私は着ぐるみのお仕事をしています。 でも、私が入っている事は誰にもバレてはいけません。 でも、着ぐるみを着ているのでバレる事はないと思うのですが… 。 ここは海沿いの過疎化が進む漁村。 かつては海女漁が有名だったが、今はそれも… 。 観光名所もないため、村おこしのため海女さんの着ぐるみ、所謂ゆるキャラを製作した。 もちろん、今はどの町にもゆるキャラがいるので何か特化したものががなければ、注目される事はない。 だが、この海女さんの着ぐるみ【アマリンちゃん】は注目されメディアにも取り上げられた。 ちなみに【アマリンちゃん】は海女と海を意味するマリンを掛け合わせたものらしい。 見た目は海をイメージし、髪も瞳も水色のキャラクター。 これだけなら、特に注目されることもないだろう。 では、なぜメディアに取り上げられるまでになったかと言うと、この【アマリンちゃん】は海に潜れるのだ。 そのためだろう、【アマリンちゃん】の体は、布地ではなく発泡ゴムのようなもので作られていた。 構造は分からないが背中にファスナーはなく、どうやって着たのかも分からないようになっていた。 それに体が発泡ゴムで出来ているため、【アマリンちゃん】を操演する人はかなり暑い事は容易に想像できた。 普段は観光客をお出迎えしたりする時は、白い衣装(磯着)を着ているのだが海に潜る時は違う。 なんと、【アマリンちゃん】に合わせた両面スキンのツーピースのウエットスーツに着替えるのだ。 着ぐるみだけでも相当の暑さ、加えてウエットスーツを着せられたら中の人は溜まったものではないだろう。 それでも、変わる事のない【アマリンちゃん】は笑顔を絶やさなかった。 もちろん、【アマリンちゃん】がウエットスーツを着替える姿は公開されていない。 海女漁の港に観光客やメディアの集まる中、いよいよ海女漁をする【アマリンちゃん】がベテランの海女さんたちと共に登場した。 もうすでにウエットスーツに着替えた【アマリンちゃん】はグローブとブーツも履いていた。 それに驚きだったのは、ウエットスーツのフードまで被っていること。 フードを被った【アマリンちゃん】はフードの丸く覗いたところから愛くるしい笑顔を覗かせていた。 そんな【アマリンちゃん】に大きな水中メガネ、ウエットスーツの浮力を消すためのオモリを腰に巻きつける。 【アマリンちゃん】の中の人は怖くないのだろうか? 着ぐるみの中に水が入ってきても、すぐには出してもらえない。 着ぐるみの上から全身ウエットスーツを着せられた上、まだ水中メガネとオモリを巻きつけられているのだから。 着ぐるみのまま、海の中へ沈んで引き揚げてもらうのに時間がかかったら溺死も頭を過ぎるだろう。 だが、そこは着ぐるみ。 中の人の恐怖など微塵も感じさせる事なく笑顔を振りまいていた。 いざ海女漁開始だが、船で沖へ出ることはない。 港の中でも十分綺麗で少しくらいならウニなども採れる。 そこはこの漁村の利点といえよう。 さすがに着ぐるみの【アマリンちゃん】を連れて沖まで出て、潮に流されるのはもちろん、溺れるなどの緊急時にすぐに助ける事ができないので港内でのデモンストレーションは当然といえば当然だろう。 さて、いよいよ海女さんの浮き輪と網が一緒になった道具を手にした【アマリンちゃん】は一緒に来た海女さんたちと共に海へと飛び込んだ。 基本、着ぐるみは雨で濡れる事はあっても水には絶対入らない。 水に入っている着ぐるみといえば、ウルトラマンの怪獣や特撮映画くらいだろう。 それも足が届く深さ程度であり、体がすっぽりと水に沈み込む事はない。 加えて周りに多くのスタッフが待機しているので着ぐるみの操演者は安心して操演ができる。 加えて、背中のファスナーを開けばすぐにでも助け出してもらえる。 だが、【アマリンちゃん】はどうだろう。 水の中に完全に沈むのはもちろん、ウエットスーツを着せられているので、簡単には着ぐるみを脱がせてもらう事もできない。 見ているこっちが息を呑み心配しながら、【アマリンちゃん】の海女漁を見学する。 いろいろ心配してきたが、意外にも【アマリンちゃん】は海中へ潜り、少しするとウニを手に海面へと上がってきた。 周りの人も安堵のため息をついた後、拍手が起こった。 アテンドのように【アマリンちゃん】と共に2人のベテラン海女さんが寄り添うように一緒に潜っては【アマリンちゃん】にウニやサザエ、アワビを手渡している事は明らかだったが、そんな事はどうでもよかった。 着ぐるみがウエットスーツを着て海に素潜りするだけですごい事なのだから。 【アマリンちゃん】が海面に顔を出すだけで拍手が沸き起こり、中には驚きと感動で涙を流す人の姿も見られた。 『【アマリンちゃん】の海女漁は以上です、ご覧頂きありがとうございます、次の海女漁の時間は〇〇時からです』 そんなアナウンスが流れた後、【アマリンちゃん】は海面から来てくれた人に手を振って応える。 その後、徐々に観光客もメディアも散らばっていく。 それは近くの海女小屋から美味しそうな匂いが漂い始めたから。 人々が少なくなってくると、漁船が海女漁を終えた【アマリンちゃん】に近づき網を投げ入れた。 巻き網クレーンで魚のように捕獲された【アマリンちゃん】は海水を滴らせながら、別の港へと運ばれていった。 それはかなり雑に扱われているように見えたが、着ぐるみが水を吸って重くなったと考えれば当然の処置のようにも思えた。 と、ここまでが元スポーツジャーナリストの俺、池上 大地(いけがみたいち)のローカルニュースの記事だ。 スポーツジャーナリストとして頑張ってきたが、全く目が出ず出向を命じられ地元に帰ってきた俺。 そこでこの海女漁をする着ぐるみ【アマリンちゃん】の取材に来た訳だが、俺はすっかり【アマリンちゃん】に魅力されてしまった。 観光客も他のメディアもグルメに気を引かれている中、俺は【アマリンちゃん】の事が気になり、後を追うことにした。 漁船とはいえ、徒歩で追いかけるのには厳しいものもあったが、そこは地元。 目星を付けた漁港へ車で先回りした。 俺の読み通り【アマリンちゃん】は網で捕獲されたまま、その漁港へと入って来た。 まだ海水を滴らせたままの【アマリンちゃん】が陸に水揚げされると、村役場の人らしき数人の人が【アマリンちゃん】に駆け寄る。 少し離れたところでその様子を窺う。 年配の男性は【アマリンちゃん】を運んで来た漁師さんに手を挙げて挨拶している。 2人の女性は【アマリンちゃん】の水中メガネを外したり、腰のウエイトを外している。 それが済むと若い男性2人に支えられながら集会所横に設置されたテントへと入っていった。 テントの中を覗きたいが、ヅカヅカと入っていくわけにもいかず、引き続き様子を窺う。 少しすると【アマリンちゃん】が着ていたフード付きの人が着るものとは違う明らかに大きなウエットスーツの上半身側とグローブとブーツを持った女性がテントから出て来た。 そして、すぐ横にある大きな水の張った浴槽にウエットスーツとそれらを放り込むと、またテントの中へと戻って行った。 【アマリンちゃん】はウエットスーツを脱いだんだと思い、その姿を想像してみる。 ウエットスーツの下は裸なのだろうか? 着ぐるみなので裸でも問題ないと思うが、水着を着ているとすると、ワンピースタイプなのかビキニなのかを想像してみた。 そんな想像をしている事からも俺は【アマリンちゃん】にすっかり心を奪われている事を実感した。 少しすると、若い男性2人と年配の男性がテントから出て来て、隣りの集会所へと入って行った。 それからまた少しすると先ほどの女性が明らかに大きなウエットスーツを持ってテントから出て来た。 そしてその手には光沢のある水色の大きなワンピースの水着も持っていた。 着ぐるみ、しかもウエットスーツを着ているのにワンピースの水着まで着ているとは。 細部まで拘りが見えて思わず感心してしまう。 ワンピースが水色なのは、おそらく【アマリンちゃん】のイメージカラーだからだろう。 今、【アマリンちゃん】はおそらく裸だろう。 このタイミングでは突入し難い、一緒にいた男性3人が出て行ったのに男の俺が突入するのは違うような気がして、もう少し様子を窺う事にした。 しばらく様子を窺っていたが全く動きがない。 思い切って突入しようかと思った時だった。 2人の女性がテントから出て来た。 しかも、【アマリンちゃん】の着ぐるみを2人掛かりで持って出て来た。 そして、また水の張った浴槽へ放り込むとそのまま集会所へと入って行った。 【アマリンちゃん】の着ぐるみ脱いだんだ。 水の張った浴槽に浸けているのは塩抜きのためだろう。 【アマリンちゃん】の着ぐるみにももちろん関心はあるが、それよりも俺の関心は中の人にあった。 ゆっくりとテントへ近づき、さっと中へ入った。 そこで俺は驚く光景を目にした。 【アマリンちゃん】の着ぐるみの中の人も、海女さんが着る両面スキンのウエットスーツを着ていたのだ。 ウエットスーツのフードを外した下には目と口しか開いていないマスクまで被っているようで、それを脱ごうとしていた。 “ラッキー、今なら中の人の顔を拝める” そう思い、【アマリンちゃん】の中の人がマスクを脱いだ時点で声を掛けた。 「突然すみません、取材いいですか?」 当然、その声に驚いて振り向いた中の人の顔を見て、俺は目を白黒させて驚いた。 【アマリンちゃん】の中の人の髪色は水色、そして可愛く整った顔だが瞳は水色だったから。 その姿は、ゆるキャラ【アマリンちゃん】をリアルにしたような姿。 「キャャアー!」 大きな悲鳴を上げたリアル【アマリンちゃん】の口が全く動いていないのをしっかりと見た俺は気づけばテントから飛び出し走り出していた。 “え、え、え、どういう事?” “【アマリンちゃん】の中に、リアル【アマリンちゃん】がいて、そのリアル【アマリンちゃん】も着ぐるみで… ” 俺は動揺しながら、足がもつれながらも走ってが逃げた。 背後から「待てー!」という声を聞きながら必死で。 見てはいけないものを見てしまったのだろうか。 今の俺にはそれを考える余裕もなかった。 なるほど、そういうことか。 良からぬ訪問者も私の顔を見ようとするわけね。 私は一人納得して、午後からの【アマリンちゃん】の海女漁に備えて、ウエットスーツを脱いで水色の光沢のあるビキニ姿で体を休める。 ただ、リアル【アマリンちゃん】は脱ぐと後々大変なのでそのままの姿で。 つづく