「えっ!これって脱ぐことできるんですか?」 不安そうにスタッフにそう聞いたのは、今日の撮影で私、早乙女奈々(さおとめなな)と共に都市伝説の黒い塊にされる矢吹 志穂(やぶきしほ)ちゃん。 先ほどまで全裸で頭陀袋に入って運ばれてくるシーンを撮影したばかり。 頭陀袋で肌が少しチクチクする上にラバースーツを着るための潤滑剤を塗られて袖を通した。 「鼻にチューブを挿して、口はこれを咥えてマスクを被ったら、背中のファスナーをロックして接着剤でファスナーを完全に隠してしまいますね」 そう言われて不安になったのは私だけではなかった。 私より気の強い志穂ちゃんがスタッフに食って掛かっていた。 私たちは同じ事務所の駆け出しの女優。 仕事がなくて事務所から紹介され巡ってきたドラマの仕事に飛びついたのがこれだった。 少しでも顔が出れば… 。 そう思ったのだが、顔がカメラに映ったのは頭陀袋の中の一瞬だけ。 しかも視聴者はおそらく私たちの顔ではなく、裸の胸に目がいったに違いなかった。 私の目の前で志穂ちゃんが黒光りしたゴム人間になってしまった。 “私もあんな姿になるの?” そんなことを考える暇も与えず、スタッフは私の鼻の穴に呼吸用のチューブを突き刺し、口いっぱいにペニスギャグを押し込んできた。 突然口の中に押し込まれたペニスギャグが苦しくて吐き出そうとしているうちにマスクを被せられ、背中のファスナーが閉められてしまった。 ファスナーはロックされるとツマミが外され、その上から接着剤が塗られるとファスナーを隠すようにラバーが貼り付けられた。 慌てて背中に触れてみたが、ファスナーの感触はなく、ラバーを撫でる感覚しか指先からは返ってこなかった。 そんなゴム人間にされるカットを撮った後、ラバーのパンストのようなモノを履かされていく。 それが終わると私が下、志穂ちゃんが上になりシャツのようなモノを着せられていく途中で、それらを身に付けると私たちはくっついてしまうことに気づいた時には遅かった。 私は志穂ちゃんのお股に顔を押し付ける形となり、私のお股に志穂ちゃんが顔を押し付ける形となってしまった。 あたふたしながらも脱ごうとする私たちをスタッフが制止し撮影が始まる。 私と志穂ちゃんはパンストもシャツも接着剤で完全に脱げなくされてゴムでできた8本足の奇妙な生き物となってしまった。 もう自分たちの力ではどうすることもできなくなった私たちは撮影を円滑に済ませて解放してもらうしか術がなくなってしまった。 それにしても顔が完全に隠れてしまうなら、人ではなく人形でも良さそうなモノだが監督の拘りなのだろうか。 満足に自分の思うように動けなくなった惨めな姿となった私と志穂ちゃんはなんとかしようと動いてみたが、立ち上がることはもちろん床を這いずることもできなかった。 撮影では眠ったままの私たちの拘束が続く。 幾重にもベルトを体に掛けられては縛られていく。 そんなことをされたら接着剤がしっかりとくっついて私と志穂ちゃんはますます離れられなくなってしまうと思い、不安だけが大きくなっていく。 それでも眠って動かない演技を続ける他、私たちがこの状況から解放される術はなかった。 ベルトで志穂ちゃんとくっつけられておわりかと思っていたのだが、今度は袋へ詰められ始める。 しかも、鼻の穴の中まで突っ込まれたチューブを弄られるものだから気持ち悪くて仕方ない。 だが、幸いにも鼻のチューブが弄られるのはすぐに終わった。 少し息苦しさを感じつつ、やれやれと思っていると今度はけたたましい音が聞こえてきた。 何事かと私も志穂ちゃんも体を震わせたが、それが何かすぐに分かった。 音の正体は掃除機。 なぜ分かったのかというと、袋の中の空気がどんどん抜かれて真空パックされていったから。 私と志穂ちゃんの体は今まで以上に密着し、志穂ちゃんの鼓動を感じるほどに。 満足に動けなかったのが、ほぼ動けなくなってしまった。 そんな私と志穂ちゃんの体が持ち上がる。 慌てて体を動かそうとしたが動かせない。 冷たい台の上に置かれた私たちは何かされるのを待つことしかできなくなっていた。 『ウィーン』 機械音が聞こえたかと思うと、ピシッと体に痛みが走った。 “痛い!” そう思ったが、私の口いっぱいに押し込まれたペニスギャグが私の言葉を奪っていて声も出せなかった。 何をされているのか分からないが、とにかく体に痛みを感じた後、ベルトのような部分的な締め付けを感じる。 それが一度で終われば良かったのだが、体を少し動かされては何度も繰り返される。 眠っている演技をしなければならないが、ピシッと電気のような痛みと共に体が自然反応してしまう。 そんな痛みの恐怖から小刻みに体が震えてしまう。 それは私だけでなく志穂ちゃんも同じだった。 幸いカットは掛からずにそれがかなりの回数繰り返された後、ようやく止まった。 それでもいつまた来るとも分からない痛みに私も志穂ちゃんも体を強張らせたままだった。 冷たい台から降ろされて初めて痛みから解放されたのだと思った。 これで流石に終わりだろうと思った。 なぜなら、私も志穂ちゃんもかなり体が熱くキツくなってきていたから。 別の台へと移されて解放されるだろうと思っている私の思いを裏切るように『ギシギシ』と音を立てて、また私と志穂ちゃんにラップのようなモノが巻きつけられ始めた。 “もうここまでしなくても!” そう叫びたかったがそれもできない。 私と志穂ちゃんはただのモノとして扱われ、ラップを巻き続けられた。 暑さは尋常じゃなく、体温は全く逃げず籠るばかり。 汗は滝のように流れ、ラバースーツの中は自分の汗でかなり不快になっていた。 ラップを巻き終わったのか、『ギシギシ』という不快な音が止んだ。 でもまだ、解放されないような気がする。 そんな私の直感が的中してしまう。 また、何かで全身を覆い始めた。 もう微かな期待もしなくなっていた。 “もう、好きにして… ” そんな思いだけが届いたようで、何度も何度も体を覆われていく。 自分が一体どんな姿になってしまったのかすら想像がつかない。 何度も何度も体を覆われた後、微かにゴミ袋を広げるような音が聞こえ、私と志穂ちゃんはそこへ詰められた。 駆け出しの女優の私たちなんて、ただのゴミなんだ。 そんな風にさえ思えてくる。 人に見えないモノにされた私たちはこれからゴミとして捨てられるんだ。 そう思っていると車に積み込まれた。 “やっぱり!これから捨てられるんだ” そう思うと涙が出てきた。 車が揺れるたびにゴミと化した私たちは左右に振られる。 タイヤの音から外は雨が降っているのだろう。 自分たちではどうすることもできずに左右に振られ壁にぶつかるのを何度も何度も繰り返した後、車は停車した。 私たちが車から降ろされるとゴミ袋に当たる雨粒の音が大きくなった。 湿気の混じった雨の匂いの中にゴミの臭いが感じられる。 私たちはそのゴミの中へと押し込まれた。 雨粒の音の中に車のドアを閉める音が聞こえたかと思うと、エンジン音が遠ざかっていった。 “ウソウソ、本当に捨てられたの?” このままじゃあ、ゴミ収集車が来て私たちは他のゴミと共にぐちゃぐちゃに潰されてしまう。 そんな恐怖を煽るように雨が強く降り、ゴミ袋を強く叩くのだった。 雨が強く打ちつける中、恐怖で体の震えが止まらない。 “ドラマの撮影のはずなのに… 、どうして!?” 雨音の中時折通り過ぎる車の音に耳を傾ける。 ゴミ収集車でないことを願って。 1台、また1台と車が通り過ぎていく。 その度に声は出せないが、精一杯足を動かした。 だが、そんな私に気づいて止まってくれる車は1台もなかった。 気づけばあれだけ暑かったはずなのに、屋外で雨に打たれ、恐怖におののいたせいか体温が下がってきていた。 “寒い…” 志穂ちゃんと体を接触させている部分だけはなんとか温かさを感じられた。 1台の車が通り過ぎたが、パックして戻ってきた。 そして人が近づいてきて、私たちのゴミ袋に触れた。 私の足に触れると体が持ち上がった。 “ヤッター、助けてもらえる” その時は単純にそう思った。 私と志穂ちゃんはまた車に載せられ、モノのように左右に振られる。 雨に打たれていない分、少し体が温かくなった気がした。 少し走って車は止まった。 そこで台車に載せられて運ばれていく。 “これって本当に撮影?” そんな不安に駆られながらも、私も志穂ちゃんも声を出すことも体を動かすこともできない。 台車から降ろされるとゴミ袋が開けられた。 そこからは雑に私たちを拘束していたモノが取り払われていく。 少しずつ動けるようになってきたので、私たちも誰かも分からない人に協力する形で体を動かした。 体を動かせるようになったのは、真空パックが解けてきたからだろう。 ただ、私たちが体を動かすと決まって、拘束を解いてくれる人の手が止まった。 ラップまできたのが『ギシギシ』という音で分かる。 不快だったラップの『ギシギシ』という音も今はもう少しだよと言ってくれているように思えた。 そんな時だった。 今まで息苦しさはあったものの普通に呼吸できていたのが急に呼吸ができなくなった。 焦って体を激しく動かすが、呼吸ができない。 だがしばらくすると呼吸ができるようになると空気を貪るように思いっきり吸い込んだ。 いつ呼吸を妨げられるかも分からない私は身構えて、それ以降は動けなくなった。 だが、それは一度きりで以降は呼吸を妨げられることはなく、ラップも毟り取られているようだった。 ラップに続いて、体に食い込むほどのベルトも外された。 止まっていた血が開放されたように急に体に血が巡るのを感じる。 私たちはついに真空パックからも解き放たれた。 そして革のベルトも外された。 “ヤッター!後はラバースーツだけだ” 私だけでなく志穂ちゃんもそう思ったに違いない。 ところがそこからは私たちの体を転がして観察している様子。 “そんなのいいから早く脱がせて、お願い!” そんな私たちの思いは届かず、またラップの『ギシギシ』という音が聞こえてきた。 私たちの体は再びラップでグルグル巻きにされていく。 『ギシギシ』という音が不快で仕方ない。 また、体が動かしにくくなった上から、ラップの上からテープの様なものまで巻き始めた。 そしてゴミ袋へと詰められたのだろう、息苦しくなった。 私たちはまた車に積み込まれる。 “えっ、ウソウソ、ヤダァー!” 私たちはモノの様に扱われ左右に転がりながら向かう場所が分かった。 ゴミ置き場。 また、ゴミ袋に当たる雨粒の音を聞きながら私たちはゴミの中へと押し込まれた。 “私たちは助からないの?” そう思うと涙が止まらなくなった。 「ハイ!OK お疲れ様!」 今まで静かだった周りが急に騒がしくなった。 “良かった、ドラマの撮影だった” 急に緊張の糸が切れて体に力が入らなくなった。 おそらくだが、ゴミ袋ごと車の中に運び込まれたのだろう。 スタッフの手でゴミ袋が破られて、手際良くテープとラップが外されていく。 またラバースーツになった私と志穂ちゃん。 “とにかく接着剤を剥がして自由にして欲しい” そう思っていると、スタッフの声が聞こえてきた。 「全身を網目になるように縛って下さい」 「その後で木枠も縄で縛って動けなくして下さい、ただし肘掛けに足を入れますのでそれぞれ片足だけは動く様にお願いします」 そんな会話の後、体が少し持ち上がり縄で縛られていく。 「お姉ちゃんたちも大変だね、でも拘束されるの好きなんだろ」 そんな男性の声を聞きながら私たちの体は縛られていく。 キツく縛られているはずなのにそれほど痛くない。 体にはそこそこ食い込みを感じるのだが。 これが緊縛師なのだろうと感心してしまう。 スタッフが言っていた木枠と一緒に縛られた私たちは動けなくなってしまった。 そのまま何かに押し込まれていく。 「クッションを入れて、座面をしっかりと縫製すれば革張りのソファーのできあがりです」 そんなスタッフの声の後、私たちは車の中から運び出される。 雨粒がソファーの座面の革を打つ音を聞きながら運ばれていく。 “もう嫌っ!私は粗大ゴミじゃない!” 「せーの!」 掛け声と共に体が浮いたかと思うと、ゴミの中へ落ちた。 ここは粗大ゴミ置き場。 使われなくなった黒い革張りのソファーが捨てられている。 車が通るたびにソファーの肘掛けが動く。 都市伝説 生けるソファーの撮影が始まった。 おしまい