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ごむらば
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ダイビングショップ 【後編】

会話が弾み、目的のおもちゃ屋にはあっという間に着いた。 入口にはセクシーなメタリックブルーのアンドロイドのようなフィギュアが置かれている。 大きさは私とそう変わらない。 もしこれが着ぐるみだったらと、変な妄想が暴走しそうになったので大きく頭を振った。 店長と一緒に店内に入ると、タミヤのエプロンをした男性が迎えてくれた。 「いらっしゃい、トモ君」 (店長の名前は澤田智大) 「こんにちは、宏人さん」 「今日は芳江ちゃん、仕事?」 「いるよ!連れてくるからちょっと待ってて」 そう言うと宏人さんは店の外へ出て行った。 2人で顔を見合わせる。 程なくして先ほどの入口にあったアンドロイドをキャスター付きの土台ごと店内に運び込んできた。 「これは漫画コブラ〜COBRA THE SPACE PIRATE〜に出てくるアーマロイドレディなんだ」と宏人さんは説明を始めた。 「僕はこのキャラクターが好きでねぇ」と話しながら、アーマロイドレディの全身を支えている固定を外す。 腕の固定を外すとレディの腕が少し動いた。 そして足の固定は宏人さんの体にもたれかかるようにして外す。 ヨロヨロとしながらもレディは自立した。 宏人さんがレディの耳元で「トモ君来てくれたよ!」というと、レディは明後日の方向を向いて手を振りお辞儀をした。 宏人さんは慌ててレディの肩を持って私たちの方へレディを方向転換させた。 レディは改めてお辞儀してくれた。 「この中に芳江ちゃんが入っているの?」 店長の問いに宏人さんはドヤ顔で頷く。 そして付け加える。 「アーマロイドレディになると、見てもらった通り目も見えないし、話すこともできないんだ、声は聞こえるんだけどね」 これは俺だけの等身大フィギュアなんだ。 そう言うとレディが動いて宏人さんに突っ込もうとしたのだろうが、見当違いのところで空振りしていた。 「ところで、ずっと気になってたんだけど、トモ君の隣の女性は彼女かな?」 そう言われて店長は頭を掻きながら頷いた。 照れながらも自分のことを認めてくれて嬉しかった。 「少し待ってもらえる?」 そう言って宏人さんはアーマロイドレディの手を引く。 足元が高いピンヒールのせいか、レディはフラフラとしながら店の奥へと消えていった。 私の妄想が目の前で現実になっていたことに遭遇しまだドキドキしている。 店長も何かを察したように私のことを見てきた。 消えてから間もなくして店の奥から電動ドリルの音が聞こえてきた。 それが止むと程なくして、宏人さんが戻ってきた。 「フィギュアだったね」 そう言って取り置きばかりの集まったところから宏人さんが箱を出してきた。 中身を確認にしてから支払いを済ませる。 支払いが済んでも何か言いたげに佇む店長。 「あのー」 店長が何か言いかけた時、芳江さんが現れた。 「トモ君、いつもありがとう!」 マスクは外しているが体はアーマロイドレディのままの芳江さんが店の奥から現れた。 「芳江ちゃん、こんにちは、ってさっきも会ってるのに変な感じだなぁ」 店長は先ほど出かかっていた言葉を飲み込んで芳江さんと話し始めた。 「今は仕事ないのか?」 店長の問いに芳江さんは 「この間まで映画の撮影があったんだけど酷いのよ、ゾンビ役の女の子が着ぐるみを着たままイジメに近い仕打ちを受けて」 「あ!」 私は思わず声が出た。 「私…… 」といいかけたと時、店長が「あの仕事は芳江ちゃんからの依頼だったんだ」と説明され納得した。 「ところでそのスーツ?凄いなぁ」 店長の言葉に芳江さんが、 「あんた、このスーツを彼女に着せたてみたいとか思ってんの?」 と茶化したように言ったが、図星だったので、店長は私の方をチラッと見て黙り込んでしまった。 「ヨシ!トモ君の願いをお姉さんが叶えてあげよう」 子どものようないたずら顔で芳江さんが言った。 そして、私の顔を覗き込み。 「貴女はOK?」 芳江さんの妙な目ヂカラにやられ頷いてしまった。 「じゃあ、男性諸君ここで待っていてくれたまえ」 そういって、芳江さんは私の手を引いて店の奥へと引っ張っていった。 レディの手は硬かったが、熱を帯びており人間らしさを感じた。 店の奥には居間があり、芳江さんに靴を脱いであがるように言われたので上がらせて頂く。 そして、服を脱いで下着になるように言われた。 「貴女、身長は?」 「155cmです」 「足のサイズは?」 「23cmです」 「ふむふむ、スリーサイズは?」 「え、それって必要ですか?」 「そうね、教えて欲しいかなぁ」 「う、上から88、58、86です」 「そ、そう(負けた)」 「ちなみに何カップ?」 「それって必要ですか?」 「いやぁ、私の興味半分」 「Eカップです」 「… そう」 「うん、大丈夫そうね」 そう呟くと芳江さんは一人納得した様子で準備に取り掛かった。 見た目には動きにくそうに見えたが、以外とスムーズに動き準備を始めた芳江さんに目がいく。 そして私の前にレディの体の抜け殻が準備された。 「これは基本的には私が着ているものとほとんど同じモノなんだけど」 と言って止まった後、 「少し窮屈かもしれないけど」と芳江さんは付け加えた。 レディの抜け殻を手に取って見てみる。 ウエットスーツのようなゴムのスーツに硬質のパーツがくっついており、前後で挟めるようになっている。 腕や足、そしてお腹周りの曲がる部分は硬質パーツが蛇腹のようになっていて曲げることができるようになっていた。 胴体部分は前側には硬質パーツがくっついているが、背中側には硬質パーツはなく縦にファスナーが走っており、ここから着ることができるようになっていた。 ところで貴女、 「着替えって持ってないわよね」 芳江さんが聞いてきた。 「はい」 「これ着ると下着が汗でびっしょり濡れてしまうかもしれないけど、どうする?」 私は迷ったが寒空の下、濡れた下着を着けていて風邪をひきかねないと思ったので下着を脱ぐことにした。 そして、すぐにレディの着ぐるみに足を通す。 内側までゴムでできているスキンタイプウエットスーツを着る感覚に似ている。 硬質パーツがあるので滑りの悪さに加えて着にくさが半端ない。 足先はスーツと一体となったピンヒールのブーツになっている。 芳江さんにも手伝ってもらいながらなんとか着ることができた。 背中のファスナーを上げてから、芳江さんは宏人さんを呼んだ。 「ここからは電動ドリルで硬質パーツで体の前後を挟み込んでいくから」と芳江さんから説明を受けた。 宏人さんは電動ドリルを準備し、足元から硬質パーツを手際よく取り付けていく。 程よい圧迫感が私を襲う。 気持ち良くなってきたが、顔に出さないように力を込める。 そんな私を見て芳江さんは「キツかったら遠慮なく言ってね」と声をかけてくれた。 私は「大丈夫です」と笑顔で返した。 足と腕の硬質パーツの取り付けが終わると今度は胴体部分。 まずは涎掛けのように首回りが大きく広がったフードを被る。 色は当然、メタリックブルー。 フードを被ると背中を縦に走るファスナーは完全に見えなくなった。 うつ伏せになり胴体部分の背中側のパーツを合わせてから、取り付けにかかる。 当然ネジが締まるたびに圧迫が強くなる。 私は声が漏れそうなのを必死で抑えた。 かなりの数のネジを締めてようやく体がアーマロイドレディとなった。 芳江さんと並んでみる。 顔だけが違い、まるで体をコピーした様になった。 「マスクなんだけど、声が出せなくなるけど大丈夫?」 わたしには芳江さんの問いがその時は理解できなかったが、その問いの意味についてはすぐに分かることになる。 「ええ、大丈夫です」 すると、芳江さんは黒いゴムマスクを取り出した。 そして、先ほど被ったフードを外す。 「被せるわよ、大きく口を開けて!」 意味が分からなかったが、大きく口を開けた。 口の中にゴムの塊が入ってくる。 「うー、うー」 声が出せない。 「鼻で呼吸して」 芳江さんの言葉で冷静になり、鼻で呼吸する。 すこし呼吸ができたがゴム臭い。 少し落ち着きを取り戻したものの、ゴムの塊はそのまま喉の近くまで入ってきた。 「心配しないで、綺麗に洗ってあるから」 そんな芳江さんの言葉より今の自分の状況が分からない。 マスクがきちんと被れているのか、そうでないのかも分からない目の前は真っ暗闇。 頭には強い力でマスクを被せられる。 ようやく、目の前に光が見えてきたと、同時に今度はゴムのマスクが鼻を塞ぐ。 フガフガなりながら空気を求めて鼻呼吸をした時、芳江さんが「口での呼吸に変えてみて」と言われて口呼吸に切り替えると呼吸ができた。 “助かった“心の中で呟いた。 目の前も見える。 覗き穴は明らかに小さな穴で視界は狭いが外が見えた。 「このマスクに付いているマウスピースは口腔内部分が大きくなっていてこれを咥えると話すことはおろか声を出すことも難しくなるの」と芳江さんは私の目の前に現れて説明してくれた。 「フィギュアは喋らないじゃない、だから」 「じゃあ、私も」 そう言って芳江さんは私と同じゴムマスクを被った。 器用に一人で。 次にアーマロイドレディのマスクを二つ準備した。 一つは私用でもう一つは芳江さん用。 マスクは先ほど店の前に立っていた時のマスクの時は目も何もなかったが、今度のは違う。 原作と同じように目に黒目はないものの、目は存在した。 ゴムマスクの上から再びフードを被り、レディのマスクを前後で挟み込みネジで取り付けてもらう。 視界は白いもののちゃんと見ることができた。 私は白い視界の中でキョロキョロと辺りを見た。 なんか変な感じ。 隣では宏人さんが芳江さんにレディのマスクを付けていた。 レディのマスクの装着が完了し、大きな姿見の前に2人で並んでみる。 “すごい!かっこいい!“ と口にしようとしたがすぐに私の言葉はゴムの塊に阻害され言葉どころか、声も出なかった。 宏人さんは店長の待つ店内へ“どうぞ“といった手振りで誘導してくれる。 それに併せて芳江さんが私の手を引いてくれた。 私は慣れないピンヒールで店内へと歩み始めた。 店の奥と違い店内は明るかった。 始め店長の顔はよく見えなかったが徐々に明るさに順応していく。 二体のアーマロイドレディの出現に店長は驚いていた。 交互に私たちを見る。 どちらが私かは分からないようだ。 芳江さんがセクシーなポーズを取る。 それを見て私も芳江さんに合わせて、モデルさんのようなポーズを取ってみた。 困惑したように目の前に現れたアーマロイドレディを交互に見ている店長に宏人さんが声をかける。 「どうだい?どちらがトモ君の彼女か分からないだろう」 「ええ、全く同じなので区別がつかないです」 また、店長は交互にアーマロイドレディを見ていた。 「あ!そうだ!」 宏人さんは声をあげると店の奥へと消えていった。 店長が「どうしたんですか?」という問いに振り返ることなく。 私たちも訳が分からず、2人して頭を傾げる。 宏人さんはしばらくして大きなダンボールを抱えて戻ってきた。 喋れない私たちを代弁するように店長が宏人さんに尋ねた。 「それ、なんですか?」 「ああ、これね、クリスマスの衣裳」 等身大フィギュア用に準備したサンタガールの衣裳」 そう言って未開封の袋を二つ取り出した。 「等身大のフィギュアが入荷した時に着せようと思って準備していたんだけど、そのフィギュアすぐに売れちゃって、おまけにその年は忙しくて忘れてたんだ」 等身大のフィギュアが二体も現れたので宏人さんはそのことを思い出したのだと私は思った。 「クリスマスも近いし、レディ2人に着せてみるのもいいかと思って」 「それに、客がトモ君しかいないから2人に呼び込みしてもらおうかと」と宏人さんはそう言って舌を出した。 「この箱はサンタガールの衣裳だけですか?」 店長が尋ねた。 「いや、他にもあるよ、トナカイやクリスマスツリーが」 店長が箱を覗き込む。 「膨らませるタイプですか?」 「そうなんだよ」 「これはただ膨らませて置いておくこともできるんだけど、中に人が入ることもできるんだよ」と宏人さんは満面の笑みで私たちの方を見てきた。 私は頭を振り、芳江さんも手でイヤイヤと合図した。 それを見た宏人さんは黙ってサンタガールの衣裳の入った袋を私たちに見せてきた。 それには2人ともウンウンと頷いた。 私と芳江さんはアーマロイドレディの上からサンタガールの衣裳に着替えることになった。 準備されていたサンタガールの衣裳は赤いエナメル生地に白いファーのついたワンピースタイプのものおまけにスカートの丈は私が履かないようなミニスカート。 まあ、アーマロイドレディは普段から下半身は何も隠されていないので、気にすることはないのだが、変なもので中途半端に隠すと見られると恥ずかしい気がする。 慣れないミニスカートに私はスカートの裾を引っ張り少しでも下げようとしたが、エナメル地のワンピースはほとんど伸びることはなかった。 私と違い芳江さんは恥ずかしがることもなく、レディを演じ体の凹凸を惜しげもなく晒していた。 衣裳はあとワンピースと同じように作られた三角帽子と赤いレッグウォーマーを身に着けて完成。 早速、男性陣の前で私と芳江さんはポーズを取ってみた。 男性陣は目を輝かせ、拍手してくれた。 そのうち、店長がスマホを取り出し私たちを撮影し始めると宏人さんは店の奥から本格的なカメラを持ち出してきて撮影を始めた。 おもちゃ屋の店内でのことだが、モデル気分で色んなポーズを取りながら撮影が続いた。 ある程度撮影が落ち着いたところで、店長は私にスマホの画面を見せてくれた。 宏人さんも芳江さんに画像を見せている。 見た目には同じに見えるアーマロイドレディだが、動きで店長は私のことを見分けたようだった。 「じゃあ、呼び込みお願いできる?」 宏人さんが私たちに声をかけた。 声を出して返事ができないので頷く。 サンタガールの衣裳で店の外へと出ようとした私たちを宏人さんが止めた。 振り返り頭を少しかしげる。 “どうして?“ 私たちの考えを読み取ったように宏人さんが切り出した。 「今は平日の昼間だろ、歩いているのは母親と子供が多いんだ」 また、私たちは頭をかしげる。 “それがどうしたの?“ またそれが分かったように宏人さんが答える。 「だから、そんなセクシーな格好よりトナカイやクリスマスツリーの方がウケがいい気がするんだ」 そう言って先ほどのダンボールから膨らませるタイプの着ぐるみを取り出した。 私たちは両手を突き出し、必死に拒否する。 しかし、宏人さんと店長に拝み倒され、渋々膨らませるタイプの着ぐるみに入ることになった。 レディを脱がせてもらうべく店の奥へと向かおうとする芳江さんの腕を掴む宏人さん。 「そのままでいいよ」と声をかけたが、イヤイヤと頭をしきりに振る芳江さんだったが、結局は宏人さんに押し切られ店内に戻ってきた。 おそらくだが普段、宏人さんは口で言い負かされているのであろう。 しかし、今日は状況が違う。 アーマロイドレディとなり、芳江さんの最大の武器である口は封じられている。 そして、私たちがいることで夫婦喧嘩ができない状況にある。 芳江さんは膨らませるタイプの着ぐるみに入ることを納得はしていないが、無理やり了承させられる形となった。 それはすなわち、私も膨らませるタイプの着ぐるみに入るという事に他ならなかった。 芳江さんはトナカイとクリスマスツリーを見てトナカイを選択した。 トナカイは形状から四つん這いの姿勢になることが明白であり、それを私にさせないためということが分かった。 トナカイは腹側にファスナーがあり、そこから入るのだが、レディのブーツがピンヒールのため、着ぐるみを傷めないように発泡スチロールを踏まされてから芳江さんはトナカイの着ぐるみに入っていった。 トナカイの前脚には後脚と高さのバランスを取るために詰め物がしてあった。 トナカイのお尻にある注入口からコンプレッサーで空気が送り込まれる。 トナカイはみるみるうちに膨らみ、立派な角のあるアニメチックな可愛らしいトナカイが目の前に現れた。 宏人さんはトナカイの首元に空いている穴に話しかける。 穴からはアーマロイドレディのメタリックブルーの顔の一部が見える。 「大丈夫、苦しくないか?」 トナカイからは返事はなく、膨らんだその立派な角で宏人さんを叩くように頷き攻撃した。 「痛い、痛い!」 痛くないがワザと痛がる振りをして宏人さんはトナカイとの距離を取る。 そして「大丈夫そうだな」と呟いた。 次は私の番。 ネットで見たフロートのシャチを体験できると思うと興奮してきた。 ヒールに発泡スチロールを突き刺して、いざクリスマスツリーへ。 クリスマスツリーは幹の部分と葉っぱと装飾部分に分かれていた。 まず、茶色の幹である着ぐるみに入る。 足は膝から下が分かれているが太ももから上はくっついた状態。 腕は左右に伸びた枝に入れる。 空気が注入されていないのでブカブカ、ダボダボ。 背中側のファスナーが閉められる。 幹の覗き穴兼呼吸穴に顔を合わせると空気が注入され始めた。 みるみる幹は膨らみ体が圧迫されていく。 “気持ちいい“レディの上からでもさらに圧迫される。 しかし、圧迫は止まらない。 幹はどんどん膨らんでいく。 “ちょっと、待って“声を出そうとするが声が出せない。 おまけにコンプレッサーの音で私のわずかに漏れた声も簡単に掻き消されてしまった。 程なくして、コンプレッサーは止まった。 なんとか潰されずに済んだ。 かなりの圧迫感はあるが、耐えられないほどではない。 覗き穴から店長が覗き込む。 「綾子、大丈夫か?」 大きく頭を縦に振ると幹の上部で店長を頭突きする形となった。 そうなることは私の中で想定していた。 芳江さん夫婦に対抗してやってみた。 店長の反応が気になったが、店長は笑って「大丈夫そうだな」と返してくれた。 次に宏人さんが葉っぱと装飾のついた部分に空気を注入すると三角錐の形に膨らんだ。 それを三角錐の底の部分から入っていく。 が、入らない。 パンパンに膨らんだ幹は葉っぱと装飾を拒む。 仕方なく一旦、幹の空気が抜かれる。 圧迫感からのひと時の解放。 少し空気の残った幹は葉っぱと装飾の施された三角錐の底から被るように進入する。 中には腕を通す箇所がありそこへ腕を通し、視界を確保してから再び空気が注入された。 再び強い圧迫が全身を襲う。 “気持ちいい“ ただただ棒立ちしながら圧迫感を味わった。 さすがにこうなると暑い。 私の準備をしている間に芳江さんのトナカイは器用に自分で歩いて店の外へと出て行ってしまっていた。 私も膝下は動くので移動を始めようとしたが、上手く歩けない。 店内の棚に引っかかって店の出入口付近でおもいっきり転倒したが、幸い商品を壊したり落としたりはしていなかった。 おもちゃ屋はアーケードのある商店街に面している。 平日の昼間は買い物に来た母子が、アニメから飛び出したような動くトナカイに食いつく。 私も負けずと動くと子供に泣かれてしまうことも。 それでもこの膨らんだ着ぐるみは人の目を引き、人がどんどん集まってきた。 すかさず、宏人さんがお客さんを店の中へと誘導する。 店長もいつのまにか店員の格好をして店を手伝わされていた。 事件は店の外も中もピークの時に起こった。 まだ、悪そうな中学生3人組が近づいてきた。 小さな子供たちを押し退けて近づいてくると、トナカイの腹に蹴りを入れた。 “芳江さん!“ トナカイは倒れて横倒しになる。 脚を動かしているが、空を蹴り立ち上がることができない。 「このクリスマスツリーも動いてたぜ!」 悪ガキの1人が私の方を指してこう言った。 “ヤバい、次は私⁈“ そう思っているのもつかの間、1人の悪ガキが葉っぱのところに飛びかかってきた。 勢いよく前に引っ張られ、バンザイするような形で倒れた。 悪ガキは倒れた反動で葉っぱと装飾部分を掴んだまま後ずさり、結果私は脱がされて幹だけとなった。 起き上がろうとするが、膝から下しか動かせない私は立ち上がれず地面を這いずっていた。 その時、遠くから怒鳴り声がした。 「コラァ、お前たち何してる!」 うつ伏せで動けない私は声の方を見ることができなかったが、悪ガキたちが「警察だ、逃げろ」と言って走り出したので、巡回中のお巡りさんだと分かった。 「キーキー」と近くで自転車のブレーキ音がして「大丈夫ですか?」とお巡りさんが声をかけてくれたが、喋れない私は返答できなかった。 騒ぎに気づいた宏人さんと店長も外へ飛び出してきたようで、お巡りさんが「後はお願いします」と2人に言って去っていくのが分かった。 私も芳江さんも起こされて店内奥へ。 後ろから宏人さんが騒ぎで集まった人たちに 「お騒がせしました」と謝罪している声が聞こえてきた。 “私たちは悪くないのに“ そう思いながら店内を進む。 そういえば、被っていた葉っぱと装飾がなくなっていることに気づいた。 振り返って店外をサッと見たが、どこにも見当たらないところを見るとあの悪ガキが持ち去ってしまったのだろう。 宏人さんに悪いことをした気分になった。 騒ぎが収集したのか、宏人さんが戻ってきて私たちはトナカイとクリスマスツリーの着ぐるみから解放された。 宏人さんは「大丈夫?」と私たちに聞いてくれた。 話せないので私も芳江さんも指でOKサインを作った。 「ゆっくりしていて」そういって宏人さんは店内へと戻っていった。 少し座って休憩しただけだったが、だいぶ楽になってきた。 その時、芳江さんが立ち上がった。 着ぐるみの集客効果もあり、まだお客さんが店内にいるため接客に向かうようだった。 私も立ち上がったが、私の両肩に手を置いて座るように促し、一つ頷いた。 しかし、みんな働いているのに1人座って休憩しているのも引け目を感じた私は立ち上がると芳江さんの手を引いて店内へと歩き始めた。 私たちの姿に驚く人も多く、泣き出す子供もいたが、最終的にはおもちゃをお買い上げ頂き、一緒に記念撮影するお客さんがほとんどであった。 こうして、宏人さんのおもちゃ屋は大盛況のまま、夕方の閉店時間を迎えた。 「お疲れ様!トモ君、アヤちゃんお手伝いありがとう!」 宏人さんにお礼を言われ、私は少し照れたポーズを取り、店長からは「普段、接客してますから」と。 「どう、アヤちゃん疲れてきてない?」 と宏人さんに尋ねられてレディでいることを思い出した。 私はイイエと手振りで返した。 すると宏人さんが「そうみたいだね、芳江も意外と大丈夫だって言うんだ」と。 そんな宏人さんの後ろで芳江さんが親指を立てサムズアップしていた。 「ところでどうだろう、今日手伝ってもらったバイト代として、そのアーマロイドレディのスーツを差し上げるというのは」 宏人さんがそう言い終わるか言い終わらない内に店長が「いいんですか?」とえらく食いついた。 宏人さんは少しびっくりしたように目を大きくして頷いた。 宏人さんはアーマロイドレディの脱着方法を簡単に店長に教える。 「じゃあ、アヤちゃん着替える?」 宏人さんの問いに私は戸惑った。 もう少しこの姿のままでいて店長を喜ばせてあげたいと思ったから。 そんな私の想いが通じたように「このまま帰ってもいいですか?目立ちますけど」店長は少し声が小さくなりながら言った。 私は店長の手を握って、店長の顔を見て一つ頷いた。 「いやぁ、別に構わないけど、じゃあ送っていくよ」宏人さんが何か吹っ切れたように笑顔で言った。 私たちは宏人さんにダイビングショップまで送ってもらう事になった。 私は着てきた服、下着、スニーカーをリュックに詰めて着てきたダウンコートを着ようとしてサンタガールの衣裳に気がついた。 宏人さんの方を見ると察したように、「サンタガールの衣裳もあげるよ」と言ってくれたので、宏人さんにお辞儀をしてからその上からダウンコートを羽織った。 これで準備完了。 宏人さんのワンボックスカーに乗せてもらい一路ダイビングショップへ。 芳江さんはアーマロイドレディのまま私たちを見送ってくれた。 道は夕方の帰宅ラッシュも終わり空いていた。 店長はアーマロイドレディのまま残してきた芳江さんのことを気にかけていたが、宏人さんは心配しておらず、夕飯を作って待ってくれているよと笑っていた。 私は1人後部座でシートベルトをし、流れていく街の景色を2人の会話を聴きながらぼんやりと眺めていた。 程なくしてワンボックスカーはダイビングショップに着いたが、私はいつの間にか眠っていた。 2人に心配されながらも車を降りて宏人さんを見送った。 宏人さんが去ったのを見送ると、店長は私をお姫様抱っこしてお店の中に入る。 そして出入口を施錠してから奥の倉庫で抱き合った。 「これからも時々、アーマロイドレディになってくれる?」 店長の問いに大きく頷くと、ギュッと強く抱きしめてくれた。 その後、アーマロイドレディを脱がせてもらいシャワーを浴びてからその日は家に帰った。 その日から休みの日は店長の家に行ってアーマロイドレディとなって過ごし、仕事の時はイルカのルミとなった。 私の作った着ぐるみは二つとも好評でお客さんも増えた。 もちろん、着ぐるみだけでなくダイビングショップの店員であり、ダイビングの時はインストラクターとしても公私ともに店長と充実した日を過ごしている。 私はこうして海だけでなく、着ぐるみに潜り込むことも趣味となった。 萌絵ちゃんはというとダイビングショップに就職し、私の後輩となり今も2人で着ぐるみに入っている。 私と店長はその後、結婚しダイビングショップを持つという夢は副店長という形で成し得た。 おしまい


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