SamSuka
ごむらば
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日雇いバイト

大学の夏休みの時のことです。 友人から電話があり、ある場所へ行ってほしいとお願いされた。 その日は非常に暑い日だった。 私は訳も分からず友人のため、指定された場所へ向かった。 そこは遊園地の従業員入口で名前を言うと友人の根回しがあったようで、すんなりと中へ通してもらえた。 間もなく女性スタッフがやってきて、ある部屋へと案内してくれた。 部屋の中には緑色をしたトカゲの様なものがいくつか吊られていた。 そして、部屋の中央の長机の前に並べられたパイプイスには、部屋に吊られているものと同じものを着た男性が腰部分までそれで覆われ座っていた。 私が「おはようございます」と少しビビりながらも挨拶をすると、「よろしく」と声が返ってきた。 女性スタッフは私に身長を尋ね、それに答えると部屋に吊られている緑色のトカゲの様なものを取り、私に手渡すとわからないことがあったら、彼らに聞いてと言い残すと部屋を足早に出て行った。 つまり、これを着ろということだろう。 近くの男性に話を聞くと、子ども向けの番組のイベントで自分たちは悪役であるトカゲの着ぐるみを着て、正義のヒーローにやられるという役まわりであることを教えてもらった。 確かに上座に座っている人だけはタイツのような衣裳で、いかにも正義のヒーローぽかった。 早速、渡された悪役のトカゲの着ぐるみを着てみることにした。 しかし、これがなかなか大変。 着ぐるみの素材が分厚く足が通りにくい。 それでも何とか履くことができたが、このクーラーのよく効いた部屋でも汗が噴き出していた。 「この着ぐるみ着るの大変ですね」と漫画を読み座っている男性に話しかけると、チラッとこっちを見て「全身着るともっと大変だよ、それに外はもっと暑いよ」と言うと、すぐに漫画へ視線を戻した。 ”え!これ着て外でやるの!?” 私の心はトカゲの様な着ぐるみを腰まで上げただけですでに折れてしまった。 座っておのおの自由行動だったが、時間がきたようで音楽が流れると、おもむろに立ち上がると着ぐるみを着始める。 慣れない私は手伝ってもらいながら、何とか腕が通った。 次に頭を入れると、汗の臭いと暑さが急激に増す。 目の前の暗闇の先に見える光を目指し頭を埋めていく。 体が着ぐるみの中に収まると、背中にある着ぐるみのファスナーが閉められていく。 「チョット待って、苦しい」私のそんな言葉は届かず、ファスナーは完全に閉じられた。 呼吸は若干苦しいながらも次第に慣れていった。 しかし、汗の量だけはハンパではなかった。 出番はまだ、ひと足先に正義のヒーローは舞台へ飛び出していった。 準備の出来た悪役トカゲは部屋で待機。 私は着ぐるみに包まれた体を触ってみたが、ほとんど感触がなく、これなら蹴られても殴られても大丈夫だと、変な安心をした。 その時、一番奥のドアが開いて別のトカゲが出てきた。 しかし、この部屋にいるトカゲとは色も大きさも違う。 明るい黄緑色をしていて、小さい。 そして何より細く見た目に華奢で、中身は女性であることは明白だった。 「よろしくお願いします」と挨拶をしたその声は女性、それに若い感じの声だった。 なぜか私はドキドキしていた。 そしていよいよ舞台へ。 舞台に上がると小さな覗き穴から、子ども連れの家族が多く見える。 ゾロゾロと登場したトカゲの後、最後にボストカゲである黄緑色をした小さなトカゲが登場。 子どもたちは正義のヒーローに必死に声援をおくっている。 トカゲのボスは下っ端のトカゲに指示を出し正義のヒーローを襲わせる。 次々に飛びかかる下っ端トカゲ。 戦闘を繰り広げた後、下っ端トカゲは床に転がる。 当然、私もやられて寝転がるがとにかく暑い。 エアコンの効いた控え室で、着ぐるみを着ただけで既にかなりの暑さだったのに、舞台は屋外しかも転がったところが悪く直射日光。 舞台に上がった時は多くの観衆を前に緊張していたこともあり、暑さをそれほど感じていなかったのだが今は全身の水分が抜けてしまうのではないかと思うほどの暑さを感じる。 そんな中での戦闘、倒されて少し経つと再び立ち上がり、ヒーローへと立ち向かうが、2度倒されると舞台裏へとはけていく。 こうして下っ端トカゲの役目は終了。 トカゲをすべて倒したヒーローはいよいよボスとの戦闘へ。 ボストカゲは小さな体ながら、機敏に動き戦闘を繰り広げるが、時間とともにはっきりと分かるくらい動きが鈍くなる。 それも当然だろう、自分たちは代わる代わるヒーローと闘い倒されて休憩できたが、彼女はそうではない。 演出上、次第にボスは劣勢になっていく。 最後は蹴られ殴られふらふらになったところを思いっきり放り投げられ、小さなボストカゲは舞台裏まで転がってきた。 その時「キャッ!」と近くにいた私には彼女の声が聞こえた。 その直後、遠くでヒーローの決め台詞と子どもたちの声援が聞こえてきた。 疲れ切った足取りで戻ってきたトカゲたちのファスナーをスタッフが順番に開けていく。 下っ端トカゲからは、汗をかいた男たちが、湯気と共に飛び出してくる。 ボストカゲはというと、パイプイスに座り頭を項垂れている。 スタッフはボストカゲのファスナーを開けることなく、ペットボトルにストローを刺して彼女の前に置いて控え室を出て行った。 私はトカゲの着ぐるみを腰まで脱いで、少し離れたところでその様子を眺めていた。 彼女はペットボトルのストローを着ぐるみの口の中へと入れると、ドリンクがみるみるなくなっていった。 もうすっかり着ぐるみを脱いで、シャワーを浴びに行こうとしている人を捕まえて聞いてみた。 「彼女かなり辛そうですけど、着ぐるみ脱がないんですか?」と。 答えてくれた人は「この後、握手会があるから脱げないだ。まぁ、彼女はいつも脱ごうとはしないけどね」そういうとさっさとシャワーへ行ってしまった。 確かに周りを見渡すと、ヒーロー役らしき人が、仮面を外して暑そうにうちわで自分の顔をあおいでいた。 トカゲの着ぐるみを着た彼女の横に座ってみると、トカゲの口からは大量の汗が滴り落ち、床に水溜りができていた。 その口からは辛そうな呼吸も聞こえてくる。 「大丈夫ですか?」思わず声をかける。 「はい!ありがとうございます」しっかりとした返事は返ってきたが、その声に元気はなかった。 でも、着ぐるみの中の彼女のことが気になり横に座って様子を眺めていると、別の人が声をかけてきた。 「彼女のこと気になるのか?」 「ええ、まぁ」私が返すと、その人は「実は俺たちも誰も彼女の顔見たことないんだよ」とだけいうとどこかへ行ってしまった。 そんなやりとりの後、スタッフがヒーロー役と疲れ切った彼女を連れて、会場へと戻っていってしまった。 彼女はあんな状態で大丈夫なのかといろいろ心配してみたが、自分が心配してみたところで何もできないと我に帰ると周りには誰もおらず、自分だけが着ぐるみを半分着たまま取り残されていた。 握手会場にヒーローが到着した様で歓声が聞こえてきた。 私もシャワーを終え帰る準備をしている時、ヒーローに支えられながら、小さなトカゲが戻ってきた。 子どもたちに蹴られたのであろう、着ぐるみには土のついた足形がいくつも付いていた。 そのまま小さなトカゲは奥の部屋へと姿を消した。 部屋に入ると、鍵を閉める音がしたのを聞いた後、私は家路についた。 実は近くで小さなボストカゲを観察していて分かったことがあった。 それは彼女の着ぐるみだけはファスナーがないこと。 だから、控え室では着ぐるみを脱ぐこともできずひたすら堪えるしかなかった。 それを知っているスタッフは飲み物だけを差し出していたことも合点がいった。 そして、下っ端トカゲとは別室で着ぐるみに着替えていたことも。 彼女は誰よりも早くトカゲの着ぐるみに着替え、じっと出番を待ち、誰よりも遅く帰っていくのだろうと想像ができた。 初めはなぜ、彼女だけが別室で1人着替え、同じ女である私は男の中に放り込まれて着ぐるみを着なければいけないのか納得いかなかったが、彼女の大変さと諸事情でなんとなくだが、納得できた。 完


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