ヒーローショー
Added 2022-02-08 15:00:00 +0000 UTC俺は学生の時、弁護士を志したが何度も司法試験に落ち途中で挫折した。 いい機会だと思い昔から憧れていた正義のヒーローを目指すことにした。 聞こえよく表現したが、ヒーローの着ぐるみを着てショーに出ること。 それも本採用ではないので、ただのアルバイト、いわゆるフリーターだ。 ヒーローの中の人となり、がんばり社員となった。 そんな時のエピソードである。 社員となりヒーローショーを任された。 それは戦隊モノ。 遊園地などで催されるヒーローショーでのこと。 戦隊モノでは戦闘員が多く人が必要となるだが、その日は数が限られていた。 戦隊のレッド♂、ブルー♂、イエロー♀、ピンク♀、グリーン♂の5人、怪人が1人、戦闘員が3人、司会進行女性が1人に、責任者の俺の全部で11人。 怪人は一人でいいのだが戦闘員の数が寂しい。 戦闘員はヒーロー側のキャラが怪人にやられたりすると、一時的に戦闘員を務める。 最終的にはヒーローに戻り、最後は5人で怪人を倒すのだが。 今回の設定はイエローとピンク2人の前に怪人が現れる。 カメレオン怪人によって吐かれた長い舌がピンクの体にまとわりつき拘束。 舌はそのまま切れて新しい舌が生えてくる。 動けなくなったピンクを助けるべくイエローも立ち向かうのだが、怪人の長い舌に拘束され2人とも拉致される。 それを3人のヒーローが、敵のアジトに乗り込み戦闘員をなぎ倒しながら進む。 この中にはピンクとイエローを演じた2人も戦闘員となり加わる。 そしてようやく見つけた怪人との対決。 怪人の周りには拘束されたピンクとイエロー、そして3人の戦闘員。 戦闘員を倒し、ピンクとイエローを救出。 5人となったヒーロー戦隊は必殺技を繰り出す。 得意の長い舌で攻撃しようとしたカメレオン怪人だったが、自分の舌はヒーロー戦隊の必殺技に跳ね返され、爆発した粘性のある舌に包まれるようにしてやられてしまう。 このショーではいろいろな問題が起こった。 もちろん、表面的なことと俺に直接起こったことも含めて。 まず、ピンクとイエローのスーツはレオタードのような光沢のある生地で作られている。そのスーツがピチピチで拘束されたことで、下着のラインがくっきりと出てエロさが増してしまった。 事前に演者のサイズ確認を行っていたが、ピンクを演じる彩音とイエローを演じる真紀、彼女たちが見栄を張ってサイズを小さく申告してしまったのが原因。 そしてステージ上でも。 ピンクとイエローを拘束していたカメレオンの舌が炎天下の床で2人が転がり、のたうち回るうちに、ステージの暑さで溶けてきたこと。 その舌は特にピンクの体に絡みつき取り除くのが大変だった。 イエローの方は比較的簡単に取り除くことができたので、戦闘員の全身タイツに着替える。 それは頭から足の先まですっぽりと覆われる全身タイツ、いわゆるゼンタイに合皮の黒いブーツに、黒いグローブを装着しステージへと戻った。 イエローを演じていた真紀がステージへ戻った後も、俺とピンクを演じる彩音は溶けた舌を外すのに悪戦苦闘した。 バックステージにエアコンはなく、扇風機のみ。 まずはピンクのマスクを外してやると、中から真っ赤で汗だくのまだ幼さの残る彩音の顔が現れた。 ここから溶けた舌を取り除くべく奮闘が始まる。 俺もそして必死に舌から逃れようとする彩音には、大量の汗が噴き出る。 彩音の面下の顔の周りはすでに大量の汗で色が変わっていた。 ショーの流れもあるので、暑いとか言ってられない。 彩音は転がるようにして、舌を外そうとしたその時、ピンクの着けているスカートが捲り上がり、彩音の股が露わになる。 男としては思わず目がいってしまう。 そこには汗で濡れピッタリした衣裳のせいなのか、おかげなのか彼女のマン筋がくっきりと浮き出ていた。 目が釘付けになっていると、彼女に酷く怒られた。 ようやく、舌が外れた時には、ピンクのスーツは風呂にでも入ったように濡れて、彩音のブラやショーツが完全に透けていた。 扇風機にあたりながら、タオルで汗を拭くように指示すると、俺は彩音の水分補給のスポーツドリンクを取りに行くのと、ステージの進行状況確認のため、一旦その場を離れた。 ステージ上では、3人のヒーローと戦闘員が闘いを繰り広げている。 しかし、だんだんと押される戦闘員。 司会進行を務める洋子の言葉で進行状況は分かる。 ステージに向かう通路の途中でカメレオン怪人が扇風機にあたり苦しそうに肩で呼吸をしている。 控え室に戻らず通路にいるのは、風がよく通りココが涼しいから。 カメレオン怪人は全身が緑色のゴムで出来ていている。 ヒーローの攻撃にも耐えられるように厚手なので、冬ならいいのだが夏は熱が籠もってしまい、かなりの暑さになる。 「大丈夫か?」 俺が声をかけると、カメレオン怪人は手を挙げて返事をした。 実はこのカメレオン怪人にも問題が起こっていた。 カメレオン怪人の着ぐるみは厚手のゴムで作られているのは説明したが、厚手のため背中のファスナーも通常のものとは違って、ゴツいファスナーになっている。 そのため、潤滑剤を塗布してから閉めないと、滑りが悪くて閉められないのだ。 司会の洋子がカメレオン怪人の着ぐるみを着た演者のファスナーに潤滑剤を塗布してからファスナーを閉めたのだが、実は潤滑剤ではなく時間とともに接着力が増す接着剤だった。 ファスナーを閉めた後、ファスナーを隠すようにマジックテープで背びれをつけるのだが、大量に塗った接着剤は至る所に漏れてファスナーを完全に使えなくしただけでなく、背びれまでもくっつけてしまっていた。 潤滑剤と接着剤の間違いに気づいたのは、戦闘員役の男性が自分の靴の修理用に用意していた接着剤がないことに気づいたから。 その時にはもう接着剤は完全に乾いてしまってどうすることもできなくなっていた。 今さらカメレオン怪人の着ぐるみを破ってしまう訳にもいかず、このままショーをすることになった。 カメレオン怪人は休憩中も着ぐるみを脱ぐことができず、ただ暑さに耐えてショーをやり遂げるしかなかった。 ステージ上では3人のヒーローの勢いに戦闘員たちが退散、バックステージへと戻ってくる。 「暑ちぃー」「暑過ぎ」「死ぬぅ」戦闘員たちがこぼしながらゼンタイのマスクを外しながら帰って来た。 「ご苦労様!」 と声をかける。 戦闘員の一番後方からかなり疲れた小柄な戦闘員が戻ってきたが、マスクは外していない。 中身はイエローを演じた真紀。 「あと、少し頼みます」 俺が声をかけ、 「これ、彩音と真紀の分だから」 と言ってスポーツドリンクを渡す。 真紀は無言でスポーツドリンクを受け取ると、頷いた。 ステージ上ではヒーロー3人が、ピンクとイエローを助けるべく敵のアジト内を捜索、戦隊モノのテーマ曲が流れると、同時に幕が降りる。 そしてヒーロー3人も帰ってくる。 カメレオン怪人のヒーローたちをあざ笑う声が流れている間に舞台上では次のストーリーに合わせてセッティングが変わる。 この間に真紀は戦闘員からイエローへの着替えを済ませる。 彩音も真紀もそして他のメンバーも水分補給し少し元気を取り戻して通路に集まってきた。 ピンクとイエローは怪人の舌を体に軽く巻きつけ準備完了。 「あと、少しだから頑張って」 俺が声をかけると、全員気合いを入れステージへと出て行った。 敵のアジトへとセットの変わったステージでは、カメレオン怪人の横に舌が巻きついたピンクとイエローが横たわる。 カメレオン怪人の前にはヒーローの壁になるように戦闘員が並ぶ。 最後の戦闘がステージ上で繰り広げられる。 司会進行の女性の声と共に子どもたちの応援にも熱がこもってくる。 戦闘員を倒し、ブルーとグリーンがピンクとイエローを救出。 5人に揃ったところで、カメレオン怪人との戦闘が始まる。 多勢に無勢、カメレオン怪人はすぐに劣性に立たされる。 ヒーローたちからのキック、パンチの容赦のない攻撃。 可愛そうにも思える攻撃が続いた後、戦隊ヒーローは最後のトドメとばかりに必殺技を繰り出す。 カメレオン怪人も負けじと、長い舌で反撃するが大きな音と光の後、爆発が起こりカメレオン怪人の舌は爆発。 そのまま、カメレオン怪人に降りかかる。 とりもちのようなものに、動きを奪われたカメレオン怪人は転がるようにしてステージを去る。 最後に戦隊ヒーローが5人並んで決め台詞を言うと、子どもたちから歓声が上がる。 司会の洋子がショーの後に行われる戦隊ヒーローとの握手会の時間を案内すると、5人は子どもたちに手を振ってステージを降りていく。 拍手と歓声が続く中、動きの早い家族は握手の列を作り始めていた。 バックステージに戻ってきた全員に労いの言葉をかけていく。 彩音と真紀にはトラブルの中頑張ってくれたことに対して感謝の気持ちを伝えた。 アルバイトメンバーが控え室に行ってしまった後、社員の2人が戻ってきた。 司会進行を務めた洋子とカメレオン怪人を務めた杏奈。 杏奈の疲労は相当なもので洋子に肩を借りて、なんとか歩けるような状態だった。 それはそうだろう、休憩中も着ぐるみを脱ぐことが出来ず、ずっと暑さに耐えてステージに立っていたのだから。 俺も杏奈に肩を貸して控え室へと戻る。 控え室では戦闘員はゼンタイを脱いで着替えを済ませている者もいたが、ヒーローたちは握手会のためマスクを外しているだけだった。 彩音と真紀の2人は男性陣とはカーテンで仕切られた奥にいる。 握手会の段取りについて、いつも通りであることを伝え簡単に確認する。 戦闘員の男性3人についてはスタッフ側に回ってもらい、遊園地関係者とともに握手会の案内誘導。 ヒーロー5人はヒーローとして握手対応。 洋子は握手が円滑に進むように、アナウンスによる案内誘導。 そして杏奈も通常なら案内誘導に入ってもらうのだが、今日は状況が違うのでこのまま会社へ連れて帰ることを伝えた。 現場を洋子に任せて、俺は杏奈を連れて帰ることにしたのだが、カメレオン怪人の着ぐるみを脱がせてやることができないので、このままの姿で車で連れて帰ることになった。 俺には一つの考えがあった。 会社に接着剤の剥離剤があったのを覚えていた。 それを使えば、着ぐるみを傷めず、杏奈を解放できると考えたのだ。 着ぐるみをダメにしてしまうと、かなりの賠償金が発生してしまう。 多少目立つが車まで急ぐ。 車はワンボックス。 着ぐるみを着たままでも十分乗ることができる。 後部座席に杏奈を乗せて、エアコンを全開にする。 カメレオン怪人は、呼吸穴も小さく水分補給をさせるのは難しかったので、敢えて取らせていなかった。 それでも、後部座席でぐったりと横たわる杏奈を見ていると放っては置けなかった。 ダッシュボードの中からストローを見つけ出し、ストローを使って杏奈にスポーツドリンクを飲ませることにする。 カメレオンの首の辺りにある小さな呼吸穴にストローを突き刺さしてみる。 呼吸穴は大きく広がったが、上手く突き刺さった。 飲んでもらえるか不安だったが、杏奈は飲んでくれた。 「はぁぁ、生き返る」 杏奈は声も出せないくらい弱っていたが、水分補給したことで、元気が出たようだった。 「じゃあ、急いで会社へ戻ろう」 そう言って運転席へ行こうとした時、親指が大きなミトン手袋のような手で腕を掴まれた。 「待って」 杏奈はそう言って俺を引き寄せる。 「え!」 咄嗟のことで俺は固まってしまった。 俺を引き寄せ後部座席に横たわらせると、杏奈は俺の体に沿うように覆い被さってきた。 170cm近い身長の杏奈は背は高いが細身でカメレオン怪人にも迫力があり、俺は抵抗できなかった。 カメレオンの体の感触はいいような、悪いような微妙な感じがする。 「待て待て」 俺は杏奈を制止したが、杏奈は止まらない。 呼吸穴を俺の顔に近づけ 「私、ずっと主任のことが」 そう言って俺の手を掴むと、自分の胸の辺りに当てる。 厚手のゴムでできたカメレオン怪人の着ぐるみの上からでも杏奈の胸がはっきりと分かる。 俺は生つばを飲んだ。 そしてなぜか、杏奈と洋子が俺のあとから入社してきた時のことを思い出していた。 洋子は小柄で運動神経はそこそこで、話上手。 対して杏奈は高身長に加え、部活動のバスケで養った運動神経と体力はあるが、話下手。 結果として洋子は司会に、杏奈はスーツアクターとして頭角を現していった。 洋子はよく話をしたが、杏奈はいつもその横で話を聞いて笑っているだけだった。 そしていつも俺に声をかけてくるのは、洋子だった。 洋子は可愛い系で活発で無邪気なイメージを、杏奈は美人系でクールなイメージを持っていた。 洋子から声をかけてくることが、多いので俺に気があるのかと思った時期さえあった。 対して杏奈は俺に関心がないと勝手に思っていた。 俺はカメレオン怪人の杏奈を抱きしめた。 杏奈もそれに応じるように抱きついてきた。 「私、話下手だし、恥ずかしがり屋で」 言葉に詰まる。 「だから、いつも洋子にお願いして主任に声をかけてもらっていたの」 「今は着ぐるみを着ているから勇気が出て、それに初めて2人きりになれたから」 そう言ってより一層強く抱きついてくる。 「気持ちは嬉しいけど、体は大丈夫か?」 俺が尋ねると杏奈は黙り込んでしまった。 “大丈夫じゃない、無理している“ そう判断した俺は、抱きついている杏奈を振り解こうとするが、杏奈はイヤイヤと大きく首を振る。 「暑くて辛いだろ」 俺の質問に杏奈は答えないが首を横に振った。 「大丈夫なの?」 俺の質問に杏奈は頷く。 しばらく抱き合っていたが、杏奈がようやく口を開いた。 「軽蔑しないでね」 俺は頷く。 「私、…… 着ぐるみを着て全身を包まれているのが、好きなの」 「たとえ、どんなに苦しくても、だから今はすごく幸せ」 「主任にも抱かれているし」 最後は俺の胸にうずもれるようにして杏奈は言った。 2人はしばらく抱き合っていた。 しばらく抱き合い杏奈が落ち着いたので、会社へ向かうことにする。 カメレオン怪人の姿のままで助手席に座らせて会社へと向かう。 助手席に乗せたのは杏奈の希望。 シートベルトをして助手席に乗るカメレオン怪人は俺の左手を握ってきた。 結局、会社に着くまで俺たちは手を繋いでいた。 もちろん道中、通行人や他のドライバーにカメレオン怪人を見られて驚かれたが、そんなことは気にならなかった。 彼らはカメレオン怪人が人形と思ったかも知れないが、中身は女性。 しかもかなりの美人とくれば、もっと驚くだろうと思った。 会社に着く頃には杏奈はぐったりとしていた。 ただ寝ていたのかもしれないし、暑さで熱中症になっているかもしれない。 声をかけても反応がないので、杏奈をお姫様抱っこして会社まで運ぶ。 着ぐるみの重さもあるものの、杏奈が軽いせいか簡単に抱き抱えることができた。 社内に戻ると誰もおらず、皆出払っているようだった。 着ぐるみの試着などに使っている広めの部屋に杏奈を運び込むと、テーブルにうつ伏せになるように寝かせ、剥離剤を準備する。 接着された周りから慎重に剥離剤を塗布していく。 剥離剤の効果はてきめんで、簡単に背びれを外すことができた。 問題は大量に接着剤の塗られたファスナー。 ファスナーに沿うように剥離剤を塗布する。 少し時間を置いてから、ファスナーを動かすと少し動く。 首元からお尻の方へと塗布してはファスナーを開くを繰り返していく。 半分まで開くと着ぐるみの中の湿った熱気が噴き出してきた。 30分以上かけてようやくファスナーを開くことができた。 着ぐるみのファスナーが完全に開いても、杏奈は着ぐるみから出てこない。 軽く揺すってみるが反応はない。 心配になり着ぐるみの中へ手を入れた。 「うわっ!」 声を上げてすぐに着ぐるみから手を抜いた。 俺の手は洗ったように濡れていた。 長時間、厚手のゴムの着ぐるみに入っていたので汗をかいているのは分かっていることなので驚かない。 驚いたのは人肌を直接触ったような感触。 それも柔らかく弾力のある膨らみを思いっきり掴んでしまった。 改めて着ぐるみの開口部を大きく開くと、白い肌が見える。 さらに開くと杏奈がインナーを着ていないことが確認できた。 突然、着ぐるみが動き出し、杏奈が着ぐるみから出てきた。 汗をかき真っ赤な顔をし、まとめた肩までの髪もぐっしょりと濡れている。 そんなことよりも、一番目が行くのは白い肌に大きなお椀のような形のいい乳房。 その乳房の先にはピンクの乳首が勃っていた。 杏奈の目は酔ったようにトロンとした目をしており、そのまま俺に抱きついてきた。 汗で滑る裸体を落とさないように、しっかりと抱きしめる。 杏奈は俺に身を任せ、甘えた目で口づけをせがんでくる。 俺は自分を抑えることができなくなり、口づけを交わし舌を絡ませる。 そのまま杏奈をテーブルに寝かせると、覆い被さりズボンのベルトに手をかけた。 その時、社内で物音がした。 杏奈も俺も動きが止まる。 その音が何か確かめるように耳をすませる。 コツコツと足音がこちらに近づいてくる。 この部屋には鍵がかかるのだが、ドアノブを見ると鍵がかかっていない。 俺は慌ててテーブルから降りると、鍵をかけるためドアへと駆け寄る。 しかし、一瞬遅くカチッと音がしドアが開いた。 部屋に入ってきたのは、俺たちの上司である係長。 「おう、帰ってたか」 「トラブルがあって着ぐるみから出られなくなったと聞いて心配になってな」と。 俺は杏奈の裸を隠すため、係長との距離を詰める。 「係長、大丈夫ですよ、着ぐるみから出られましたら」 「そうか?」と言いながら、係長は部屋の中を覗いてくる。 “もうダメだ!“ そう思った瞬間、後ろから声がした。 「係長、大丈夫ですよ、ほら」 杏奈はそう言って着ぐるみから顔だけ出して答えた。 「おお、大丈夫みたいだなぁ」 係長の言葉が終わらないうちに杏奈は、 「2人とも出て行って下さい、着替えるんで」と。 「おお、すまん、すまん」係長は杏奈に答えて、「お前もだ!」と言って俺はつまみ出された。 俺が杏奈の方を振り返るとウインクをしていた。 しばらくすると、杏奈が着替えを済ませて部屋から出てきた。 しかし、浮かない顔をしている。 心配になり体調が悪いのか聞いてみたが、杏奈は首を振る。 そして、黙って俺と係長を先ほどの部屋へと誘導する。 部屋に入いると、テーブルの上にカメレオン怪人の着ぐるみが置かれている。 杏奈は着ぐるみの背中を指差して、 「ファスナーが溶けたみたいになってて」 と下を向く。 俺と係長が確認すると、確かにファスナーが溶けたようになっている。 試しに引き上げてみるが、全く動かない。 剥離剤が強すぎて溶けてしまったようだった。 「すみません」俺はすぐに係長に頭を下げた。 「俺がきちんと管理してなかったせいで、彼女にも辛い思いをさせた上、着ぐるみまでダメにしてしまって」 係長は俺の肩を叩き、 「仕方ない、不運が重なっただけだ、気にするな」と声をかけてくれた。 結局、カメレオン怪人の着ぐるみについては、会社で買い取ることになったが、特に俺や杏奈、洋子、そして接着剤を持ち込んだ彼もお咎めはなかった。 杏奈は責任を感じてカメレオン怪人の着ぐるみの買い取りを申し出て、給料から少しずつ支払っていくことになった。 会社もそんな彼女のことを考慮し、買い取りには半値を提示した。 杏奈が責任を感じているのもあるが、実のところカメレオン怪人の着ぐるみを気に入っていたこともあり買い取りを願い出たのではないかと思う。 根拠としてはカメレオン怪人が殆ど新品同様で、本来の着ぐるみ独特の異臭を放っていなかったこと。 それにショーで使われていると傷みがあるのだが、それがなかったこと。 何より気になったのが、ファスナーが溶けていたこと。 俺が剥離剤を使った時は、ファスナーは溶けないで簡単に開くことができた。 もしかして、俺と係長が部屋を出た後、杏奈がファスナーを溶かしたのではと疑ってしまう。 いろいろ思い返すと、ファスナーの潤滑剤と接着剤を間違えた洋子にも不審な点がある。 着ぐるみの中で杏奈が裸であることは洋子も知っており、休憩中に杏奈が裸であることがバレないように接着剤をワザと塗ったのではないかということ。 そして、着ぐるみに閉じ込められた杏奈を会社へ連れて帰るため、俺を2人きりになることも計画されていたことと思うとつじつまが合う。 さらに剥離剤だが、このショーの配役が決まった時から俺の目に入るところに置かれるようになっていたようにも思う、それまで剥離剤は見たことがなかったから。 その後はというと俺と杏奈は付き合う事もなく、杏奈とは会えなくなった。 杏奈には前々から社長の推薦で大手の芸能プロダクションへ移籍の話があった。 本人もアクション女優として映画デビューする夢があった。 それを実現するため、上京していった。 今まで杏奈が自分の夢に飛び込めなかったのは、俺への恋心があったから。 杏奈の体を張った告白にも、俺が煮え切らない態度をいつまでも続けていたことで、杏奈は自分の夢を取ることを選択した。 結果としては、その後は洋子から何度も杏奈の件で嫌味を言われ続けたのはいうまでもない。 完