グリーンモンスター
Added 2022-02-25 16:26:00 +0000 UTC映画関係の仕事をしている友人ユカから、私の大好きな俳優に会えるかもと連絡があった。 ユカの指定した場所は映画館。 言われた通り裏口へ行き、警備員にユカの会社名と結婚して苗字の変わった田村ユカさんをお願いしますというと、警備員は内線電話でユカを呼び出してくれた。 「ヒトミお待たせ!」元気な声が廊下の奥から聞こえてきた。 ユカは私の入館手続きを済ませると、ある部屋へと案内した。 部屋に入ると、大きな緑色の物体が! 驚き後ずさりする私の手を引いて、「どうぞ、入って」 中に入ると2人でパイプイスに腰掛ける。 「あれ、何?」ユカに尋ねる。 「ああ、あれね、今から説明するから焦らないで」ユカが続ける「今日は映画の試写会でその前に出演者の挨拶もあるの、で、その映画に出てくる敵のキャラクターがあれという訳」なぜか含みのある笑顔を見せるユカ。 私の大好きな俳優に会えることは分かったが、ユカの笑顔に不安がよぎる。 「実は…」ユカが切り出す。 「ヒトミの好きな俳優の横に立ってもらいたいの、あのキャラクターの着ぐるみを着て」 「えー!」私は大声を上げた。 「あの俳優さん好きでしょ」ユカが擦り寄ってくる。 「でも着ぐるみ着るなんて聞いてない!」 私が怒り気味に返すと、ユカは理由を話し出した。 当初、ユカが着ぐるみを着て出る予定をしていたが、ここ以外に他の場所でも試写会が実施されることになり、ユカが駆り出されてしまった。 そこで、ユカと高校からの友人で体型の似ている私にお願いしてきたのだった。 私の好きな俳優がいることも、もちろん考慮した上で。 親友であるユカの頼みを断れず、私は仕方なく承諾した。 しかし、一つ疑問がある。 部屋に入ってきた時からある着ぐるみは、私が入るのには大き過ぎる。 「ユカ、あの着ぐるみ大き過ぎない?」 「ああ、あれは違うの、男性用」 全身が緑、鍛え上げた人のような身体に鱗がびっしりとついている。 顔は昆虫のようになっている着ぐるみにユカは話しかけた。 「どう?大丈夫?」 ユカの質問に着ぐるみが動いた。 4本の長い指で器用にOKサインを作った。 始めは驚いたが、今日は一緒に試写会を盛り上げる者同士、私はイスから立ち上がると緑のキャラクターの前に行くと、「田代ヒトミです、よろしくお願いします」 そういうと緑のキャラクターは長い指の手を差し出し握手を求めてきた。 着ぐるみを着ると喋ることができないのだと思い私は握手に応じた。 「挨拶も済んだところで、着替えてもらえる」ユカが私を促す。 部屋の奥側はカーテンが引かれており、その奥に靴を脱いであがる。 そこには緑のキャラクターの女性版があった。 なぜ女性版と思ったかというと、細身で胸の膨らみがあった。 「え!これ着れる?」私が思わず声を上げた。 「え!ヒトミ太った?」ユカの言葉にカチンときて「太ってません!着れるわよ」 口を尖らせる私にユカは「冗談、冗談、下着も脱いでこれを着て」と黒いモノを渡してきた。 「何コレ?ゴム?」私の質問にユカは「これはラバースーツ、これを着ると身体を引き締め、さらに表面に潤滑剤を塗ってから着ぐるみに体を滑り込ませるの、そうすると着られるのよ」と、笑ってみせた。 「彼もそうしているの?」私の質問にユカは頷く。 「ゴメン、少し時間押してきたから着てもらっていい?」ユカの表情が仕事の顔に変わったことを私は感じて急いでラバースーツに足を通した。 滑りの悪いラバースーツに悪戦苦闘する私に肌にも無害な潤滑剤をユカは渡してくれた。 塗り過ぎとラバースーツの中で滑るので、注意してと一言添えて。 潤滑剤を使うと先ほどとはうって変わって、スルスルとラバースーツに私の足は吸い込まれみるみる黒く鈍い光沢のある足へと変わる。 と同時に絵も言えない感触が私を襲う。 ”気持ちいい!”とても友人の前でそんなことをいい出せなかった。 しかし、ユカは見透かしたように「ヒトミ、変な持ちになったりしてないよね」そう言って不敵な笑みを浮かべた。 ユカがそう思ったのは、私の乳首立っていたのを見ていったのかもとも思った、体は正直だ、嘘がつけない。 ラバースーツを着ていく内に気になっていたこと。 それは頭を収めるフードというかマスクまで一体になっているということ。 マスクを被ることに躊躇している私に、ユカはためらいもなくマスクを被せ腰の辺りから頭の天辺まで続くファスナーを閉めた。 被せられたマスクは見た目にはのっぺらぼうに見えるが、よく見ると細かい穴が多数開いていて視界と口呼吸を助ける。 「ちょっと、ユカこれ苦しいよ」 私の言葉にユカは「呼吸できるでしょ!」と。 全くできない訳でもないので、強く反論できないまま、着ぐるみが準備される。 着ぐるみを着る前に、ユカはラバースーツで覆われた私の黒い体に潤滑剤を塗りたくる。 潤滑剤を塗り終えると、今度は着ぐるみの首元を大きく開いて足を入れるように指示する。 着ぐるみは背中が大きく開くようにはなっておらず、首元の開口部がマジックテープで重ね合わせるようにして閉じるようになっていた。 体を左右に揺すりながら、着ぐるみに入っていく。 お尻が入ると、スルスル体は入っていくが、大きな胸が入口で詰まると、同時に着ぐるみのくびれでお尻も引っかかる。 ユカの力を借りて、私の体は着ぐるみへと入っていく。 腕を通し、指は4本なので、薬指と小指を一緒にして入れる。 なんか変な感じ手袋を間違ってはめたような。 先ほどまでモノとして部屋の片隅に置かれていた着ぐるみが、私の体が中へと入っていくと生命を宿した。 最後に頭を押し込み視界と呼吸を確保する。 何重にもなった開口部を押し込むようにして、ユカが閉じていく。 「ちょっと待って!」 私の声は届かずグイグイ締め付けられる。 余裕のあった頭部は、着ぐるみの顔へ押し付けられ、視界も呼吸も確保できているもののアゴはガッチリホールドされ、話すことができなくなった。 「じゃあ、準備できたら呼びに来るから彼と一緒に座って待ってて」そういうとユカは私に着ぐるみを着せた勢いそのままに部屋を飛び出していった。 机を挟んで向き合うようにして座る2体の緑色をしたキャラクター。 着ぐるみなのでもちろん、中に人が入っているのだが、話したくても顔をガッチリホールドされ話すことができない。 変な空気が部屋に流れる。 何もせずに待つことがこんなに長いとは。 そう考えていられる内はまだよかった。 ぴったりとしたラバースーツの上から、これまたぴったりというよりは窮屈な着ぐるみの中、暑くない訳がなかった。 顔の汗が胸の谷間を流れ落ちていくのが、はっきりと分かった。 全身の毛穴が開いて汗を噴き出している感じがする。 そう、目の前の彼は私が来る前から着ぐるみに入っているのだ、かなりの暑さに耐えていることは容易に想像ができた。 ユカが呼びに戻ってきた。 どれ位待っただろう? 実際にはそれほど時間は経っていないのだが、私にはもの凄く長く感じられた。 イスから立ち上がると、お尻に溜まった汗が足を伝って流れていくのが分かる程だった。 舞台袖で簡単に説明を受ける。 ・舞台に上がり、観客の声援に応える ・映画出演者が出てきたら、左右に分かれて舞台の端へ ・メディアの撮影時は舞台中央へ ・出演者がはけてから、自分たちも一緒にはける 以上 いざ、映画のオープニング曲がかかり舞台へ行くように促すように背中を押される。 しかし、よく考えてみれば、着ぐるみを着ているとはいえ、こんなに大勢の人に注目されるのは初めて。 急にドキドキして足が震えてきた。 先ほどまでの暑かった時とは違う汗が噴き出してくる。 ”どうしよう!?” そう思っている私の手を隣りで立っていた彼が 私の手を握ってくれた。 その彼も緊張しているようで足が震えている。 私は彼の顔を覗き込み、一つ大きく頷くと、彼も頷き返してくれた。 そしてお互いギュッと手を握り覚悟を決め、舞台へと出ていった。 観客席からは大きな声援と共に、一部悲鳴も聞こえてきたが、いざ出てみるとスポットライトが眩しく観客席があまりよく見えず緊張が少し和らいだ。 その代わり太陽のように眩しく暑い光が私を襲う。 スポットライトがジリジリと着ぐるみを溶かしてしまうのではないかと思うほど。 しかし、次の瞬間スポットライトは舞台袖に移動し、映画の出演者を照らし出した。 歓声が大きくなる。 手を振りながら次々に舞台へと姿を現わす出演者。 その出演者の邪魔にならないように、舞台の端へと移動した。 役目を一つ終えてホッとした私の視界にあの大好きな俳優が入ってきた。 カッコイイあの俳優さんとは対照的に、着ぐるみを着て舞台の端でジッと立ちただ汗を流しているだけの自分。 せっかく近くまでこれたのに、かえって距離が開いたような。 そんな思いを舞台端でしている間も、挨拶は続いていく。 そして舞台端で出演者の挨拶を聞いている間も汗は止め処なく流れる。 挨拶も終わりいよいよメディアの撮影が始まるため、舞台中央へと移動し始めたのだが、歩き始めると汗がラバースーツの中でイタズラをする。 張り付いたり離れたり、くちょくちょと卑猥な音を立てると、同時にラバースーツが股に食い込みイタズラをし思わず声も漏れる。 外に音が漏れてることを少し心配しながら舞台中央へ移動する。 監督と主演の私の好きな俳優を中心に出演者が取り囲み、後ろに緑のキャラクターの着ぐるみを着た私たちが立つ。 何枚か写真を撮ったところで、大好きな俳優から「彼女とのツーショットいいかなぁ?」と。 ”彼女?”その俳優が指差す先は私。 突然のことで戸惑っていると、スタッフが私の手を引き俳優の横へと引っ張っていく。 どんなポーズをとっていいのか、どうしていいのか戸惑っている私に、彼の香水のいい匂いが着ぐるみの中にまで入ってきた。 戸惑い彼を見ることができない。 下を向いてしまった私の肩に腕を回し、耳元で「顔を上げて」と言われ、ドキッとして顔を上げた時、シャッターが切られた。 彼は私の肩をポンポンと叩いて、観客に「ゆっくり楽しんで下さい」といって、舞台をおりていった。 残りの出演者も後に続く。 そして最後尾は緑のキャラクター2体。 「お疲れさまです、つぎは〇〇映画館になります、移動用のマイクロバスをご用意してますので、よろしくお願いします!」女性スタッフが挨拶を終えた出演者に声をかけ、誘導する。 緑のキャラクターの着ぐるみを着た私たちが元来た控え室に戻ろうとしたが、突然目の前にストローの刺さったスポーツドリンクが現れた。 「お疲れさま、君たちも水分補給してもうワンステージ頑張って!」と私たちの背中を押してマイクロバスへと誘導する。 ”聞いてないよ、ユカ” 声を出すことのできない 私は心の中で叫んだ。 確かに大好きな俳優に会えて、肩まで抱いてもらえたけど、こんなに暑いのがまだ続くなんて… 。 言葉を発することも抵抗もできないまま、出演者と共にバスに詰め込まれた。 バスの出入口付近に座り、スポーツドリンクを口にする。 ラバーマスク越しなので、上手く飲むことができずラバースーツを伝ってスポーツドリンクは体へと流れていく。 ”冷たい!でも気持ちいい!!” 飲めない分も含めスポーツドリンクのペットボトルはあっという間に空になった。 ふいに席の後ろから声がした。 「すげぇ、一気飲み?中に入ってるのって男?」 最近売り出し中の若手俳優が、私の席の後ろに来ていた。 私は声も出せないので、何も反応しないでいると、私の後頭部を触ってきた。 その手は首元まで来た。 「あ!こうなっているんだ」 そういって着ぐるみの開口部を開こうとする。 「どんな人がはいっているのかなぁ?!」 若手俳優は調子に乗り、さらに開こうとしてくる。 私も手で押さえて必死の抵抗をするが、男性の力には敵わない。 マジックテープを外され顔のホールドが外れたことで、声が出た。 「やめて下さい!」悲鳴にも似た必死な女性の声を聞いて、若手俳優の手が止まった。 私の着ぐるみが開かれた開口部を閉めてくれたのは、同乗していた女性スタッフ。 そして開口部を閉めてもらっても私は怖くて前かがみになったままだった。 気不味さから、若手俳優は自分の席に戻っていた。 前かがみで動かない私の背中を優しく2回軽く叩き、頭を撫でてくれたのは、緑のキャラクターの彼。 なんだか懐かしく、そしてその行為は私を元気にしてくれた。 私が顔を上げた時、マイクロバスは次の映画館に到着した。 同乗してきた女性スタッフが出演者らをバスから降ろし、次の映画館で出演者を館内へ誘導案内しているのはユカ。 最後に着ぐるみの私たちが降りた。 ユカは他のスタッフに案内を任せて、私の元へ。 「ゴメン、ヒトミ!こんなに長くなるとは思ってなくて」言葉の感じからは初めの映画館で終わる予定であり、こちらの映画館は急遽決まったようだった。 何より有名な俳優たちを乗せるには、移動してきたマイクロバスがあまりにショボかった。 ユカが何度も謝るので、手振りで大丈夫と伝えた。 それでも舞台袖まではしっかりと誘導され、再び舞台に立つことに。 もう、ぴったりとした着ぐるみに加え、これまたぴったりのラバースーツを着ているので、ラバースーツの中は汗でかなり滑ようになっていた。 そして、『グチョグチョ』と卑猥な音はさらに大きくなり、もう完全に音が外に漏れていることは、周りの人たちが私が動く度に振り返ることで分かった。 恥ずかしい思いをしながら舞台に行く途中、先ほどの若手俳優が自分の控え室まで立っていて私に一言「すみませんでした」と謝罪してくれた。 舞台まで移動中もラバースーツの股への食い込みは私を容赦なく襲ってきたが、なんとか声を出さずに耐えたが、ラバースーツの中は私の汗といやらしい液が混じったものになっていた。 初めての時とは違い緊張はない、ただ早く終わらせて帰りたい、その想いしかなかった。 横で涼しそうに立っている緑のキャラクターの彼も着ぐるみの中では暑さと汗の気持ち悪さと闘っているのはきっと私と同じだろう。 私たちは同じ想いで、先ほどとは違う意味でお互いの手を握り舞台へ出て行った。 そこまでの記憶はしっかりとしていたが、その先はボンヤリとしか覚えていない。 記憶がハッキリとしたのは、始めの映画館に戻る移動の車の中。 車内の様子からユカ個人の車であることはすぐに分かった。 驚いたのは後部座席で、緑のキャラクターの着ぐるみの彼に膝枕をしてもらっていたこと。 「え!あ、ゴメンなさい」 私が彼に声をかけて、起き上がろうとしたが、「いいよ!このままで」 そう言って背中を優しく2回軽く叩き、頭を撫でてくれた。 着ぐるみの彼の声を初めて聞いた。 話せることに驚いて着ぐるみを脱がされ、汗だらけの顔を見られたかと頭の後ろを触るがまだ着ぐるみを着たまま。 視界も悪く、まだ暑い。 良かったのか悪かったのか分からないが、少し落ち着いた。 「すみません、甘えちゃって」私がそういうと彼は「ヒトミ、膝枕好きだったからなぁ」と。 着ぐるみの中の彼の正体が分かった。 2年前に些細なことでケンカ別れした元彼。 ユカを通じてよりを戻したいとは聞いていた。 私も彼のことは気になっていたが、変に意地になって素直になれずにいた。 私は元の映画館まで戻る間、ユカのお節介と彼の優しさに甘えることにした。 完