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ごむらば
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脱げないゴムの着ぐるみ【思わぬ再会 編】

そんなお盆とお正月限定でカメレオンのマギーくんとなる私が大学3年の夏休みに帰省した際に想定していなかった事が起こった。 それは実家へ帰省して2日目の事だった。 私の彼氏 谷本 雅史(たにもとまさし)からメッセージが届いた。 [麻衣、元気でやってる?] 私はすぐにメッセージを返せなかった。 なぜなら、今は打ち合わせの真っ最中。 明日からの3日間、私は爬虫類園でマギーくんとして過ごす事になっている。 【マギーくんのお散歩】の際、新たに爬虫類園で改装され変わったところのチェック、久しぶりのためアテンドスタッフである美月そして伽耶さんとも入念な打ち合わせをしていた。 何故かって、それは私は明日から3日間、人の言葉を話せなくなりカメレオンとして過ごすから。 事前に打ち合わせしておかないと、その場その場で言葉で伝える事ができないので、この事前打ち合わせはとても重要なのだ。   ようやく打ち合わせも終わり、駅までの道を歩きながら雅史にメッセージを返した。 [元気だよ!雅史も元気?私はバイトが終わって今帰り] [俺は年がら年中元気だよ、ところで明日もバイト?] [うん、朝8時からバイトなんだ、今は忙しくて] [暑いから体には気をつけて頑張ってね] [ありがとう、帰ったらデートしようね] そう返信してメッセージのやり取りは終了した。 翌朝、久しぶりのバイトのため早めに家を出た。 昨晩はお姉ちゃんとお母さんと盛り上がり夜更かししてしまった。 だから眠くて仕方がないが、爬虫類園でカメレオンの着ぐるみを着たら後はけっこう休憩が多い。 3日間は脱げないし、排泄の処理をしてもらう恥ずかしさはあるが慣れてしまえば私にとっては楽しいバイトだ。 久々なのでカメレオンの動きが上手くできるか少し不安があったので、帰省前には自分の部屋の中でゆっくりとした四足歩行の練習もした。 カメレオンの着ぐるみを着ていればいいが、部屋着で股を広げて床に這いつくばる形で四足歩行するのはとても人に見せられる格好ではないと思った。 夜更かししたので眠い。 早朝の田舎の駅は人もまばら、改札を抜けてホームへと向かう。 何故か男性が私の横にピタリと並んで着いて来た。 “うわっ!何? 今からバイトだから絡まれても困るんですけど” そう思うが口にも出せない。 ホームが近づき駅員が見えたので、私はどんなヤツが並んで着いてくるのかと思い顔を見てやった。 私の顔はきっと不快感の滲み出た顔だったと思う。 だが、その顔を見た瞬間驚きに変わり声を上げた。 「え!雅史なんでいるの?」 私にピタリと並んで着いてきたのは、彼氏の雅史だった。 「昨日、こっちに来てビジネスホテルに泊まったんだ、で、今日は麻衣を驚かせてそのままバイトしているところを見ようと思ってね」 雅史に会えて嬉しいが、バイトでカメレオンの着ぐるみに入っている事は打ち明けていない。 そこでバイト先に雅史が来たくなくなるように話を持っていく。 「でも雅史、私のバイトの開園時間は9時からだよ!」 「いいよ!麻衣を送った後、適当に時間潰しておくから」 「今日は忙しいし、私裏方だから会えないと思うよ」 「いいよ、麻衣がどんなところで働いているのか知りたいし、帰りに一緒にご飯行こ!」 「うーん、今日は厳しいかな、かなり遅くなるし明日も早いから」 「まあ別に構わないよ、俺暇だしゆっくりしていくから」 私が必死に雅史を遠ざけようとするのだが、雅史は一向に気にしていない様子だった。 そんなやり取りをしているうちにバイト先に到着した。 私の中では【太陽と北風】を思い出していた。 そこで話を切り替えた。 「私、昔から爬虫類が好きで」 「知ってる!」 雅史は笑って答える。 それ以上何も言えず、ましてや爬虫類園に来るなとも言えずに私は時間が迫っているので雅史に声を掛けた。 「じゃあ、私行って来るね!」 そう言って私は爬虫類園の中へ逃げるようにして従業員出入口から中へ入った。 願わくば、雅史に来て欲しくない。 でも、せっかくだからカメレオンの着ぐるみを着た私を見て欲しい。 妙な葛藤が渦巻く中、私はカメレオンのマギーくんになるべく更衣室へと向かうのだった。 いつものように全裸になってからラバースーツに着替え、マスクを被ると私は話せなくなる。 ここからはカメレオンのマギーくんになるのだと自分に言い聞かせてカメレオンの着ぐるみの中へと体を埋めていく。 背中のファスナーを閉められると、身の引き締まる感覚とともに自分に気合いを入れる。 背ビレを溶かして接着すると、私、鷺元 麻衣という存在は完全に消えてしまう。 まずは異常がない事を確認した後、ボディハーネスを取り付けられ、いよいよ【マギーくんのお散歩】が始まる。 私の両側には美月と伽耶さんが付いてくれる。 アテンド慣れした2人に任せておけば間違いない。 私が3日間過ごす展示スペース横の通路から来園者のいるエリアへと進むと歓声やざわめきが起こる。 ちょっとしたアイドルになった気がして気分が良い。 四足歩行でなければ、なおいいのだが… 。 それでも一斉に子供たちが私の周りに集まり、撫でたり触ったりしてくれると悪い気はしなかった。 カメレオンのマギーくんとなった私の視界は広くないので、美月と伽耶さんの誘導頼みになる。 今のところ、雅史の姿は見えない。 まあそれはそれでいいのだが、少し残念にも思った。 その後も子供たちと触れ合い、記念撮影を繰り返す。 子供たちとの触れ合いが落ち着いてきたので、これからは大人との触れ合い記念撮影となる。 女性はいいのだが、男性しかもその中には体を擦り寄せてくる輩もいて不快に思うことが多い。 そのため、私の緊張感も増してくる。 チラッと見えた美月と伽耶さんの表情も先ほどとは違い、いい知れぬ緊張が伝わってくる。 そして、大人との触れ合いが始まった。 ハグをしてそのまま体を持ち上げられる事もあるので、ここからは一瞬たりとも気が抜けない。 何人かの大人と触れ合い、記念撮影をしていた時だった。 遠慮気味に話し掛けてくる声が聞こえてきた。 「抱きついてもいいかなぁ?」 その声に私は反応してしまう。 聞き慣れた声、ついさっきまで話していた声、イントネーションからも地元の人ではないのは明らか。 “雅史だ、やっぱり来てた” そう思いながらも気遣いが嬉しくて思わず、首を縦に振ってしまった。 私は巨大カメレオンの姿で雅史に抱きついて記念撮影に応じた。 もう少し雅史と抱き合っていたかったが、雅史はすぐに私から離れていった。 まだまだ、触れ合いと記念撮影を待つお客さんがいるから仕方がない。 私の視界には遠ざかっていく雅史の背中が見えた。 雅史が近くにいると思うと、なんだか緊張してしまう。 雅史が付いて来ていることを確認したいが、周りをしきりにキョロキョロするカメレオンも変だと思い、私はカメレオンに徹した。 その後も記念撮影をしながらお散歩は続いた。 爬虫類園を一周し、元のカメレオンのコーナーへと戻ってきた。 久々なので少し疲れた。 やっと休憩ができるそう思いながら、展示スペースへと入る。 今日から3日間はここでの生活だなぁ。 そんな事を思いながらも、気になるのはやはり雅史の事。 いつもの木に登ると巨大なカメレオンとなった私を珍しそうに見てくる。 私は園内を一周し、乱れた呼吸を整えながら雅史の姿を探すことにした。 だが、私の限られた視野に雅史の姿はなかった。 “雅史、どっか他へ行っちゃったのかなぁ” 少し残念に思いながらも体を休めることに専念する事にした。 『ただいまから、カメレオン マギーくんの食事タイムになります!』 そんな園内放送が流れた。 “あっそうだった” 久しぶりの着ぐるみに加え、雅史の登場で段取りをすっかり忘れていた。 そういえば喉も渇いているし、少しお腹も空いている。 展示スペースには人が集まり始めたので、雅史を探すのは難しそうだ。 美月が大きなコオロギ、伽耶さんがワームにヒモを付けて棒で吊るして展示スペースの中へと入って来た。 『皆さん!カメレオンは、動いているものしか認識しないため、必ず生き餌の状態で与えないといけません、今日は皆さんに見て頂くためにマギーくんの餌を私たちが動かして生きているように見せますね』 いつもの放送を聞きながら、右手を着ぐるみから抜きやすくして補食の準備を始める。 程なくして私の目の前をゼリー飲料の入ったコオロギを動かす美月。 “喉が渇いてるから伽耶さんのワームの方が良かったのになぁ” そんな事を思いながら、美月のコオロギをなかなか補食せずにジッと見つめて距離を詰める。 小さく美月の口元が動くのが見える。 [麻衣、早く補食してよ!] そう美月の口が動いたように見えた。 だんだんと動きが緩慢になるコオロギ。 “仕方ない、そろそろ補食してあげよう” 私は心の中でそう呟いて、カメレオンの舌に見立て腕を伸ばしてコオロギを捕まえ、口から中へと引き込む。 同時にカメレオンの口が閉じてコオロギの脚がバラバラと口の外側へと落ちた。 カメレオンの口が閉じた事で暗くなるが、カメレオンの目の部分からも光が入るので真っ暗ではない。 私の口から伸びる尖ったチューブをコオロギの胴体に突き刺すため、さらに引っ張り込むとコオロギの脚は全て取れてしまった。 コオロギの胴体部分にチューブを突き刺して、お昼ご飯を頂く。 ゼリー飲料は冷たく、園内を四足歩行で一周した私の体に清涼感を与えてくれる。 一気にゼリー飲料を飲み干すとコオロギを口の外へと出した。 少し置いて今度は伽耶さんがワームを私の目の前で動かす。 喉が渇いているので早くスポーツドリンクを飲みたい。  少しだけ狙いすましたフリをした後、ワームを補食し喉を潤した。 『マギーくんのお食事は以上です、皆さんも園内で食事をお楽しみ下さい!』 そんな放送を聞きながら、私は木にしがみついて、しばらく休むことにした。 展示スペースに集まっていた人たちが離れていくが、私の限られた視界の中で、雅史を見つける事はできなかった。 お散歩をした後、お腹が膨れると少し眠くなりウトウトしていたのだが、水分を多く摂ったので尿意をも催す。 幸いこの時間は展示スペースの前には誰もいない。 “チャンス!” と思った私は躊躇する事なくオシッコを絞り出した。 “はぁ、これが一番気持ちいいかも” 人前で隠れず遠慮なくオシッコを垂れ流すことに快感を覚える。 変な性癖に目覚めてしまったのではないかと思いつつ、オシッコを止めどなく垂れ流した。 そんな時だった。 誰もいないはずの展示スペースの外に気配を感じた。 ゆっくりと気配のする方へ頭を動かしていくと、人影が見えてビクッと体が反応してしまった。 “うわっ、やっぱりいた!” “もうぉ、人の排泄をこっそりみないでよ!” そう思ってみたが、オシッコは止められない。 “もういい、特別に見せてあげる” そう開き直って顔を背けてそのままオシッコを続けた。 少しすると美月と伽耶さんが現れた。 という事は休憩は終わり、【マギーくんのお散歩】が始まる。 「けっこうしたわね麻衣!」 そう言いながらも木を伝った私のオシッコを綺麗に拭き取ってくれる美月。 「じゃあ、降ろすわね」 そう言うと美月と伽耶さんの2人掛かりで木から降ろされた。 休憩して元気になった私は水槽の出口へと向かう。 伽耶さんは一緒について来てくれ、美月は排泄の後処理をしてくれていた。 そして、14時になった。 本日2回目の【マギーくんのお散歩】が始まった。 子供たちの歓声と悲鳴に迎えられて【マギーくんのお散歩】が始まった。 私は存分にカメレオンのマギーくんを堪能してもらえるように、ゆっくりと歩く。 私はすぐに子供たちに囲まれて記念撮影が始まった。 1回目の散歩の時となんら変わりないが、来園者が笑顔になってくれるのを見ていると私も幸せな気分になる。 子供たちとの触れ合いと記念撮影が落ち着いてくると今度は大人たちの対応となる。 女性の時はいいが、男性の時は緊張してしまう。 それはいろいろな意味で。 大人たちの列に雅史の姿を見つけた。 他の来園者と同じように手を広げて無防備なハグで対応しようと思ったが、思わず抱きついてしまう。 大好きな雅史がすぐ目の前にいるのに抱きしめてもらえないので、自分から抱きつきにいってしまった。 それを知っているのかのように雅史もカメレオンの口の部分に顔を近づけて少しでも私との距離を詰めようとし、強く抱きしめてくれた。 心が通じ合っているようで嬉しかったが、一人のお客さんだけ特別扱いできない。 私は雅史と離れた。 その後も【マギーくんのお散歩】は続いたが、背後から雅史がついて来てくれていると思うと元気が出た。 展示スペースへ戻って来た。 やれやれといった感じで、アテンドの美月と伽耶さんは作業しながら独り言を言うようにして私に話し掛けてくる。 私は話す事ができないので、ゆっくりと動いて身振りでそれに答えた。 また、休憩の間、一眠りする。 起きたらオシッコをして体を軽くしてから、栄養補給し最後のお散歩だ。 後は展示スペースで明日まで過ごす。 初日のカメレオンでの生活は緊張する。 特に何もないのだが、久しぶりなので緊張してしてしまう。 2日目は疲れから気づいたら寝てしまい。 3日目が終われば鷺元 麻衣に戻れる。 そんな事を考えていたが、展示スペースの方を見ると今は誰もいない。 “今がチャンス!今のうちに” そう思い排泄を済ませる。 2回目のお散歩で雅史と抱き合って元気が出た私は張り切ってお散歩してしまったので、やたら喉が渇いていた。 17時になると園内放送が流れた。 『ただいまから、カメレオン マギーくんの食事タイムになります!』 だが、やって来た餌やりではいつも美月のゼリー飲料から。 毎回カメレオンになってから、ワームが先でコオロギを後にして欲しいと言おうと思いながらも言い忘れて、この順番になってしまう。 “今回こそ言わなきゃ!” そう思うのだが、結局また忘れてしまいそうだ。 そして、お散歩が始まった。 この3回目のお散歩だが、私はあまり好きではない。 なぜなら、子供たちが少なくなり大人特に男性との触れ合いや記念撮影が増えるから。 そうなってくると子供がいない事をいい事に着ぐるみとして扱う大人が増えてくるからだ。 何度か3回目のお散歩はそういった大人たちの出現で中止になった事があった。 だが、今日は少し私の気分は違う。 なぜなら、雅史がついて来ているのをしっかりと確認できたから。 必然、雅史との触れ合う時間を長く取れるし、回数も増えるかも知れない。 私は雅史にカメレオンの姿をいっぱい見てもらえると思い、ワクワクしながらお散歩に出発した。 子供たちの手前、大人たちは遠慮気味に触れ合う事が多いが、子供たちがほとんどいない3回目のお散歩は状況が違う。 しっかりとハグをしてくる大人が多い。 それは雅史も同じだったので嬉しかった。 雅史と触れ合う時だけは私からも抱きつきにいった。 お散歩を終えて展示スペースへ戻れば閉園時間まであと少し。 木に登り閉園を迎えれば今日の業務は終わりだ。 展示スペースで私を見て目を見開いて驚いている男性の姿が見えた。 “え!” その男性は雅史だった。 雅史は心配そうに私の方を見ている。 “もしかして、カメレオンの中身が私ってバレた?” そう思い、しばらく雅史を見ていたが閉園の音楽が流れ始めると雅史は出口の方へと歩いて行った。 “雅史、私が出てくるまで待ったりしないよね” そう思いながらも、この閉園の音楽を聞くと急に体が脱力してしまう。 久しぶりだったので、かなり疲れた。 美月と伽耶さんが来て、木から降ろしてくれる。 「麻衣、お疲れ様!ゆっくり休んでね」 そう声を掛けられて私は軽く腕を上げた。

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