コメントに頂いた肉塊作品の製作過程? というより次の展示会に向けての製作過程の小説を書いてみました。 お楽しみ頂ければ幸いです。 「んー!」 大きな悲鳴にも似た声に続いて大きな音がする。 『バタン!』 大きな音ともにベッドで寝ている俺の上にベッド脇にある電気スタンドが倒れてきた。 寝ていたので始めの悲鳴にも似た声は夢か現実か定かではない。 俺はベッドから体を起こすと、倒れた電気スタンドを元の位置へと戻した。 「あ!今日はOFFだった」 そんな独り言の後、再びベッドに入って二度寝しようとしたのだが… 。 「んー!」 それから10分後に再び悲鳴のような声が寝室に響いた。 スヌーズを解除し忘れた事に気がついて体を起こした時にはすっかり眠気は無くなっていた。 俺は寝る時は寝室を真っ暗にして寝る。 カーテンを閉め切って寝るため、太陽光は一切入らず朝を迎えても寝室は真っ暗だ。 俺が電気スタンドのスイッチをオンにすると、真っ暗だった寝室をLEDライトが煌々と照らす。 そして電気スタンドの全貌が明らかとなる。 電気スタンドは全体が肌色をしている。 ただ肌色をしているだけでなく、女性の体のような凹凸が見られる。 腕は見られないのだが、人ならば背中側で腕を伸ばした状態で纏められ胸を突き出したような姿勢になっており突き出された胸の膨らみが女性らしさを強調している。 ただ、その電気スタンドの肌色の支柱は人のようであるが人ではない。 肌色をしているがその肌には光沢があり、手や足は見受けられないからだ。 そして、LEDライトが光っている部分は人でいうところの頭部であり、肌色の頭全体に多くのLEDのチップが埋め込まれて光っている。 その頭部には光が下方へのみ照射するように帽子のような傘が被せられていた。 電気スタンドの裾からコードが伸びて円形の土台部分にスイッチがあり、オンオフと照度を調整する以外にも、別のスイッチが2つある。 1つは振動する機能で、もう1つはアラーム機能。 アラーム機能は冒頭のような感じだと思って貰えれば分かりやすいかと思う。 俺はそんな電気スタンドのことを人の形をしている事から【肉電気スタンド】と呼んでいる。 俺は立ち上がり部屋のカーテンを開けると、朝の日差しが射し込んできた。 【肉電気スタンド】から伸びるコードを引き抜くとLEDライトが消え、電気スタンドから僅かに聞こえていた振動するような音も消えた。 そして寝室を出た。 俺の名前は秋山 飛燕(あきやまひえん)、アーティストをしている。 寝室にあった【肉電気スタンド】も俺のアート作品だ。 今、手掛けているのは女性を肉塊にしてアート作品を作っている。 といっても、本当に肉塊にしているわけではなく、肉塊のようにしていると言った方が正しいだろう。 そして試作品はまだ【肉電気スタンド】しかない。 肉塊でどんな作品が作れるかと思案中である。 すぐに思いつくのは家庭にあるような椅子やテーブル、クッションにソファーといったところだろうか。 ラフ画を描きながら構想を練っていると、寝室で大きな音がした。 「あ!また倒れたな!」 独り言を呟き寝室へ向かうと、やはり【肉電気スタンド】が倒れていた。 立てておくとまたひとりでに倒れる可能性があるので、リビングに移動させて傘を外し寝かせた。 そして電気のコードをコンセントへ繋ぐと振動するスイッチをオンにしてツマミを最高レベルにした。 「んっっっ!んーっ!んーっ!」 音を立てて振動とともに【肉電気スタンド】はLEDライトを光らせ、それを中心にして円形の土台部分が転がり出し、しばらく転がったのちビクッと大きく跳ねて動かなくなった。 大人しくなったのを確認してから電気コードを抜いた。 “満足してくれたかな?” そう思いながら時計を見て呟く。 「もう8時間かぁ」 今は午前7時、就寝が午前12時過ぎ、そして午後11時に人から【肉電気スタンド】にしてから8時間が経過していた。 「今からバラすから大人しくしてくれよ!」 そう声を掛けるが【肉電気スタンド】からの返事はなかった。 【肉電気スタンド】を横にしたまま、土台部分近くから伸びるコードに沿って肉塊にカッターを入れいく。 コードの部分は肉塊に包まれて分からないが、細い塩化ビニルの配管を通してある。 断線予防と解体時にも中のは人を傷つけないようにと考えての事。 厚みがあり肉塊をイメージしたウレタンの上にラテックスを塗ったモノが切られると、ラップで電気スタンドの支柱に固定された肌色の人型のモノが現れた。 支柱に沿って拘束されたラップを外してやると、光沢のある肌色をした人型のものは力なく床に横たわった。 長時間拘束されて動けずにいたので、光沢のある人型のものは全く動かす、床に転がったまま。 そんな光沢のある肌色の人型のマスクを外してやると、大量の唾液とともに中の人の顔が現れた。 顔は唾液と汗にまみれて酷い事になっている。 外したマスクの内側には鼻から呼吸するためのチューブが2本と声を出せないように口いっぱいに頬張るようなマウスピースが付いている。 このマウスピースで口が開きっぱなしのため唾液が大量だったのだ。 「大丈夫?友希(ゆき)」 蕩けたような目をして俺を見るこの女性は俺の妻。 いつもアート作品の試作品となってもらっている。 そんな彼女の顔をタオルで拭いて飲み物を与える。 「どうだった【肉電気スタンド】?」 そう話し掛けると、友希は俺の顔を見て言う。 「暑いよ!それに身動きできないから一度バランスを崩すと立て直せなくて倒れるし」 友希の言葉をメモする。 [改善点 土台を倒れないように処置する] 「ちなみに暑いのは、肌色のラバースーツの上からラップ拘束するから?」 「違うよ!LEDランプ、時間とともにじんわりと暑くなってきたよ」 「なるほど、断熱材を使用した方が良さそうだな」 俺は再びメモを取った。 ようやく体が動くようになった友希が体を起こして歩き始める。 「お風呂行ってくる」 そう言って歩き出した友希に声を掛ける。 「1人でも大丈夫?」 「うん、大丈夫」 友希はそう言うと右手を挙げ、水溜りでも歩いているような音を立てて行ってしまった。 友希には悪いが今日はもう少し頑張って貰いたいと思っている。 今日は休みで出掛けることがないので、試作品の構想を練り上げておきたい。 そのため、友希が戻って来るまでに次の準備に取り掛かる。 日常にあるものをアート作品にするのもいいが、人間の臓器なんかもアート作品にしてみようと考えている。 胃袋であったり、肺であったり、そして心臓、腸なんかも人が入って動く姿は面白いかも知れない。 ただ、心臓役の人は動き続けないといけないので辛そうだと思うと同時に肌色のラバースーツを着て心臓として大量に汗をかいて動き続けている中の姿を想像すると興奮してくる。 それに心臓は中で2つに分けて2人で心臓を演じのも面白いかも知れないと思った。 血液が流れる様子も再現して、血管を他の臓器にも繋いで…と考え始めると想像がどんどん膨らんで楽しくなっていく。 だが、今日のところは友希しかいない。 それに試作品として胃袋として準備をしたラバーの袋しかない。 今日は友希に胃袋になってもらって想像を膨らませていこうと思う。 胃袋は口が2つあり、窄んだ口が大きく開いて中へ入れるようにしてある。 そこから中へ入って貰い、咀嚼された食物を模ったものも準備してある。 胃酸はローションで表現して、どんな具合か様子を見てみる。 そして胃袋の外観は既に出来上がっている。 ちなみに胃袋の中には外部の目立たないところに繋がるラバーマスクを被ることで呼吸は確保されるように作ってある。 手足が出せないのが難点だが、これはこれで胃袋っぽく振る舞えると俺は考えている。 胃袋、詰め物、ローション、そして気持ちよく胃袋になって貰うために肌色のラバースーツも準備した。 後は中に入って貰う友希を待つばかりだ。 汗を流してスッキリしたのだろう、友希が鼻歌混じりに髪を乾かしながら戻ってきた。 すっかりリラックスしてジャージの上下姿の友希。 そんな鼻歌も俺の前に広がっている胃袋と肌色のラバースーツを見て止まってしまう。 「えー、またぁ?」 「うん、お願いできるかな?」 友希は俺にベタ惚れなので、俺のお願いを断らない。 加えて、体にピッタリとフィットするラバースーツも大好きで、閉じ込められたりするのも好む。 だが、流石に一晩中【肉電気スタンド】にされた後という事もあり、困った顔になっていた。 なんでも言うことを聞いてくれるとはいえ、この短い間隔は可哀想に思えて声を掛ける。 「少しゆっくりしてからでいいよ!友希のタイミングで試作品になってくれたら」 そう声を掛けると満面の笑みで俺に抱きついてきた。 しばらく、ゆっくりとした休日を2人で過ごす。 お昼も食べて一段落すると、友希の表情が変わった。 「じゃあ、始めましょう!」 気合いの入った友希はジャージを脱いで全裸になるとラバースーツに足を通し始めた。 着慣れている事もあり、要領よく肌色のラバースーツを着ていく。 友希がラバースーツを着たところで試作品の説明を始める。 「まあ、なんとなく分かると思うけど、これは胃袋でこの中に咀嚼された食物を模したものと一緒に入る」 「胃袋の中に体が全部入ったら中に胃袋の壁にくっついてたラバーマスクがあるのでそれを被ってね、後はこっちでやるから適当に動いてけれればいいよ」 「うん、分かった!」 そして、まずは口いっぱいのマウスピースを頬張るようにして友希にラバーマスクを被せた。 このラバーマスクは【肉電気スタンド】とは違い鼻の穴には穴が空いていない。 目の部分はマイクロホールになっているので視界は確保されていて、呼吸は口いっぱいに頬張ったマウスピースの真ん中に穴が空いている。 胃袋の中のマスクを被ると視界はなくなるが、呼吸用の太めのチューブがあるので、口の穴に接続すると呼吸が確保される仕組みである事を説明した。 そうしてから、胃袋の片方の口を広げて友希を胃袋の中へと入れた。 しばし胃袋の壁に付属するマスクを友希が被るのを待つ。 外から見てみてもよく分からないので、口から覗いていると、友希は上手くマスクを被り呼吸用のチューブも接続したようだった。 念のため胃袋の外側の呼吸穴から友希が呼吸できているかを確認した。 口から中を覗いて友希が大丈夫なのを確認したら胃袋の出口を結束バンドで閉じる。 そうしてからウレタンをベースに作られた咀嚼された食物を詰め込んでいく。 胃袋の中をパンパンにすると、今度は用意した大量のローションを流し込んでいく。 5リットル近く流し込んだところで、今度は胃袋の入口も結束バンドでしっかりと閉じてローションが漏れてこないようにした。 床で脈を打つように動く胃袋。 リアルに作ったのでかなりグロテスクだ。 胃袋はモゾモゾと動くのだが、手足がないため動きはランダム、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。 床の上で気持ち悪く動き続ける胃袋。 生き物の胃袋ならば、そのうち動かなくなるのだが、今のところ友希の体力が続く限りこの胃袋は動き続けるであろう。 そんな胃袋を見ていて思った。 ホルマリン漬けの標本のようにしたら面白いのではと。 床で動く胃袋をそのままにして、この大きな胃袋をホルマリン漬けできそうな瓶をネットで探したが、見つからなかった。 しかし、そんな標本瓶を作ってくれそうな会社は見つけた、費用はかかりそうだが… 。 ホルマリンは無色透明なので、水かローションでもいいかも知れない。 やはり、実物を見ていると想像が膨らんでくる。 友希には感謝しかない。 床で動き続け、咀嚼物を消化する胃袋を見て思った。 大量のローションを入れたのでここで友希を出すことはできない。 浴室まで運ぼうとも考えたが膨らんだ胃袋は扉に引っ掛かって通りそうにない。 だんだんと胃袋の消化速度が落ちていく。 胃袋の中へと繋がる呼吸口に耳を傾けると、友希の荒い呼吸音が聞こえてきた。 話し掛けてみる。 「友希、喉乾いた?」 「はん(うん)」 「ここからお茶を差し入れようと思うけどどうかな?」 「ほへはひ(おねがい)」 喉が渇いてお茶を欲しているようだ。 口が開きっぱなしなので、少しずつお茶を流し込むと咽せることなく友希はお茶を飲んだ様だった。 「さてと… 」 どうすこともできなくなった胃袋を眺めながら思うことは友希の救出ではなく、展示会のことだった。 【臓物ギャラリー】は造形物の製作、展示用の巨大な標本瓶など費用と時間がかなりかかりそうだ。 取り敢えず、今回の【肉塊ギャラリー】を成功した暁には、第二弾として【臓物ギャラリー】を開催しようと考えている。 そんな俺の足下で胃袋が水分補給した事でまた動き出した。 おしまい