シン・巨大昆虫観察 〜カブトムシイベントを終えて〜
Added 2023-09-05 15:00:00 +0000 UTC「お疲れ!」 4時間半に渡りカブトムシの着ぐるみに閉じ込められた私の元へ、ふれあいイベントを共に乗り切った桜井 朋子さんが控え室へとやって来た。 「大丈夫だった優里亜?」 私は大きく体ごと横に振った。 「そうだよね、午前中より長かったもんね、カブトムシくんとのふれあい」 私はまた大きく体ごと横に振った。 「どうしたの優里亜?怒ってるの?そんな優里亜にはこれを注入して上げないぞ」 そう言って、カブトムシをイメージさせるリュックサックをチラつかせる。 私はゴメンナサイのポーズで朋子さんにカブトムシの着ぐるみを脱がせて欲しいと懇願する。 「どうしようかなぁ?」 焦らす朋子さんに付き添ってくれていた女性スタッフが声を掛ける。 「朋子いい加減にして!」 そう言うと女性スタッフは朋子さんからリュックサックを分捕り、カブトムシの着ぐるみに特殊な液体を注入してくれた。 「もうアンタ、いったい何?」 朋子さんが女性スタッフに喰ってかかろうとしたがすぐに収まった。 「え?なんで優里亜がいるの?着ぐるみの中は誰?」 さすがというべきか、朋子さんはすぐに女性スタッフが優里亜さんであることに気づいた。 そんなやり取りをしている間にカブトムシの着ぐるみ内は熱を帯びた後、劣化が始まり少しするとしっかりと閉じていた上バネが開くようになり、私はようやくカブトムシの着ぐるみから出ることができた。 口から伸びるチューブからは、お恥ずかしいながら涎が停めどなく糸を引きながら垂れる。 カブトムシの着ぐるみから出てきた私に優里亜さんが言う。 「汗かいて気持ち悪いでしょ、先にシャワー浴びて来てね」 私は全身黒光りするラバーに覆われたままシャワー室へと向かった。 シャワー室に入る寸前に振り返ると、優里亜さんと朋子さんはまだ揉めているようだった。 少し心配しながらもシャワーから出てくると、2人は仲良く談笑していた。 私を笑顔で手招きする優里亜さん。 「紹介するわ、太田 優里奈(おおたゆりな)さん」 「太田 優里奈です、よろしくお願いします」 「初めまして、桜井朋子です」 朋子さんがそう挨拶すると、優里亜さんが割って入って来た。 「朋子、私たち彼女とすでに出逢っているのよ」 「え!いつ?」 「この昆虫展のイベントが始まる前に」 朋子さんは訝しげな顔をして考え込んでいる。 「朋子、記憶力いいから一度会った人は忘れないのよ」 優里亜さんが私の耳元でそう教えてくれた。 「え?いつ?全然思い出せない」 朋子さんの顔はかなり悔しそうだった。 「優里亜、教えてよ!」 優里亜さんは含みのある笑みを浮かべた後、口を開いた。 「このイベントのカブトムシの着ぐるみを初めて見た時の事、覚えてる?」 「覚えてる、覚えてる」 「あのカブトムシの着ぐるみの中に入っていたのが優里奈ちゃんよ!私もそれを聞いて驚いたもん!」 朋子さんの前に私を立たせると紹介を始めた。 「さらにね、 優里奈ちゃんは大学生で今回のイベントスタッフのアルバイトさんなんだけど、私と名前が似ているので仲良くなり午前の部が終わった後、少しお話しをして私も初めましてて挨拶したら、あの日のカブトムシは自分だって教えてくれたのよ」 私が優里亜さんの方を見ると、優里亜さんは大きく頷いてから朋子さんに続ける。 「さらにさらに彼女、朋子みたいなスーツアクトレスになりたいんだって、でも私は顔も可愛いからアクション女優の方がいいって薦めたのよ」 朋子さんは優里亜さんの話を頷きながら聞いている。 「それでね、Sプロダクションに入れてあげたらどうかなぁって思って!」 その言葉に私は驚き、優里亜さんに尋ねる。 「SプロダクションってあのSプロダクションですか?」 「そうよ、私たちも所属しているSプロダクション」 優里亜さんは当たり前のように頷いているがSプロダクションは業界の中でも大手中の大手、私は小規模のプロダクションの門を叩いたが、どこも門前払いだった。 朋子さんは難しい顔をしていたが、すぐにどこかへ電話をかけ始めた。 その様子を見て、優里亜さんが話し掛けてくる。 「やったわね、多分大丈夫よ!」 優里亜さんは私の肩を叩いた。 朋子さんは電話を終えると私に話し掛けてくる。 「うちのプロダクションに入ってもらうのOKよ!必要書類はまた後で連絡するから」 そう言われて、朋子さんと連絡先を交換した。 そんなにあっさりと大手プロダクション入りが決まった事に私は驚き、キョトンとしていると優里亜さんが秘密を教えてくれた。 「朋子のパパ、Sプロダクションの社長さんなの」 「えー!」 私は驚きのあまり大きな声を上げてしまった。 「パパからその子の面倒はスーツアクトレスのお前が見ろと言われたわ、ところで運動は何かしてる?」 私は驚き現実か夢かもハッキリしないまま、朋子さんの質問に答える。 「体力には自信があります!高校までは体操をやっていました、今はボルタリングにハマっています」 「へー!ボルタリングやってるんだ」 「ハイ!去年の全日本学生スポーツクライミングの大会では優勝は逃しましたが、準優勝しました」 朋子さんはそれを聞いて目を丸くしていた。 「優里奈ちゃん、早速だけどこの昆虫展のイベントの後、別の昆虫展のイベントにも私と出てもらえないかなぁ?」 私はSプロダクションに入れた喜びとプロダクション社長の娘さんである朋子さんから誘われて二つ返事で仕事を受けた。 その後の昆虫展のイベントでは私が全てカブトムシの着ぐるみを担当した。 私の夢を現実のものに大きく近づけてくれた優里亜さんに何度もお礼を言ったが、優里亜さんは私がカブトムシの着ぐるみに入るより触らせてもらう方がいいから、WIN WINだから気にしないでと優しく言ってくれた。 こうして、イベントスタッフからスーツアクトレスへのキッカケになればと始めたアルバイトが一気に夢が叶うところまで近づいた。