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1.陰キャな彼女と陰キャな俺 【予想外編】

大学卒業し就職して5年が経過した。 30歳が近づく中、転職を考えている俺、輪田 稔(わだみのる)は思い切る事ができずにいた。 理由は陰キャなことも災いして、一歩を踏み出す事ができずに現状に至っている。 同期入社は10人ほどいたが、早々に辞めてしまい今は事務員として勤めている縁川 百合子(えんがわゆりこ)だけになってしまった。 彼女もまた陰キャ女子で、仕事を辞めるに辞められない俺との共通点を抱えていると俺は思っている。 なぜ、縁川の話をしたかと言うと、今俺は彼女を待っている。 別に付き合っている訳ではなく、会社内で持ち込みの飲み会をしたのだが、すっかり遅くなってしまったので、上司から彼女を送るように命じられたから。 会社内で持ち込みで飲み会をするところからも分かるように、正直大した会社ではない。 後輩も入ってくるのだが、すぐに辞めてしまい未だに俺と縁川は会社で一番の若輩者のままだ。 当然のように会社内で行った飲み会の後片付けを俺と縁川に任せて先輩や上司は帰ってしまった。 俺にはさらに縁川まで押し付けて。 終電の時間が迫る中、俺は1階のロビーのソファーで座って縁川を待っているのだが彼女はなかなか降りてこない。 うちの会社自体はショボいのだが、大きなテナントビルの余った一角を借りているため、側から見ればかなりいい会社に勤めているように見える。 そして、あまりの狭さに女子更衣室を確保できず、縁川は1人で屋上に近い倉庫を更衣室として使っている。 彼女はそれを知られるのが恥ずかしく誰よりも早く出勤し、誰よりも遅く帰る事を先ほど後片付けの際聞いた。 そんな彼女の様子がいつもと違い俺に対して好意を抱いてるように感じた。 陰キャ同士付き合ったらと考えた俺はその考えを打ち消すように頭を横に振った。 俺は今すぐにでも帰りたいと思っていたのだが、もし彼女を送らずに1人で帰って、彼女に何かあったらと思うと結局帰る事ができなかった。 そろそろ、家の最寄り駅までの終電がなくなってしまう。 手前の縁川の駅の近くでネットカフェで一晩過ごす覚悟を決めた。 明日は土曜で特に用事はない、日曜に予定はあるがそこに影響する事はないだろう。 しかし、なかなか降りてこない縁川に少し苛立ちを覚え始めた時だった。 エレベーターが1階に到着を知らせる音がした。 “やっと来たか!” そう思い立ち上がろうとしたのだが、エレベーターから歩いてくる人を見て俺はまた腰を下ろした。 エレベーターから降りてきたのは、綺麗なロングヘアーに黒光りした高級ダウンコートを着た女性。 足下は足にピッタリと張り付くような黒光りしたニーハイブーツ、ヒールの高さは15cm以上あるピンヒールを響かせながら歩いてきたのだ。 ダウンコートのファスナーを閉めていないので、歩くたびにダウンコートの中のニーハイブーツとレザーのタイトなミニスカートの間から覗く絶対領域の白い太ももに目が釘付けになってしまう。 俺のフェチが詰まったその女性の姿から目を逸らすのも難しかった。 だが、ずっと見続けていて不審に思われても困るのでスマホを取り出し視線を落とした。 『カツ、カツ』 と小気味のいい音を立てて足音が近づいて来る。 近くでもう一度見てみたいと思ったが、間近でジロジロ見るわけにもいかないので、彼女が俺前を通り過ぎ、やり過ごしてから後ろ姿をじっくりと拝ませてもらう事にした。 ドキドキしながらその女性が通り過ぎるのを待つ。 スマホ画面はニュースを開いていたが、そんな文字は全くといっていいほど頭に入って来ない。 その女性の魅力的なブーツ姿を俯き加減で見ながら、その素敵な姿が通り過ぎるのを待っていたのだが、その女性は通り過ぎる感じではなく俺の方へと向かって来る。 そして、俺の目の前で止まった。 陰キャな俺がジロジロと見ていたのがバレたのか? 俺が気持ち悪いので抗議するために俺の前で立ち止まったのか? はたまた、警備員を呼んで来るまでの間、俺を足止めしようとしているのだろうか? いろいろと悪い想像だけを巡らせてしまう。 俺の目の前で動かないその女性に流石に気づかないフリをし続ける事ができないので、俺は意を決して顔を上げた。 顔を上げるとその女性は俺を見下ろしていた。 そして、ニコッと笑った。 俺のフェチ心をくすぐる格好のその女性は綺麗であり、可愛かった。 あらぬ疑いを掛けられ、畳み掛けられる前に先手を打とうと俺から声を掛けた。 「何ですか?」 「ごめんね輪田くん、お待たせ!帰ろ!」 その言葉に張り詰めていた緊張が一気に解けた。 「えー!縁川さん?」 「あっ!私の格好にビックリした、するよね、いつもの陰キャと全然違うから驚くよね」 「いやっ、あのー!凄く素敵だったんでビックリしたんだ」 「もうぉ輪田くんたら、そんなお世辞を言って」 会話している時の話し方も伏せ目がちな仕草も間違いなく俺の知る縁川さんだった。 唖然としている俺に縁川さんが言った。 「ねぇ早く帰らないと、終電なくなっちゃうよ」 会話もそこそこに急いでビルを出た。 縁川さんはビルを出る前にロングのダウンコートのファスナーを閉めたので、絶対領域はもちろん、黒光りしたニーハイブーツも目立ちにくくなった。 駅へ急ぎながらも、どうしても今まで女性として意識した事のなかった縁川を見てしまう。 「私の格好、変かなぁ?」 縁川さんは俺があまりにジロジロ見るので、気にしていたようだった。 「いやっ、あのぉ、その、俺が好みの格好なので、どうしても目がいって見てしまうんだ、ごめん」 そう言うと縁川さんは笑顔で首を横に振った。 「私、陰キャな自分を変えたくて少し派手目のこんな格好してみたんだけど、それでも中身までは変えられなく… 、恥ずかしいから朝も早く出勤して帰りも誰よりも遅く帰ってるんだ」 そう言った後、縁川さんの顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。 そして、縁川さんは口を開いた。 「輪田くんに気に入ってもらえて良かった」 舌を出してそう言った縁川さんがもの凄く愛おしくなった俺は言った。 「縁川さん、手を繋いでもいい?」 「えっ、あっ、うん!」 縁川さんの顔はさらに赤くなり、俺と手を繋いだ。 そこからはお互い、ギュッと手を握ったまま会話はなく駅へと向かった。 つづく

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