シン・巨大昆虫観察
Added 2023-08-20 15:30:00 +0000 UTC「こんな可愛い子が入っているなんて誰も思わないだろうな、自分で言うのもなんだけど」 姿見を見ながら私はポツリと呟いた。 姿見には黒光りしたインナースーツを着た女性が映っている。 私は首元にぶら下がったマスクに手を掛けた。 口の辺りにあるチューブを咥えながら頭を全て覆うマスク被り、背面に垂れ下がったフードも被ると全身が黒光りしたノッペラボウの口からチューブが突き出た奇妙な姿となった。 全身が黒光りした姿になった私は膝を落として突き出たチューブを足元に広がる黒い物に接続し、そのままその中へと体を埋めていった。 子供たちの楽しそうな声が響くイベントホール。 イベントホールでは夏休み限定の昆虫展が開催されている。 巨大な昆虫のモニュメントや世界の昆虫を 採取した展示がされている。 イベントホール内には頭にカブトムシやクワガタ、チョウやテントウムシの被り物をしたお姉さんたちが子供たちに展示会場各所に設置されているスタンプラリーの用紙を配っている。 この昆虫展の目玉イベントは目の前でカブトムシの一生が見られるというもの。 さらにその大きなカブトムシともふれあえるが、ふれあいに関しては料金が必要となっている。 目玉イベントは午前10時からと午後3時からの1日に2回。 カブトムシの大きさはかなり大きいので、少し離れた場所からでも良く見える。 イベントホールのほぼ中央に丸いアクリルで覆われたスペースがあり、擬似おがくずが敷き詰められている。 そこには大きな球形の卵が一つあり、その横には司会のお姉さんが立っていた。 カブトムシをイメージしてるのだろう、黒光りするエナメルのニーハイブーツにエナメルのワンピース、ジャケットを着てカブトムシのツノの髪飾りをしている そしてカブトムシの前羽をイメージした見た目少し硬そうで黒光りしたリュックサックまで背負っていた。 子供向けのイベントのため、露出は少なめだがナイスバディのお姉さんに保護者のお父さんたちの視線を釘付けにしていた。 あんな姿では屋外のイベントはかなりキツく、炎天下なら数分しかもたないだろう。 だが幸いにもここは空調のよく効いたイベントホールの真ん中辺り、それでもきっとあんな通気性のないブーツを履いていたら足は蒸れ蒸れになっているだろう。 それはさておき、時間になると司会のお姉さんがマイクを通して集まった親子に話し掛ける。 「今日は昆虫展にご来場頂きありがとうございます、これからカブトムシの一生を皆さんにご覧頂こうと思います」 お姉さんさんはすぐ横にある球形の卵に軽く触れると話続ける。 「今から卵の孵化を速める薬を注入していきますね」 そう言うと、背負ったリュックサックから伸びるホースの先の尖った部分を卵に突き刺した。 すると、みるみるうちに卵が変化が現れた。 卵にヒビが入り、あっという間に卵が割れ、お姉さんの横に巨大なカブトムシの幼虫が出現した。 丸々と太った巨大なカブトムシの幼虫はお姉さんとそう変わらないほどのサイズ。 孵化した巨大なカブトムシの幼虫はイモムシのような体をウネウネと動かして、擬似おがくずの中へ潜ろうとする。 それをお姉さんが両手で食い止める。 「ねぇ、ちょっと待って土に潜っちゃったら、みんなに見てもらえないよ!」 お姉さんの言葉に巨大なカブトムシの幼虫が耳を傾けるはずもないと思ったのだが、意外にも動きは止まりその場に丸まった。 いかにも幼虫という姿になったのだが、あまりにもリアル。 白というよりは少し黄色がかった体には中身の青みがかったところもチラホラ見られる。 そんなリアル過ぎて気持ち悪くもある巨大な幼虫を触れるお姉さんも凄いが、何より疑問なのはその巨大な幼虫。 人が入っているようでもあり、精巧な機械が入っているようにも思えたが、どちらかといえば人が入っているような動きに見える。 「さあ、卵から幼虫が孵ったよ、次はどうなるか知ってる?」 お姉さんの問い掛けに子供たちが口々に答える。 「サナギ!サナギ!」 「そうです、サナギです、今から幼虫にはサナギになってもらいます」 「幼虫からサナギになることを変態と言います、知っているお友達はいるかな?」 「ハイ、ハイ!」 元気な子供たちの声が響く中、大人たちは思っているだろう。 幼虫がリアルな着ぐるみなら、擬似おがくずの中へ幼虫が潜り込み、交代でサナギの着ぐるみがでてくるものだと。 だが、大人たちの予想は裏切られた。 「じゃあ、幼虫さんにはサナギになってもらいます」 そう言うと、またリュックサックから伸びるホースの先の尖った部分を幼虫に突き刺した。 幼虫の体が少し茶色く変化を始めると、お姉さんは幼虫のお尻の方へホースの先の尖った部分を幼虫に突き刺した。 幼虫は少しモゾモゾと蠢めくと、幼虫の皮が縮み中から白っぽいカブトムシのオスのサナギが幼虫の皮を突き破って出てきた。 幼虫の皮は縮み、サナギの体は大きくなりながら白からオレンジっぽい色へと変色していく。 目の前で起こる現象に驚き、子供たちよりも前のめりな大人たちもいた。 お姉さんの横ですっかり巨大なカブトムシの幼虫からサナギへと変態を遂げたサナギは時折体をウネウネと動かしている。 その姿はまさにカブトムシのサナギ。 目の前で起こったことがトリックでも見せられたように見る大人たちと純真にカブトムシの成長を見守る子供たちで大きく分かれていた。 「じゃあ、次はいよいよカブトムシになってもらおうね」 お姉さんはそう言うと、三度リュックサックから伸びるホースの先の尖った部分をサナギへと突き刺す。 サナギはウネウネと動いていたが、サナギの皮はオレンジから茶色くなり縮み始める。 お姉さんはそれを確認してから、巨大なサナギのお尻にもホースの先の尖った部分を突き刺した。 巨大なサナギの皮の向こうにはカブトムシの成虫の黒い姿が見えてきた。 程なくしてサナギの皮を突き破り、カブトムシのツノが出てきた。 みるみるうちにサナギからカブトムシの成虫へと変態をとげ、お姉さんの横へと並んだ。 卵から幼虫、サナギを経て成虫となったカブトムシ。 その姿もまた巨大でリアル。 カブトムシの脚の先には爪までも細部にわたりリアルに再現されていた。 その姿は本当にカブトムシが巨大化され、このイベントに持ち込まれたのではないかと思うほどであった。 「見事に完全変態を遂げ、頑張って成虫となったカブトムシくんに拍手!」 お姉さんの言葉に子供たちは大喜びで拍手する中、大人たちは目の前で起こったことが信じられないといった様子でパラパラと拍手していた。 「それでは今から成虫となったばかりのカブトムシくんとのふれあいの時間となります」 お姉さんがアナウンスすると巨大なカブトムシはお姉さんの体にしがみつくようにして後脚で立ち上がると、前脚と中脚を手を振るように振った。 初めは有料でカブトムシとのふれあいを考えていなかった大人たちも目の前でアレを見せられたら近くでどうなっているのか確かめたくなるだろう。 カブトムシくんとのふれあいの列はあっという間に長蛇の列になった。 カブトムシくんの体は濃茶色で光沢があり、甲虫と呼ばれるだけ体も硬く実際のカブトムシを触っているような感じだった。 6本ある脚も節になっていて、その脚も硬かった。 ただ、爪は子供たちとふれあう際に怪我をさせないように柔らかく作られていた。 というのもやはり、中には人が入っているようで、カブトムシくんはお姉さんの言うことをよく聞いて、あまりのカブトムシくんの大きさに圧倒されて泣いている子供には近づかないようにしていた。 不思議なのは人が中に入っているのは間違いないのだが、6本の脚が全て動いているということ。 カブトムシの一生を見て、ふれあった人たち、特に大人は不思議でならなかっただろう。 カブトムシくんとのふれあいが終わったのは午後1時、お姉さんさんは少し疲れた様子でパックヤードへスタッフとともに消えていった。 その際、カブトムシくんは子供たちに前脚をバイバイするように振ってスタッフとともにお姉さんに続いてバックヤードへと引き上げていった。 「あやうあひへ!」 (「早く出して!」) カブトムシくんからそんなくぐもった声が聞こえてきたのは、バックヤードへ入ってすぐのことだった。 「ちょっと待ってね!」 女性スタッフがカブトムシくんに声を掛けると、お姉さんから背負っているリュックサックを受け取りカブトムシくんのところへ戻ってくる。 控え室に入ると、女性スタッフはカブトムシくんの体にリュックサックから伸びるホースの先の尖った部分を突き刺した。 カブトムシくんの硬い体がみるみるうちに萎んだようになっていく。 萎んで初めて硬い上バネが開くようになり、腹の内側が露わになる。 そこに隠されたファスナーを開くと、黒光りする人のようなものが飛び出してきた。 全身が黒光りしたノッペラボウの口からチューブだけが突き出た奇妙な姿。 チューブからは透明の液体が糸を引きながら垂れている。 ノッペラボウの口からチューブが突き出た奇妙な人は自ら自由になった両手で顔の辺りの隙間から指を突っ込んでフードを外して、後頭部に腕を回してマスクを脱いだ。 チューブを咥えていた口から涎が垂れ糸を引く。 中からは真っ赤になった可愛い顔が露わになった。 「あれ?」 女性スタッフがその顔を見て何かに気づいた。 「グラビアアイドルの大野 優里亜(おおのゆりあ)さんじゃないですか?」 「はい、そうですよ」 顔を真っ赤にして答える彼女は、汗だくでノーメイクでも可愛らしかった。 大野 優里亜はグラビアアイドルだけでは収まらず、最近はテレビ番組の露出も増えてきていた。 そして、女性のファンも結構多かった。 「え、なんで、なんで?」 興奮気味の女性スタッフはこのイベント限定で雇われた大学生アルバイト。 「優里亜さん、休憩してからで結構なのでサイン頂いてもいいですか?」 大学生アルバイトの女性スタッフとは明らかにテンションの違う優里亜だったが、サインすることを快くOKした。 「ごめんね、あとで必ずサインするから」 3時間以上も着ぐるみに入っていたのだから優里亜はかなり疲れていた。 黒光りするインナースーツのまま、パイプ椅子に腰掛けると女性スタッフはすぐに飲み物とタオルを優里亜に差し出した。 「ありがとう」 優里亜は力なくお礼を言った。 着ぐるみに3時間も閉じ込められても、インナースーツから汗がほとんど滴らないのは、このインナースーツがラバースーツだから。 ラバースーツなので、優里亜とインナースーツの内側には大量の汗が溜まっていた。 「ごめんなさい、インナースーツの替えはあるかな?」 女性スタッフに声を掛けると、すぐにインナースーツを用意してきた。 「ありがとう、少しシャワー浴びてくるね」 そう言うと優里亜はラバースーツの中の汗で足を取られながらも控え室奥のシャワー室へと消えていった。 少しするとシャワーを終えた優里亜がすっきりした顔で出てきた。 体にバスタオルを巻いて出てきた優里亜はそのままパイプ椅子に腰掛けた。 少し落ち着いた様子の優里亜を見て、女性スタッフが優里亜に尋ねる。 「どうしてグラビアアイドルの優里亜さんが着ぐるみに入っているんですか?」 そう聞かれた後、優里亜は複雑そうな顔をして答える。 「同じ事務所でスーツアクトレスをやっている友人に騙されたというか、ハメられたというか、そんな感じで… 」 優里亜が話すのを女性スタッフは頷きながら聞いている。 「でも、私はスーツアクトレスの友人とは違い体力がなくて全然ダメね」 女性スタッフは首を横に振った時だった。 控え室のドアがノックされたと同時に女性が入って来た。 入ってきた女性は司会進行のお姉さん。 「優里亜、お疲れ!どうだった大好きなカブトムシになった気分は?」 「カブトムシは好きだけど、これは違う、キツすぎるよ!」 「じゃあ、ゆっくり休んで3時からも頑張ろう!じゃあね」 優里亜はその言葉に項垂れ、お姉さんはすぐに部屋を出て行った。 「知り合いなんですか、司会のお姉さん?」 女性スタッフが尋ねると優里亜が答える。 「彼女がさっき話した同じ事務所の友人でスーツアクトレスの桜井 朋子(さくらいともこ)」 「え!あの方いつも着ぐるみ着てるんですか?」 「そうよ、でもあの子大の虫嫌いなのに、この仕事を受けちゃって、どうしても虫にはなりたくないからと私を差し出した訳、私のカブトムシ好きを彼女知ってたから」 「なるほど、そうだったんですね、あの方もお綺麗ですよね」 「そう言ってあげて、彼女喜ぶと思うわ、ところであなたのお名前聞いてなかったわね」 つづく