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4.陰キャな彼女と陰キャな俺 【怪獣中身編】

千載一遇のチャンスにどうしても、ガルベロスを操演している女性の顔を見てみたくなった俺は着ぐるみを触る振りをしながらガルベロスの背後へと回った。 少し強引だがガルベロスの背中から尻尾へと伸びる分厚くなった蛇腹の様になった部分を触りながら、隙間に指を差し入れた。 この下にファスナーがあって、着ぐるみを脱着している事は見当がついている。 案の定、隙間に入れた指からはマジックテープの感触がした。 だが、かなりゴツいマジックテープのようで簡単には開かない。 さすがにガルベロスの中の人も背中を開けようとしたのに気づいて手をバタバタして抵抗を見せたが背後に回った俺には届かない。 そんな抵抗を見せるガルベロスに俺は言った。 「俺、着ぐるみフェチで着ぐるみの中がどうなっているのか一度でいいから見てみたいんです」 俺の言葉にガルベロスの動きが止まった。 「助けてもらったので… 、少しだけですよ」 そう言うとガルベロスは少し前傾姿勢になり、背中を開けやすくしてくれた。 改めて指を差し入れて、マジックテープを外していく。 かなりしっかりとくっついているので、これならパーク内を歩いている時でもそう簡単には着ぐるみから引き摺り出される事はないと思った。 どうにかマジックテープを外したがファスナーはすぐには出てこない。 分厚いウレタンに切れ目があり、それを掻き分けると普段見ることのないゴツい大きなファスナーが現れた。 怪獣という未知の生物だったのが、一気に着ぐるみへと近づいた。 俺は興奮しながら、禁断のファスナーに手を掛けた。 ゆっくりと下ろしていくのだが、ゴツく大きなファスナーのため簡単には開かない。 俺が力を込めると、ガルベロスの中の女性も前傾姿勢に力を込めて協力してくれてファスナーが少し開いた。 一度、ファスナーが開き始めると、あとは順調に開いていく。 同時に熱気とゴムのような匂いと汗の臭いが吹き出してきた。 ガルベロスの背中が大きくパックリと開いたのだが、中の女性の背中は見えない。 中身は真っ暗、まるで空洞になっているように見えた。 夢でもみているのかと思い、着ぐるみの中に手を差し入れるとすぐに温かいものに触れて驚いて手を引っ込めた。 目を凝らしてよく見ると、鈍く光る黒い肌のようなものが見えた。 驚いて固まってしまっている俺の前で、ガルベロスの中から黒いものが出てきた。 だが、俺の頭の中で、これは黒い全身タイツを着て、同じく黒い面下を着けているのだと理解した。 しかし、ガルベロスから頭と上半身を出した中の女性はラバーのようなものに覆われていた。 そういえば、さっき着ぐるみの中に手を差し入れた時、ラバーを触っているような感触がした。 「着ぐるみの中身はこんな感じです」 そう言って、さっきまで女性の頭が入っていた着ぐるみの内側を俺に見せてくれた。 着ぐるみの中は真っ暗でその先に小さな穴が2つとスリットがあった。 小さな穴2つは覗き穴で、スリットは口の辺りにあるので呼吸用だろう。 僅かな視界に加え、このガルベロスは口の中から覗くので視界はさらに狭ばまり、この状態でのアクションができるのは凄いと思った。 だから、視角の外からの攻撃はもろに受けてしまうことも多く、捻挫や怪我も絶えないのではないかと心配になった。 「もうちょっと、近くで見てもいいですか?」 そう言ってガルベロスの内側からどう見えるているのかを体験させてもらう。 だが、目的はそれだけではない。 振り返りざまに彼女の顔を見ようと思っている。 「へぇ、こうなってるんだ」 俺は普通に感嘆の声を上げた。 日常生活で着ぐるみだけでも珍しいのに、本格的な怪獣の中からの景色なんて、そうお目に掛かれるものではない。 すぐ横に彼女の顔がある。 少し振り向けば彼女の顔を確認できるのだが、距離が近過ぎて緊張から体が強張ってしまう。 ガルベロスを操演する彼女の顔を見ていいものかと今頃になって躊躇し、心臓の鼓動が分かるほどドキドキしてきた。 そんな俺の横でラバースーツを着ている説明を始める彼女。 着ぐるみは洗えないのでカビが生えたり、異臭が凄かったりするので衛生面を考えて、最近ではスーツアクターの体力的に負担になるがラバースーツを着ているらしい。 「なるほど!」 と相槌を打ちながらも俺は彼女の顔を覗き見るタイミングを伺っていた。 そして、相槌を打ちながらタイミングを見計らい彼女の顔を見て俺は固まってしまった。 なぜなら、彼女の顔が黒いラバーで覆われた肌の露出の全くないノッペラボウだったから。 「やっぱり、暑かったみたい」 「着ぐるみ脱いだら凄く気持ちいいし、空気が新鮮!」 そんなくぐもった彼女のくぐもった声を聞きながら思った。 だからガルベロスから聞こえてくる声があんなにも小さくかなりくぐもった声だったのだと。 そんなノッペラボウの彼女と見つめあっていると、突然彼女が俺の首に腕を絡ませてラバーマスク越しにキスをしてきた。 ラバー越しにお互い絡み合えない舌をラバーを舐める形で補った。 「今日は助けて頂いてありがとうございました」 くぐもった声で彼女はそう言うと、恥ずかしかったようですぐに着ぐるみの中へ頭を埋めて腕も通した。 ラバー越しに彼女の柔らかな唇の感触とゴムの味が口に残っていた。 唖然として動けなくなった俺を置いて着ぐるみへと戻った彼女が言った。 「アテンドスタッフが来たみたいだから背中を閉めて、あとは私が説明するから」 小屋の窓からスタッフらしき人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。 俺は慌てて彼女の言う通りにガルベロスの着ぐるみのファスナーを閉めて元に戻した。 それから程なくして小屋の扉が開いた。 ガルベロスはすぐに立ち上がると、口をスタッフに近づけて説明をしているようだった。 「この度はガルベロスを助けて頂きありがとうございました」 そう言って頭を下げた。 俺に礼を言うとすぐに無線でどこかへ連絡し、少しすると別のスタッフが台車と大きな袋を持って現れた。 台車に置かれた大きな袋へ入っていくガルベロスは入る間際に俺の方に口を向け、そして手を振り、そのまま袋の中へと消えていった。 袋の口が、しっかりと閉められるとそのまま台車で外へ運ばれて行った。 俺はもう1人のスタッフから、次回の入場券をお礼としてもらった。 思いがけない出来事ばかりで俺は袋に詰められて台車で運ばれていくガルベロスを見送ることしかできなかった。 俺はしばらく小屋の前から離れられる事ができずに袋詰めされて運ばれていったガルベロスが見えなくなった後も見送っていた。 つづく

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