奇妙な着ぐるみ 〜中の人〜
Added 2023-11-28 15:00:00 +0000 UTC遊園地の新アトラクションのキャラクターが発表された。 名前はミドメーバ、見た目はずんぐりむっくりで短い手足が付いていて、いつも体から緑色のローションを垂れ流しているという気持ち悪さしかないキャラクター。 遊園地の企画課の芦田さんの作らしい。 俺的には良いキャラクターだとは思わなかったのだが、莉乃ちゃんは可愛いと言っていた。 キャラクターをネット上で発表すると何故か女子高生には受けが良かった。 そこで遊園地としてはミドメーバの着ぐるみを作ったのだが、その中に入る人として俺と莉乃ちゃんが指名された。 莉乃ちゃんが可愛いと言ったことに端を発したので、必然一人目は莉乃ちゃんに決まったそうだ。 莉乃ちゃんもミドメーバの着ぐるみに入れることを喜んでいた。 莉乃ちゃんがミドメーバのパートナーとして選んだのはもちろん俺。 というわけで俺と莉乃ちゃんがミドメーバの雄と雌を演じることとなった。 ミドメーバの着ぐるみは中にはミドメーバの形状を型取る形でウレタンが入っており、外側も内側もは緑色のラバーがコーティングされている。 ちなみにファスナーなどはなく、ミドメーバの左右の目を着ぐるみの中へと押し込むことで目が着ぐるみの内側へと落ち込む、この目は左右が内側で繋がっており着ぐるみの外側から一体型には見えない。 ミドメーバの着ぐるみの両目が着ぐるみの内側へ落ち込む形で外れると左右どちらかの目の穴が大きく広げることができるようになり、そこから着ぐるみの中へと入る。 着ぐるみの中へと入ると、内側に落ち込んでいた両目を戻すと見ためにはどうやって着たのかも分からなくなってしまう。 ミドメーバの中はもちろん人が入れる空間はあるもののかなり窮屈で、しかも密閉されるため大量に汗をかく。 そしてどう見ても簡単に洗うことも着ぐるみ操演者の汗を乾かすこともできないことから、ウルトラマンの時に使用しているインナーのラバースーツを着てから、ミドメーバの着ぐるみを着ることになった。 女子高生人気にあやかり、遊園地のCMを製作することになった。 遊園地の上層部はこの機会を逃すまいとでも考えたのだろう。 俺と莉乃ちゃんはウルトラマンのグリーティングのある土日の早朝に呼び出され、ミドメーバとなり短いカットのCM撮影をした。 遊園地内をミドメーバの着ぐるみを着て、観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどいろいろな乗り物に乗って撮影が行われた。 見た目は気色の悪い着ぐるみだが、その中には紛れもなく可愛い俺の彼女である莉乃ちゃんが入っているので、素直に遊園地の貸切デートをして楽しんだ。 遊園地での撮影がある程度終わってやれやれと思っていたのだが、近くの高校を貸し切ってCM撮影をすると聞かされた。 ミドメーバの人気に火を付けたのが女子高生だったので、一緒に撮影しようとでも考えたのだろう。 ただ問題が一つあったそれはCM撮影を土日ではなく平日に行うというのだ。 確かに、土日にCM撮影のためだけに高校生たちを学校へ呼び出すのは何か違う気がする。 俺も莉乃ちゃんも何か理由をつけて学校を休むことを余儀なくされてしまった。 そして、CM撮影を受け入れてくれた高校名を聞いて俺と莉乃ちゃんは顔を見合わせて固まってしまった。 それは俺と莉乃ちゃんが毎日通っている高校だったから。 初めは恥ずかしく思ったが、着ぐるみを着ているので誰にもバレないと思うと逆に面白そうだと考えを改めた。 CM撮影当日、遊園地に集合してからミドメーバの着ぐるみに着替えてからワンボックスカーに乗り込む。 そして程なくしていつも通う俺たちの高校へと到着した。 多くの生徒たちが歓声を上げて俺と莉乃ちゃんを迎えてくれる。 普段なら見向きもされないが今日だけは違う。 撮影スタッフと共に俺と莉乃ちゃんの入った二体のミドメーバが現れると生徒たちは大いに盛り上がっていた。 生徒会役員に案内されて移動する。 いつも過ごしている高校なのに景色が全く違って見えた。 生徒会役員に案内されながら進んでいく。 その生徒役員の中には俺たちのクラスメートでもある掛川 和人(かけがわかずと)がいた。 もちろん、その他にも見知った顔はいたが何故か俺は和人と事が気になって仕方なかった。 撮影が始まる前に緑色のローションをたっぷりと掛けられて、それを垂らしながら校内を移動していく。 音楽室や体育館などへと移動しながら撮影を行ったのだが、俺も莉乃ちゃんもスタッフさんの「次は音楽室で撮影をします」の声に自然と体が動いてしまう。 他の生徒会役員はニコニコしながらテンションが高く、案内してくれるのだが、和人だけは不審そうに俺と莉乃ちゃんの後ろからついて来ていた。 CM撮影も無事に終わり、ご協力頂いた生徒会役員とともに記念撮影をした。 スタッフが映像をチェックする間待機となった。 俺と莉乃ちゃんは少し離れた場所で待機していると、和人が近づいてきた。 俺の中では嫌な予感しかしない。 「あのーもしかしてなんですが、ウチの高校の卒業生だったりします?」 和人が声を掛けてきた。 俺は警戒していたが、莉乃ちゃんは無警戒だったので和人の声にビクッと反応した。 俺も莉乃ちゃんも和人を凝視する。 着ぐるみが話すのは厳禁、そのまま和人から距離をおこうとした。 「ちょっと待って!」 和人が莉乃ちゃんに飛び掛かってきた。 手足の短いミドメーバでは速く動く事はできず、飛び掛かってきた和人に莉乃ちゃんは押し倒されてしまう。 ミドメーバの体にはまだローションがたっぷりと付いているので、地面に倒れ全身砂まみれになってしまった。 莉乃ちゃんは思わず声を上げる。 「掛川くん、ひどいよ!」 莉乃ちゃんの言葉に固まる和人に俺も莉乃ちゃんが押し倒されて感情をむき出しにして言う。 「莉乃ちゃん、大丈夫?和人、ひどくないか!」 自分のやった事と名前を呼ばれてビックリしたのか和人はその場に座り込んで動かなくなった。 俺は莉乃ちゃんの体を起こすと急いでワンボックスカーへと戻る。 ワンボックスカーに莉乃ちゃんを先に乗せてから、和人の方を振り返ると和人は座り込んだまま、手に付いた緑色のローションを見つめていた。 映像のチェックも終了し、その後程なくして撮影スタッフと共に俺も莉乃ちゃんも撤収となった。 「危なかったね」 「うん、ビックリしたよ」 「大丈夫?莉乃ちゃん?」 「うん、和人くんには少し悪いことしたかな?」 「いや、あれは絶対に和人が悪いよ!」 そんな会話をしながら俺と莉乃ちゃんは遊園地へと引き上げた。 トラブルや高校生が相手ということもあり、一日かかる予定だったがCM撮影は順調に撮影できたため、予定よりもかなり早く終わった。 俺と莉乃ちゃんはミドメーバの着ぐるみを脱いで、シャワーも浴びたがまだ午前中。 今からデートでもしようかと考えていると、控え室の扉がノックされて高畠さんと莉乃ちゃんがやって来た。 「今からお昼ご飯でもどうだい?」 高畠さんにそう声を掛けられた。 そういえばお腹は空いている。 莉乃ちゃんも一緒にご飯に行こうと誘ってくれたので、断る理由もなく高畠さんの車で近くのファミレスへ。 楽しく3人で食事を摂る。 高畠さんからは何度もミドメーバを引き受けてくれてありがとうとお礼を言われた。 昼ご飯は高畠さんの奢り、そして念のため制服を着て来ていた俺と莉乃ちゃんを見て、しみじみ言う高畠さん。 「若いっていいなぁ!」 俺の莉乃ちゃんは笑顔で頷く。 「でも、学生の本分は勉強だから今から学校へ送ってやろう」 笑顔でそう言う高畠さんに俺と莉乃ちゃんは苦笑いした。 結局、昼ご飯を食べた後、朝からミドメーバの着ぐるみを着て一度は登校した学校へ再び俺と莉乃ちゃんは戻された。 俺と莉乃ちゃんを学校へと送り届けた高畠さんは、笑顔で手を振って車で帰っていった。 その車を俺と莉乃ちゃんはうらめしそうにしばらく見送った後、教室へと向かった。 戻った時間はちょうど昼休み。 そのまま、教室に入っても誰の注目を浴びることもなかった。 気になったのは和人だったが、幸いにも机に突っ伏し疲れ切った感じで寝ていた。 5時間目が始まっても寝ていた和人が途中で起きた。 和人の様子を伺っていたが、目覚めたのであまり見ないように心掛ける。 和人の視線を感じるが目を合わせないようにした。 休憩時間になると和人がやって来て話し掛けてくる。 「なぁ圭太、今日お前朝から学校にいた?」 「いたよ、CM撮影ですごく盛り上がっていたよなぁ」 「ああ、そうだな」 「大変だったろ、生徒会役員は… 」 俺が話し掛けている途中で、和人は莉乃ちゃんの方へと歩き出した。 俺もついて行こうかと思ったが、俺と莉乃ちゃんの関係は学校では全く知られていない。 なので、和人の対応は莉乃ちゃんに任せるしかない。 莉乃ちゃんは和人と少し話していたが、上手く切り抜けたようで和人は自分の席へと引き上げる。 それでも、納得はしていないようで何度も首を傾げていた。 おしまい