俺は家に帰ってから少し眠った。 亮介さんの部屋で見た黒いゴムの塊がいまだに頭から離れない。 それも昼頃には酒を飲み過ぎて夢でも見ていたように思えてきた。 週明けの月曜日、まだ週末の事が頭の片隅に残っていた。 あれば夢だったのか、現実だったのか。 魂が半分抜けたような俺の鼻に香水の匂いが。 最寄駅から会社へと向かう俺の少し前を歩く真田 莉子さんを見つけた。 亮介さんの部屋で見た光景は夢だったそう思い、挨拶しようと歩く速度を上げて莉子さんに近づく。 肩から掛けたバッグはあのブランドバッグ、しかもオイルで汚した俺の指の痕もしっかりと付いていた。 やっぱり、あのゴムの塊は莉子さんだったんだ。 俺は歩く速度を抑えて莉子さんとの距離を取った。 ショックだった。 いいなぁと思っていた莉子さんが得体の知れないゴムの塊にされていたことに。 仕事中も頭に浮かぶのは莉子さんのことばかり。 今週末、もう一度亮介さんと飲みに行こう! そして、ほぼ間違いないが莉子さんをゴムの塊から解放して真相を聞こうと心に決めた。 だが、問題は亮介さん。 先週に続いて今週も飲みに行ってくれるとは限らない。 俺はダメ元で亮介さんを飲みに誘った。 俺がいろいろと思いを巡らせていたが、亮介さんの返事は意外にあっさりとOKだった。 そして、今週も亮介さんと飲みに行き、今回はワザと終電を逃して亮介さん宅に乗り込んだ。 先週と何も変わらないアパートの一室。 だが、あのゴミ袋はなかった、いや莉子さんはいなかった。 部屋に入って物色する訳にもいかないので、亮介さんがまたビールとツマミを買いに行くタイミングを見計らう。 なかなか、買い出しに出てくれない亮介さん。 今日は仕事のストレスが溜まっているようで、話が止まらない。 亮介さんの愚痴がひと段落すると俺に言った。 「歩夢、ビールと簡単なツマミでいいか?」 「はい!お願いします!」 やっと俺が待っていた時間が来た。 莉子さんをゴムの塊から解放してあげたい。 きっと、亮介さんに弱みを掴まれ、イヤイヤあんな姿になっているのだろう。 俺はそう思い、いるかいないかも分からない莉子さんの捜索を始めた。 まずは部屋中を探し回り、その後押入れを調べたがゴミ袋は全く見当たらなかった。 “それにしても亮介さんは… ” そう思ったのは部屋の中も押入れの取っても触れただけで、埃が手についたから。 洗面所もないので、取り敢えず台所で手を洗った。 水を流し手を洗っていると、咳き込むような音が聞こえてきた。 「はて?」 隣りの住人かとも思ったがすぐ近くから聞こえてくるようだった。 台所の下の物入れを開いた。 洗剤などが少し入っているだけ… ? 台所の照明を点けてみた。 それでも暗くてよく見えないが黒い何かがいる。 持っていたスマホのライトを点けてようやくそれが見えてきた。 それは黒いゴムの塊。 先週見たゴミ袋に詰められていたアレと同じ。 だが少し違うのは顔が排水管と繋がっているところ、正確に言えば顔の部分が排水管に寄り添う形で、口だけが排水管と繋がっていた。 俺が手を洗った事で排水された水が口に入って咽せたのだろう。 “莉子さん、ゴメン!” そう思ったのだが、莉子さんにしては体が小さいように思える。 お世辞にも立派とは言えない小さな台所下の収納スペース。 莉子さんの身長は知らないがそれでも160cm以上は確実にある。 そんな女性が体を折り畳んでもこのスペースに収まるだろうか? 150cm前後の小柄な女性ならギリギリ収まりそうなサイズではある。 それに莉子さんの香水の匂いはしない、その代わりに別の香水の匂いがしていた。 ではいったいこの女性は誰なんだろう。 疑問を解くべく、洗剤と一緒にバッグがないか探った。 “あった!” 洗剤の奥に女性もののバッグを見つけた。 可愛らしい小さめのバッグを引っ張り出すと中を物色する。 すぐに財布が見つかった。 運転免許証は見当たらないが、銀行のキャッシュカードが見つかった。 キャッシュカードにはカタカナ表記でこう書かれていた。 【コンドウ ユナ】 その名前を見てもすぐにピンと来ない。 “近藤(こんどう)なんてうちの会社にいたかなぁ?” そう思い頭を捻る。 亮介さんの知り合いの女性なのだろうか。 財布を物色し続けていると、うちの会社の社員証が出てきた。 それを見て俺は固まってしまう。 そして呟く。 「今藤(イマフジ)じゃなかったんだ」 今藤 由那(こんどうゆな)ちゃんは会社の受付嬢、身長は148cmと小柄で可愛く芸能人やアイドルとも引けを取らない可愛い女子社員、それゆえライバルも多い。 俺には到底手の届かない存在だと初めから諦めて、莉子さんに狙いを絞った。 だがまさか、あの由那ちゃんがこんな姿で亮介さんの台所の排水管に繋がれているなんて想像もできなかった。 しかも、俺が手を洗って汚れた水を飲ませてしまったかも知れない。 そう思いながらも俺はある事を思いつきドキドキしてきた。 それは排水口に俺が唾を吐いたら、由那ちゃんは俺の唾液を口にするという事。 台所の下を大きく開いたまま俺は立ち上がると、排水口に唾液を大量に吐いて流し込んだ。 そして、再びしゃがむと排水管に接続された由那ちゃんの様子を窺う。 少しすると俺の唾液が流れてきたのか、ゴムの塊となった由那ちゃんの喉が少し動いた。 呼吸するためには俺の唾液を飲まないとダメなようだった。 あのアイドルのような由那ちゃんが呼吸のためとはいえ、俺の唾液を飲み込んでいる姿に俺は興奮して勃起してきた。 だが、ふと我に返った。 そろそろ、亮介さんが帰ってくるのではそう思い時計を見ると20分以上が経過していた。 近くのコンビニまでは徒歩10分ほど、もうすぐ亮介さんが帰ってくると思った俺は名残惜しいが由那ちゃんを元に戻すとコタツへ戻りテレビを点けた。 そして程なくして、亮介さんがコンビニから戻ってきた。 仕事の愚痴で盛り上がる亮介さんに俺は相槌を打ちながらも、頭の中は台所の下で排水管に繋がれた由那ちゃんの事しかなかった。 空が明るんできたころ、始発電車に合わせて俺は亮介さんの部屋を出た。 そして、考えることはゴムの塊にされた莉子さんや由那ちゃんのことばかり。 なぜ、彼女たちはあんな姿にされて亮介さんの家にいるのだろうか? 答えの出ない疑問を繰り返しながら電車に乗り目を瞑っていると、いつの間にか眠ってしまっていた。 “また、やってしまった!” 目が覚めた時には見たこともない駅で、昨夜の事も全て夢だったように思えるのだった。 つづく