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ごむらば
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なんでこうなるの?

ヒーローショーで司会をしていた洋子のスピンオフストーリーです。 私、洋子はヒーローショーの司会の仕事をしているが、その会社があまりに忙し過ぎることや年齢のこともあり表舞台から身を引くタイミングで転職を果たした。 しかし、私にはイベントショーがつきまとうようで、そんなある時の話です。 私が仕事の合間に雑誌で新作ゴジラ映画を見ていると後ろから声をかけられた。 「興味あるのか?」 振り返ると上司。 私は「ええ、まぁ、昔から好きですね」と答えた。 私の答えに「歩き方とかできるのか?」と唐突な質問。 動揺しながらも「ええ、まぁ」と同じ答えを返した。 「やってよ!ここで」 「嫌ですよ、恥ずかしい、これでも女子なんですから」と返すと、「そうか」と言ってそれ以上を求められることはなかった。 なぜ急にそんなことを言ってきたのかはその時は分からなかった。 忘年会の出し物でもネットで揃えた着ぐるみを着ることがあったので、そんなことを言ってきたものだと軽く思っていた。 ある日、上司から個別に呼ばれてゴジラの歩き方の映像を見せられた。 「どうだ、できるか?」 まあ、ゴジラの着ぐるみに入ってみたいという願望もあり、一人暮らしの家ではゴジラの歩き方を真似るほど好きであることは間違いなかった。 が、これが人前となると、話しは違ってくる。 なぜ、こんなにゴジラの歩き方にこだわるのか、そしてなぜ私に言ってくるのかが分からなかった。 一週間後、大きな荷物が届く。 そしてまた、私は個別に上司から呼び出された。 大きな荷物の中身はゴジラの着ぐるみ。 「すごい!」思わず声が大きくなる。 「見ていいですか?」上司に尋ねると、静かに頷く。 「本物みたい、今度の宣伝に使う着ぐるみですか?」 その質問にも上司は静かに頷く。 上司がチラシを私に見せる。 そこには「ゴジラがやってくる」と銘打った我が社主催のイベント。 「でもなぜ私に?」 上司は椅子に座り説明を始めた。 「ゴジラの着ぐるみは始めレンタルする予定だったが、先に押さえられていてレンタルできなくなった」 「そして、イベントの告知を先にしてしまって、盛り上がってきたので、後に引けなくなりゴジラの着ぐるみを造ることになったんだ」 ここまでの話は、まぁ仕方ない。と心の中で呟いて頷く。 「着ぐるみに入る、うちの男性社員も決まっていた」 「そしてその彼には歩き方の練習もしてもらっていた」 「じゃあ、なんで?」思わず声に出た。 「採寸もした」 「なおさら、なんで?」 「入力を間違えて、男性社員の身長のゴジラになってしまったんだ」 「つまり、ゴジラの大きさが170cmほどなんだ」 「?!」 「だから、このゴジラの着ぐるみを着ることができるのは、身長150cm以下の人しか無理なんだよ」 「えー!で、私ですか?」 「確かに私は149cmですけど」 「君に声をかけようとした時、君がゴジラの雑誌を真剣に見ていたので、僕には君が救いの天使に見えたんだ」 「どうだろう、ゴジラの着ぐるみを着てイベントに出てくれないか?」 悩んだふりをする。 本心はすぐに飛びつきたいところなのだが、私にもプライドがある。 「こうゆうのはどうだろう、特別ボーナスを支給するというのは」 私は心の中でガッツポーズをして、「仕方ないですね、やりましょう」と承諾した。 「じゃあ、早速だけど試着お願いできる?」 上司が私を促す。 かなり、大きく見えるゴジラの着ぐるみ、先入観が大きく見せているだけで実際は発注ミスもありそれほど大きくない。 太い脚の部分は空洞になっていて中に入る人の身長を調整できるようになっていると説明を受けた。 もっとも高い人で150cmなのだから私には必要がない。 着ぐるみの中へのファスナーはゴジラの背びれで覆い隠すようにしてある。 背びれを外し、ゴジラのゴツゴツした表皮に埋もれているファスナーを開き、そこから中へ入る。 脚はぶかぶか、体も大きいので簡単に入った。 手は少し大きいくらい。 顔を覗き穴の調整すると、上司が「閉めるぞ」と言ってファスナーを閉めた。 背中でゴソゴソとしていたが、しばらくすると、上司が目の前に現れた。 私は両手を挙げてポーズを取ってみるが、上司の反応はイマイチ。 その証拠に頭を傾げている。 それに対して私も頭を傾げてみた。 すると、上司が視界から消えた。 周りを見たが上司の姿はない。 しばらくして再び上司が目の前に現れた、その手には大きな姿見鏡を持って。 その鏡を悪い視界から覗き見る。 そこにはなんとも言えないゴジラの姿。 体の所々が凹んだり、シワがよったりしている。 自分が見ても想像していた姿とは違い、見窄らしい。 上司が頭を傾げるのも分かる。 「とりあえず今日はこれで」上司はそう言って私を解放してくれた。 着ぐるみの中は短時間にもかかわらず、予想していたよりも暑くかなりの汗をかいていた。 ゴジラの着ぐるみを着る時は着替えが必須であることを私は実感した。 ゴジラの見窄らしいのは上司がなんとかするということだった。 それから数日後、上司から再び声を掛けられた。 前回の教訓を踏まえて、ゴジラを再度試着。 事前にインナースーツとして全身タイツを購入する様に言われていたので、購入した物を持参した。 私の体のサイズを聞くのはセクハラに当たると上司が配慮、全身タイツの費用は会社負担してくれた。 ただこの全身タイツ、会社負担であるので高額の物をネットで適当にポッチと購入したのだが、顔まで覆われる物であるのに気づいたのは試着の寸前だった。 肌の露出が一切ない黒い全身タイツで、申し訳なさげに登場した私に対し、上司はゴジラの中を見せないための配慮と私を評価してくれた。 ゴジラに入る前に上司は準備していたあるものを広げた。 それは特注のインフレータブルのラバースーツ。 特に下半身だけが空気を入れると大きく膨らむ上半身も下半身に影響を受け、若干は膨らむようにできていた。 このラバースーツは全身タイプで、これを着ると頭から足の先まで全てラバーで覆われてしまう。 顔の部分は目と口の所は穴が開いており、視界も呼吸も問題ないのだが、目出し帽を被った強盗みたいになる。 ところが幸いにも私は顔までも覆う全身タイツを購入していたため、強盗のような恥ずかしい顔を上司に見られることは免れた。 心配なことが一つ、全身タイツにラバースーツを着てゴジラに入るのはかなりの暑さになり、私の体力が持つかどうかが。 だが、上司は私の暑さ対策も考えた上での今日の試着だった。 ラバースーツを着てから、空気を送り込まず先にゴジラに入る。 すでに暑かったのに暑さがさらに増す。 「空気入れるぞ」上司の言葉と共に空気が送り込まれる。 すぐにラバースーツは膨らまないが、少し暑さがマシになった気がした。 ラバースーツが膨らむにつれて、暑さはどんどんマシになっていく。 「どうだ、冷たい空気を送り込んでるから涼しいだろう」目の前の上司はドヤ顔で覗き込んできた。 私は暑さから解放され、嬉しさのあまり大きく頷いたまでは良かったが、ゴジラの頭で上司を頭突きしてしまった。 この後、しっかりと謝り頭突きの件は許してもらえた。 さて、インフレータブルのラバースーツを着たゴジラはというと、サイズこそ小さいがしっかりと迫力あるゴジラになった。 上司もそれを見て、ウンウンと頷いていた。 それからは仕事の合間にゴジラの動きの特訓が始まった。 のっしのっしと歩き、振り返るようにして長いシッポを振り回す。 練習の甲斐もあり私はゴジラの動きを完璧にマスターした、と思っている。 そしてイベントの日を迎える。 社内でもゴジラの中身は極秘になっている。 だから、イベント会場の控え室には、上司とアシスタント。 アシスタントは私の親しくしている聡美にしてもらった。 上司はイベントの段取りを確認すると控え室を出て行った。 早速、全身タイツに着替える。 聡美がボソッと「洋子がゴジラにねぇ」 「聡美、やりたかった?」尋ねると、「面白そうだけど、暑そう」と。 なんとなく気のない返事が返ってきた。 次にインフレータブルのラバースーツを着ると、ゴジラの背中を聡美に大きく開いてもらい中へ。 ゴジラの中へ収まってから、冷たい空気を送り込んでもらう。 あまりの空気の冷たさに身震いする。 「大丈夫?」聡美が心配してくれたが、大丈夫と答えた。 そのままある程度まで空気を注入し、ゴジラの背中を閉めてもらう。 空気を入れ過ぎると閉まらなくなったことがあったので。 ゴジラがいい感じに膨らんだところで空気の注入を止め、ファスナーを最後まで閉めて、ファスナーを背びれで隠すのだが、イベントの日はここからが違った。 ファスナーに沿って専用の接着剤を大量に塗り広げる。 そして、背びれを完全に固定してしまう。 イベントの最後に記念写真を撮ることになっているのだが、イタズラされるのを防止するためだと、私は聞かされていた。 屋外に設置された簡易のイベントスペースでイベントが始まり、スモークと共に私が扮するゴジラが登場。 会場も盛り上がり、いい気分。 舞台上でひと暴れした後、観客席へと降りていく、打ち合わせ通り。 観客の盛り上がりが、悲鳴に変わる。 特に子どもたちはいい反応をしてくれるが、冷めた男性からは「小ちゃなゴジラだなぁ」の声。 そんな言葉には耳を傾けず、 観客席を練り歩く。 そのまま、破壊された都市のバックがあるところまで移動。 私がスタンバイすると、記念写真の長い列ができた。 記念写真も終わり、イベントもようやく終わった。 炎天下でのイベントにもかかわらず、冷たい空気のおかげでイベントが終わった辺りで、ようやく汗が滲んできた。 スタッフである会社の同僚たちが今日の撤収にかかっているのを見て、私はホッとした。 やっと着ぐるみから解放される。 そう思った私に上司が背後から同僚たちに向けて信じられない言葉を発した。 「ゴジラも一緒に会社へ戻って打ち上げするぞ!」 「ハァ?」 調子に乗った上司が勝手なことを言い出した。 そのまま有無を言わせず車に乗せられてというより、詰め込まれて会社まで連れて帰られた。 この時は、私の着替えが会場の控え室に置いてあることは忘れていた。 会社に戻ると、すでに宴会の準備は整っていた。 簡単なツマミとビールと数種類のアルコール類。 みんなが楽しそうに飲み交わす中、私はゴジラのまま当然みんなの前で顔を見られたくないので脱ぐことはできない。 上司が近くに寄ってきて声をかける。 「大丈夫か?飲めなく済まない、後日この代わりは必ず」 そう言ってゴジラから離れていった。 上司の去った後、宴会会場でポツンと1人いや1匹?となった私の元へ1人の男性社員が近寄ってきた。 健二だ、こういう酒の席で必ず調子に乗る。 もう嫌な予感しかしない。 しかも、もう顔が真っ赤になっている。 「ゴジラ、お疲れ」 そう言いながら馴れ馴れしく肩を組んでくる。 「おまえ飲んでるか?」 「ビール持ってないじゃん」 「俺が飲ましてやるよ」 そう言って、ゴジラの口にビールを流し込む。 ゴジラの口は着ぐるみの中へは繋がっていない。 よって、大量に流し込まれビールはゴジラの口から涎のように垂れてくる。 ゴジラの首元の覗き穴からはビールが流れ込んできた。 一度に大量のビールが流れ込んできたので、呼吸穴が一時的に塞がれる。 膜のように呼吸穴を塞いだビールを力一杯外に向けて息を吐く。 息を吐いたことで、健二に覗き穴の存在を気づかせてしまった。 「おお、ここから覗いているのかあ」 呂律の回らない感じ、そしてアルコール混じりの健二の息が着ぐるみの中に入ってくる。 「くっさ!」 思わず声を出してしまった。 「え、女の声がしたぞー」 健二がさらに覗き穴に近づき、着ぐるみの中を覗いてくる。 私は必死にゴジラの短い手で健二を突き放そうとするが、そこは男性、力では敵わない。 健二に押し倒されそうになった。 その時、健二が大きく後方へ引っ張られる。 「何やってんだ、おまえ、ゴジラは今日の主役だぞ」 と注意したのは、私の上司だった。 健二はヘコヘコと頭を下げて宴席へと戻っていった。 「すまなかった、もう上がってもらっても大丈夫だ、ご苦労さん」 そういうと聡美を呼んでくれた。 私は聡美に付き添ってもらって女子更衣室へと入った。 「早く脱がせて!」 聡美に懇願する。 「ちょっと待ってすぐ脱がせるから」 そう言って聡美は私の背後に回った。 すぐに背中のファスナーが開くと思ったのだが、なかなか開けてもらえない。 ……… ? 「まだ?」 聡美が目の前に現れた。 「ごめん、洋子もうちょっと待って、上司と相談してくるから」 「どうしたの?」 聡美が押し黙る。 「実はファスナーが見当たらないの」 「背びれの下じゃないの? 「切り開いたら血が出てきて」 気づくと私より背の高い聡美を見下ろしている。 それに視界がゼンタイ越しでなく鮮明になっている。 それに背中の辺りが痛い。 近くにある姿見のゴジラもはっきりと見えている。 お尻の先に力を込めると、長く太い尻尾が動いた。 聡美がボソッと呟く。 「やっぱり、噂は本当だったんだ」 「何が?」 私の問いに聡美が答える。 「着ぐるみに長時間入って、着ぐるみの中が居心地いいと思うと同化してしまうという噂」 「え、そんなの知らない、それっておかしいじゃガゥゥゥ」 「ガァァァ」 「同化するだけじゃなく、人でなくなってしまうんだよ」 「洋子可愛そう、これからはゴジラとして生きていくんだね」 現実ではないと思いたい一心で、ゴジラの尖った爪を腕に突き立てる。 「グガァァ」 痛みで雄叫びをあげる。 “痛いよう、助けて“ 聡美を見て目で必死に訴えるが、聡美は怯えたように後ずさりする。 「ウゥゥゥ」 聡美を怖がらせてしまうので、声を出すこともできないし泣くこともできない。 しかし、どこにもぶつけることができずに悲しくてとうとう大声で叫んだ。 “なんでこんなことになったの?“ 「大丈夫か?」 上司の声がした。 続いて 「大丈夫?洋子?」 と聡美の声。 体を起こす。 「突然、倒れたからビックリしたよ」 と上司が心配そうな顔で覗き込んできた。 「え、 あ はい」 視界は良好、体は汗だくになったゼンタイを着ていた。 「倒れたかと思うと、大きな声を上げたからビックリしたよ」と上司。 「ゴジラは?」 聡美に聞くと、聡美は部屋の端のハンガーにかけられたゴジラを指差した。 なんだったんだろ、夢のようだが妙にリアルな感覚だった。 ゴジラをジッと見ていると、私に向けてウインクをした。 瞬きをしてしばらく見ていたが、その後ゴジラが動くことはなかった。 「今日はお疲れさん、明日は臨時休暇にしといたから、ゆっくり休んで下さい」 といって上司は部屋を出て行った。 「さあ、着替えて帰ろう」 聡美の言葉に大きく頷く。 「あ!私の着替え、会場に忘れてきた」 「洋子はドジだなぁ」 と聡美の言葉に 「打ち上げに強制参加させられたから仕方ないじゃない」 と返す。 「そうだね、私取ってきてあげるよ」 と言って聡美は部屋を飛び出して行った。 ゴジラと2人きりになり、ゴジラに近寄り頭を撫でる。 正直を言うとゴジラの中は居心地が良かった。 包まれていて、そして小柄な私が強くなったような気もした。 自分がゴジラになるのは困る。 けど、イベントの時にゴジラになってまた暴れまわりたいと思った。 そう思ったせいかどうかは、分からないがその後ゴジラ映画は大盛況で、私のゴジラはイベントに引っ張りだこになった。 ゴジラ人気もひと段落してしばらく経った。 イベントはなくなったが、ゴジラのおかげで仕事に追われ忙しい日々を送っていた私は不意にゴジラのことを思い出した。 上司にゴジラの着ぐるみについて聞くと、会社の倉庫に保管されているということだったので会にいくことにした。 しかし、ゴジラの着ぐるみはどこにもなく忽然と姿を消していた。 ゴジラは私と一緒になりたい思いがあった。 だからあの時、私とゴジラは一体となったが、それは私にとっては迷惑になると察した。 だから、ゴジラはどこかへ行ってしまった。 でも、またどこかのイベントで私のゴジラと出会える。 そんな気がしてならない。 完


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