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同級生SS(全文)

※注釈:★★★以降がサンプルには掲載していなかった文章です。 授業中。 既にチャイムは鳴り、教師が授業を開始して約20分。 教室の中では教師の声と黒板にチョークで文字を書く音が響く傍ら、時折生徒同士の声を落とした会話が繰り広げられていた。 そんな中、後ろのドアがゆっくりと開けられ、そこから身を屈めながらそろりそろりと教室の後ろを移動する一人の女子生徒の姿があった。 彼女は教室前方にいる教師に見つからないよう、静かに自席を目指しているようだ。 「ん、小寺ーお前今日も遅刻だからなー」 教卓前で授業を進めていた若い女性教師が、黒板に板書しながら告げる。 「へっ!?」 唐突な言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔して、その場でパッと身を起こしてしまう。 立ち上がったその女子は、天井に届くのではないかというくらいに背が高い。 しかし周囲のクラスメートは今更そんなことに驚く様子もなく、皆してどっと笑い声をあげた。 温かい笑いの中心にいるその長身女子は、頭の後ろをポリポリとかきつつ苦笑いしながら着席する。 これが俺の…一応幼馴染になる、小寺小鞠(こてらこまり)だ。 氏名に小さいという字が二つも入っているが、デカい。とにかく身長がデカい。 そもそもこの学校には長身の女子生徒が多い。1年生でも170センチ超えはザラで、上級生も含めると180センチ超えも珍しくはない。 そんな環境にあって尚、こいつの背丈は文字通り頭一つ以上抜けている。 流石に冗談だろうが、1年生にして200センチを超えているのではないかと噂にもなっている。 一方我々男子はというと…俺たち1年の周りでも170センチを超える奴なんて数えるくらい。俺に至っては…160という数字すら夢のまた夢に思える背丈の持ち主。 いやいや、高校生ならまだ伸びる…はず。 小鞠とは小学校に上がる直前くらいまで家が近所で、よく一緒に遊んでいた。その後、彼女が父親の仕事の都合で県外へ引っ越すことになってしまい、小中学校の9年間は別々に暮らしていた。 そして偶然にも、数年ぶりにこの街に戻ってきたアイツと今年同じ地元の高校で再会したというわけだ。 最初は背の高い女子たちの中でも一際大きい女子がいると注目の的にはなっていたが、それがまさか小鞠とは思わなかった。 小鞠と俺が小さい頃はそれはもう名前の通り小柄で人見知りで、他の誰かと一緒に遊ぶ時もいつも俺の後ろに隠れていた。 それが9年後には外見だけでなく性格も変わっていた。明るく社交的で、よく周りに人が集まっている。いわゆるクラスの人気者。 まあ確かに規格外の身長ではあるが、顔は良いのだ。年の割にはやや童顔で、人懐っこさを表している。部活は水泳部で、まああの体格ということもあり実力の高い、期待の新人だという。 そこに俺の後ろで恥ずかしがっていた小鞠の姿はもはや無かった。 実は入学して数日後の朝に、たまたま下駄箱のところで鉢合わせたことがあり、軽く言葉は交わした。 ただ、その時は頭の位置が下駄箱の高さを軽く超える小鞠の印象が強過ぎて、話したいことの半分も話せなかった。 向こうから気さくに声をかけてくれたのは覚えている。俺の方が勝手に無駄な遠慮をしてしまったのが原因だろう。 微妙な距離感のまま、会話らしい会話はせずに数か月が経ち、1年生としての学生生活も終わりに差し掛かろうとしていた。 ある日の放課後、校門を出ようとしたあたりで体操服を忘れていることに気付いた俺は教室に引き返していた。面倒くさいが、ここで持ち帰るのをサボると母親にどやされる。その面倒に比べたらまだマシだ。 教室のドアを開けると、小鞠が自分の席で何か書いている。他には誰もいなかった。 「ん、どしたの?」 こちらに気付いた小鞠が尋ねる。 「あ、ああちょっと忘れ物」 声が上ずってしまう。何緊張してるんだ。 それにしても…。 学校の椅子や机と比べるとやはり小鞠の大きさが際立つ。長い脚を窮屈そうに折り曲げて何とか机の下に収納している。机の高さが低過ぎる…というよりは小鞠の背が高過ぎるというのが正確だろう。 「何書いてるんだ?」 「学級日誌。今日日直だから」 ページを開いたまま日誌の背表紙を見せる。 「大変そうだな」 授業の大まかな内容とかその日の総括的な感想とか、俺にとっては色々と書くのが面倒な印象しかない。 それから大きな体を曲げて小さな机に向かう姿が大変そうと思ったのが、少し。 「そうでもないよ。もう書き終わったし」 そう言うと両腕を上にあげて背中を反らせて伸びをする。 その際にベージュ色のベストに包まれた、大きな膨らみがぐぐっと強調される。特注サイズであろうベストが限界まで引き伸ばされる。 男子の間では既に有名だが、小鞠が規格外に大きいのは身長だけではない。体育の授業でマラソンがあった時にはそれはもう大変だった。 結局一部女子たちの殺意の籠った鋭い視線のおかげで、騒ぎはすぐに沈静化されたが…。とにかく思春期男子には目に毒。こいつはもっと自分のそういうところに自覚を持つべきだ。 「それにしてもさ」 俺が気まずそうに目をそらしていると小鞠が話しかけてきた。 「ん?」 「まさか高校で再会するなんて夢にも思わなかったね」 「…それはこっちの台詞だ。最初会った時はびっくりしたぞ」 「えへへ、まあそーだよねー。私、背もすっごく伸びたし。挨拶しても分かるかどうか、不安だったんだよね」 小鞠がまっすぐこちらを見て言う。こいつもそういう風に考えていたのか。 「まあ9年ぶりだしな。お互い変わるさ」 「んー?でもさ…」 長い脚をスクっと伸ばして立ちあがり、こちらに近づいてくる小鞠。 俺からすると一歩一歩が大きく、敵意が無いとわかっていても威圧感が凄い…。 小鞠の高さに圧倒されていると、俺の近くに立った小鞠が尋ねる。 「…縮んだ?」 嘲笑するでもなく、ただただ純粋な疑問。 「お、お前がデカくなってるんだろ!この2メートル女!」 つい言ってしまった。カチンときたとは言え。これは不味いかもしれない。身長の事になるとムキになってしまう悪い癖。恐る恐る相手の反応を待つ。 「2メートルなんてとっくに超えてるよ~」 まるで何でもない事のように返す小鞠。 「なっ…!?」 予想外の返答に言葉に詰まる。軽いパニックに陥っていると、小鞠が言った。 「だったら確かめてみる?」 「え?」 ★★★ 場所は変わって保健室。鍵は空いていたが、保健の先生はいなかった。 小鞠は、身長測る位ならいいでしょーと言ってずかずかと保健室のドアをくぐるようにして入っていった。 そして2人して身長計の前に立つ。健康診断の時くらいにしかお世話にならない物だ。その真横に小鞠が移動する。 「ね?」 「いや、ね?って言われても…」 「んー、じゃあこうすればわかるかな?」 そう言うと、俺の脇の下あたりに手を添えて、軽々と自分の目線の高さまで持ち上げる。言うなれば赤ちゃんとかにやる「高い高い」のポーズに近い。一瞬何が起こったかわからず思考がフリーズする。そんな俺を気にもかけず、小鞠が続ける。 「ほら、この身長計って2メートルまでしか計れないんだよ」 どうにか冷静さを取り戻し、身長計の目盛りを見る。確かに表記は200cmまでだった。 「去年の4月に身体測定した時はギリギリこれでも測れたんだけどねー」 「と、とりあえず早く降ろしてくれ…」 もう小鞠がデカいのは十分わかった。こんなところ誰かに見られたら大変だ。どんな噂を流されるかわからない。 「あっごめんね」 そう言いながら俺の身体を床に降ろしてもらう。俺が小柄とは言え、高校生男子を両腕の力だけで持ち上げるなんて…。 並外れた小鞠の力を思い知らされながらも、身長計の横に並ぶ小鞠を改めて見上げる。 確かにほんの少しではあるが小鞠の方が大きい。デカいデカいとは思っていたが、本当に2メートルを超えていたなんて…。 決して太っているわけではない。水泳をやっているおかげかわからないが、全体的に引き締まっている。それでいて、顔も性格も良い。そりゃあ注目の的にもなるよな。 そんなことを思いながらぽーっと小鞠の姿を見ていると、ウキウキした表情で奴は言う。 「じゃ!次はそっちの番ね!」 「は?…嫌だよ」 測定不能の長身の持ち主の前で俺の身長を測るなんて、公開処刑じゃないか。そんな行為は街中で全裸に剝かれるに等しい。 「ほらほら~そんなこといわずに~」 ニヤついた表情で小鞠がじりじりと迫ってくる。だから威圧感が凄いって…。 何としても回避しようとして後ずさりをする。しかし近くに置いてあった段ボール箱に躓いてしまい、後ろに倒れそうになってしまった。 「あっ危ない!」 言うが早いか、小鞠が目いっぱい俺の方に腕を伸ばしながら向かってくる。 実際のところ、俺は少しよろめいたくらいで恐らく転ぶことはなかっただろう。しかし勢い良く向かってくる小鞠が止まらない。 この体格差だ。小鞠の巨体を俺の身体で受け止めきれるはずもない。飛んできた小鞠にがっしりと抱きかかえられたまま、小鞠の身体と床で俺はサンドイッチされてしまった。 ここで俺の視界はブラックアウト。 目が覚めると見慣れているようであまり見慣れていない、保健室の天井が見える。まだ頭が少し痛むような気もするが、手足も動くし記憶もはっきりしているから多分大丈夫だろう。 ぼんやりとした意識のまま、半身を起こす。とりあえずは無事か。 そしてさっきから何となく気配はしていたものの、あまり見ないようにしていた俺の右隣を確認する。 小鞠がいた。何故かすぅすぅと寝息を立てて眠りこけている。 ツッコミどころは多々あるが、とりあえず俺を介抱している間に自分も眠くなって気付いたら横になって寝ていたというところだろうか。 「う…ん、ごめんね、たーくん。」 たーくん、とは俺の幼少期のあだ名だ。これがさっき転んだことに対する謝罪の意を表すものかはわからないが、小鞠なりに責任を感じているのかもしれない。 俺の方は別に何とも思っていないが。しかしさっきも思ったが無防備にも程があるだろ、コイツは…。 「それにしても…」 ため息をつきながら小鞠の様子を見る。 コイツの2メートル超ボディでは、保健室のベッドの中で脚を伸ばして寝ることなど到底できない。膝をくの字に曲げて丸まる姿勢を取っているが、それでもベッドの大半は小鞠の身体が占めている。 ベッドも俺の右側だけ随分沈み込んでいるように感じる。…まあ体重弄りはやめておこう。俺も命は惜しい。 しかし身体はでかくなっても顔つきは結構面影があるもんだなぁ。そう思っていると、寝ぼけた小鞠が俺の腕をがっしりと掴んで引き寄せてきた。 横になった姿勢のままにも関わらずその力は半端なく強い。俺の必死の抵抗空しく、ベッドの中に引きずり込まれる。 抱き枕かなにかと勘違いしているかもしれないが、抱き枕と違って俺の身体は柔らかくない。 長い脚と逞しい腕に完全ホールドされた俺の身体は、ミシミシと悲鳴をあげている。おまけに小鞠の胸で口元も塞がれる形となり、俺の悲鳴は強制的にミュートされる。 遠ざかる意識の中、俺はいつまでコイツに振り回され続けるのだろうと心の中で呟いた。 今日だけでなく、明日以降も、そして学校を卒業してからも末永く振り回され続けるのはまた別のお話。 終わり

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