家に持ち帰ったカメレオンの着ぐるみでいろいろとあったりしたが、私はお姉ちゃんやお母さんにも協力してもらいカメレオンの着ぐるみを着て歩く動きを練習しマスターしていった。 お姉ちゃんはあれからカメレオンの着ぐるみを着たいと言わなくなると思ったのだが、時々私の部屋へ顔を真っ赤にしてやって来る。 「ねぇ、今日一緒に寝よう、私カメレオンになってあげるから麻衣の好きにしていいよ」 「うん、いいよ、私もカメレオンと一緒に寝たいと思っていたから」 そう返すと満面の笑みで私とハグした後、お姉ちゃんはカメレオンとなるのだ。 大学生のお姉ちゃんは、次の日予定がない時に私の部屋に現れてカメレオンとなる事を最近になって私は知ったのだった。 そんな日々を過ごしていると工房から連絡があった。 今回はかなり完成品に近づいたという。 竹村さんにはもらったカメレオンの着ぐるみで日々歩き方の練習をしている事を伝えた。 挨拶もそこそこに女性スタッフに更衣室へ案内してもらう。 ラバースーツを渡される際、少し改良されている事が伝えられた。 まあ、どこが改良されたのかは着てみればすぐにわかる事という事で、早速ラバースーツに着替える。 ラバースーツも家で着ているので、手慣れたものだ。 ちなみにお姉ちゃんだが、ラバースーツを隠し持っていた事があの後分かった。 しかもラバーマスクも持っていて、マイクロホールマスクという見た目にはノッペラボウにしか見えない、そんなマスクを持っていたのだ。 お姉ちゃんが着ぐるみに入る時は決まって自分のラバースーツとラバーマスクを着用してカメレオンになるのだ。 ちなみに朝は大変、お父さんやお母さんにバレないようにしないといけないから。 娘が2人ともラバーフェチという特殊な性癖にドップリとハマっている事を気づかせないようにするために、こっそりとシャワーを浴びる日も。 そうなんです、お姉ちゃんだけでなく私もラバースーツを着て、抱き合って一緒に寝る時もあったからです。 さて、工房で改良が加えられているというラバースーツは顔の部分であった。 目出し帽のようになっておらずノッペラボウ。 覗き穴と鼻の呼吸穴はお姉ちゃんのマイクロホールマスクと同じく細かな穴が空いており、口には硬いチューブのようなものが付いていた。 先が尖っている事からペットボトルくらいなら突き刺せればフタを開けなくても中の飲み物が飲めそうだった。 背中のファスナーを閉めると、肌の露出は全くない。 口から尖ったチューブの伸びた奇妙な生物に見えなくもない。 そんな姿で工房へいくのに少し気が引けたが、更衣室を出ると女性スタッフが待ってくれていた。 「着替えるの早くなりましたね」 女性スタッフはニコッと笑ってそう声を掛けてくれた。 (「ありがとうございます」) と答えようとしたが、チューブで口が動かせずに会釈だけに留まった。 その時気づいた、私は声が出せなくなっている事に。 工房へ行くとカメレオンがいた。 そして何故か爬虫類園の園長も来ていた。 カメレオンの着ぐるみに近づいて私はさらに驚いた。 以前もかなりのクオリティでリアルなカメレオンだったが着ぐるみの要素は見られた。 しかし、今回のはレベルが全く違う模様や柄も細かなところまで再現され、このまま木につかまらせたら本物と見間違うだろうというレベル。 突然変異で巨大化したといっても信じて貰えそうなクオリティだった。 私が近づいていくと竹村さんが私に赤紫色をしたロンTのようなものを渡してくる。 (「何ですか?」) と聞こうとして声が出せない事を思い出し、首を傾げて見せた。 私の仕草を見て、竹村さんが説明してくれる。 「これはカメレオンの舌です、補食する時に腕を伸ばして物を掴むんですが、黒い舌だと変でしょ」 そう説明されて私は納得したので頷いた。 それを着てみるとロンTは手の先まであり、グローブはミトンのようになっていた。 そのロンTを着てからカメレオンの着ぐるみへと足を通していく。 腕はミトン付きロンTを着ているが着ぐるみに入るのはいつもと変わらない。 ただ、頭を押し込もうとして驚いたカメレオンの大きな目からも外が見えるように改良されていた。 今の私は肌の露出が全くないので、外から見られても全く分からないだろうと思う。 もちろん、口からも外が見えるのだが、口の部分は真ん中辺りに私の腕が通る程度の穴があいているだけになっていた。 私がカメレオンの着ぐるみに収まると、何やら変わった機械を手にした竹村さんが園長に説明を始めた。 私の背中側でやっている事なので、何を説明しているかまでは分からない。 『ピカッ!』 一瞬閃光が走ったかと思うと、園長の声が聞こえてきた。 「これだけでいいんですか?」 「はいこれだけです、触ってみてください」 そんな会話の後、私の背中側で触られている感触が伝わってきた。 「本当ですね、くっついてますね」 「今は試作段階なので、すぐに脱ぐことはできますが、いずれは どうやらカメレオンの着ぐるみの入口は接着されたようだった。 家で着ているカメレオンの着ぐるみとは違いゆとりもあり、かなりいい感じにフィットしている。 「それでは次ですが、カメレオンにはコオロギを補食してもらいましょう」 竹村さんはそう言うと木の幹が横になった場所へと私を誘導する。 木につかまるように言われてつかまるが、少し不安定だ。 私が今どうにか落ちないようにつかまっている木の幹の先へ園長と竹村さんが来ると、木の幹の年輪を指差して何か説明している。 “早くしてよ!落ちちゃうよぉ!” そんな私のことなどお構いなしに竹村さんは説明を続けている。 私は落ちないようにするのに、精一杯で2人の会話を聞き取れる余裕もない。 “もうダメだ、もう限界” 私が腕の力を緩めた時だった。 カメレオンの手足が木の幹にしっかりと張り付いた。 “あれ?” 「この木の幹は電磁石になっていて、カメレオンの手足に仕込んだ鉄粉を吸い付けます、電磁石は強さを選べますのでカメレオンが動く時は緩めて、補食する時は最強にして鷺元さんに右手を着ぐるみから抜いてもらって補食してもらうわけです」 「なるほど、凄いですね」 園長は頷き感心していた。 「それでは早速、カメレオンに補食してもらいましょう」 竹村さんがそう言うと女性スタッフがヒモに吊るした大きなコオロギを持ってきた。 「カメレオンは動いていものしか認識しないんですよね」 「よくご存知ですね」 「今回の依頼を受けてカメレオンについて、いろいろ調べましたから」 笑ってそう言う竹村さんは続ける。 「それではまず、電磁石を最強にして下さい」 園長が木の幹の年輪の辺りを操作した。 「それでは鷺元さん、右手を着ぐるみから抜いて下さい」 そう言われてもしっかりと着ぐるみに腕が収まっているので抜けそうにないと思っていたのだが、意外にあっさりと抜けた。 しかもカメレオンの右手はしっかりと幹を掴んだまま。 女性スタッフがカメレオンの口の前でコオロギをヒモで吊って生きているように見せている。 「さあ、コオロギを捕まえて下さい」 竹村さんにそう言われて私は腕を伸ばしてコオロギを掴んだ。 そのままコオロギを口の中へと引っ張り込む。 カメレオンの補食を自分が再現している事に楽しくなりラバーマスクの下で笑みが溢れる。 「そのまま引っ張って下さい」 竹村さんの言葉通りに引っ張ると、私の腕の大きさほどしかない穴にコオロギが引っ掛かかった。 「そのまま勢いよく!」 竹村さんの言葉通りに強引に何度か引っ張るとカメレオンの口が閉じたり開いたりする。 そして穴を取り抜けられないコオロギの足は千切れ、カメレオンの口の開閉にともない外へ出ていく。 「これは凄いです、凄すぎます」 園長のその言葉に竹村さんは満足したように頷いていた。 「その補食したコオロギの中は冷えたゼリー飲料です、鷺元さん良かったら口のチューブを突き刺して飲んでみて下さい」 正直少し暑い、いやそういえば全く暑くない! 説明が長かったので着ぐるみの中が暑くなっていてもおかしくないのだが全く暑くない。 このカメレオンの着ぐるみなら長時間着ていても大丈夫なように思えた。 補食し右手に掴んだ胴体だけとなったコオロギに口から伸びるチューブを少し躊躇しながらも突き刺してみた。 コオロギの胴体の中で薄いビニールを突き破る感覚がした後、マスカット味のゼリー飲料が口の中に広がった。 “あ!美味しい!” 私は一気にゼリー飲料を飲み干してしまった。 飲み干したコオロギの胴体はカメレオンの口から放り出す。 その際も腕を通す穴に私の手がつっかえる度にカメレオンの口は動いていた。 ゼリー飲料に夢中になっている間に竹村さんは細長く大きなミミズのような物を手に園長に説明を始めていた。 “おそらくあれも何か飲食物が仕込まれているだろう” 私はそう思って見ていたが、園長と竹村さんの会話もよく聞こえないし、それもいずれ分かる事なので私は右手をカメレオンの右手へと戻して待機した。 すると、2人は私の背後の方へ移動した。 会話は続いているがよく聞こえない。 カメレオンの前方の声は大きな声で話していたら聞き取ることはできるが、小声なら部分的にしか聞き取れない。 後方になるとほとんど聞き取れない。 何を説明しているのだろうと考えていてハッとした。 ラバースーツのマスク部分は大幅に改良されていたのですぐに分かったのだが、もう一つ着替えていてアレッと思ったのが股のところ。 何となくだが小さな穴のような空いているような気がした。 その穴は小さくて気にならない程度のものだったから。 まあ、竹村さんが園長に説明しているのならば、いずれ分かるだろうとその時は楽観的に考えていた。 その後、知ったのは着ぐるみを着たままでもオシッコができるという説明だったらしい。 逆止弁の付いた尿道カテーテルをされた私が息めばオシッコが出る仕組みで、カメレオンのどこからオシッコが出るのかを園長に説明していたようだ。 後でそれを聞いて私は一人恥ずかしくなった。 因みに大きなミミズにはスポーツドリンクが入っていて水分補給用に使用されるらしい。 飲み方はコオロギの時と同じ、尖ったチューブを突き刺せば水分補給できることも説明された。 それからも基本的には前述の通りであるが、長くカメレオンの着ぐるみを着ていられるように細かな改良が加えられていった。 体温調整機能が備わってからは特に飛躍的に長くカメレオンになっていられるようになった。 とはいえ、私の体力がなければ無理なので、私自身も特訓を開始した。