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ごむらば
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肉塊 第8話 帰宅そして

肉塊にしか見えない【肉クッション】となった由香里を詰めたスーツケースを転がしながら個展会場の最寄り駅へと向かう。 気候的には暑くも寒くもなくどちらかといえば涼しいくらいなのだが、俺は自分の婚約者である由香里をスーツケースに詰めて歩いているという背徳感から極度に緊張し汗が止まらなくなっていた。 何度も汗を拭っている姿は他人から見れば不審者そのものだろう。 これで警察官にでも声を掛けられて、職務質問され、スーツケースの中身を見られたらと考えるとより一層汗が出て止まらなくなった。 そんな事を考えていると、自然と歩くスピードが速くなっていく。 「あのー!ちょっと待って下さい!」 背後から声を掛けられた。 振り返って俺は口から心臓が飛び出すのではないかと思うほど驚いた。 そこに立っていたのは警察官だったから。 立ち止まって振り返り、自然とスーツケースを警察官から遠ざける。 「あ、はい!何ですか」 平静を装い警察官と向き合う。 しかし、汗が尋常じゃないほど顔を流れ落ちるのを感じ、その汗が手の甲に落ちる。 「あのーその荷物から… 」 荷物とはつまりスーツケースの事。 鼓動が速くなり、汗はますます止まらなくなり、吐き気さえ催して来た。 「は、はい、荷物がどうかしましたか?」 平静を装っているつもりだが俺の発する言葉は硬さがあり不審さは警察官に十分伝わっていたと思う。 「その荷物から、これが!」 そう言って警察官が俺に差し出したのは、由香里が作っていた小さなクマのぬいぐるみ。 クマのぬいぐるみはハート型のプレートを持っており、そこには[ハルマ&ユカリ]の文字が書かれていた。 ホッとしたのもつかの間、警察官の言葉にドキッとする。 「あのー!身分証明書を提示して頂けますか?」 一旦はピンチを回避したように思えたのだが、またピンチが訪れる。 よくテレビで見るパターンだ。 身分証明書を提示した流れで、危険物がないか荷物を確認させて欲しいというアレだ。 “終わった!” どう言い訳をしたら納得してもらえるだろうか。 頭をフル回転させるが出るのはアイデアではなく、嫌な汗ばかり。 俺は免許証を警察官に差し出した。 警察官は免許証を見ると、免許証と一緒にクマのぬいぐるみを渡してくれた。 「どうぞ、お幸せに!」 警察官は笑顔で敬礼し、俺はぎこちない笑顔を返すと再び早足でその場を離れた。 クマのぬいぐるみが真新しかった事、そしてクマぬいぐるみが2人の名前の入ったプレートを持っている事、そして大きなスーツケース。 警察官が導き出した答えはきっと新婚旅行に遅れそうな夫だと思ってくれたのだろう。 でなければ、恥ずかしげもなく自分たちの名前の書かれたプレートを掲げたクマのぬいぐるみをスーツケースに付けたりしないだろうから。 そう考えると笑顔で敬礼してくれた警察官の行動も頷けた。 少し落ち着いた俺はその後ゆっくりと駅へ向かった。 徐々に汗は引いていった。 それでも電車での移動中も気は抜けなかった。 周りの乗客が皆、自分をスーツケースを見ていて、コッソリスマホで撮影されているのではないかと思えて仕方がなかった。 こんな時に限って嫌な想像ばかりしてしまう。 事故で電車が止まったら、非常事態で荷物を捨てなければならない事態になったら。 そんな周りの目を気にし、普段起こり得ないことまで考え神経をすり減らしてようやく俺の家の最寄り駅に着いた。 駅へ降りてからも不安と緊張は続く。 駅から家まではほど近いが、それでもまた警察官に遭遇したらさっきのような具合に上手く回避できるとも限らない。 クマのぬいぐるみはスーツの取手に付けて俺を守ってくれるようにお願いしながら家へと急いだ。 マンションのエレベーターに乗り込んでホッとしようとしたが、他のフロアの住人が乗り込んできたので心が休まることはなかった。 自分の家にスーツケースを運び込んだ時には俺はそのまま腰が砕けたようにその場に座り込んだ。 ようやく動き出したのは家に着いてからかなりの時間が過ぎてから。 俺は重い体を支えるようにして立ち上がると、スーツケースを押してリビングへと運び、そしてスーツケースを開いた。 スーツケースには由香里が呼吸できるように工夫がされているとは聞かされていたが、かなり長い時間閉じ込められていたのでスーツケース内の空気は澱み熱気を帯びていた。 早速、【肉クッション】だけを取り出して、ソファーへ置いた。 【肉クッション】からは由香里の熱をしっかりと感じる。 肉塊にしか見えないような処置はされていないので、ところどころラバーを着せられているのが何となくだが分かるが、それは注意して見た時のこと。 逆に言えば、よく見ないと作品として展示されていた【肉クッション】となんら変わりなかった。 そんな【肉クッション】から由香里を出そうとして俺の手が止まる。 せっかくなので【肉クッション】としてもう少し楽しめないかという事。 おそらくだが、俺の前で由香里が【肉クッション】となるのはこれが最初で最後だろう。 ならば、楽しまない手はない。 通常なら肉塊の作品として展示されている時間はあと1時間ほどはある。 という事はあと1時間ほどは、【肉クッション】のままで大丈夫だろうと判断した。 【肉クッション】となった由香里を俺は楽しませてもらう事にした。 まずは【肉クッション】として楽しむに当たって一番重要な事がある。 それは由香里がどこから呼吸しているのかという事。 呼吸穴を塞がないようにしないと由香里の命に関わってしまう。 体を動かせないと聞いているので意思表示ができない。 もちろん、全く声が聞こえないことから声も出せなくされているのだろう。 慎重に探っていると意外にも顔、それも鼻の辺りから温かいというより熱い空気を感じた。 なるほど、見た目には分からないが細かな穴があり、ここから呼吸している事が分かった。 となれば普通に扱っても大丈夫そうだ。 そう思【肉クッション】を抱き上げると寝室へと運ぶ。 ベッドで横になり抱き枕として扱ってみた。 いつもの由香里よりも手足を折り畳まれている分小さく、肉塊に見えるようにラバースーツを着せられているので厚みがあり固い。 そんな【肉クッション】の顔の辺りに顔を持っていくと、由香里の熱い呼吸を感じた。 由香里は今、何を考え動く事ができないモノになっているのだろう。 俺には思いも及ばない世界に今、由香里がいるのだと思うと少し寂しくなった。 ラバースーツを全て普段の由香里に戻そうかと考えたが俺は頭を振った。 “せっかくだから何かしたい!” そう考えて俺はある事を思いついた。 それは新婚旅行で着てもらおうと準備したテカテカ黒光りした水球水着。 張り切って由香里に見せたら、あっさり言われた、着ないよ!恥ずかしいもん。 そのままクローゼットの奥に眠ってしまうことになったのだが、今なら。 俺は陽の目を見る事がないと思っていた水球水着を引っ張り出してきて【肉クッション】に着せてみた。 だが、足が一纏めにされクリオネのような姿なので着せる事はできなかった。 ならばと逆さまに着せてみようとバカな試みをしたがそちらもダメだった。 そして、クリオネのような形状の【肉クッション】を見ていて思った。 それは人魚のような黒いゼンタイの事を。 水球水着を着せた上からこの人魚のゼンタイを着てもらおうと購入したのだが顔が覆われて苦しそうという理由で由香里には着てもらえなかった。 だが、よくよく今の【肉クッション】にされた姿を見ていると実は由香里は呼吸制御で快感を得るタイプだったのではないか。 ゼンタイを拒否したのは、俺にそのことを気づかれたくなかったのではないかと思ってきた。 身動きのできない今なら人魚のゼンタイを着せる事ができる。 呼吸も布一枚なので問題ないだろう。 俺は黒い人魚のゼンタイを取り出して【肉クッション】に着せてみた。 だが、折り畳まれた足が尾っぽの先まで満たされず腕も途中から余り、胴体部分は厚みがあるためピチピチになり奇妙な生物が出来上がった。 萌え度の全くないその姿に背中側のファスナーを閉めることなく、俺は【肉クッション】を人魚のゼンタイから引っ張り出して由香里に戻す事にした。 肉塊 第9話 【肉クッション】の解体 に続く

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