを渡されて履いていく。 見た目に私の足では入りにくそうではあったが、意外にもラバースーツが程よく締め付けてくれているおかげで、すんなりと履くことが出来た。 履いている途中から、すでにエナメルが擦れてギシギシ音を出し始めていた。 続けて上の衣裳も着ようとし女性スタッフに止められた。 上の衣裳はラバーマスクを被って背中のファスナーを閉めてから着るようにと言われた。 私はすぐにマスクを被り背中のファスナーを閉めてもらった。 やっぱりいい感じ、でもここは我慢、手をグーにして膝の上に置く。 続けてエナメル素材の衣裳を着せてもらう。 パーカーのピタッとした感じの衣裳で伸縮性がない為、背中の下の方に脱着が容易に出来る様にファスナーがついている。 ファスナーを開けて、頭から被ると、フードも採寸して作っただけあり、ピッタリしている。 顔の部分はあいているが、ラバーマスクを被っているので、どちらにしても私の顔は見えない。 腕を通し手袋になっている5本指に全て指を通す。 手をグーにすると、ギュッギュッと音がする。 日常であんまり聞かない音だから、ハエ人間が出す音と言われれば、そう聞こえるのかも知れない。 これでやっと着ぐるみの下地が完成。 【着ぐるみ】 次にハエ人間の着ぐるみが用意される。 とは言っても、この部屋に入った時から奥にあるのが見えていた。 いざ目の前にやって来るとかなりリアルでグロい。 女性スタッフは透明の短い羽根を左右に開き、後胸と腹部の間のマジックテープを剥がすとファスナーが現れた。 それを開くと着ぐるみを着ることができる。 着ぐるみの上半身部分は前方へ倒すことができ、足を通しやすくなっていた。 イスに座り片足ずつ通していく、中はラテックスか何かで出来ており滑りは良くない。 脚は細かな得体の知れない無数の毛が生え、節があり、脚先は鉤爪のように2つに割れている。 自分の足がこんなグロテスクなものに変わると思うと気持ちのいいものではない。 それでも何とか足を通すと次は上半身。 頭から着ぐるみの中へ。 先に頭を通すが、首を通す穴はラバーのようで伸縮性が良かった。 頭を通してから腕も通していく。 しかし、こちらも脚同様細かな毛が生えていて腕も節があり、手先は鉤爪で2つに割れていた。 「はぁぁ」 大きくため息をついてから腕を通していく。 女性スタッフが介助してくれる。 その時、思った。 こんな手じゃ何も出来ないし、1人では着ぐるみも脱げない。 「はぁぁぁあぁぁぁ」 今更、気づいた事実に絶望しながら、さっきよりも大きなため息をついた。 着ぐるみの中に体が収まった後、背中側の私の腰辺りにあるファスナーが左から右へと閉められていくのが分かる。 そして、そのファスナーを隠すようにマジックテープがつけられた。 このマジックテープも私が背筋を伸ばせば、後胸と腹部の隙間がなくなり、完全に分からなくなる。 取り敢えず、頭以外着ぐるみを着終えた。 視線を落とすと胸はプラスチックかFRPで出来ているようで、触ってみると硬く、黒光りしていた。 改めて自分のハエのようになった手を見て、またため息が漏れる。 そして、少し動いただけでもギシギシと音を立てる。 自分が何か別の生物になった気分だ。 落ち込みながらも、目の前の鏡に目をやると、そこには首から下がハエで、頭だけが黒光りしたノッペラボウになっていた。 なんだかすごく間抜けに見えて、苦笑した。 「じゃあ、移動しましょうか」 女性スタッフに促され、部屋を出て移動する。 私とそう背丈の変わらない女性スタッフの後ろをついて廊下を歩く。 歩きづらくはないが、歩くたびに体のあちらこちらがギシギシと音を立てる。 【着付け】 そして目的の部屋へと着いた。 ここは昨日、ウエディングドレスを着た部屋。 今日はハエ人間のままウエディングドレスを着せられるのか。 もう、ため息も出なくなっていた。 部屋に入ると昨日、ウエディングドレスの着付けとメイクをしてくれた女性が待っていた。 「昨日はお世話になりました、本日もよろしくお願いします」 と私が挨拶をすると、ビクッとしてこちらを二度見した。 「えーと、昨日の女優さん?」 驚いた様子で聞いてきた。 「はい、今日はこんな格好ですが、よろしくお願いします」 再度、体がハエ人間で頭だけがノッペラボウの状態で私は挨拶をした。 女性スタッフがハエ人間にウエディングを着せるに当たって監督さんからの要望を踏まえた打ち合わせを始める。 まず、ストッキングですが、昨日彼女が履いていたものをそのまま使います。 履かせている途中で、破れても毛が飛び出しても構いません。 むしろ、そうする様に指示を受けていますと。 “えー、ストッキングが破れているのも嫌だけど、毛が出てるのはもっと嫌だー!“ 私は心の中で叫んだ。 そして、コルセットも付けてください。 昨日の彼女よりも着ぐるみを着てますので、大きくなっていますが、締め付けられるだけ、締め付けて下さい。 着ぐるみの外殻の所になりますので、彼女には影響ありません。 “確かに私の体に沿うようにピッタリしているが、外からの影響は全くなさそうだ“ そう思い自分のお腹の辺りを叩いてみるが、感触は全くない。 次はインナーですが、胸は女優さんの胸に合わせてハエ人間の胸も成形したものを使用してますので上手く着せる事ができると思います。 “うぅーん、確かによく見れば私の胸の形によく似ている“ 変に納得しながらも、私の胸の形をいつの間に型を取ったのか知らされておらず、急に恥ずかしくなり硬い胸を押さえた。 そして、ウエディングドレスを着せてもらう。 昨日のドレスで構いません。 多少はサイズ調整が可能なものを準備してますのでと、スタッフ。 確かに昨日、着せてもらう時、ウエストを絞るのにかなり苦労していたように思う。 ウエディングドレスを着せてもらっている時は、心が弾み、ハエ人間の事は忘れていた。 しかし、すぐに現実に引き戻される。 次はウエディンググローブなんですが、まず手を通してもらって2本の鉤爪が入った指のグローブの先を破ります。 そしてそのまま最後まで腕を通して下さい。 私は女性スタッフに言われた通りにグローブに腕を通した。 ウエディンググローブのあちらこちらから毛が飛び出し、最後は鉤爪が2本飛び出していた。 両手とも同じ状況、昨日着たウエディングドレス姿が今日は全く違う見るも無残な姿になってしまった。 当然といえば当然なのだが、綺麗な白いヒールも鉤爪が飛び出すであろう2カ所に既に穴があけられており、私は悲しい気持ちで足を通した。 最後にハエ人間のマスクを被り、ベールをつければ完成となる。 【変身】 ハエ人間の頭を女性スタッフは箱から丁寧に取り出した。 それはかなりリアルに作られたハエの頭。 巨大なハエの頭だけを切断し、持ってきたような印象さえ受ける。 女性スタッフと対照的にウエディングドレスを着付けしてくれた女性はそれを見て、かなりひいていた。 私も同じ気持ちだが、それを今から私は被せられる。 思わず体に力が入り身震いしてしまう。 女性スタッフがハエ人間の頭を持って近づいてきた。 そして私のノッペラボウの頭に被せた。 頭にピッタリとフィットしているがキツくはないし、重くもない。 被った感じは、フルフェイスのヘルメットを被った感じに似ている。 中からの様子は外のグロテスクさとは違い、複眼から光が入り明るい、呼吸も苦しくない。 目の前の私の視界となる部分の複眼はより見やすくできていた。 私の首元で女性スタッフが何かしているのに気づいた。 「何をしてるんですか?」 私が尋ねると、女性スタッフが答える。 「二度と外せないようにしておいたわ」 それを聞いた私は不自由な鉤爪の手で頭を持ち上げようとするが、外れない。 私の慌てっぷりに女性スタッフは 「うそ、うそ、冗談よ、ちゃんと外せるから安心して」 そう言って一度ハエ人間の頭を簡単に外してくれた。 「ごめんなさい、そんなに慌てると思わなかったから、ごめんね」 そう謝ると再びハエ人間の頭を取り付けた。 そして、ベールを顔が隠れるように、上手にかけてもらった。 「これで花嫁、いやハエ嫁の完成ね」 と女性スタッフのオヤジギャグに私は苦笑した。 「また、出番の時に呼びに来ますので」と声を掛けた後、女性スタッフと着付けをしてくれた女性が部屋を出て行った。 【撮影】 女性スタッフたちが出て行ったのと、入れ違いに誰か入ってきた。 入って来たのはハエ人間。 私はビックリして椅子から転げ落ち、逃げ場のない部屋の奥へと這いながら逃げる。 「おいおい、そんなにビックリするなよ、俺だよ俺!」 その声は紛れもなく彼氏。 彼氏もまたハエ人間にされ、タキシードに蝶ネクタイ姿だった。 そして、冒頭のやり取りの後、撮影現場へと入る。 シーンは2人が誓いのキスをした途端、体に異変が起こり座り込んだところから。 昨日も午前中ウエディングドレスそして彼氏はタキシードに着替え、午後から準備の出来た参列者である友人たちに祝福されバージンロードを歩き式を行った。 参列者である役者たちは昨日と同じ衣裳で、新郎新婦が座り込んだ位置でスタンバイし、本日の撮影が始まる。 私はつくづく思う、吹き替えのスーツアクターさんがいればこんな面倒なことにならないのに、と。 私の思いとは裏腹に話は進んでいく。 列席者は悲鳴をあげて、散り散りに式場から逃げて行く。 これは映画だからいいが、もしこれが現実だったら私は立ち直れないだろうなと思った。 そして、どこでどう嗅ぎつけたのか分からないが、私たちの結婚を阻止しにやって来た村人たちが現れて、私たちがハエ人間に変わった事を知ると、捕獲する為に巨大な網やロープを持って私たちを追いかけ始める。 ハエ人間というだけあって、二足歩行で走る事も出来なくはないが、ハイヒールにウエディングドレスを着ている私は普通でも走りにくい上、着ぐるみまで着せられているのだ。 到底走って逃げるという演技は出来ずに、すぐに村人に捕まり地面に押し付けられてロープでキツく縛り上げられる。 だが、監督はそれを許さない。 ハエ人間は人間を超越した存在なので、もっと速く走れるというのだ。 正直、私は運動が苦手で走るのも遅い。 そんな私が着ぐるみを着て、動きにくいウエディングドレスにハイヒールで走れる訳がない。 何度も村人に追いかけてもらい捕まり縛り上げられるを繰り返したが、OKは出ずに一旦休憩となった。 ずっと走って逃げる演技を続けたので息があがってしまったので、ハエ人間の頭を外してもらい、ラバーマスクのノッペラボウまでだったが呼吸は幾分か楽になった。 休憩中、村人役の人たち数人が私の所へやって来てくれて、 「大変だね」 「ロープで縛ってるけど体大丈夫?」 「頑張ろうね」 と口々に心配、労いの言葉を掛けてくれた。 私は元気にお礼を言った。 少し元気になった私はもう一度走って逃げる演技を頑張った。 村人役の人たちも私に気を遣ってくれたのか、それほど速く追いかける事なく、程よい距離を走って逃げる事が出来た。 取り敢えず、それで監督からはOKが出た。 【移動】 ハエ人間の私も彼氏も捕まり、村へと連れ帰られるシーン。 実際、結婚式を挙げた式場から、今回の設定の村までは車で1時間30分ほどかかる。 当然、捕まり拘束されて車に放り込まれるシーンとそのまま車内で移動しているシーンを少し撮った後、一旦拘束は解かれて着ぐるみも脱いで休憩しながら移動。 改めて、ロケ地の村に到着してから、着ぐるみを着て拘束されてから、車から降ろされるシーンとなる。 普通はそうなりますよね。 私はさっきまで何度も走らされてクタクタなのだから。 ここでも監督の拘りが出る。 ハエ人間の私と彼氏はロープで全身を結婚式の衣装上からギチギチに縛られた。 その上、凶悪なハエの顔からラップを巻き、体全体も身動きが一切取れないように業務用ラップで厳重に巻かれた。 本物のハエ人間なら兎も角、中身は至って普通の人間、そこまでする必要は全くない。 これが映画の演出だとしても。 イモムシのようにしか動けない私たちを物のように乱雑に車の荷台に放り込む。 これも全てカメラが回っているので、演技しなければならない。 ウネウネと動き脱出しようとする演技をするが実際のところ、ハエ人間の頭にラップが巻かれていて視界が悪くてどう動いていいかもよく分からない。 そんな視界の悪さに追い討ちをかける様に、頭から腰辺りまでずだ袋を被せられた。 私は突然の視界が暗くなった事でさらに体をウネらせて抵抗したが、腰の辺りで袋の口をキツく閉じられて、動く気力も奪われてしまった。 私は抵抗する事も、演技をすることも止めて目を閉じた。 私たちはクッションもない、荷台で拘束されたまま何も出来ず、役者としての扱いもされず、ただの荷物の様な扱いを受けたまま1時間30分荷台で揺られ続けた。 【ロケ地】 ようやく、車からの振動もなくなったことからロケ地の村に着いた様だ。 長時間拘束されて車に揺られていたので、体のあちらこちらが痛い。 山奥人里離れた田舎の12月はもうすでに冬を迎えている。 当然、湖の水は都会の河川よりもはるかに冷たくそして澄んでいる。 車の荷台から降ろされて運ばれて湖に沈められるというストーリーだったが、12月の山奥の湖は氷が張りそうなほど冷たい、そんな湖に沈められる事は絶対にないだろうと台本を読んだ時は思っていた。 仮に沈められるとしても、スーツアクターさんが吹き替えで着ぐるみの中にウエットスーツを着込み、もしもの時のためにレスキューダイバーが待機して撮影を行うと思っていた。 しかし、これまでの酷い扱いを考えると、この監督は私が思っているような事はせずに、私たちを本当に湖に沈める事は十分にあり得ると考えが変わっていた。 ずだ袋が取られて視界が一気に明るくなる。 ハエ人間の頭に巻かれていたラップも外される。 ロケ地の村はすっかり冬、最近降った雪がところどころに残っている。 湖にも氷が張り、湖に落ちればとんでもない事になるのは必須だった。 この撮影のためだけに造った桟橋が見える。 湖の奥、水深もありそうな所まで続いている。 しかし、レスキューのためのダイバーの姿はどこを探しても見当たらない。 【沈降】 ハエ人間の私たちはロープでギチギチに拘束された上からラップで厳重に拘束されたまま、村の若者役の2人に引き摺られて桟橋の先へ。 「嘘でしょ、こんなところに落ちたら死んじゃうよ、やめて、やめて!」 私は役も撮影も忘れて村の若者役の人に懇願し、体を動かせるだけ動かして必死に抵抗する。 しかし、ハエ人間の頭は防音になっていて、私の声は村の若者役の人には届いていない様子。 村の若者は私たちの体を拘束しているロープに大きな石を括り付けると、オモリの石と一緒に湖に躊躇なく突き落とした。 『ザッパーン!』 『ザッパーン!』 私と彼は時間差もなく、湖にオモリの石とともに放り込まれた。 “冷たい!それに水が着ぐるみ内に浸水してきた“ 体の熱が急激に奪われていくのが分かる。 仰向けに落とされた私の視界には白く明るい空がどんどん黒い闇へと染まっていく。 隣の彼は身動き一つしない。 “心臓麻痺でも起こしてしまったのか?“ 彼の心配をしたが、今は自分の命も危険に晒されている事を思い出す。 だが、どんなに必死に足掻こうともどうしようもない。 私は目の前が完全に闇に包まれる前に諦めて意識を手放した。 【黄泉から】 目が開かない。 まだ、水の中にいる感覚がしている。 死んでも体の感覚は残るのか?と思い、地縛霊というワードが頭を過った。 幽霊って亡くなったその場に執着したりするから、私は冷たい水の中から出られなくなっちゃたのね。 まあ、仕方ないよね、私は女優を体を張って頑張ったよね。 やり切ったよね。 自分で自分に言い聞かせて納得しようと試みるが涙が止まらない。 悲しすぎて声を上げて泣いてしまう。 「よく頑張ったね!」 という声が後ろから聞こえてきて、頭をポンポンされる。 声の主はすぐに分かる、私の彼氏。 彼氏も同じ湖で死んじゃたから一緒なんだ。 そう思うと何故かホッとした。 この温かく感じる水に体を預けて、寝そべろうとした。 その時、私の中に異物が侵入してきた。 “!?“ 妙にリアルな感覚に体の感覚が一気に戻ってくる。 温かい水じゃない、お湯だ。 しかも、彼の体が私の背中に密着している。 そして、私の中に侵入してきた異物を腕を回して掴む。 それはしっかりと勃起した彼のペニスで間違いない。 相変わらず目は見えないが、異物を体から抜くと体を素早く捻った。 確かにこの辺りに彼の体がある。 目が見えないので感覚だけで彼の首に腕を回して、しっかりと抱きつく。 そして、まだ勃起しているペニスに私は自ら突き刺さりにいった。 「あぁぁん、あぁぁ、ふぅん、気持ちいい」 腰を振り体の中を掻き回す。 いつもと違い若干の違和感はあるが、彼に抱かれている感覚はいつも通りだ。 “私、生きてる?確かに生きてるよね“ 彼が腰を振るスピードを速めた。 【温もり】 「逝く、逝く、逝く、逝っちゃうぅぅ!」 私は快楽に声を上げて、生きている事を精一杯表現した。 彼のペニスは私の体の中にあり、まだまだ私に快楽を与え続ける。 “でも、何で目が見えないんだろう?“ 顔を触るとツルツルしていて、自分で触っているのに触られている顔が気持ちいい。 “なんだろう、この感覚、体感した事あるぞ“ 彼が腰を振り始めると、私は快感を得ながらも必死に思い出そうとするが、思い出す前に逝ってしまい、思い出せなかった。 思い出そうとすると彼が動き出し、私の思考が停止した。 そんな事を繰り返しているうちに、自分がラバースーツに全身を覆われているあの感じを思い出した。 そして顔を触っていると、目のところが目隠しになったラバーマスクを被せられていた。 だから、全く見えなかった。 目隠しのラバーマスクを外すと、私と同じように黒いラバースーツを着たノッペラボウがいる。 私は自分で頭の後ろのファスナーを下ろして顔を出し、彼のファスナーも同じように下ろすと、彼の笑顔が出てきた。 生きている事を改めて実感していると、また涙が溢れてきた。 それを誤魔化すように彼にキスをした。 私に面と向かった彼は何か言いにくそうにしていたが、心が決まった様で私の目を真っ直ぐに見て話し始めた。 「実を言うと、この映画の監督は俺なんだ」 突然の告白に私は彼の言った事が理解できなかった。 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている私に彼は続ける。 「君が監督と思っている人物は助監督で、俺は演技をしながら助監督に指示を出していたんだ」 彼はまだまだ続ける。 「台本も君のだけ少し違っていて、ハエ人間の男は式を挙げた後死んでしまう、だから村人が捕獲のために追いかけたのは君だけだったんだ」 「でも… 」と言いかけた私を制止して彼が続ける。 「俺も捕まってたし、一緒に村まで運ばれた、それに湖にも一緒に落ちたと言いたのは分かる」 「捕まったシーンは画像処理で俺のは消す、湖に落ちたのは実はマネキンに着ぐるみを着せた物でこちらも画像処理で消去するから」と説明された。 私は死にかけたのに、イマイチ納得がいかない。 膨れっ面でいる私に、タブレットで彼が動画を見せてくれた。 そこには湖に放り込まれてすぐに村の若者役の人とジャージに着替えている彼が湖に飛び込み、私を救出している映像が収められていた。 彼が話し始める。 「悪いと思ったんだけど、初めての映画だからエンディングでメイキング映像を流す事で少しでも話題になったらと思い、カメラはずっと回し続けてメイキング映像もかなり撮れたんだ」 少年のようにやり切ったと言った笑顔で私を見る彼。 「それに、君の性癖も見つかっただろ」と笑顔で言われた。 私は顔を真っ赤にして彼の胸に顔を埋めた。 【性癖】 「お疲れ様でした!」 監督と主演女優の関係も周知している出演者とスタッフ。 監督が全員に向けて無事に撮影を終えた事、皆さんの協力があって作品が完成した事のお礼を述べて、解散、撤収となった。 主演女優はゆっくり体を休めてから帰る事を監督が伝えて、監督以下全員が車に分乗して村から引き上げた。 撮影を終えて家に帰ってきた監督は大きなぎっしりと荷物の詰まったバッグをリビングのソファーに置くとバッグに話しかける。 「帰ってきたぞ!」 今まで全く動かなかったバッグが動き出す。 「早く開けてよ!」 バッグがくぐもった声で喋った。 「ダメェー、もっと楽しみなよ」 監督はバッグのサイドポケットからリモコンを取り出すと、バッグに向けてスイッチを押した。 すると、バッグが激しく動き出す。 「もう、ちょっと待って、ねぇ、ダメだって今は」 監督は激しく動くバッグを押さえつけて聞く。 「今は何でダメなんだい?」 「電車で荷物として扱われて興奮してるから?」 「それとも、ロケ地からの帰りの間、俺が足でずっと踏みつけていたから?」 「興奮しちゃったんだね、物として扱われて」 「うぅぅぅぅ!」 バッグからはバイブの振動に抗い快楽に堪える女性のくぐもった声が聞こえてくる。 「大丈夫だよ、ずっと撮影してるから、後で君自身が見ても興奮すると思うよ」 監督である彼氏は私の性癖をある程度見抜いていた。 しかし、足りないところもある。 私が一番興奮したのは、帰りの車で彼の大きな荷物、私が入った荷物について言及した若い男性の言葉。 「バッグの中、そんなにパンパンで怪しいものいっぱい入っているんじゃないですか?」 彼にとっては監督とのコミュニケーションで発した言葉だったが、私を十分に興奮させた。 この時、彼のバッグに私は全身ラバースーツを着て、目隠しマスクを被り、彼が持参したラバー製の圧縮機能を有した寝袋に入れられて、圧縮され丸まった状態でバッグに収まっていた。 もしも彼がふざけてバッグを開けようものなら、主演女優がこんな格好でバッグに収まり、喜んでいる。 もう、今思い出すだけでも濡れてくる。 でも、そろそろ足が体がキツくなってきた。 「もう、本当に出して、十分満足したから」 私は彼に訴えた。 しかし、彼はコンビニに出かけて部屋には誰もいなかった。 私は彼が戻るまで、ひたすら快楽に落ち続けた。 完


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