お天気お姉さんはダルマちゃん9
Added 2023-05-05 03:00:00 +0000 UTCダルマ姿にされ錘まで付けられて池に沈められるというとんでもない夢を見たせいで、初めてのロケに大きな不安だけを残して、週明けの月曜を迎えた私、達磨 美晴(だるまみはる)は、いつもより早く控え室にいました。 今日のロケは願望寺という都内のお寺。 人々が己の願望を持ち寄る事が多かったことからその名がついたと言われているそうです。 私はいつものようにラバースーツを重ね着し、さらには手も足も使えなくされ、さらにはウエットスーツ素材のラバースーツまで着せられてダルマ状態で顔だけ出して、ロケ車へ乗せられました。 途中、テレビ局の同僚や上司に生でこの姿を見られるのはとても恥ずかしかったです。 そして、これからロケへ向かうという事は一般の方にもこの姿を晒すという事です。 考えただけで顔から火が出そうです。 スタジオとは違い住職との打ち合わせや共演者たちの位置確認など、いろいろな段取りを経て全てが完了した時には放送開始30分前となっていました。 私はその間、お寺の敷地にある大きな池の側で放置されたまま。 少し離れたところでディレクターと司会者、それに住職の打ち合わせが聞こえてきて生きた心地がしませんでした。 その内容はやはりダルマを池に放り込むというもの。 事前に願いを書いたダルマを池へ放り込む事で、お寺の池に住むと言い伝えのある龍神様が願いを叶えてくれるというのです。 私はあの夢で見た事が現実になるのではないかと思うと、どんどん気分が悪くなりラバースーツの重ね着で暑いはずなのに汗がひいていくのが分かりました。 そして番組は司会者の挨拶で始まり、スタジオと変わらずいつものように進行していきます。 そして、私の天気予報が終わると私はいつものようにゴムの塊に変えられてしまいます。 「本日は願望寺さんで願いを叶えてもらおうと思いますが、どのようにすればいいのですか?」 司会者が住職に尋ねると住職が説明を始めます。 「ダルマさんを用意してもらい、そこに願いを書いて池に放り込むと池の主である龍神様が願いを叶えてくれると言い伝えがございます」と。 司会者は住職の話を頷いて聞くと、また尋ねる。 「私どもが持参したダルマさんでも構わないのでしょうか?」 「ええ、もちろんダルマさんならなんでも大丈夫ですよ!」 住職の返事と共に私の周りにスタッフが集まってきました。 そこで初めて私はある事に気がつきました。 今日はまだ先週金曜の天気予報が外れた罰ゲームのラバースーツを着せられていないことに。 そして、私を取り囲んだスタッフの手には赤と白のラバースーツらしきものが握られています。 それを私に着せる前にワザワザ広げて見せてくれました。 それはダルマさんがプリントされたラバースーツ。 見た感じですが、ダルマさんのラバースーツはかなり厚手の物に見えます。 それをスタッフ数にんで苦労しながら着せられましま。 やはり、私は池へと放り込まれる運命なのだと確信しましたが、もうダルマ姿にされた私は文字通り手も足も出ません。 私はスタッフにされるがまま、ダルマさんがプリントされたラバースーツを着せられてダルマさん、いや女の子だからダルマちゃんにされてしまいました。 リアルにダルマちゃんにされた私は数人のスタッフの手で担がれるようにして運ばれ、司会者や共演者の元へ。 私が到着すると、各々ペンを持ち私の体に願い事を書き始めます。 私はこの後、池に放り込まれ、そのまま池の底へ沈んでいくのかと想像すると涙が滲んできました。 最後の望みは私の救出班の存在。 ですが見える範囲で目を凝らして探してみましたが、私の救出の為のドライスーツを着たダイバーの姿は1人も見当たりませんでした。 いよいよ、全員が願い事を書き終えて準備は完了。 後は池に放り込まれるのだと目をつむり体に力を入れて強張らせますが、そんな事は意味がないのは百も承知です。 ダルマさんのラバースーツの天辺にはファスナーが付いていたらしく、それがゆっくりと閉じられていきます。 途端に苦しくなったような気がしますが、今の私にはどうする事もできません。 次の瞬間、私は転がされて天地が逆になるのを繰り返した後、『ザッパーン!』と豪快な音とともに池へ転がす形で放り込まれました。 カウントダウンもなく、いきなりです。 心の準備も出来ていないまま池へと転がり落とされた私。 池の水は春先でまだ冷たく、時間帯的にも深夜近いため温かいことは期待できません。 徐々ににですが、体のあちらこちらで水が侵入してきたかまでは分かりませんが、冷たさを感じます。 池に落とされ、浸水と寒さの恐怖に耐えながらも池に浮かぶ私に対して、遠くから司会者や共演者の楽しげな声が聞こえてきて私は悔しくてギュッと唇を噛み締めました。 そして思いました。 もし私の願いも叶うなら【普通のアナウンサーとして仕事をしたい、そして願わくば女優としてデビューしてみたい】 浸水と寒さの恐怖を掻き消すように心の中で強く念じます。 しかし、私の願いは無駄であるかのように浮いていたラバースーツでできたダルマちゃんは沈み始め、私の呼吸はドンドン苦しくなり私はそのまま意識を失いました。 気づいた時はロケ車の中、ダルマちゃんのラバースーツだけ脱がされて後はいつも通りのダルマ姿で顔だけ出されていました。 行きも帰りも同じ姿で私はロケを終えました。 控え室で1人になった時は、池に沈められなくて良かったと本気で思い、声を上げて泣きました。 それから程なくして、私は夜のお天気お姉さんも降板させられました。 視聴者からやり過ぎではないか、可哀想だの声に私の後輩のアナウンサーにお天気お姉さんを譲ることになったのです。 私にとっては悲しい事ですが、いい事もありました。 それは深夜ではなく週末の夜のニュース番組のキャスターに選ばれた事、そしてもう一つはドラマの出演オファーが来た事。 沈みゆく池の中でダルマちゃんとして、お願い事をしたのが2つとも叶ったことになります。 “すごい、私の願いを叶えてくれた!願望寺、そして龍神様ありがとうございます!“ 私は心の中で呟き、静かに手を合わせました。