新体操部の悲劇 【リクエストより】
Added 2021-12-27 22:12:31 +0000 UTC【プロローグ】 「先生、すっごいー!」 新体操部の部員が声を上げる。 体育館の横にあった大きな水槽に、大きなタコが入っている。 大きなタコは水槽の中でヌルヌルした8本の足を動かして水槽の底をウネウネと動いている。 「ハイハイ、練習練習!」 新体操部の顧問をしている門矢 翼(かどやつばさ)は部員からも釣り好きで知られている。 「先生、あのタコどうするんですか?」 部員の1人に聞かれた翼は答えた。 「大会で優勝したらたこ焼きパーティーでもしようかな」 「先生、それいい!」 「じゃあ、練習がんばろう!」 「ハイ!」声を揃えて返事をして走っていく部員たち。 翼は水槽の中で脚を動かし時折ビクッと動いているタコをチラッと見てから、体育館に入って行った。 この高校の新体操部員は全部で12人、大会には団体戦で2チームがエントリーする為、2人が浮いてくる。 そして、浮いた2人は双子の永井 恵理(ながいえり)と友理(ゆり)の双子。 双子自体は息がぴったなのだが、他の部員と息が合わない、さらに他の部員より体が小さい事が原因で補欠に回されていた。 「恵理と友理は?」 「また、サボりでしょ」 「大会出れないし、腐ってるじゃないの?」 本人たちのいないところでそんな会話がなされていた。 練習を終えて部員たちが帰った後で、翼は大きなタコの解体を始める。 2つに分けられたタコを2つ用意した防水バッグに押し込む。 口の部分に太いホースを突き刺すと、防水バッグを潰すように小さくしてから口を力いっぱいに閉じた。 硬いホースは形状を変える事なく、防水バッグから突き出ている。 半分にされたタコに呼吸が必要かは分からないが。 翼は防水バッグをスーツケースに詰め込むとキャスターで転がしながら移動し、それを愛車に乗せて持って帰ってしまった。 翼が釣ったタコだから、翼がどうしようと自由だ。 タコならば。 自宅にタコを持ち帰った翼は浴槽に水を張る。 水を張っている間に持ち帰った段ボールを開き、小さく潰れたタコの入った防水バッグをそれぞれ取り出し、口を開いて2つに分かれたタコを浴槽へ放り込んだ。 2つに分かれてもなお動き続けるタコは浴槽の縁に足をかけるが吸盤は機能せずに、自らのヌメリで滑ってしまい浴槽からは出られないでいた。 2つに分かれたタコは浴槽の中で学校の水槽と同じようにそれぞれウネウネと底の方を動いているだけとなった。 タコを浴槽に放り込んだ翼は水を張るのをやめて、しばらくタコを観察していたが、タコの動きが大人しくなると浴室を出て行った。 扉が閉まり、灯りの消えた浴槽からは2人分の呼吸が聴こえてきた。 何事もなくタコも暗闇の中でジッとしていた。 突然、給湯器の操作パネルが点灯する。 そして、音声案内とともにお湯はりが開始された。 2つに分かれたタコは慌てた様子で浴槽の縁に足を掛けて、浴槽から這い出ようとするが滑って勢いよく浴槽内にはまり込む。 それでも、諦める事なく滑っては這い出ようとするを繰り返すが上手くいかない。 2つに分かれたタコの胴が湯の中に浸かり始めると、「ふん、ふん!」という勢いよく息を吐くような音とともに咽せるような音も聞こえ始めた。 その時、浴室の灯りが点いて扉が開いて翼が入っていた来た。 湯の中で茹でダコになるのを拒むように暴れるタコ。 その姿を立ったまま見下ろす翼。 タコは浴槽にお湯が張られたことで浮き上がってきた。 そして、浴槽の縁に足を掛けて翼がいる事もお構いなしに浴槽の外へと飛び出した。 翼の足元に落ちた2つに分かれたタコは、動くことが出来ない様子で荒い呼吸音だけが聴こえる。 翼はその様子をしばらく見ていた。