やる事もなくたまたま、テレビを点けて俺は一瞬で心を鷲掴みにされた。 そこに映っていたのは全身が真っ黒な女性のマネキン人形だった。 ただのマネキン人形ならそれで済んだのだが、そのマネキン人形は動いていた。 つまり、マネキン人形でなくマネキンのような人間。 黒色のゼンタイでも着せられているのだろう。 そんなマネキン人間に突然、番組の出演者が頭にコンドームのようなモノを被せ始めた。 “ゴム製のコンドームを被せたら息ができないのに!” そう思っていると、今度は別の出演者がマネキンの顔にシリコン製のスイミングキャップを被せた。 “おいおい、早くしないと息ができなくてマネキン人間が死んじゃうよ!” そう思ってテレビから目が離せない。 途中から番組を観ているのでどういう経緯でこうなったかはさっぱり分からない。 だが、マネキン人間も特にスイミングキャップもコンドームも外そうとしないし苦しむ様子もないので、まだ大丈夫なのだろう。 そんなマネキン人間にさらなる試練が訪れる。 頭ほどの大きさのビニール袋をしっかりと被せると、マネキン人間の首元を粘着テープで巻き始めた。 “ビニール袋を破ってスイミングキャップとコンドームを外せば、簡単に息ができるから、まだ大丈夫だろう” と思って見ていたのだが、こともあろうに粘着テープでそのまま顔をぐるぐる巻きにしていく。 “そんなことしたら、息が苦しくなっても簡単に外せないだろう” そう思っていると今度は別の出演者が業務用ラップを持って、マネキン人間に近づくと、腕を後ろ手に組ませてラップを腰から巻き始めた。 ラップはマネキン人間の腕の自由を奪い、どんどん顔の方へと巻いていく。 もう俺のバラエティの範疇を超えている。 ここまで出演者にやりたい放題に呼吸ができないようにされてきたマネキン人間。 だが、マネキン人間が動いているのを見たのは初めだけでその後マネキン人間に全く動きはない。 “もしかすると、途中で本物のマネキン人形と入れ替わったのか”と思った。 そんな俺の考えを否定する様にマネキン人間が上半身を揺らすように動いた。 “いや、やっぱり人間だ!” そう思いながらテレビを見る俺。 また別の出演者が今度は黒色のジャイアントバルーンを持ってマネキン人間に近づいてくる。 そして、マネキン人間の頭からジャイアントバルーンを被せるようにして中へ入れていく。 当然のように大きく膨らんだジャイアントバルーンからは空気が抜けて萎んでいき、呼吸できないようにされたマネキン人間をさらに絶望的な状況へと追い込む。 ジャイアントバルーンはマネキン人間の太もも辺りまで被せられて完全に空気が抜けてしまい、マネキン人間の体の輪郭を浮き彫りにした。 下半身だけ見れば、ゴムのミニスカートに黒色のタイツを履いた女性に見えないかもないが、上半身は完全にジャイアントバルーンに覆われてしまった。 そんなマネキン人間にトドメを刺すように出演者が腰にコルセットが取り付ける。 そして、マネキン人間の背後に回るとコルセットの紐を締め込んでいく。 息ができず苦しくなったとしてもちょっとやそっとでは助けてもらえなくされてしまったマネキン人間。 いったいどうなってしまうのだろうかと、心配しながら見守っていたのだが、意外にも出演者たちはマネキン人間を心配する様子もなく、そのまま番組内の別のコーナーが始まってしまう。 そして、マネキン人間はと言うと他の出演者の横に用意された椅子に座り、そのまま番組に参加していた。 「えー、いったいどうなってるの?この番組!」 俺が思わず声を上げた時、妻が買い物から帰ってきた。 「おかえり!」そう声は掛けたが、俺はテレビを凝視し続ける。 正確には画面の端に映るマネキン人間をずっと目で追っていた。 “実は人間だと思っていたがロボットだったのか?” そう思えてきたが出演者たちの会話で面白い話をすると、マネキン人間は笑っているようで体が揺れていた。 買い物を冷蔵庫へ片付けた妻が俺の隣りに座って一緒にテレビを見る。 「あ!放送今日だったんだ!」 妻はこの番組のことを知っているようだ。 「そうなんだ、このマネキン人間は呼吸できないようにされているのが気になってさぁ!」 俺は立ち上がりテレビ画面の端に映るマネキン人間を指差して、今までマネキン人間がされてきた事を妻に熱く語った。 妻は俺の話を笑顔で聞いてくれていた。 「ロボットかとも思ったんだけど、やっぱり動きは人間にしか見えなくて」 と俺自身の感想も妻に伝えた。 結局、番組終了までマネキン人間はそのまま出続け、エンディングでは手を振ることができないので体を振って表現していた。 「やっぱり人間だよな!」 「そうだね」 俺の言葉に同意する妻。 番組が終わってもあのマネキン人間の事が気になった俺はスマホで番組を検索してみたが、俺が欲しい情報は何も得られなかった。 夕飯の支度に取り掛かっていた妻が声を上げる。 「あ!また買うの忘れてた」 休日でのんびり過ごした俺に対して一人買い物へ行き、夕飯に取り掛かっている妻に俺は声を掛ける。 「買い忘れたもの買ってくるよ!」 「ありがとう、ごま油買い忘れたから買ってきてくれる?」 「分かった、行ってくるよ!」 俺は買い物に出掛けた。 あのまま家にいても、あのマネキン人間の事が頭から離れないと思ったから。 それに買い物に出掛ければ気が紛れると思った。 その時は… 。