再就職して3ヶ月、仕事にも慣れた俺、佐々木 歩夢(ささきあゆむ)は先輩 加瀬 亮介(かせりょうすけ)さんと週末飲みに行った。 営業でいつも同行してもらい指導してもらっている亮介さんは真面目できっちりしているイメージであった。 思いのほか仕事の話で盛り上がり終電を無くした俺はそのまま亮介さんの家へ遊びに行かせてもらう事になった。 亮介さんのイメージは綺麗なマンション住まいのイメージだったのだが、意外にも昭和感のあるレトロなアパートでの一人暮らしだった。 昭和感のあるレトロなアパートと表現したが簡潔にいうと、今にも壊れそうなボロアパート。 部屋は1DKの和室、クローゼットではなく押入れ、少し暑くなり始めているのに、コタツは出たままで、布団は敷きっぱなし。 男の一人暮らしといった感じで散らかっていた。 早速、上がらせてもらって小さなテレビを点けてくれた。 「歩夢、ビールと簡単なツマミでいいか?」 俺が頷くと、亮介さんはサンダルを履いて部屋を出て行ってしまった。 ここまでは特におかしなところは全くなかった、そうここまでは。 亮介さんが部屋を出て少しすると、ダイニングの方でビニールが擦れるような音がした。 『ガサッ、ガサッ』 と音がして真っ先に頭に浮かんだのはゴキブリ。 ボロアパート、男の一人暮らし、散らかった部屋、出ない方がおかしいくらいだ。 だが、ビニールの擦れる音は断続的に続く。 人の家のゴキブリ退治はあまりしたくないが、コタツの上に置かれた新聞紙を音を立てない様に掴むと日付を見た。 1週間前のもの、これでゴキブリを退治しても問題ないだろうと音を立てないように静かに立ち上がると、忍び足でダイニングへと向かう。 ビニールの擦れる音は台所横の半透明のゴミ袋から聞こえてくる。 ゴミ袋の中には黒いモノが入っていて、水気のものを捨てたのかゴミ袋の内側には水滴が付いていた。 少し臭いそうだと思いつつも新聞紙を丸めたものを振り上げながら、ゆっくりとゴミ袋へと近づいた。 息を殺してゴキブリが飛び出してくるのを待ち構える。 だが、ゴキブリが飛び出してくることはなかった。 なぜなら、ゴミ袋が擦れる音の正体はゴミ袋の中の黒いモノが動いている音だったから。 それに気づいた俺は心拍数が一気に跳ね上がったのが分かった。 “この黒いモノって?!” そう思いビニール袋の口を解いていく。 ゴミ袋の口が開くと汗の臭いと熱気、嗅いだことのない甘いような香り、加えて香水のような匂いもした。 ゴミ袋の中に入っていたのは黒光りしたゴムの塊。 なんとなくだが、人のような形もしている。 腕はないと思ったのだが、両腕は背中側で一つに纏められて固定されているようである。 頭と思しきところに顔はなく、肌の露出も一切ない。 足は左右で折り畳まれた状態で一つに纏められていた。 人なのか人形なのか分からないこの黒いモノに俺は触れてみることにした。 恐る恐る手を伸ばして触れてみると生温かい。 しかも触れた際に僅かだがピクッと動いた。 感触はゴムのようだった。 “やっぱり、人だ!” ゴミ袋に付いていた水滴は呼気によるもの。 人だと分かるとどうしてこんな姿でゴミ袋に詰められいるのか気になる。 それにこの黒いモノいや黒い人は女性で間違いないだろう。 俺よりも体が小さく、両腕を背中で一つに纏められているので胸を突き出す形となり、程よい大きさの乳房が突き出していた。 その先には乳首がハッキリ分かるほど勃起していた。 “この女性はいったい?” そう思っていると、ゴミ袋の中に黒い人と一緒に女性もののブランドのバッグが入っているのに気がついた。 そのバッグの中を物色しようとして、触れた際黒い人に触れた際手についたオイルのようなものでバッグを汚してしまった。 だが、今はそんな事よりもこの女性が誰か知りたい。 バッグの中を物色していると財布が出てきた。 身分証明書的なものがあればいいのだが、そう思い探していると運転免許証が出てきた。 それを見て俺は愕然とした。 “真田 莉子(さなだりこ)さん!” うちの会社の業務課の女性。 若くて可愛くて仕事ができる女性。 亮介さんには申し訳ないが、とても亮介さんと釣り合う感じの女性ではない。 俺は莉子さんが独身と知り、虎視眈々と声を掛けるタイミングを窺っていたのだが、まさか莉子さんが亮介さんと、しかもこんなゴムの塊にされてゴミのように扱われているなんて想像もできなかった。 ショックを受けつつも、実は莉子さんではないと思いたい俺の鼻に香水の匂いが。 それは紛れもなくなく、いつも莉子さんがつけている香水の匂いだった。 俺は落胆しながらしばらくゴミ袋に足が入ったままのゴムの塊にされた莉子さんを眺めていたのだが、そろそろ亮介さんが戻ってきそうに思い、黒いゴムの塊にされた莉子さんを再びゴミ袋で覆い封をした。 離れるのを惜しみながらもコタツへと戻り、全く頭に入ってこないテレビを眺めていると、程なくして亮介さんが帰って来た。 そのあと、明け方までいろいろ話をしたが、何を話したかは全く覚えていない。 始発電車が走り出す頃に見送られ亮介さんの家を出た。 その際、ゴミ袋を見ることはできなかった。 あの後、ゴミ袋は?ゴムの塊にされた莉子さんはどうなったのだろう? そんな事を考えながら電車内で座っていると、いつの間にか眠ってしまっていた。 目が覚めた時には見たこともない駅で、昨夜の事は全て夢だったように思えた。 つづく
ごむらば
2024-06-21 10:20:54 +0000 UTCJan Koda
2024-06-21 04:12:42 +0000 UTC